「顧客視点」を取り入れたITシステムであるCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)。では、「CRM分析」とは何でしょうか?単純に訳せば、「顧客との関係管理を徹底するための分析」といえます。
マス・マーケティング時代が終了してからしばらく、顧客視点でビジネスを展開する重要さが、日に日に増しています。情報化社会が進んだことで顧客自ら情報を取得し、それぞれのニーズに応じて商品やサービスを選びます。さらに顧客ごとのニーズが多様化したことで、企業のマーケティング課題はさらに大きなものとなりました。
このため、企業には顧客視点を持ち、今まで以上に顧客が持つ課題やニーズを理解し、それに応じたビジネスの展開が求められます。こうした新たなビジネススタイルを実現するために、CRM分析が大切です。
今回は、このCRM分析とは何かを解説していきます。
CRM分析とは?意味や目的を解説
CRM分析とは単なる顧客分析なのかといえば、そうではありません。あくまでデータ分析を通じて、顧客関係を管理するためにあります。従って、CRM分析には様々な分析が含まれます。RFM分析、デシル分析、セグメンテーション分析など、複数の分析手法を用いて顧客分析を行うことで、顧客との関係管理を実現します。
CRM分析は顧客関係管理を意味する
CRM分析とは、企業が顧客との関係をよりよくするために、顧客からのデータを収集し、それを分析することを指します。
顧客の購買履歴、行動履歴、顧客からのフィードバックや苦情などから、顧客が何を求めているのか、どのような問題を抱えているのか、どのようなアプローチが有効なのかを理解し、それに基づいて戦略を立てることができます。
また、顧客データを分析することで、新しい商品やサービスの開発につなげたり、顧客ニーズに応えたサービスを提供することも可能です。
CRM分析を行う目的
CRM分析の目的は以下の3つに分けられます。
1つ目が、顧客理解と関係強化のために自社の顧客情報を分析し、より深い理解を得ることです。
これによって、顧客への最適なアプローチを行い、顧客との関係性を深めることができます。
2つ目が顧客一人ひとりの購買頻度や購入単価を上げることです。
CRM分析を通して顧客の購買行動を把握し、質の高い営業を進めることで、顧客満足度を向上させることが可能です。
これによって、リピーター獲得につながり、顧客の生涯価値を最大化することができます。
目的の3つ目が施策の効果向上を図るためです。
CRM分析をすることで、企業が行う施策の振り返りにおいて原因と結果の因果関係がより明確になり、正確な予測や課題解決ができるため、PDCAサイクルが回しやすくなります。
CRM分析が重要とされる理由
CRM分析が重要とされる1番の理由は、顧客に関する正確な情報を収集し、それを基に意思決定を行うことで企業が顧客との関係を改善し、ビジネスを戦略的に成功させることができるからです。
CRM分析を使用することで、企業は顧客の満足度を高め、長期的な取引関係を構築できます。
さらに、CRM分析で企業は競合他社との差別化を図ることができ、市場シェアを拡大できます。
以上のように、CRM分析は、企業が顧客との関係を強化し、ビジネスを成功させるために欠かせません。
CRMの代表的な分析手法9つを紹介
CRM分析について、その目的や重要性などをお話ししてきました。
ここからは、代表的な分析手法を紹介しますので、より具体的なイメージを掴んでください。
1.RFM分析
RFM分析とは「Recency(直近購入日)」、「Frequency(購入頻度)」、「Monetary(購入金額)」それぞれの頭文字を取った名前の通り、3つの角度からアプローチする分析手法です。この分析手法は、自社にとって重要な顧客とそうでない顧客を見極めることができます。
概要としては、顧客ごとに「R」「F」「M」それぞれのスコア付けをして、顧客ごとのステージやランクを把握します。たとえば「R」と「F」のスコアが高い顧客は、明らかにリピーターです。さらに「M」のスコアも高ければ、自社のファンといってもいいでしょう。
一方「M」のスコアは高いが「F」のスコアが低いという顧客は、リピーターではありませんが、将来重要顧客になる可能性があり、積極的にセールスをかけるべき顧客だといえます。
このように、「R」「F」「M」それぞれのスコア付けをすることで、自社にとっての顧客属性を明確に把握することが可能です。
2.デシル分析
「デシル」にはラテン語で「10分の1」という意味があり、顧客を購入金額順で10のグループを形成します。たとえば自社顧客が1,000人いれば、購入金額上位から100人ずつのグループ分けをします。その後、各グループの総購入金額を割り出し、最後に1,000人全体の総購入金額から、グループごとの比率を割り出します。
こうした分析を行うことで「上位〇名の顧客が売り上げの80%を占めている」などの情報を得ることができます。
3.セグメンテーション分析
セグメンテーションとは、共通のニーズや属性を持つ顧客を分類することです。例えば年代別で分類したり、居住地域で分類したりします。この、セグメンテーション分析を行うことで、様々なことが見えてきます。
セグメンテーションでは、年齢・性別・住所・職業・世帯構成などの基本的な分類条件があります。会社勤めの顧客もいれば、自営業の顧客もいるでしょう。家庭を持つ顧客もいれば、独身の顧客もいます。
そうしたセグメンテーションに加えて「最も商品購入率の高い属性は?」という視点を持ってみるとどうなるでしょう。会社勤めより自営業、独身よりも家庭を持つ顧客の方が、商品購入率が高いというような情報が見えてきます。
となれば、商品購入率が高い属性を持つ顧客に対し、積極的にセールスをかけていけば、効率良く売り上げを伸ばしていくことが可能です。
4.CTB分析
CTB分析は、顧客分析の1つであり、商品の種類、デザイン、ブランドといった3つの要素を使って顧客をグループ分けし、購買行動を予測する手法です。
CTBは、Category(カテゴリー)、Taste(テイスト)、Brand(ブランド)の頭文字を取った言葉で、商品やサービスへの顧客の嗜好を分類するための3つの指標を表しています。
CTB分析は、顧客の好みを分析して顧客への適切なアプローチや商品開発をしていくことにつながります。
5.CPM分析
CPM分析は顧客ポートフォリオマネジメントとも呼ばれます。
RMF分析の3つの指標と顧客の在籍期間を基準とし、顧客を「継続購入するリピーター」「継続購買しなくなってしまった人」などの10パターンに分けて分析します。
この分析手法を活かして、例えば、初回購入後に離脱してしまった層に対して、アプローチ回数を増やすなどの施策を行います。
また、長期間にわたって一定金額以上の購買実績を持つ「優良リピーター」に対しては、新体験を重視した施策を行うなどの方法があります。
このように、顧客層を適切に分類し、それぞれに合った施策を実施することで、企業の収益性向上や顧客満足度向上などを目指せます。
6.LTV分析
LTVとは、Lifetime Value(生涯価値)の略語で、平均購入額、購入頻度、企業の顧客である期間の3つの指標をもとに計算されるビジネスにおける顧客価値を測定する指標です。
LTV分析は、ある顧客が企業に対して将来的にどれだけの価値を生み出すかを推定することにより、企業の将来的な収益性を予測するために用いられます。
重要視すべき顧客を明確にし、顧客獲得費用を最小限に抑え、顧客の生涯価値を最大化するための施策を考えるうえで効果的な分析です。
7.クラスター分析
クラスター分析は、データをグループ分けする手法の1つで、似た性質を持つデータを大きな視点から同じグループにまとめることを指します。
企業が持つ顧客データを分析して、類似性のみを目安にそれらをいくつかのグループ(クラスター)に分け、大まかな傾向を把握するために利用されます。
顧客をグルーピングするだけでなく、商品や地域の特徴をまとめる際にも利用されます。
似た商品や地域特性をグルーピングすることで、販売実績などを分析し、どのターゲットにアプローチをかけていくかを明確にすることができます。
8.売上分析
CRMにおける売上分析とは、企業が顧客データを分析することで、売上の増加やビジネス成果の改善を図るための手法です。
セグメンテーション分析、クラスター分析などと組み合わせることで、さまざまな角度から多角的な売上分析が可能になります。
売上分析には2つの目的があります。
1つは現状把握で、売上を多角的に分析して自社の状況を理解することです。もう1つは目標を設定することです。
現状を可視化して売上課題を抽出し、売上を向上させるための具体的な目標を設定します。
具体的かつ適切な目標設定により、売上の向上だけでなく従業員のモチベーションアップも期待できます。
9.行動トレンド分析
CRMにおける行動トレンド分析は、顧客の行動履歴を分析することで、顧客の嗜好や需要のトレンドを把握する手法です。
雨が降った日に傘の需要が増える、冬になると手袋やマフラーの売り上げが伸びるといった分析が、わかりやすい行動トレンド分析の例になります。実際のマーケティング施策ではさまざまな切り口からのアプローチが必要となるため、CRM分析が有効です。
行動トレンド分析を活用することで、商品の需要に合わせて、適切な時期に適切なターゲット層に広告を打ち出すことが可能になります。
CRM分析を実現するために大切な4つのポイント
CRMツールとは、顧客情報の分析、営業活動の支援、マーケティング活動の支援、カスタマーサポートの提供などの機能が含まれた顧客管理システムです。
では、CRMツールを導入すれば、CRM分析は可能なのか?というと、実はそうではありません。
ここから、CRM分析を実現するための重要な4つのポイントを紹介していきます。
組織全体の課題を明確化する
組織全体の課題を明確にすることは、CRM分析を実現するために重要なポイントの1つです。
CRM分析を行うためには、組織内の各部門が持つデータを収集・分析する必要がありますが、そのためには部門間の情報共有やデータの一元管理などの問題が生じる場合があります。
このような課題を明確にすることで、組織全体でデータを収集・分析するための仕組みを整え、正確な分析結果を得ることができます。
また、CRM分析を行う際には、顧客との接点が多い営業やカスタマーサポートなどの部門が重要な役割を担っています。
そのため、部門間の協力やコミュニケーションを促すことも大切です。
分析のための情報基盤を整える
CRM分析を実現するためには、情報基盤を整えることが重要です。
情報基盤とは、顧客データや購買履歴、クレーム履歴、問い合わせ履歴などのデータを管理するためのシステムやプロセスのことです。
情報基盤を整えるためには、まず、データの質を高めることがポイントです。
データの入力方法や処理方法、保存場所などを標準化し、データの一貫性や正確性の確保も必要になります。
また、セキュリティ対策をしっかり行い、個人情報の漏えいや不正アクセスなどのリスクを低減することも重要です。
こうした取り組みを進めることで、CRM分析をより効果的に行うことができます。
既存顧客へのアプローチから始める
既存顧客へのアプローチを行うことはCRM分析を実現するために非常に重要なポイントです。
既存顧客にフォーカスすることで、その顧客の購買履歴や嗜好、クレーム履歴などのデータを収集しやすくなります。
また、顧客が抱える課題や問題点を把握し、それに応じたマーケティング施策やアフターサービスを提供することで、リピート率の向上を実現できます。
さらに、既存顧客へのアプローチを通じて、新たなニーズや市場トレンドの把握もできます。
そのため、CRM分析を実現するためには、既存顧客への積極的なアプローチが必要です。
自社に最適なCRMシステムやERPを活用する
精度の高いCRM分析を実践するために、多くの企業がERPを導入・検討しています。
ERPとは、「統合基幹業務システム」と訳され、複数のITシステムを統合管理するためのツールです。
そんなERPがCRM分析にとって重要な理由は「データの一元管理」にあります。
例えば、計システムと販売システムの連携が取れていれば、2重3重のデータ入力作業がなくなり、データの重複や漏れがなくなります。仕入システムと在庫システムの連携が取れていれば、仕入から在庫管理までの作業を、円滑に進めることができます。
ERP導入企業は顧客情報に紐づけてさまざまなデータを分析できるようになるので、顧客をより深く理解し、顧客視点のビジネスを展開しやすくなるでしょう。
CRM分析におすすめのツール5選
企業の顧客管理や新たなターゲット層の獲得にむけて、CRMツールの利用が欠かせないことを理解していただけたのではないでしょうか。
ここからは、CRM分析を行ううえで導入すべきおすすめのツールを5つ紹介します。
それぞれの特徴を解説しますので、自社での利用方法を考えながら読み進めてみてください。
Microsoft Dynamics 365
Microsoft Dynamics 365は、CRMやERPが含まれているMicrosoftが提供するクラウドのビジネスプラットフォームサービスです。
クラウドサービスのため、従来のオンプレミス型のサービスに比べ、いつでもどこでもアクセス可能、セキュリティの強化が可能、スケーラビリティがあるといったメリットがあります。
また、Office 365、Power BI、AzureなどのMicrosoftのクラウドサービスと統合され、より広範なビジネスを迅速に効率よくサポートしてくれるため、多くの企業から注目を集めています。
Salesforce Essentials
中堅・中小企業向けNo.1のCRMツール、「Salesforce Essentials」を紹介します。
Salesforceは、大規模なエンタープライズ向けのCRMソリューションを提供していますが、その中から、中堅・中小企業がビジネスを成長させるために必要な機能をシンプルにまとめたクラウド型のツールがEssentialsです。
Essentialsはシンプルで直感的なユーザーインターフェースを提供しており、コストが低く、すぐに使い始めることができるのが特徴です。
kintone
kintone(キントーン)は、日本のサイボウズ社が提供するクラウド型のCRMツールです。
中小企業やスタートアップ企業にとっても手軽に導入できる価格帯でありながら、高度な機能を備えたCRMツールとして、多くの企業に利用されています。
プログラミングの知識がなくても、画面操作だけで簡単にアプリを作成できることが魅力ですが、CRMに特化しない汎用的なサービスであることも特徴の1つです。
Sansan
Sansan(サンサン)は、日本のサンコープリンティング社が提供するクラウド型の名刺管理ツールです。
Sansanは、名刺をスキャンするだけで、自動的に名刺情報をデータベース化することができます。光学式文字認識技術により、名刺に記載された情報を正確に認識できるため、名刺管理の手間を省くことができます。
Sansanには、オンライン名刺交換機能もあります。
この機能を使うと、展示会やセミナーなどで他の人と名刺を交換する際、スマートフォンでQRコードを読み取るだけで名刺情報を交換できます。
eセールスマネージャーRemix
eセールスマネージャーRemixは、株式会社フィードフォースが提供するクラウド型のCRMツールです。
eセールスマネージャーRemixには、営業活動の生産性を向上させるための見積書や請求書の作成・管理機能、スケジュール管理機能、リード管理機能、商品マスター管理機能があります。
また、データの可視化・分析機能が充実しており、売上データや成約率データなどをグラフや表で視覚的に分析することができます。
さらに、API(ソフトウェアやプログラム同士をつなぐインターフェイス)も豊富で、他のシステムとの連携も簡単に行えるため、ビジネスのニーズに合わせた使い方が可能です。
まとめ
企業の中には、CRM分析を必要としないケースもあります。
例えば、取引先の多くと長年の取引があり、事業拡大よりも、そうした取引先との関係を維持することが大切という場合です。
こうした企業では、CRM分析を行うにしても、事業拡大を狙うのではなく、長年付き合いのある取引先をより深く理解するために分析するのがいいでしょう。
逆に、事業拡大を狙っていたり、成長段階にある企業はCRM分析を活用し、顧客の理解と市場の見極めを行うことで、どんどん事業拡大をしていくことが大切です。
こうしたCRM分析を実現するためにも、今回おすすめした5つのツールの導入をぜひご検討ください。