タレントマネジメントとは、人が持つ「タレント(資質、才能、スキル)」の管理に焦点を当て、個々人のパフォーマンスを最大限に引き出すために、人材配置や教育などを戦略立てて行っていくマネジメント手法の一つです。あるいは、それを実現させるためのシステムを指します。
タレントマネジメントが日本で注目され出したのはここ数年のことで、大企業を中心に取り組みがスタートしています。現在では、国産のタレントマネジメント専用のシステムが登場するほど、その概念が浸透しています。
本稿では、このタレントマネジメントについて解説するとともに、従来の人事システムと何が違うのかをご紹介します。
タレントマネジメントとは?
改めて、タレントマネジメントとは人材が持つ資質や才能、スキルを正確に把握し管理することで、人材の適材適所や計画的な教育を実施するためのマネジメントです。
個々人がどういった学歴、経歴、資格、スキルを持っているのかを把握すると共に、社内で関わったプロジェクトの数や種類、プロジェクトごとの役割や成果などを事細かに管理します。こうすることで、企業はその人材がどういった人物なのか、その人の得手不得手、適したポジションを知ることができ、戦略的な人材活用が行えます。
なぜタレントマネジメントが注目され出したかというと、人材に対し「量」ではなく「質」を求めるようになったからと考えます。
日本においてまだ「終身雇用」が当たり前だった時代、人材には「量」が求められ、優秀かそうでないかを問わずとにかく従業員数の多さが重要でした。人材が多いほど展開できる事業も増えるためです。
しかし、バブル崩壊をきっかけに人材は流動的になり、終身雇用も事実上崩壊。徐々に人材は「量」ではなく「質」が重要という時代にシフトしていきます。少子高齢化による人材確保が難しくなったことも相まって、質の高い人材を求める傾向が強くなりました。ただし優秀な人材を確保すること自体はタレントマネジメントではありません。
タレントマネジメントは、あくまで今現在の人的資産を管理し、適材適所や教育によって全体のパフォーマンスを高めることにあります。
次の定義は、SHRM(米国人材マネジメント協会)とASTD(米国人材開発機構)という2つの人材マネジメント組織の、タレントマネジメントの定義です。
SHRM(米国人材マネジメント協会)が提唱する定義
人材の採用、選抜、適切な配置、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の各種の取り組みを通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、その適性を有効活用し、成果に結び付ける効果的なプロセスを確立することで、企業の継続的な発展を目指すこと。
ASTD(米国人材開発機構)が提唱する定義
仕事の目標達成に必要な人材の採用、人材開発、人材活用を通じで、仕事をスムースに進めるための最適の職場風土、職場環境を構築する短期的/長期的、統合的な取り組み。
SHRMの方がより詳細に定義しているものの、両組織とも言わんとしていることは同じです。
タレントマネジメントで企業がどう変わる?
実際に、タレントマネジメントを取り入れると何が変わるのでしょうか。
少ない人材でプロジェクトを遂行できる
「ブルックスの法則」をご存知でしょうか?これは、遅れが生じているプロジェクトに要員を投入すると、さらに遅延が発生するという、主にソフトウェア開発業界でよく言われる法則です。実はこの法則は一般的なビジネスにおいても同じで、プロジェクトの遅延は投入された要員が多いほど発生しやすくなります。
原因はチーム内の「コミュニケーションコスト」を増大させてしまうことです。要員が多いとコミュニケーションにかかる手間は劇的に増加し、結果としてプロジェクトの遅延を招きます。
従って、プロジェクトとは限りなく少ない人材で遂行するのがベストです。そのためには、やはり人材ごとの能力やスキルを把握し、適材適所を実現する必要があります。タレントマネジメントを取り入れることで、より少ない人材でプロジェクトを遂行でき、ひいては顧客満足度の向上や収益拡大につながります。
計画的な人材教育
人材一人に対し企業が投じる教育コストは、従業員数数千人程度の平均的な上場企業で年間5万円~10万円です。ただし、競合や技術の変化が激しい業界に関しては、人材一人あたり年間30万円を投資している場合もあります。
中小企業においても、これと同等かそれ以上の金額を人材教育に投じているケースがあるでしょう。このように、人材教育にはかなりのコストがかかるため、計画的かつ確実に効果が出るものにしなくてはなりません。
タレントマネジメントは人材個々人の能力やスキルを把握するため、誰にどのような教育を実施すればよいのかが瞬時に判断できます。計画的な人材教育によってコストを最小限に抑えつつ、最大限の効果が狙えます。
人材のモチベーションが上がる
タレントマネジメントに取り組んでいる企業の多くでは、人材のモチベーション向上が見受けられ、結果として組織全体の収益拡大につながります。適切な評価環境が整うことで、人材もモチベーションが上がり、以前に増して邁進してくれます。
タレントマネジメントと従来の人事システムの違いは?
システムとしてのタレントマネジメントと、従来の人事システムは「何に重点を置くか」が決定的に違います。従来の人事システムが人材情報を管理する理由は、あくまで給与計算や人事業務のためであり、戦略的に経営に絡むようなものではありません。
ゆえに、人事部はこれまで組織内でも不当な扱いを受けてきたかもしれません「利益につながらない部署」と捉えられてしまうことが多いからです。
一方、タレントマネジメントが人材情報を管理するのが、適材適所や計画的な人材教育など、経営戦略として人材情報を活用するためです。従ってタレントマネジメントと従来の人事システムはそもそもの役割が違うと言えます。
タレントマネジメントを取り入れると人事部はこれまでになく戦略的になるので、「利益につながらない部署」とは言われなくなるでしょう。むしろ、人事による発言権や決裁権が強くなるため、組織勢力が変わる可能性すらあります。
まとめ
現在、タレントマネジメント向けの人事システムが多くリリースされています。しかし注意していただきたいのが、それらの人事システムを導入しただけで、タレントマネジメントは実現しないということです。
肝心なのは企業がシステムに依存せずタレントマネジメントに取り組む姿勢と、組織全体からタレントマネジメントに対する理解を得ることです。この上で人事システムを導入することで、はじめてタレントマネジメントによって人材個々人のパフォーマンスを最大限に引き出せるでしょう。