会社にとっての資産は、不動産や現金、有価証券など目に見えるものだけではないことをご存じでしょうか?資産には「用益潜在力(ようえきせんざいりょく)」という考え方があります。これは、はっきりと目に見えるものだけが資産ではなく、財産としての価値はなくても利用価値はあり、将来的に収益が期待できるものや支出も資産に含む、という考え方です。
たとえば、会社が商品やサービスを販売して将来的に利益を得るための売掛債権なども、資産に数えられるということです。これを知ると、資産管理が一気に複雑に感じるかもしれませんが、会社はすべての資産を適切に管理しなければいけません。
本稿では、正しい資産管理を実施していただくためにも、その基本について解説していきます。
資産とは、大きく2つに分けられる
会社が抱える資産というのはまず、「流動資産」と「固定資産」に分けられます。文字通り、前者は流動的な資産であり、後者は固定的な資産を指します。それぞれの特徴をご紹介します。
流動資産
日本では、正常な営業循環過程内にある項目を流動資産とする決まりがあり、これを正常営業循環基準と言います。賃借対照表(バランスシート・B/S)において、正常な営業サイクル内にあるかどうかを示す基準であり、資産や不正を流動化固定化に分類するための基準です。前述した売掛債権や棚卸在庫などは、正常営業循環基準にある資産に該当するので、流動資産に分類されます。さらに、正常営業循環基準になくとも1年以内に現金化が予定されているものも流動資産に含みますので、有価証券など1年以内に入金するものならば同じく流動資産に該当します。
流動資産一覧
- 商品
- 製品
- 部品
- 原材料
- 仕掛品
- 棚卸在庫
- 立替金
- 未収金
- 未収収益
- 前払費用
- 短期貸付金
- 仮払金
- 仮払消費税
固定資産
固定資産とは、会社が長期にわたり保有する資産のことです。ちょっとした備品1つでも長期的に使用するものなら固定資産に該当し、使用期間が1年に満たない場合には固定資産に該当せず、消耗品費になります。さらに、有形固定資産と無形固定資産に分類され前者は具体的な形態を有しているものを指します。土地や建物などの不動産、機械設備なども該当するでしょう。一方、後者は特許権や営業権など、法律上の権利や会社のシステムを構築するためのソフトウェアライセンスなどが該当します。
固定資産一覧
- 建物
- 構築物
- 機械装置
- 一括償却資産
- 土地
- 車両運搬具
- 工具器具備品
- 減価償却累計額
- 漁業権
- ダム使用権
- 水利権
- 特許権
- 実用新案権
- 意匠権
- 商標権
- ソフトウェア
- 育成権
- 営業権
- 敷金・保証金
IT資産管理
ここまでで、資産にはさまざまな種類があることが分かりました。企業はそれらの資産をトータル的に管理する必要があります。中でも大切なのがIT資産管理です。ちなみにIT資産とは、次のようなものが該当します。
IT資産一覧
- サーバーハードウェア
- クライアントパソコン
- ノートパソコン
- ネットワーク機器
- スマートフォン
- タブレット
- 複合機・スキャナ機・コピー機
- サーバーにインストールされたソフトウェア
- 各端末にインストールされたアプリケーション
- OSやソフトウェアを使用するためのライセンス
こうしたIT資産を管理するために、一般的にはExcelで作成した管理台帳などを使用します。各資産の所在地や利用状況などを記入します。あるいは、そもそもIT資産を管理していないという会社も多いでしょう。Excelの管理台帳を運用している場合でも、OSやソフトウェアのライセンスまで管理しているという会社は少ないでしょう。
なぜIT資産管理は重要なのでしょうか?それは、場合によってコンプライアンス違反が発生する可能性があるからです。たとえばMicrosoftが販売しているOfficeライセンスは、パッケージ製品ならばインストール台数が2台までとなっています。もしも社用Officeスイートライセンスを従業員が不正にコピーし、私用端末にインストールしてしまうとMicrosoftのライセンス規定に違反し、場合によって高額な損害賠償を請求される可能性があります。
従って、IT資産管理を実施しないとライセンス契約違反になる可能性があり、会社のコンプライアンスを損ねるかもしれないのです。
また、IT資産が管理されている会社では、社内のITについて隅々まで理解していることになるので、適切なIT投資先を選択できるようになります。
IT資産管理を実施しないとどうなるのか?
IT資産管理の実施、徹底が行えていない会社では、以下のような問題を抱えることになります。
ITライフサイクルが管理できない
IT資産には必ず「寿命」があります。ハードウェアならば経年による劣化でパフォーマンスが低下しますし、将来的なビジネス要件に対応できなくなる可能性があります。ソフトウェアならライセンス期限が定められていたり、サポート期限に限りがあるためその後はセキュリティアップデートが配信されません。
最も多くの企業で利用されていたWindows 7は2020年1月14日にサポート期限終了を控えており、その対応に終われている企業も多いでしょう。すべてのIT資産は、そのライフサイクルによって刷新を検討する必要があるので、IT資産管理を実施していない環境では後手に回ることが多く、計画的な刷新が難しいためコスト増になる可能性が高くなります。
IT資産が行方不明になる
従業員がIT資産を私物化することで、行方不明になる可能性があります。特定の従業員が使っていたはずなのに紛失し、当該従業員に尋ねても返却したの一点張りで埒が明かないといった状況は、決して少なくありません。IT資産管理を徹底すれば、だれがいつどのITを利用したのかをすべて記録することになるので、行方不明になるIT資産がゼロになります。
シャドーITが蔓延する
会社が許可していないアプリケーションやクラウドサービスを、従業員が勝手に利用することをシャドーITと呼びます。このシャドーITが社内に蔓延することで、情報漏えいのリスクが激増し、コンプライアンス違反が発生する可能性も高まります。シャドーITが蔓延する原因の一つが、IT資産管理が行えていないことです。会社全体のIT資産を徹底管理すれば、従業員が勝手にアプリケーションをインストールしたり、クラウドサービスを利用することもなくなります。
IT資産およびその他の資産を管理するには、資産管理システムを導入するか、資産管理機能を備えたERP(Enterprise Resource Planning)などの統合的なシステムを導入することで対応します。Excelでの管理もよいですが、どのファイルが最新版か分からなくなったり、不正が簡単に行えることからおすすめしません。なので、会社の資産管理を徹底したい場合は、システム化による資産管理をご検討ください。徹底的に実践すれば、会社のさまざまな課題を解決するきっかけにもなるでしょう。