DX推進に伴い、AIと並び注目されたツールが「RPA」です。さまざまなパソコン業務を自動化できるといわれている一方で、「RPAは意味がない」という指摘も多く聞かれます。
「RPAは意味がない」といわれるのは、RPAの導入に失敗する企業が多いことに起因します。
本記事では、そのRPAの意味がないといわれる理由やその原因、導入する際の対策について詳しく解説します。
RPAとは?意味がないといわれる理由
RPA(Robotic Process Automation)は、業務の自動化を支援する技術で、特に反復作業や定型業務を効率化するために利用します。RPAツールを活用することで、人手による作業ミスの軽減や業務効率の向上が期待できます。
しかし、導入のハードルや運用上の課題から「RPAは意味がない」と批判されるケースも少なくありません。ここでは、こうした批判の背景にある理由を5つ紹介します。
専門知識が必要で、習得に時間がかかる
RPAツールはプログラミング不要で自動化できるものが多く、一見シンプルに見えますが、実際の運用には一定の専門知識が求められます。
特に、業務プロセスを分析し、自動化可能なタスクを特定するスキルや、ツールの設定に関する技術的な知識が必要です。また、RPAツールは多機能である反面、操作の習得には時間がかかる場合があります。さらに、ツールのバージョンアップや新機能の追加に対応するためには、継続的にRPAツールの情報収集や学習が必要です。
このように、導入初期の習得コストの高さが、RPAの普及を妨げる一因となっています。
RPAを利用できる業務が限定的である
RPAの利用により、人力で行ってきた業務の多くが自動化できる一方で、全ての業務に適用できるわけではありません。
RPAが得意とするのは、決まったルールにもとづいて行われる反復的な業務です。特に、その場の状況に応じて柔軟な判断が求められる業務には適用が難しいことがほとんどです。さらに、RPAを適用する業務範囲が狭いと、導入効果が限定的になってしまいます。
また、PRAの多くは高額であることが多く、自動化できる人的コストとの天秤にかけられた結果、「費用対効果が低い」と判断されることもあります。
運用体制の整備が難しく、定着しにくい
RPAを効果的に活用するためには、適切な運用体制の整備が必要です。しかし、運用に必要なリソースや管理プロセスの構築が不十分だと、ツールの定着が進まず、逆に業務の負担が増す場合もあります。
例えば、RPAがエラーを起こした際の対応や、設定変更の頻度が高い業務では、かえって人手が必要になるケースがあります。
RPAの実行中はパソコンが占有されるため、他の仕事ができない
パソコン上で動作するRPAツールの多くは、動作しているパソコンの操作を自動化するものであり、マウスやキーボードの操作を代わりに実施することで自動化を実現します。そのため、RPAの実行中はパソコンが占有され、他の作業との同時進行が行えません。
同時進行したい場合には「RPAのためのパソコンを用意する」ことも検討する必要があり、作業に対する投資が大きくなりがちです。
ライセンス料が高額
RPAツールのライセンス料は、企業規模や利用する機能に応じて高額になる場合があります。多くのRPAツールは、インストールするパソコンの台数に応じて料金が発生するため、広くRPAを導入しようと考えるとその分費用が高くなります。
特に中小企業にとっては、このコストが導入の大きなハードルです。また、ソフトウェアのライセンス料に加えて保守やサポート費用も発生するため、総コストを考えると導入をためらう企業も少なくありません。
特に初年度は初期費用が高い割に導入効果が見いだせないことが多く、特に高額と感じてしまう場合が多いでしょう。
RPAは意味ない?RPAの失敗例
RPAは多くの業務を効率化できる一方で、導入や運用に失敗し「意味がない」と評価されるケースも少なくありません。
ここでは、RPAの失敗例として代表的な5つのケースを紹介し、その原因と課題について解説していきます。
RPAの機能を使いこなせなかった
RPAは多機能である反面、ツールの全ての機能を使いこなすのは簡単ではありません。多くの企業では「ツールを導入したものの、基本的な操作しか活用できず、本来期待される効果を発揮できない」という場合があります。例えば、エラー処理や複雑な業務プロセスの設定に対応できず、結果として従業員が手作業に戻るケースが発生することもあります。
エラー処理のような複雑な条件を自動化する場合には、一部処理をプログラミング言語を利用してカスタマイズすることが多いため、プログラミングの知識がないとRPAの機能をフルに使いこなせない、ということも珍しくはありません。
また、適切なトレーニングやサポート体制が整っていない場合、従業員がRPAの操作に不安を感じ、利用を避ける場合もあります。その結果「誰も使わなくなった」という事態を招きかねません。
導入費用に対して効果が薄い
RPAの導入には、ライセンス費用や設定作業、従業員のトレーニングなど、多額の初期コストがかかります。しかし、適用範囲が限定的で、人力で作業する範囲の自動化が目的であるため、費用対効果が見えにくいことが多いです。
業務改善効果が不明確なままRPAを導入した結果、投資に見合った成果が得られなかった、となることがあります。例えば、業務全体の数%しか自動化できない場合や、既存業務の効率化がそれほど重要ではない部門に導入された場合、費用対効果が低く感じられます。
RPAの費用対効果を計測する際には「元々〇時間かかっていた作業を自動化する」といったように、導入対象の工数と導入後の工数を予測し、どの程度軽減されたのかを計測するようにしましょう。
社内に浸透しなかった
RPAの導入に成功するためには、社内全体の理解と協力が不可欠です。しかし、導入目的や利点が従業員に十分に共有されていない場合、RPAの利用が進まないことがあります。
特にありがちなのが、従業員が「自分の仕事が奪われるのではないか」という不安を抱いた結果、導入を拒否された、というパターンです。このように、現場の理解が進まない場合、ツールの受け入れ自体が妨げられる要因となります。
結果として、ツールが一部の部署やプロジェクトに留まり、社内全体での運用が進まないケースが見受けられます。
トラブルが多く業務が滞った
RPAツールはエラーやトラブルが発生することがあります。例えば、業務プロセスの変更に対応できなかったり、システム障害により停止したりする場合、業務が滞る原因になります。
特に、業務の中核を担うプロセスにRPAを導入している場合、これらのトラブルは重大な影響を与えかねません。また、トラブルの原因を特定し、解決するためには相応のスキルが求められます。トラブルを解決できない場合、再稼働までの時間がかかり、結果として手動運用に戻した、という例もあります。
メンテナンスにリソースがかかりすぎる
RPAは1度導入すれば終わりではなく、継続的なメンテナンスが必要です。業務プロセスの変更やシステムのアップデートに伴い、RPAの設定を修正し続ける必要があります。
しかし、このメンテナンス作業が予想以上に手間がかかることがあります。特に、業務プロセスの変更や、利用する社内ソフトが変更となった場合には、RPAを大きくつくり直さなければなりません。
専任の人員を割くことが難しい場合、運用が停滞するおそれがあります。特に中小企業では、メンテナンスに割くリソースがなく、最終的にツールの利用が中止されるケースが少なくありません。
RPAの失敗を避けるためのポイント
RPA導入の失敗を防ぐためには、失敗しがちなポイントをあらかじめ把握し、事前準備と運用体制を構築することが重要です。
ここでは、具体的なポイントを5つ紹介します。
導入する目的、および目標を設定する
RPA導入を成功させるには、まず導入目的と具体的な目標を明確に設定することが重要です。例えば、業務効率の向上やコスト削減、ヒューマンエラーの防止など、達成したい成果を具体化しましょう。
目標が曖昧なまま導入を進めると、効果測定が難しくなり、結果として「失敗だった」と判断されるリスクが高まります。また、目標は実現可能な範囲で設定し、関係者全員で共有することで、組織全体での一体感を持った取り組みが可能です。
RPAの特性を理解する
RPAの特性を理解することは、適切な運用の基盤を築く上で欠かせません。特に、RPAが得意とする業務(定型的・ルールベースの業務)や、逆に苦手な業務(複雑で判断力が求められる業務)を把握する必要があります。
特性を理解することで、過剰な期待を抱かず、現実的な運用計画を立てられます。また、RPAが適用できる範囲を理解した上で導入の際の課題をあらかじめ想定し、対策を講じることが可能です。
業務の棚卸しを実施し、RPAを適用する業務を定める
RPA導入前には、現行の業務を詳細に分析する「業務棚卸し」の実施が不可欠です。具体的には、業務フローを可視化し、どの業務がRPA化に適しているかを判断します。
例えば、データ入力や定型的なレポート作成など、繰り返しの多い業務はRPAに適しています。一方で、複雑な判断や頻繁な変更が必要な業務は、RPA化を避けるべきです。このプロセスを通じて、効果的にRPAを活用できる業務範囲を特定できます。
自社の状況に適したツールを選定する
市場には多くのRPAツールが存在しますが、全てのツールが自社の業務に適しているわけではありません。ツールを選定する際は、自社の業務内容や予算、ITスキルに応じたものを選ぶことが重要です。
例えば、簡易な設定で利用可能なツールを選ぶことで、導入初期の負担を軽減できます。また、必要に応じて無料トライアルを活用し、実際の業務での使い勝手を確認することも有効です。
従業員を育成し、運用体制を確立する
RPAを効果的に活用するためには、従業員のスキルアップが欠かせません。ツールの操作方法やトラブル対応を教育することで、運用上の問題を最小限に抑えられます。
また、専門の管理者を設置し、運用体制を整えることで、RPAが持続的に活用される環境を構築できます。このような取り組みが、RPAの効果を最大化する鍵となります。
RPA化すべき業務とRPA化すべきでない業務の違い
RPAの導入効果を最大化するためには、適用する業務を適切に選定することが重要です。
ここでは、RPA化で大きな効果を生み出せる業務と、RPA化を避けるべき業務をそれぞれ紹介します。
RPA化すべき業務
RPA化すべき業務の特徴としては「単調だが時間がかかる業務」が挙げられます。例として、以下のような業務が挙げられます。
- データ入力や請求書発行といった、手順が固定されている業務
- 日次や週次、月次といった、ルーティン業務
- SNSなどから、特定のキーワードを指定して自社や他社の情報を収集する業務
RPAは定型的な業務が得意であり、ヒューマンエラーが発生しがちな単調な反復作業の自動化に向いています。「特定のデータをコピー&ペーストする」といった作業が多いのであれば、RPA化を真っ先に検討するとよいでしょう。
RPA化すべきではない業務
一方で、RPA化が難しい業務には以下の特徴があります。
- 複雑で判断力が必要な業務
- 頻繁に変更が発生する業務
- 何かしらの理由で必ず人の操作が必要な場合など、全てを自動化できない業務
RPAは一定のルールにもとづいて作業することが得意な一方で、複雑なルールがある場合や、頻繁に業務プロセスが必要な場合には、RPAをカスタマイズするためのコストが発生してしまいます。
また、人の判断が必要な場合には、手動操作がボトルネックとなる可能性があるため注意が必要です。人の判断が必要な業務をRPA化する場合は、データの加工や作成といった一連の作業をRPAが実施し、最後にそれを人がチェックするように業務プロセスを再構築する、といった対応がよいでしょう。
RPAに将来性はあるのか?懸念される課題と今後の展望
RPAは、多くの企業にとって業務効率化の手段として注目されています。しかし、その普及に伴い、新たな課題や懸念が浮上しているのも事実です。
ここでは、RPAの潜在的な課題と、その将来性について詳しく解説します。
RPAの潜在的な課題
RPAに限らず、新しいツールを導入を推進する際には、一定数の反発を生むことが分かっています。これを「現状維持バイアス」と呼びます。さらに、RPAは既存の定型作業を自動化することを目的として利用します。
業務の仕組みが大きく変わることもなく、これまでの業務プロセスがそのままRPAのロボットによる操作に代替されるため、RPA化の対象業務に携わっている人は特に「今まで自分がやっていた仕事が奪われる」と考える人が多くなります。
一方で、RPAの実現はそう簡単ではありません。「これまで人がやっていたのだから簡単に自動化できる」と考える人も多いですが、実際に作業する人はさまざまな判断をしながら操作していることがほとんどです。そのため、実際にRPA化しようとして苦労する可能性もあります。
このように、RPAの活用はさまざまな潜在的な課題を持っているというのが現状です。
RPAの将来性
RPAには潜在的な課題も多く、導入には大きなハードルが存在します。しかし、生成AIの登場により可能性がさらに広がりつつあります。
従来のRPAはルールベースで動作し、柔軟な判断を必要とする業務には対応が難しいという制約がありました。一方で、生成AIの活用により、自然言語の理解や予測、創造的なタスクへの適応が可能となり、RPAが対応できる業務範囲が拡大しています。
これまでは「人の判断が必要だったタスクを生成AIが担い、残りの単純作業をRPAが担当する」というように、組み合わせて利用することで、生成AIだけ、もしくはRPAだけでは実現できないような業務も自動化できるようになります。
RPAと生成AIを組み合わせた際のメリットや事例については、下記の記事を参照してください。
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RPA以外の選択肢としてのPower Automateのおすすめ
RPAの代替手段として注目されるのが、「Power Automate」です。RPAと同様に業務の効率化を図れるツールでありながら、その柔軟性や使いやすさで
多くの支持を集めています。Power Automateとは?他のRPAツールとの違い
Power Automateは、Microsoftが提供する業務プロセス自動化ツールです。
同社の提供するMicrosoft 365やDynamics 365、Teams、SharePointなどのツールとスムーズに統合できます。これにより、既存のMicrosoft製品を活用する企業にとっては、自然な拡張ツールとして利用でき、スムーズに導入が進みます。
Power Automateはクラウド上で稼働するため、従来のRPAツールに比べて導入が簡単です。パソコンへのインストールも不要で、追加でパソコンやサーバを用意する必要もありません。このように、運用コストを抑えられる点も大きな特徴です。
Power Automateの利便性と活用のメリット
PowerAutomateには、あらかじめ用意された数百種類のテンプレートが用意されています。もし、実現したい業務自動化のテンプレートがあれば、それを利用するだけで済みます。実現したい業務プロセスに近いテンプレートを探し、それをカスタマイズすることも可能です。
ドラッグアンドドロップを使ってパーツを組み合わせることでカスタマイズでき、さらに独自のコードを使ってより詳細な設定も可能です。また、同社の生成AIであるCopilotと組み合わせて利用することもできるため、幅広い活用が期待できます。
Power Automate DesktopでRPAの実現も可能
Power Automateはクラウド型のツールですが、Windows上で動作する「PowerAutomate Desktop」を利用することで、従来のPRAも実現できます。
Windowsが動作するパソコンにインストールすることで、Windows操作の自動化が可能であるだけでなく、Power Automateとの強力な連携機能を有しています。直感的に利用できるUIを提供しており、PowerAutomateと同様に直感的なRPAを実現できます。
なお、Power Automate DesktopはWindows11に標準搭載されており、個人のWindowsユーザーは無料で利用できます。PowerAutomateとの連携機能は有していませんが、従来のRPAの機能であるパソコン操作の自動化が可能です。「まずはRPAを使ってみよう」という場合におすすめです。
RPA以外の選択肢|Power Automate成功事例
ここでは、PowerAutomateを活用した成功事例を紹介します。
iYell株式会社の事例
iYell株式会社は、住宅ローン手続きを簡略化する「いえーる ダンドリ」を提供しています。事業成長に伴う業務量の増加に対応するため、Azure Cognitive ServicesとPower Automateを導入しました。これにより、住宅ローン審査に必要な100種類以上の書類の処理を自動化し、1日500件を超えるファイルのチェック作業を効率化しました。結果として、4人月の作業工数が0.5人月に削減され、業務の標準化と人為的ミスの減少を実現しました。
また、同社のサービスはAzure上に構築していることもあり、Microsoftのさまざまなサービスを組み合わせて自社サービスを提供しています。AzureというクラウドプラットフォームとPower Automateの親和性をうまく活用しているという点は大きな特徴といえるでしょう。
参考:Microsoft
株式会社ジェーミックスの事例
株式会社ジェーミックスは、通信事業者向けの「ケーブルテレビISPサポート事業」、学校教育機関向けの「情報化支援事業」、地域企業・公共・自治体向けの「情報化支援事業」の3つを展開するICTソリューション企業です。
同社は、2024年の電子帳簿保存法改正に先立ち、請求書管理業務の自動化を目指しました。MicrosoftのPower AutomateとWindows 365を活用し、業務プロセスの自動化を実現しました。これにより、法改正による業務負荷の増大から社員を解放し、本来業務に注力できる環境を整備しました。さらに、Azure Active Directory(現Entra ID)を中心としたゼロトラストセキュリティを実践し、最新のテクノロジーを自社内で積極的に活用しています。
参考:Microsoft
早稲田大学の事例
早稲田大学は、創立150周年に向けた中期計画「WASEDA VISION150」を進める中で、業務の効率化と標準化を重要な課題として掲げてきました。この一環として、Microsoft AzureとPower Automateを導入し、学校会計システムや業務運用の自動化を進めています。
特に注目すべきは、Azure AutomationとPower Automateの連携による効果です。従来はスプレッド シートで作成した伝票を紙に出力し、その上で形式チェックや論理チェック、システムへのデータ登録を手作業で行っていましたが、PowerAutomateを活用することで自動化に成功し、運用の効率化と人的リソースの削減が実現しました。
まとめ
RPAは、手作業の自動化を目的に導入する一方で、汎用性が低く、適用できる範囲が限定的であることが多いため「導入する意味がない」といわれやすい ツールです。しかし、目的と適用範囲を明確にすることで、業務効率化が狙えるツールであることに間違いはありません。
RPAの導入が難しそう、という企業には、Power Automateのようなツールがおすすめです。業種や規模を問わず、多様な業務プロセスの自動化に対応できる柔軟なツールです。RPAとしての機能も利用可能ですので、適切に活用することで、業務効率の向上や従業員の負担軽減に大きく寄与します。