1973年、世界で最初のERPとなったSAP社の「R/1」がリリースされました。その後、SAPはバージョンアップを重ね、1990年代、多くの大企業がERPの有効性に共感し、SAPの導入を行いました。今でも多くの企業ではSAPを活用して日々の業務を行なっていることでしょう。そして、そんなSAPユーザー企業が直面している大きな問題といえば「SAP 2025年問題」です。本稿では「SAP 2025年問題」について解説し、SAPユーザー企業がこれから取るべき方向性についてご紹介します。
SAP ERPシステムが抱える問題とは?
日本国内で私たちがよく耳にするSAPは、1992年 7月6日に正式発表された「SAP R/3」でしょう。SAP R/3では初めてクライアントサーバーに対応するなどオープン化の波にいち早く対応したこともあり多くの企業が採用しました。そして、リリース当初からそれを採用した企業は自社業務に即した環境を構築するためにアドオン開発を行なっていました。
しかしその一方で、SAPを活用して企業経営を行なっている企業の多くが、ビジネス環境の変化に追従できないケースが出てきました。ERP製品の多くはさまざまなシステムを統合しているため、業務や法制度の変化への対応が常に求められます。しかしそれに伴い追加開発は増え、ソフトウェアのバージョンアップのたびに動作確認などを行う必要があり、いつしかERPを維持することに多大なコストや時間を強いられるようになってしまいました。
そして、今、多くのSAPユーザーが直面している課題といえば「2025年問題」です。
「SAP 2025年問題」とは?
「SAP 2025年問題」とは、2025年に既存のSAP ERPシステムのサポート期限が終了し、SAPユーザー企業がその対応に追われることを指します。ERP製品は企業全体のビジネスを根底から支えるIT基盤なので、その影響度は計り知れません。
システム移行に伴う負担は非常に大きなものになりますし、「ベンダー(SAP)都合」というのもSAPユーザー企業にとって負担を増大させる原因の1つになっています。
「SAP 2025年問題」が発生する原因は、SAP ERPシステムのサポート期限を終了させ新しいシステムへの移行を促します。
そしてもう1つの理由が「SAP S4/HANAの存在」です。SAP S4/HANAとは、SAPの最新技術を駆使したインメモリデータベースである「SAP HANA」を基盤として採用したものです。2015年2月にリリースされ、当初こそ「実用的なERP製品ではない」という見解が多かったものの、大型アップデートを繰り返したことでインメモリデータベースの利点を引き出しつつあります。
ちなみにインメモリデータベースとは、リアルタイム性を追求し、高速データ処理に特化したデータベースです。SAP HANAをERP製品の基盤として採用することで、超高速のデータ処理とシステム操作性を実現します。要するに、リアルタイム性が欠如したSAP ERPシステムから、新しいSAP S4/HANAに移行してもらうのが本質的な狙いです。
サポート期限まで5年以上残されていますし、ERPベンダーとしての当然のビジネス戦略ではあるものの、システム移行に際しSAPユーザー企業の負担は計り知れないことから「SAP 2025年問題」として問題視されています。
「SAP 2025年問題」に対処する2つの方法
「SAP 2025年問題」に対処する方法として考えられるのは2つあります。それが「SAP ERPシステムの継続利用」と「他のERP製品への刷新」です。
SAP ERPシステムの継続利用
「SAP 2025年問題」で終了するサポート期限というのは、「メインストリームサポート」です。これは新しいデザインや機能の更新、システム品質改善、セキュリティプログラムの更新が含まれているサポート形態であり、メインストリームサポートが終了すると自動的に「延長サポート」の期間に切り替わります。
延長サポートではセキュリティプログラムの更新は継続的にされますが、デザインや機能の更新、システム品質改善は含まれていません。従って、「SAP 2025年問題」によってSAP ERPシステムが使えなくなったり、セキュリティ面で危険になったりするというわけではありません。
現時点で2025年以降もSAP ERPシステムの継続利用を決断している企業も多く、特に問題が発生していないSAP ERPシステムを刷新する理由はないとしています。ただし、「リアルタイム性の欠如」というSAP ERPシステム独自の問題が解消されるわけではありません。
他のERP製品への刷新
もう1つの対処方法が、現在利用しているSAP ERPシステムから他のERP製品に刷新するという方法です。SAPで継続してビジネスを行いたいという場合はSAP S4/HANAへ刷新できますし、他ベンダーのERP製品を扱ってみたいという場合は数あるERP製品の中から刷新するものを選ぶことができます。
SAP S4/HANAを採用する場合は、SAP社の最新技術をビジネスに取り入れ、超高速のデータ処理と既存のSAP ERPシステムに欠けていたリアルタイム性を取り戻すことができます。ただし、SAP S4/HANAはデータベースとしてSAP HANAにしか対応していないので、複合的なシステム環境を構築している企業では採用が難しくなります。
一方、他のERP製品へ刷新する場合は、SAP S4/HANAと同程度のデータ処理能力を持ったERP製品を選択することができますし、新しいシステム基盤を構築できるという利点があります。ただし、既存業務プロセスを変更する点も多くなるため、対応コストは発生します。
「SAP 2025年問題」への時間は意外と少ない…
ERP製品は非常に大規模かつビジネスを根底から支える存在ですので、新しいシステム環境に刷新する場合は、「SAP 2025年問題」への時間はあまり残されていないと考えるのがよいでしょう。新しいERP製品の要件定義を行うのに1年以上かかるケースもありますし、製品選定、導入パートナー選定、インフラ整備、導入、テスト運用などを考慮すると少なくとも3年ほどかけてERP刷新プロジェクトに取り組む必要があります。
SAPユーザー企業の皆様は、まずSAP ERPシステムのサポート期限が終了することでの問題を整理した上で、早急に対処していくことをおすすめします。