働き方改革関連法案とは、働き方改革を推進するために制定・改正された一連の労働法のことです。大企業・中小企業問わず、事業者はこれらの法律を遵守しなければいけません。そこで本記事では、この働き方改革関連法案の概要をはじめ、その改正のポイントや、企業が取るべき対応などを解説していきます。
働き方改革関連法案とは?
そもそも働き方改革関連法案とは、具体的にどのような法案で、何を目的にしているのでしょうか。まずは働き方改革関連法案の概要を解説していきます。
働き方改革関連法案の概要
働き方改革関連法案とは、現在厚生労働省が推進している「働き方改革」を法的な面から後押しすることを目的にした法案です。正式な名称は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といい、2018年の公布以来、現在に至るまで順次施行されています。
働き方改革においては、誰もが働きやすい労働環境を整備するため、柔軟な働き方の実現や、ワークライフバランスの向上などを掲げています。働き方改革関連法案においては、こうした目的を達成するために、労働基準法や労働安全衛生法をはじめ、労働者の待遇に関係する8つの労働法が改正されています。
働き方改革関連法案における企業の定義
働き方改革関連法案においては、大企業と中小企業で適用時期などが異なっています。たとえば大企業に比べて中小企業の方が法律の施行時期が遅くなっている(法対応のための準備期間が長くなっている)、大企業においては必ず実施しなければならないことが中小企業においては努力義務に留まっているなどです。
ここで想定される中小企業とは、業種に応じて以下のように定義されています。資金面または常時雇用の従業員数のいずれかが基準以下であれば、中小企業の条件を満たすことになります。
【資本金または出資金の総額】
小売業:5,000万円以下
サービス業:5,000万円以下
卸売業:1億円以下
それ以外;3億円以下
【常時使用する従業員】
小売業:50人以下
サービス業:100人以下
卸売業:100人以下
それ以外:300人以下
働き方改革関連法案の改正ポイント
働き方改革関連法案によって、諸々の労働法はどのような点が改正されたのでしょうか。以下では、主な改正ポイントについて解説していきます。
フレックスタイム制の見直し
フレックスタイム制の清算期間の見直しは、大企業・中小企業共に2019年4月に施行されました。
従来、各労働者は1ヶ月の枠内で労働時間を調整しなければいけませんでしたが、改正以降は3ヶ月間という比較的長い期間内で柔軟に労働時間を設定できるようになりました。これによって、たとえば子どもの夏休みに合わせて早く帰宅できるように6月、7月から労働時間を調整することも可能になります。
ただし、清算期間が1ヶ月を超える場合は労使協定を所轄の労働基準監督署に届け出が必要です。また、調整のためとはいえ、1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えるようなら、時間外労働扱いになります。
産業医・産業保健機能の強化
産業医や産業保健機能の強化に関する法改正は、大企業・中小企業共に2019年4月に施行されました。
この法改正によって、50名以上の従業員を抱える事業所は産業医を設置することが義務になりました。産業医が適切に健康管理・健康指導を行えるように、事業者は従業員の労働時間などを正確に把握管理し、それらの情報を産業医に提供しなければいけません。
事業者は、産業医から健康管理に関して勧告された内容を衛生委員会に報告する義務を持ちます。さらに、従業員が健康相談や健康診断を適切に受けられる環境を整備する必要もあります。
中小企業における割増賃金率の猶予措置廃止
中小企業における割増賃金率の猶予措置が撤廃されることになりました。この改正によって、月60時間を超える時間外労働の割増賃金は、中小企業の場合でも50%になります。
大企業では以前からすでに適用済みでしたが、中小企業においては2023年4月から施行されます。この改正は、時間外労働を削減し、労働者の待遇を改善することを目的にしたものです。
年5日の年次有給休暇の取得義務
年5日の年次有給休暇の取得が義務化されました。この改正は大企業・中小企業共に、2019年4月に施行されています。
日本では従来、有給休暇制度を企業が設置していても、労働者が気軽に利用しにくい状況が続いていました。この改正においては、そうした状況を改善するために、年10日以上の有給休暇の権利を持っている従業員に対し、5日以上の有休休暇を取得させることが事業者の義務になりました。有給休暇を取得する時期については、企業-従業員間で個別に相談して決めるほか、従来の計画年休制度を活用することも可能です。
高度プロフェッショナル制度の創設
高度プロフェッショナル制度の導入は、大企業・中小企業共に2019年4月に施行されました。
高度プロフェッショナル制度とは、研究・開発職など高度な専門性を有した労働者を対象に、最低1,075万円以上の年収を条件として、労働時間ではなく職務に応じて賃金を支払う雇用制度です。この制度が適用される従業員は、残業などに関する規制の適用外となり、自由な場所・時間で創造的に働くことが可能になります。
ただし、高度プロフェッショナル制度は一歩間違えれば過重労働の温床になることも懸念されます。したがってその運用に際しては、該当者本人の希望と書面同意が不可欠であるほか、労使委員会の賛成決議や、該当者の健康確保措置の整備なども行わなければいけません。
労働時間の上限
時間外労働時間の上限規制は、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から施行されました。
この改正によって、従業員の時間外労働は原則として、月45時間、年間360時間以内に収めることが義務になります。特別な事由がある場合は例外として年間720時間まで上限が増えますが、その場合でも月100時間以上は禁止、6ヶ月を超えて月平均80時間以上の時間外労働を行うのは禁止など、各種の制限が課されます。
また、残業のあるすべての事業所は36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出をしなければいけません。
違反した場合の罰則は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金です。
勤務間インターバル制度の普及促進
勤務間インターバル制度の普及促進は、まだ努力義務の範囲ですが、大企業・中小企業共に2019年4月に施行されました。
勤務間インターバルとは、前日の勤務終了時刻から翌日の勤務開始時間までに、一定の間隔を設けることを意味します。これは労働者の休息時間を確保し、労働者の健康を守ったり、ワークライフバランスを改善したりするために重要な取り組みです。
派遣労働者についての待遇
派遣労働者の待遇を改善するため、同一労働同一賃金を導入するよう定めた労働者派遣法が、大企業・中小企業共に2020年4月に施行されました。
職務内容や権限・責任などが正社員と同じなのにもかかわらず、正社員と派遣社員間で不合理な待遇格差が生じている場合は、解消するために規定を設ける必要があります。また、不合理とはいえないとしても、待遇格差の内容や理由について、企業は派遣社員に説明する義務が生じます。
短時間・有期雇用労働者についての整備
パートタイムなどの短時間・有期雇用労働者についての整備です。大企業では2020年4月、中小企業では2021年4月に施行されました。
上記の派遣労働者と同じく、今後は有期雇用労働者についても不合理な待遇格差を解消することが求められます。こうした不合理な待遇差別を解消するために、企業は労務関係などに関する社内の規定や、裁判外紛争解決手続(行政ADR)を整備しなければなりません。
まとめ
本記事では、働き方改革関連法案について解説しました。企業はこれに対応し、適切な労務管理や業務改善を行わなければいけません。Microsoft 365 には、働き方改革につながるアプリケーションが多数取りそろえられています。Microsoft 365 を活用し、働き方改革に取り組んでいきましょう。