2020年2月4日、SAPはサポートポリシーの変更を発表。それによると、2025年末に終了を予定していたSAP ERPのメインストリームサポートを2027年末に変更するというものです。
メインストリームサポートの役割は、バグの修正や法規制変更へ対応するためのプログラム更新、新機能の追加などの標準的なサポートです。会計や人事など法規制対応が頻繁に必要な領域でSAP ERPを活用している場合、メインストリームサポートは必須と言えます。
SAPはこれまで2025年末のメインストリームサポート終了に向けて、同社の新ERPソリューションとなったSAP S4/HANAへの移行を促し、国内では約2,000社のSAPユーザーが何らかの形で移行へと取り組む姿勢を見せ、「SAP 2025年問題」とも呼ばれていました。このタイミングでのサポートポリシー変更は、少なからず混乱を招いているはずです。
中には、「これまでSAP移行に取り組んできた努力が水の泡になるのでは?」と心配されている経営者、情報システム担当者も多いでしょう。しかし、SAP ERPのサポートポリシー変更によるメインストリームサポート期限の延長は、単にSAP 「2025年問題」が先延ばしになったに過ぎず、今でもDX(Digital Transformation:デジタル・トランスフォーメーション)の必要性は変わりありません。
前置きが長くなりましたが、SAP ERPのメインストリームサポートが2025年末から2027年末に延長された今でも、企業がDXに取り組むべき理由とは何なのでしょうか?
理由①. 2025年までにDXを推進しない企業はデジタルビジネス時代の敗者になる?
経済産業省が2018年9月に発表したDXレポート内にて指摘された、「2025年の崖」が記憶に残っている方も多いはずです。同資料では、2015年頃に基幹系システムを21年以上継続している企業の割合が2割程度だったのが、2025年には6割程度に達するとされています。つまり、レガシーシステム(負の遺産的なIT)を抱える企業が過半数を超えるというのです。
それによってどのような弊害が起きるのか?まず、基幹系システムごとのデータ連携がままならず、データ活用が思うように進まないことでデジタルビジネス時代の敗者になると明言しています。さらに、日本経済界全体で見た場合、各企業のDXが推進しなければ2025年から2030年にかけて年間12兆円の損失が発生することも指摘しています。この他、以下のような経営問題が懸念されています。
- 多くの技術的負債を抱え、業務基盤そのものの維持・継承が困難に
- サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失・流出等のリスクの高まり
- 技術的負債の保守・運用にリソースを割かざるを得ず、再選店のデジタル技術を担う人材を確保できなり
- レガシーシステムサポートに伴う人月商売の受託型業務から脱却できない、
- クラウベースのサービス開発・提供という世界の主戦場を攻めあぐねる状態に
理由②. ビジネスモデルの変革へ対応できない
昨今、消費者の購買行動に大きな変化が起きています。それは、モノを購入することからコトを利用することへの変化、言い換えれば所有から利用への変化です。例えばカーシェアリングを例に挙げますと、多くの消費者はクルマを所有することよりも、共有して好きな時に利用することに価値を見出しつつあると言えます。
公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団の調べによると、カーシェアリングの台数が2010年時点ではわずか1,265台だったのが、2019年には3万4,984台にまで拡大しています。わずか10年間で27倍以上も増加しています。会員数に至っては、1万5,894人から162万6,618人と、100倍以上の増加です。
こうした「モノからコトへ、所有から利用へ」の流れは多くの産業で生まれている時代の潮流です。この大きな流れに対応するには、当然ながらビジネスモデルの変革が必要となります。それに伴い情報システムの全面的な見直しも実施しなければいけません。
理由③. 新テクノロジーによるデジタルディスラプションへの対抗
情報テクノロジー業界は数年のスパンで大きな変革が起きています。2006年から市場が立ち上がったクラウドコンピューティングは、今や企業のみならず経済全体のインフラを支える重要な存在です。
そして現在、実に多くの新しい情報テクノロジーが我々のビジネスに変化をもたらしています。近年特に注目されているのが「5Gネットワーク」です。既存のネットワーク(4GやLTEなど)と比較して高速性・低遅延・多端末接続に優れた5Gネットワークは、現在主流の情報テクノロジーであるクラウドコンピューティング・AI・IoT・モバイルなどの各性能を飛躍的にアップさせる情報テクノロジーとして大きく注目されています。
この他にも、VR/ARやSNSなどの注目の情報テクノロジーが多く存在する中、各産業で起きているのがデジタルディスラプションと呼ばれる、噴火のごとく突如現れる技術変革です。新しい情報テクノロジーによって既存のビジネスモデルやサービスが破壊され、市場が再構築されることを意味するこの現象は、市場における勝者と敗者を明確に分けます。敗者になるのは当然、DXを推進しておらず新しい情報テクノロジーに追随できなかった企業です。
「SAP 2027年問題」は、単純な基幹系システム刷新ではない
以上にご紹介した理由から、SAP ERPのメインストリームサポートが2027年末へ延期しようとも、企業がDXに取り組むべき必要性はなんら変わらないことが分かっていただけたのではないかと思います。また、「SAP 2027年問題」は単に基幹系システムを刷新すべき問題なのではなく、組織を挙げてDXに取り組むべきフェーズだと言えます。
SAPユーザーはSAP S4/HANAへの移行に限らず、あらゆる選択肢と可能性を検討しながら、自社にとって重要なDXについて定義した上で最適な基幹系システム刷新を目指さなければいけないわけです。DXの重要性についてご理解いただけたのなら、ぜひ広い視野で基幹系システム刷新に取り組んでもらえればと思います。