社内でオンプレミスのサーバーを利用する基本的な用途には、ファイルサーバーがあります。総務に提出する有給休暇など届け出の文書ファイル、PowerPointなど企画書フォーマット、議事録などのWordやPDFファイルなどをサーバーにアップロードして、社員が必要なときにダウンロードして利用するファイルの共有です。
システム管理者もしくはサーバー運用に詳しい社員がいればファイル共有サーバーは簡単に構築できますが、物理的に容量が足りなくなったときにストレージを増設する必要があり、コストがかかります。このようなとき、クラウドでファイルを共有すれば、利用量に応じた拡張が可能で増設負荷を軽減できます。
「Azure Files」は、クラウド上でシンプルなファイル共有を可能にするサービスです。ここでは、Azure Filesの概要とメリット、Azureでファイル共有をする方法、効率的なファイル共有に関して解説します。
Azure Filesの概要とメリット
Azure Filesは、仮想マシンのハードウェアをはじめOSとミドルウェアによるクラウド環境の基本設定、サーバー構築、構築後の監視や障害対応のすべてを提供するフルマネージドのファイル共有サービスです。
Azure Filesには以下のようなメリットがあります。
業界標準のSMBをサポート、優れた互換性
ファイルの保存や転送はSMB(Server Message Block)3.0やHTTPS で暗号化され、セキュリティ面で安心です。重要な脆弱性に関するアップグレードは自動化され、修正プログラムを適用する作業が不要になります。アプリケーションの互換性に関わらず、複数のマシンやアプリケーションによるファイル共有をクラウド上に移行できます。Windows、Linux、macOSの複数のプラットフォームに対応し、クラウドとオンプレミスのファイル共有が可能です。
常時稼働を実現して、管理者の負荷を軽減
「サーバーがダウン」といった通知を受け取ると、サーバー管理者は夜間や休日にも関わらず対応に追われます。しかし、Azure Filesは常に利用可能であることを前提として構築されているため、管理者の負荷を軽減します。 オンプレミス上のファイル共有をAzure Files に置き換えることによって、夜間に停電やネットワークに障害が生じた場合にも、わざわざ回復のために対応する必要がありません。
システム管理者や開発者は、慣れた手法で作業可能
Azure上では、ファイルシステムのI/O APIによってアプリケーションはデータにアクセスします。したがって、システム管理者や開発者は既存のコードとスキルを駆使して、オンプレミスで稼働させていたアプリケーションを移行可能です。システムI/O API以外には、Azure Storage クライアントライブラリ、Azure Storage REST APIを使うこともできます。
Azure Filesの活用シーン
Azure Filesは、次のような場合で活用できます。
オンプレミスのファイルサーバーをクラウド上に移行して、どこからでも利用可能に
社内で運用されているオンプレミスのファイルサーバーやNASのデバイスをAzure Filesに移行して、完全な置き換えや補完ができます。一般的に利用されているWindows、macOS、Linux などのOSを搭載したクライアントPCで、どこからでもファイル共有を容易にマウントできます。国内はもちろん、海外拠点からのアクセスも可能です。
アプリケーションの効率的な クラウドシフトを実現
オンプレミスの環境をクラウドに移行するとき「リフトアンドシフト」という言葉が使われます。このとき、オンプレミスから単純にクラウド上にアプリケーションをリフトする(システムを移行する)だけでなく、クラウドネイティブな仕組みに変えることが重要になります。このようなリフトアンドシフトによって、コスト削減や生産性向上など、さまざまなメリットが得られます。
Azure Filesを利用すると、アプリケーションやデータをAzure上のファイル共有に保存し、簡単にリフトアンドシフトを実現します。しかもアプリケーションとデータの両方を単純にクラウドに移行するだけではなく、アプリケーションのデータをAzure Filesに移行してアプリケーション自体はオンプレミスで実行するような、ハイブリッドクラウドのリフトアンドシフトにも対応することが可能です。
企業の「クラウドシフト」が重視されています。しかし、単純にクラウドにアプリケーションとデータを移行するだけでなく、クラウドネイティブな仕組みを考慮した移行が理想的です。Azure Filesを使って、既存のアプリケーションに変更を加えずにクラウドに移行した後、システム全体をクラウドに最適化して再構築できます。
さまざまなクラウド上の開発をシンプルに
Azure Filesによって次のようなクラウド上の共有が可能になります。開発効率の向上と簡略化が可能です。
分散アプリケーションを共有
一般的に分散アプリケーションでは、集中管理する場所に構成ファイルを配置して、アプリケーションが稼働している複数のインスタンスからアクセスします。AzureではFile REST APIでアプリケーションインスタンスの構成を読み込み、必要に応じてローカルからSMBでファイル共有をマウントします。
クラウドの診断を共有
Azureのファイル共有には、クラウド上のアプリケーションのログ、測定値、障害時のメモリの内容を出力したファイル(クラッシュダンプ)を保存できます。 ログはFile REST APIで書き込まれ、ローカルのPCでファイル共有をマウントすれば、ログのファイルにアクセスして確認することが可能です。管理者や開発者は、使い慣れたツールでクラウド開発を継続できるため、運用状況の診断にも役立ちます。
ユーティリティツールを共有
管理者や開発者がクラウド上の仮想マシン(VM)で作業しているときには、作業に関連した一連のツールやユーティリティが必要になる場合が数多くあります。ところが、必要なユーティリティやツールを仮想マシンにコピーしていると時間がかかります。 ローカルの環境からAzureファイル共有をマウントすることにより、開発者や管理者は必要なユーティリティやツールをコピーすることなく利用できます。開発、テスト、デバッグの作業をスムーズに行えます。
Azure File Syncでより効率的な活用を
クラウド上のファイル共有の構築に関していえば、Azure Filesを使わない最も簡単な方法があります。それはAzure上に仮想マシンを構築して、ファイルサーバーとして運用する方法です。いわばAzureをIaaSとして利用して、VPNで接続すればアクセス管理もできます。ファイルサーバーのリフトアンドシフトとしては最も簡単です。
しかし、仮想マシンをファイル共有に使う方法は代替にすぎません。一方でAzure FilesはAzureのファイル共有サービスとして提供されているため、OSに限定されずにどこからでもアクセス可能です。仮想マシンのハードウェアやOSのメンテナンスが不要で、容量をスケーラブルに設定できること、バックアップやリストアが容易であることがメリットです。
さらに「Azure File Sync」を使えば、複数のWindowsサーバーで、Azure Filesのファイル共有を同期できます。海外もしくは国内に複数の拠点を持つ企業であれば、従来のDFSレプリケーションを使わずに複数の拠点で同一ファイルを扱えます。
Azure File SyncはDR(Disaster Recovery:災害復旧)の目的に最適です。オンプレミスの共有ファイルはAzure Fileファイル共有との同期が高速であるため、オンプレミスのWindowsサーバーに障害が起きたときにもデータが失われることがありません。Azure File Syncを利用すると、データが使用されている場所に近いWindowsサーバーにAzure ファイル共有がキャッシュされ、高速なパフォーマンスを実現します。
また、入出力の負荷が高いファイル共有には、優れたパフォーマンスのPremium Filesストレージを提供しています。
まとめ:Azure Filesはクラウド上のファイル共有に最適
ファイル共有といっても、一時的なファイルの保管場所としての利用と、アプリケーションと連動して重要度の高いファイルの共有では用途が違います。また、社内のオンプレミスのファイル共有をVPN接続されたクラウド上の仮想マシンに置き換える場合と、複数の拠点で同期されたファイルを利用する場合では、最適なシステム構成を検討しなければなりません。
ファイル共有とともに、バックアップとリストアも考慮することが重要です。用途とコストに合わせたファイル共有を設計する必要がありますが、Azureは柔軟な機能によって多様なファイル共有をサポートします。