製造分野にERPシステムを導入する上で重要な課題のひとつが要件定義です。自社にとって適切な業務要件とシステム要件を定義するのは簡単ではありません。そこでおすすめしたいのが、製造業務向けテンプレートの活用です。本記事ではDynamics 365の製造業務向けテンプレートを導入する利点について解説します。
Dynamics 365 for Finance and Operations(ERP)を導入するメリット
近年、国内の製造業は生産年齢人口の減少に伴う人材不足、若年層の入職者減少や就業者の高齢化など、さまざまな課題を抱えています。このような状況のなかで製造分野に携わる企業が成長・発展していくためには、デジタル技術を活用した生産体制の構築が不可欠です。効率的な生産体制を構築するためには、企業の経営資源や基幹業務を一元的に管理するERPシステムの導入が求められます。
そんなERPシステムのなかで、製造業の領域を得意とするソリューションが「Dynamics 365 for Finance and Operations」です。Dynamics 365 for Finance and Operationsは、Microsoft社が提供する「Microsoft Dynamics 365」の製造業務向けテンプレートともいえる製品で、製造分野のマネジメントを支援する機能に特化しています。具体的な導入メリットとして挙げられるのは以下の3点です。
- 経営情報を可視化できる
- 経営情報を可視化できる
- 企業ごとのルールに沿った管理会計
経営情報を可視化できる
ERPとは「Enterprise Resources Planning」の頭文字をとった略称で、ヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源を統合的に管理し、経営基盤の最適化を図るマネジメント手法を指します。そして、このERPを最適化すべく、財務会計・人事・購買・製造・物流・販売などの基幹業務を一元的に管理するソリューションがERPシステムです。
ERPシステムがもつ本質的な役割は経営資源の一元化です。企業の根幹を支える基幹部門の業務データを一元的に管理することで、組織の経営状況を俯瞰的かつ定量的に把握・分析可能になります。そして、経営状況を具体的な数値や言語として可視化できるため、定量的なデータ分析に基づくロジカルな経営判断や意思決定に寄与する点がERPシステムの最大の特長です。
業務効率の向上を図れる
組織体制や事業形態によって異なりますが、一般的に基幹部門の業務データはそれぞれのシステムで個別管理されています。各部門の業務体制に最適化された状態でデータが保管されているものの、部門を横断した情報共有や業務連携は困難です。ERPシステムは組織内に分散している基幹部門の業務データを一元化し、全社横断的な情報共有や業務連携を可能にします。
また、データが個別管理されている状態では情報の更新にタイムラグが生まれ、データの重複や矛盾が発生します。こうしたデータの重複・矛盾があると生産計画や在庫管理などにズレが生じ、過剰在庫による管理コストの増大や過少在庫による機会損失を招く原因となるでしょう。ERPシステムは部門を横断したデータ連携や業務効率化につながるだけでなく、情報の一元化によって調達から販売に至る生産体制の最適化に寄与します。
企業ごとのルールに沿った管理会計
ERPシステムは財務や会計といったバックオフィスの領域も統合的に管理し、経営判断や意思決定を支援するソリューションです。たとえば、外部のステークホルダーに経営状況を提示する財務会計は、法的なルールとプロセスに則って実施されます。しかし、経営判断や業績評価の重要な材料となる管理会計に関しては法的な縛りがなく、企業によって独自の基準が設けられているのが一般的です。
ERPシステムを導入していない企業では、Excelのような表計算ソフトを用いて手作業で帳票を作成しているケースが少なくありません。ERPシステムの導入によって財務会計の効率化もちろん、企業独自のルールに沿った管理会計のシステム化が可能です。また、財務会計部門や経理部門が信憑性の高いデータを提出できるため、正しい会計情報に基づく経営戦略の立案につながります。
ERPの導入手順を解説
ERPシステムの導入は「導入目的の明確化」「製品・ベンダーの選定」「導入スケジュールの策定」「要件定義」「設計・開発」「テスト」「運用」というステップによって実施されます。基本的にシステムの設計・開発やテストなどはベンダーの担当領域となるため、自社における重要課題は導入目的の明確化と製品・ベンダーの選定、そして要件定義のフェーズです。
まずは部門間のコミュニケーションが図れる人材を選抜し、ERP導入に向けた体制を整え、現場の声を拾い上げて適切なERPを選択する必要があります。そして、ERPシステムの適用領域を明確化して整理し、アドオン開発を可能な限り削減するために業務プロセスの見直しや改善が必要です。設計・開発のフェーズ完了後は、運用を開始する前にユーザーIDやアクセス権限などを適切に設定し、データの運用管理におけるガバナンスやコンプライアンスの整備に取り組みます。
ERPのテンプレートとは
企業がITシステムの構築に大規模な投資をする目的は、経営ビジョンや事業目標を達成することにあります。そして、そのためにはITシステムの構築によって「何を実現したいのか」という業務要件と、その実現のために「どんな機能を搭載するのか」のシステム要件を定義しなくてはなりません。しかし、企業の経営情報を統合的に管理するERPシステムの要件を、自社に最適化された形として明確に定義するのは非常に困難です。
このようなシステム構築における課題を解決する一助となるのがテンプレートの活用です。ERPシステムの場合であれば、製造分野や物流分野など特定の業種に最適化された機能がパッケージとして提供されます。ノウハウが凝縮された製造業向けのテンプレートを活用すれば、要件定義における工数削減につながるとともに、導入コストや開発期間の削減に寄与します。
テンプレート導入のメリット
ERPシステムは全社的な情報管理を担うソリューションであり、膨大な機能を必要とするため要件定義が困難です。テンプレートを活用することで、導入費用を削減しつつ短期間でシステム基盤を構築できます。ERPベンダーは組立製造業向け、製薬業界向け、化学品製造業向けなど、さまざまなテンプレートを提供しており、それらを活用することで自社に合った機能を効率よく導入できる点が最大のメリットです。
テンプレート導入のデメリット
テンプレートは各業界に合わせて構築されており、システムの柔軟性は決して高くはありません。そのため、テンプレートのシステムに業務プロセスを合わせなくてはならない可能性もあり、必ずしも自社の事業形態やシステム環境に適応できるとは限らない点がデメリットです。自社固有のニーズに合わせてアドオン開発を行えばコストも開発期間も増大し、結果としてテンプレートの利点が失われます。
製造業向けテンプレートを活用してDynamics 365を導入する利点
冒頭で述べたように、Dynamics 365 for Finance and Operationsは、製造分野のマネジメント支援に特化したMicrosoft Dynamics 365のテンプレートです。製造分野に携わる企業であれば、このテンプレートを活用することで、コストを抑えつつ効率よくDynamics 365の運用環境を構築できます。
海外製のERPシステムはモジュールや法規制、言語や通貨などが国内企業のビジネス慣習に適応できず、導入が頓挫したという事例が少なくありません。Dynamics 365 for Finance and Operationsは、日本企業向けに最適化されており、導入時の教育をサポートしてくれるサービスもあります。製造分野にERPシステムの導入を検討している企業にとって、最も適したソリューションの1つといえます。
まとめ
ERPシステムは組織全体における基幹業務を統合管理するソリューションであり、自社に必要な要件の定義が非常に困難です。テンプレートを活用することで、要件定義の工数や導入費用の削減、開発期間の大幅な短縮に貢献します。製造分野に携わる企業でDynamics 365の運用を検討している企業は、製造業向けテンプレートのDynamics 365 for Finance and Operationsを導入してみてはいかがでしょうか。