ERP導入におけるプロセスのうち、企画と同様に重要なフェーズが「要件定義」です。細かい定義が行えているか否かによって、導入の成否が決まるといっても過言ではありません。当記事では、ERP導入における要件定義の内容やポイントについて解説します。企業のERP導入を成功させるために、ぜひ参考にしてください。
EPR導入の一般的なプロセス
ERP導入では、目標を定めてしっかりとしたプロセスのもとに導入・運用することが重要です。これを適切に行うことで、導入失敗の確率を軽減できます。
一般的な導入のプロセスは、「企画」「要件定義」「実装」「運用」の4つのフェーズに分かれます。これらの名称や順序は、ベンダーによって若干の違いがありますが、内容はそれほど大きく変わりません。各フェーズの詳細について見ていきましょう。
企画
まず「企画」の段階では、現在のシステムの問題点から、ERP導入によってどのような改善を行いたいのかを抽出します。具体的にいえば目的の設定ですが、目的達成のために必要な製品やベンダーなども決定します。
要件定義
企画作成後、導入までのプロセスをさらに細かく決めるのが「要件定義」です。この要件定義をしっかりと行うことで、後々のフェーズでの問題発生を防ぎます。
実装
要件定義が決まると、ERPを実際に導入する「実装」のフェーズに移行します。システムの導入や、それに合ったプログラムの作成、稼働のためのテストなどを行います。これら3つのプロセスを経て、最終的な運用に移ります。
運用
「運用」のフェーズでは、システムの最終的な審査を行い、実際に稼働させます。そして、ある段階で目標とした設定値を上回っているかを確認し、導入の成否を判断するわけです。この目標値を含めた細かい判定は、企画・要件定義にて行います。特に細かい要件定義の設定は、導入を成功に導くうえでとても重要です。
要件定義とは
先述した4つのフェーズのうち、企画はさまざまな場面で利用する工程です。また実装や運用も、言葉通りのためわかりやすいと思います。しかし要件定義は、ぴんとこないと感じる方もいるかもしれません。
要件定義は、名前の通り要件を定義するための工程で、より具体的には「目的を達成するための方法を細かく決める工程」です。企画と似たところがありますが、企画の場合は「目的の設定」と、それに合わせた「準備の段階」といえます。
たとえば、企画では「現行システムが古くなったので、新しいシステムに刷新したい」といった、ERP導入の発端となる目的を設定します。そして、この目的に合わせて、ベンダーや製品の決定が行われるのです。
一方、要件定義では、その先にある「導入後の業務内容修正」「使用感などの確認」「導入計画・リリース判定の作成」「運用後の目標値設定」などを行います。企画の段階で発生した目標に対して、達成までのプロセスや導入時の問題点、費用対効果など細かい要件を決めるわけです。
要件定義は細かい部分まで詰める必要があり、漏れがあると後々に問題となることがあります。基本的には発注者主体で進めるプロセスですが、作業に慣れていない企業ではベンダーやコンサルタントに協力してもらうこともあります。
要件定義の進め方|フィット&ギャップ分析とは
「フィット&ギャップ分析」とは、要件定義で初めに行う作業です。現行システムにある機能(「機能要件」と呼ぶ)と、変更後システムの機能との差異を比較して、変更後になくなってしまう機能を洗い出す工程です。
企業が現行システムの機能を表にまとめてベンダー側に提出し、ベンダー側は要件に対して○×で回答します。○の場合は「フィット=現行システムと同じ機能がある」となり、×の場合は「ギャップ=機能がない」となります。フィットが多ければ多いほど現在のシステムと近いため、現行の業務に馴染みやすいわけです。
ここで注意しなくてはいけないのが、同じ機能でも使用感に違いが生じる場合がある点です。フィット&ギャップ分析で機能を大まかに記載してしまうと、しばしばこのような問題が発生します。そのため、より細かく機能面を記載して、正確にギャップの有無を確かめることで、このような問題が起こる可能性を防ぎます。
また、機能の記載漏れにも気をつけましょう。後々に必要な機能がないことに気づいて、業務の変更を迫られる可能性があるからです。
ギャップのある業務をどうするかを決める
もしギャップが発生した場合は、3つの対策方法が考えられます。まず1つ目が、アドオン開発による機能追加です。これは業務を変更する必要がなく、運用時も現場の負担軽減が可能な手法となっています。しかし、開発を行うためコストがかかるというデメリットがあります。
2つ目は、製品に合わせて業務自体を変更する手法です。アドオン開発と違ってコストがかからず、難しい工程も必要ありません。デメリットとしては、現場に負担がかかる場合や、業務変更による新しい問題が発生する可能性がある点です。
そして3つ目が、人材で補う手法です。なくなった機能の代わりに、人材を増やし対応します。この手法では、人材の数だけ単純に対応力が上がる一方、人的リソースが割かれてしまうという問題があります。
このように、3つの手法にはそれぞれ違ったメリット・デメリットがあるため、なるべくならフィットが多いほうが望ましいです。しかし実際、ERPでは他社が開発した製品を使用するため、機能面でギャップが発生するケースがほとんどです。本当に必要な機能はアドオン開発、あまり重要でないものは業務変更や人材で補うというように、いろいろな方法を組み合わせることで、デメリットを上手く解消できます。
要件定義を失敗させないためのポイント
要件定義の成否は、そのままERPの導入・運用の成否にもつながります。失敗しないようにいくつかのポイントを確認して、実施に役立てましょう。
新しいシステムを利用する現場の声を反映させる
新たに導入したシステムを利用するのは、現場の従業員です。現場の声を無視して導入まで進めてしまうと、いざというときに新しいシステムをうまく扱えない可能性も出てきます。そうなると効率が上がるどころか、逆に下がってしまいかねません。
そのため、ERPを使用する従業員を、プロジェクトの早い段階で参加させることも大切です。企業としての目的を伝えたうえで、現在抱えている課題点をしっかりとヒアリングしましょう。そして、業務を変更する場合も、現場に周知しておかなければいけません。このように現場と上手に連携することで、企業全体でシステム改革を行うのです。
ギャップに対応する判断基準や検討ルールを決めておく
フィット&ギャップ分析が終わったあとは、新しい業務プロセスにおける業務規程関連の文章を作成しましょう。新しい業務規程や業務マニュアルを策定して、ISO9000シリーズなど業務に関連性のある部分を見直していきます。
またERPは、企業の大事な情報を扱うシステムです。そのため、個人情報の保護や情報セキュリティガバナンスといった企業情報に関わる問題も、ルールに変更がないかよく確認して、新しく作成します。もし、不正にデータが扱われてしまうと、大きな問題に発展しかねません。細かい部分までしっかりと確認しましょう。
そして、ERP導入により会計システムが大きく変化する点にも要注意です。会計に関わる部分の規定内容が大きく変わることもあるため、新しく作成することも想定しておくとよいでしょう。実際、新規定の作成には時間がかかることもあるので、ある程度のリソースを見込んでおく必要があります。
発生したコスト状況をチェックしながら進める
ERPでは、多くの機能を求めすぎるとコストがどんどん膨らんでいきます。特に、従業員など複数の意見をすべて反映させた場合、予算をオーバーしてしまうこともあるのです。予算を超えてしまうと、ERPの導入は難しくなり、計画が頓挫する可能性もあります。こうならないためには、機能の取捨選択が重要です。
また、目に見えるコストだけでなく、費用対効果も気にしなくてはいけません。たとえば、企画段階で設定した目標は達成できても、費用対効果を見るとマイナスになっていることもあるのです。これは、効果の測定が難しいという問題点から、目標値の設定ミスや要件定義の失敗が発生していることが考えられます。
必ずしも正解はないのですが、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)では、評価手法における「投資評価チェックリスト」を作成しています。このチェックリストでは、導入プロセスにおいて成功の評価のもととなる指標が示されています。この部分でしっかりと高い点数が出るように要件定義を作成し、目標値を設定することで、効果を測定するための1つの指標として活用が可能です。
こうした指標とコストを比べて、費用対効果でもしっかりと効果が出るのかを事前に確認すれば、失敗する可能性が軽減できるでしょう。
まとめ
要件定義のポイントは、細かい部分まで洗い出してすり合わせることです。フィット&ギャップによる細かい機能の書き出しや従業員へのヒアリング、コスト状況の確認や費用対効果の設定など、すみずみまで確認して決めていきましょう。また、ERP導入によって業務内容が変化するため、社内規定の見直しも忘れずに行ってください。