これまで対面での監査を行っていた企業が、リモートでの業務に切り替えることは果たして可能でしょうか。近年は社会的にもテレワークが浸透し、紙の資料や対面でのコミュニケーションが多かった監査においても、非対面化の流れが登場しています。本記事では、リモート監査の概要や導入に伴う課題、留意すべき点について解説します。
リモート監査とは?
リモート監査とは文字通り、遠隔で行う内部監査のことを指します。そもそも内部監査とは、組織内の会計や業務状況をチェックしたり、監査対象の部門にヒアリングを実施して問題点を洗い出し、業務改善指導を行ったりする監査です。外部監査と異なり、自社内に設置された監査部門の担当者が公正な立場から業務を行います。
従来の監査方法は、業務部門の担当者と対面で面談を実施することがほとんどでした。しかし近年では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、非対面方式に切り替える企業が増加しています。感染予防対策のために従業員もテレワークを実施しているなどの事情から、必然的に監査計画の見直しが必要となるケースも見られ、労働環境の変化に合わせた監査の実施が急務です。
また、リモート監査は拠点が多いグローバル企業にも適しています。PCとインターネット環境さえあれば人の移動が不要になるため、出張費用の経費削減といった大きなメリットもあります。
そのほか、DX化で組織の業務変革を目指す企業にも、リモート監査は最適です。適切なシステムを導入し、既存のフローとは異なる方法で業務効率化が実現すれば、DX推進が一歩進んだ状態になるといえます。
リモート監査の課題
前述の通り、内部監査はもともと対面で行われることが多い業務でした。このような状況下で突然、大部分の監査を遠隔での実施に切り替えるとなると、さまざまな課題が浮き彫りとなります。
たとえば、従来の監査において紙ベースの資料を用いていた場合、ペーパーレス問題は必ず解決すべき課題です。特に日本企業の経理業務は、新型コロナウイルスが世界的に流行する以前からデジタル化が遅れていると指摘される領域でした。実際、2020年4月に緊急事態宣言が発令されたあとも、経理部門の約半数はテレワークを一切実施できなかったというアンケートデータもあります。
出社が必要になる主な理由は、紙の契約書や経理書類に押印して郵送対応まで行う必要があることなどです。それらに加えて、会社に保管されている書類の現物も取り扱うため、これから書類のデータ化を進めるといった場合には一度、内部統制全体を見直さなければなりません。経理部門で扱う書類は監査でも利用することが多いため、この問題は決して対岸の火事ではありません。
監査の実施時に紙の書類をPDFなどに電子化する方法もありますが、書面監査のすべてを電子文書で対応することは難しい場合も多く、何より大量の書類を電子化する工数が負担になってしまいます。スムーズなリモート監査を行うためには、まず業務部門に適切なツールを導入し、業務効率化を図ることが大切です。また、物理的な情報や証憑の確認などはリモートで実施することが難しいため、必要に応じて対面での実施を継続することも検討しましょう。
リモート監査を実施するメリット
IT化が進んでいない企業ほど、業務改善も含めた監査の環境を整える準備が大変ですが、インターネットを利用して非対面化することで得られるメリットは多く存在します。その最たるもののひとつが、経費の削減です。
対面でのヒアリングを実施する場合、監査部門の担当者が現地まで出向く必要があります。さらに、拠点の数が多ければ多いほど移動や宿泊の回数も重なり、出張費用だけでも多額の予算を計上しなければなりません。しかし、それらをリモートで完結させてしまえば、移動は一切必要なくなります。また、資料の電子化も並行して行えば、紙やインクの削減にもつながります。
移動費用の経費削減につながる話ですが、監査の実施頻度を向上させられるというメリットもあります。内部監査の役割として、業務が規定の通りに進められているかどうか、売上の目標達成に向けて進捗状況を把握する必要がありますが、リスクが高いと判断された部門に対しては実施頻度を上げなければなりません。必ずしも対面で話し合う場を設けなくてもヒアリングが実施できるようになれば、移動費用を考慮せずに監査頻度を見直すことが可能です。
さらに、リモートで監査を行った場合は、その様子を管理者がモニタリングしやすくなるメリットも存在します。各拠点に移動して実施する方式では、第三者がすべての内容について把握することは困難です。その点、Web会議ツールなどを用いた方法であれば、時間や場所を問わずに参加できます。あとからフィードバックをすることで監査部門のスキルアップにもつながるため、人材育成の観点でも魅力的です。
リモート監査に役立つツール
監査業務をリモートで行うためには、ITツールを使いこなすことが必須となります。離れた拠点の担当者とリアルタイムで話をするのに役立つのが、Microsoft TeamsやZoomをはじめとしたWeb会議ツールです。準備段階では、これらを快適に利用できるインターネット環境の構築はもちろん、通信障害やツールの不具合で中断という事態にならないよう、予備の手段も用意しておくことが望ましいでしょう。
また、従業員のテレワークが進んでいる企業では、情報共有アプリケーションが利用されている場合もあります。社員ごとに権限が正しく付与されているか、適切に業務が進められているかなど、監査で必要になる情報を安全に管理できるためおすすめです。
さらに、情報セキュリティの観点では、仮想デスクトップの利用にもメリットがあります。テレワークなどで社外にPCを持ち出して業務する場合、端末のハードディスクに重要なデータを保存してしまうと、盗難などによる情報漏えいリスクが高まります。仮想デスクトップを採用すれば、データはすべて社内ネットワーク上に保存されるため、個人で情報の管理をする必要がなくなります。どこからでもアクセスできる利便性とセキュリティの強化を両立した仮想デスクトップは、働き方改革を進める手段としても最適です。
リモート監査の留意点
インターネットを利用した非対面での監査を実施する場合、現地で対面する場合に比べてコミュニケーションの齟齬が発生する確率が上がります。これを防止するためには、事前の念入りな準備や、監査期間中のコミュニケーションにおける工夫の仕方が重要です。
まず、監査対象の部門との連携は、これまでよりも強化しましょう。最初に計画全体のスケジュールを共有したら、ヒアリング実施日までの間もチャットツールなどを利用して日々連絡を取り、当日のアジェンダは本番の数日前までに伝えておきます。
また、証憑や業務資料など、使用する書類の準備も万全にしましょう。オンライン上に保存されているものを使用するのか、現物を用意するのかを確認し、必要であれば事前の郵送対応なども済ませておきます。
リモートでヒアリングを行うにあたっても、事前の準備は大切です。使用するツールの準備はもちろん、監査対象部門の従業員がツールを使いこなすことも必須となります。使用方法の周知も忘れずに行いましょう。
さらに、当日はコミュニケーションの取り方にも工夫が必要です。Web会議の画面では、人の顔や表情が対面とは違った印象で見えることもあるため、普段よりも大げさに相槌を打ったり、大きめの身振り手振りで感情を表現したりすると、通話相手へ安心感を与えることにつながります。
Mixed Realityで実現するリモート監査
各種ツールの利用など、準備には業務のデジタル化も伴うリモート監査ですが、Microsoftが開発したMixed Reality(複合現実)を利用することで、全く新しいリモート通信のソリューションを実現できます。
必要となる製品は、「HoloLens 2」と「Microsoft Dynamics 365 Remote Assist」です。装着型のHoloLens 2を使用すると、周囲の景色に書類や画像などの情報が重ね合わされた状態で表示されます。これをMicrosoft Dynamics 365 Remote Assistの機能と合わせることで、遠隔地にいる監査部門の担当者に、リアルタイムかつ視覚的に資料を共有することが可能となります。これにより煩雑な書類の事前準備の工数を削減できるほか、視界を共有しながら両手で作業することも可能なため、監査官から提示される急な要求にもすぐに対応できるメリットがあります。
実際にMicrosoft社がMixed Realityを使用した監査を行ったところ、通常6〜8週間程度かかっていた監査期間が2〜4週間にまで短縮されており、事前の計画準備に必要な時間が減少することが実証されています。
まとめ
リモート監査には、業務のデジタル化と併用しても事前の入念な準備が必要です。Microsoft社のMixed Realityを利用すれば、煩雑な準備の工数を削減でき、リアルタイムでの作業割合を増やすことが可能です。DX化にもつながる新しいソリューションを、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。