企業を取り巻く経営環境はデジタル技術の進歩や市場ニーズの多様化などで、年々変化しています。企業が着実に事業の目的を達成するために重要なのがビジネス戦略です。本記事ではビジネス戦略の意味や重要性、立案手順、戦略立案に効果的なフレームワークについて解説します。
そもそもビジネス戦略とはなにか?
ビジネスでよく使われる「戦略」や「戦術」は、ビジネスを加速させるために欠かせない考え方です。ビジネス戦略とは何か、戦術との違いについて解説します。
「戦略」とはビジネスの方向性を定めること
ビジネス戦略は企業の課題解決や、目標達成に向けて最適な方向性を定める、またはそのためのシナリオ、プロセスのことです。一方、戦術は戦略を実行するための手段で、新しくどんな事業をスタートするか、どの業務改善に取り組むかなど、具体的に実行する方法を指します。課題を解決し、目標を達成するには、ビジョンや価値の見直し、技術、リソースの配分計画、パフォーマンス測定など、さまざまな行動や選択などの戦術を立てることが必要です。
ビジネス戦略は企業、事業、機能の3つに大別されます。企業戦略はすべての事業分野において進めるべきビジネスの戦略です。現在や将来にわたって、企業が経営を安定させる方法を考えます。事業の組み合わせ(ポートフォリオ)や経営リソースの配分、事業間の相乗効果を高める方法などが決めるべきテーマです。
事業戦略は事業部門ごとにビジネスの戦略を策定します。事業単独で市場のポジションを獲得するために重要なのは、ビジネスモデルや競争の優位性、事業の各業務に対する経営リソースの配分、市場や顧客への対応です。
機能戦略は営業や広報など企業の機能ごとに策定するビジネスの戦略です。より具体的に目標を達成するまでの期限やアプローチ方法、成果などを策定します。このようにビジネス戦略は目標達成の範囲や対象によって使い分けることが求められます。
ビジネス戦略はなぜ重要なのか
ビジネス戦略は人事採用から財務計画まですべての企業活動の意思決定に関わります。経営陣が戦略を進めるための意思決定を確実に行うことで、現場は合理的に業務遂行ができるようになり、部門ごとの効率性と生産性を最大限に高められるのです。また、ビジネス戦略によって企業の強みと弱みを把握できるので、弱みに対処しつつ強みを活かせるのもメリットです。経営陣は企業活動を総指揮し、社内全体のパフォーマンスを向上させ、目標達成の実現につなげられます。
もっとも大きなメリットは経営判断の失敗のリスクを防げることです。長年の経営感覚や成功体験だけに頼ると、選択が間違った場合の失敗のリスクが大きくなるおそれがあります。ビジネス戦略に従い、自社の経営リソースや競合環境に適した経営を行えば、致命的なリスクを避けられます。計画的に目標を達成すれば、自社に対する認識も向上し、業務効率化とともに市場での競争優位性の実現も可能です。
ビジネス戦略の立案手順
企業経営にとって重要なビジネス戦略を、自社に最適な内容で立案するにはどうしたらいいでしょうか。ビジネス戦略を具体的に立案する手順について解説します。
1. 企業のビジョンや目的を見直す
ビジネス戦略ではまず、企業のミッションを明確にし、戦略の基準となるビジョンや自社の価値観、方向性を再確認します。ミッションは使命を意味し、企業経営を通じて社会で何を実現したいのか、どんな課題を解決したいのかを表したものです。そのミッション、目的を実現するために、ビジョンや価値観、方向性などを定めた方針、施策を立てます。ビジョンは中長期的に目指す姿やイメージを指し、価値観は企業がどのような点を価値とするのか、方向性は行動指針となります。
例えばGoogleのミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」で、ビジョンは「ワンクリックで世界の情報へのアクセスを提供すること」です。価値観については「1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番」など10項目を掲げています。
(引用元URL:https://about.google/?hl=ja)
2. 自社を取り巻く経営環境を分析する
続いて自社が置かれている経営環境を分析し、整理して現状を正確に把握する必要があります。ビジネスの目標達成のためには外部環境と内部環境で強みや弱みを把握しなければなりません。外部環境は国内外の政治や時代の動き、技術革新、景気の動向などマクロ的視点、競合他社の動きや市場、顧客のニーズなどミクロ的視点の両方を押さえておくことが必要です。最近では異業種企業やベンチャー企業が自社と同じ業界に参入するケースも増えているため、幅広い視点でリサーチしましょう。
内部環境では自社の経営リソースであるヒト、モノ、カネの他に、財政基盤や技術力、組織風土、生産性などが含まれます。経営環境の分析には後述するフレームワークが効果的です。外部・内部ともに経営環境を整理した後、事業分野を決定します。
3. 戦略実現に向けた戦術を決める
外部・内部の経営環境の分析から明らかになった強みを活かすための具体的な戦術、手段を決めていきます。その際に重要なのは最初に定めた企業の目的を念頭に置くことです。一見、画期的で素晴らしい戦術でも、目的と乖離してしまうと戦略を実現できません。ビジネスの目的を明らかにしたら、その目的やビジョンを軸に優先順位を決め、経営リソースを活用するための行動計画を策定します。
ビジネス戦略では自社でやるべきこととやらないことを明確にすることも重要です。また先述した事業ごとの戦略や事業内の営業や広報など機能ごとの戦略など、細分化して検討していくとより具体的な戦術が効果的に策定できます。
ビジネス戦略立案にはフレームワークが効果的
ビジネス戦略を明確に立案するために役立つのがフレームワークです。差別化のポイントや顧客セグメントの分析、提供するサービスの掘り下げなどが容易にできます。ビジネス本などで紹介される代表的なフレームワークを3つ紹介します。
1. 経営環境分析に役立つ「SWOT分析」
SWOT分析は代表的な自社の強みや弱みを分析する著名なマーケティング手法です。SWOTは強みや弱み、機会、脅威を英語で表したStrength、Weakness、Opportunity、Threatの4つの頭文字で構成されます。自社における内部環境を強みと弱みに、外部環境を機会と脅威にと、各環境についてプラス面マイナス面4つのカテゴリーに分けて整理し、自社の経営環境を合理的に分析します。これにより自社の課題を明確にし、競合他社との差別化ポイントを明らかにします。
2. 将来的な戦略策定につながる「PEST分析」
自社が置かれた経営環境のうち、マクロ的な外部環境要因にフォーカスするのがPEST分析です。政治、経済、社会、技術の進化を英語で表したPolitics、Economy、Society、Technologyの4つの頭文字で構成されます。
例えば政治は国際社会の動きや税率、法律の変更、経済は為替変動やデフレ、不景気、社会は労働力不足や新型コロナウイルス、技術の進化はキャッシュレス化やDX化、メタバースなどがあり、いずれも解決の難しい問題ばかりです。これらの外部環境要因が現在と何年後かの未来で、自社にどのように影響を及ぼすのかを把握・分析し、予測します。PEST分析により世の中の変化や流れを読み、自社の商品を時代に合わせたものに変化させるなど、将来に向けたビジネス戦略の立案が可能になります。
3. 競争優位性を把握できる「ファイブフォース分析」
さまざまな施策を打っても、なかなか業績が向上しない、または未経験の異業種に新規参入する、新製品開発収益性を検討するなどの場合に役立つのがファイブフォース分析です。フォースは脅威を意味する言葉で、自社を取り巻く脅威を5つに分類し、それぞれを分析することで、自社の競争優位性を探ります。
5つの脅威とは市場に関する力関係で、既存業者との競争、新規参入業者の脅威、代替品の存在、買い手(顧客)の交渉力、売り手(サプライヤー)の交渉力などがあたります。ファイブフォース分析により、業界内での収益や利益の得やすさ、自社の強みが分かり、脅威に対して実効性が高い施策となる戦略の立案が可能です。
まとめ
ビジネス戦略はすべての企業活動の意思決定に関わり、計画的に目標を達成し、業務効率化、生産性向上などの成果につながります。また、経営判断の失敗のリスクを軽減できることは大きなメリットです。まだビジネス戦略を自社で立てていないなら、早急に取り入れて課題の解決や社内全体のパフォーマンスの向上を図りつつ、目標達成の実現につなげましょう。