新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、製造業ではサプライチェーンの寸断や需要の減退など、不確実性への対応が求められています。環境変化の激しい昨今、いかにして業績を向上していけばいいのか悩んでいる製造業の経営者は多いでしょう。そこで本記事では、日本国内の製造業の現状と課題について詳しく解説していきます。
日本の製造業の現状とは
現在、国内産業において大きな苦境に立たされているのが製造業です。その背景には、新型コロナウイルス感染症の流行やデジタル化の遅れ、少子高齢化や人口減少など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。とくに新型コロナウイルスの感染拡大は製造業のみならず、あらゆる産業が影響を受けた未曾有の災害といえるでしょう。以下で日本の製造業が置かれている現状について解説します。
新型コロナウイルスの影響による業績低迷
新型コロナウイルスが製造業に及ぼした影響を測る指標として、「PMI(購買担当者景気指数)」が挙げられます。PMIとは、企業の購買担当者らの景況感を集計した景気指標のひとつです。PMIの数値は50を分岐点として、それを下回れば景気の悪化を示し、上回れば景気の改善と判断されます。auじぶん銀行が2020年に公開した「日本製造業PMI」の調査結果によると、WHOがパンデミックを宣言するより前の2020年1月に48.8を記録していたPMIは、新型コロナウイルス感染症の流行期に当たる2020年5月には38.4にまで下降しています。新型コロナウイルスの影響によって製造業がどれほどの打撃を受けたのか、PMIの指標から見て取れるでしょう。
また、新型コロナウイルスは国内だけでなく、世界中の経済市場に大きな影響を及ぼしました。日本は中国、アメリカ、ドイツに次ぐ世界第4位の貿易大国です。そのため、各国の需要減が国内製造業を直撃し、国内生産拠点においても生産調整が相次ぎました。とくに中国・武漢を中心とした自動車関連事業に多大な影響を及ぼし、サプライチェーンの寸断や需要の減退を招いたのです。製造業は調達から生産、物流、販売というサプライチェーンによって成り立っています。サプライチェーンが寸断されることで事業活動そのものが停滞し、生産ラインを停止するという企業事例もありました。
デジタル化による製造業の企業変革力向上が求められる
近年、国内のさまざまな産業において、喫緊の経営課題となっているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進です。DXの本質は単なる業務のデジタル化にとどまるものではません。最先端のデジタル技術を経営戦略に取り入れることで企業に変革をもたらし、市場の競争優位性を確立するのがDXの目指すところです。つまり、業務のデジタル化という「部分最適」ではなく、ITの活用によって事業や組織のあり方そのものを改革していく「全体最適」を目的とした施策といえます。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、製造業における多くの課題が顕在化しました。変化の加速する現代市場において、製造業が新たな市場価値を創出するためには、DXの推進による企業変革力の向上が不可欠です。そのためには、まず老朽化した生産設備や基幹システムを刷新する必要があります。その上で業務のデジタル化や、IoTやAIといった最先端テクノロジーによるデータ活用を進めることが、イノベーションの創出につながっていくでしょう。
日本の製造業が抱える主な課題とは?
製造業に改革が求められる理由は、新型コロナウイルスによる影響だけではありません。その背景には人口減少やそれに伴う国内市場の縮小、デジタル化の遅れや技術継承問題など、さまざまな要因が絡み合っています。ここでは日本の製造業が抱える主な課題について解説します。
労働人口の減少と市場縮小
労働人口の減少と市場縮小は、国内のあらゆる業界における代表的な経営課題です。日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに下降の一途を辿っています。また、総人口の減少だけでなく、少子高齢化も市場縮小を加速させる要因のひとつです。2021年3月時点での日本の総人口は約1億2,548万人であり、65歳以上の高齢者数は2020年10月時点で約3,619万1,000人となっています。これは総人口の28.8%を占める割合であり、先進諸国の中でもトップの高齢化率です。人口減少と少子高齢化が進む日本国内では、人材確保が質・量ともに困難になりつつあります。また、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、解雇や雇い止めに踏み切らざるを得ない事業所も見られるなど、製造業の雇用情勢は厳しさを増しているのが現状です。
製造現場のIT活用の遅れ
製造業は大きな転換期を迎えています。ドイツ政府が主導する製造業の国家戦略プロジェクト「インダストリー4.0」に代表されるように、現在の製造業は、ビッグデータを活用して経営資源の配分を効率化し、新しい経済価値を創出しようとする第4次産業革命の最中にあります。しかし、国内の製造業では第4次産業革命への対応はおろか、IT技術の活用さえ遅れているのが実情です。先述したように、国内のあらゆる業界においてDXの実現が喫緊の経営課題となっています。しかし、製造業の多くがデジタル化による恩恵を十分に把握できておらず、経営層におけるDXへの意識も弱い傾向にあります。
また、IT化を進めてもそれらの設備や機械を使いこなせる技術者がいないことも、DXの推進を阻む要因のひとつです。製造業では、多くの企業で人材不足という問題が深刻化しています。経済産業省が2018年に発行したレポート「製造業における人手不足の現状および外国人材の活用について」によると、大企業と中小企業を合わせ、94%以上の製造業において人材不足が顕在化しているという調査結果が出ています。そうした中、ITに対する深い知見を備えた人材を確保するのは容易ではありません。人口減少と少子高齢化も重なり、今後さらに人材確保の重要性が増していくことが予想されています。
技術継承が進まない
企業が継続的に発展していくためには、企業と人が長い年月をかけて積み上げてきた、深い知識と高い技術を後進へ継承していく必要があります。しかし、長らく製造業を支えてきた技術者の高齢化が進み、過酷な労働環境を起因とする人材確保の難しさも相まって、一向に継承が進まないのが実情です。
技術やノウハウの継承がうまくいかない背景には、そのための仕組みが構築されていないことがあります。ベテラン技術者の知識は長年にわたる経験と勘によって培われてきた部分が大きく、そのような暗黙知をマニュアルなどの見える形にして共有しようとしても、方法がわからなかったり、そのための人手や時間を確保できなかったりといった問題が生じています。
また、終身雇用や年功序列といった従来の人事制度が廃れ、人材の流動性が高まっていることも技術継承を難しくしている要因のひとつです。技術者の高齢化や人材不足を乗り越えて技術継承の問題をクリアしていくためには、女性や外国人の雇用拡大、ITやAIの活用によるノウハウの見える化が鍵を握っているといえるでしょう。
日本の製造業が取り組むべき対策
日本の製造業が世界で競争優位性を確立するためには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。ここでは、日本の製造業が取り組むべき対策について解説します。
スマートファクトリーの導入
製造業が第4次産業革命の時代を生き残っていく上で重要となるのが「スマートファクトリー」の導入です。スマートファクトリーは、工場内のあらゆる生産設備や機器をIoTによってネットワークに接続し、自動的に稼働できるようにした工場を指します。IoT機器によって得られたデータを管理・分析すれば、稼働状況やエネルギー消費量の可視化、情報の蓄積などが可能になり、業務プロセスにおける無駄を洗い出すこともできるため、従来では考えられないほど生産性の向上が期待できます。
スマートファクトリーは、スマートフォンの存在がIT業界に大きな変革をもたらしたように、製造業の歴史を大きく塗り替える可能性を秘めています。工場のスマートファクトリー化は人材活用と人材育成にも貢献するため、近年非常に大きな注目を集めている概念です。
働き方改革による労働環境の改善
2019年4月に「働き方改革関連法」が施行され、働き方の見直しが進みつつあります。この法律の狙いにあるのは、長時間労働の是正や柔軟な働き方の実現、公平な待遇の確保といった労働環境の改善です。法律の施行後は多様な働き方が推進されるとともに、新型コロナウイルスの感染拡大が後押しする形で企業のテレワーク導入率が上昇しています。
しかし、製造業の場合は業務形態的にテレワークの導入が困難です。だからこそ、デジタル技術を活用した業務改革や、IoTやAIの活用によるスマートファクトリーの実現が急務となっています。デジタル化を進めるに当たっては、経営層層が一方的に指揮を取るのではなく、現場で働く従業員の声を反映し、現場の労働環境や労働条件を改善していく取り組みも欠かせません。経営層と現場それぞれの意見をバランスよく取り入れることが、生産性の向上と働きやすい環境づくりの両立を可能にするための肝といえるでしょう。
まとめ
新型コロナウイルスの流行は国内外の製造業に大きな打撃を与え、需要減やサプライチェーンの混乱を招きました。このような不確実性への対処に加え、激化するグローバル市場での競争を勝ち抜く上で、DXの実現は最優先課題のひとつです。人口減に伴う市場縮小や人材不足が深刻化する中、今後ますますDXの重要性が高まっていくでしょう。
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