近年、テレワーク環境の最適化を目的として、クラウドサービスを導入する企業が増加傾向にあります。そこで本記事では、クラウドコンピューティングがテレワークに適している理由を解説するとともに、具体的な導入事例をご紹介します。ニューノーマル時代に即した労働環境を整備する際の参考にしてください。
今注目の「クラウド移行」とは?
クラウドとは、サーバーやストレージ、OS、ソフトウェアなど、さまざまなコンピューターリソースをオンライン経由で利用する技術「クラウドコンピューティング」を意味する用語です。そして、自社で運用している情報系システムや基幹系システムなど、ITインフラの運用基盤をオンプレミス環境からクラウド環境へ移行することを「クラウド移行」と呼びます。
クラウドコンピューティングは、自社に物理的なサーバーやネットワーク機器などを整備する必要がないため、ハードウェアの導入費用が不要になり、システムの設計・開発コストも大幅に削減できる点が大きな特徴です。初期投資を最小限に抑えつつ、リリースまでのリードタイムも短縮できるため、オンプレミス環境の脱却に踏み切る企業が増加傾向にあります。
以前はパブリック環境で複数のユーザーがリソースを共有するという性質から、セキュリティの脆弱性を懸念する声が少なくありませんでした。しかし、AzureやAWSのようにISO規格のセキュリティ認証を得ているサービスも増加しており、金融機関や官公庁など、一般企業よりも安全性と堅牢性が求められる業界においてもクラウド移行が進展しています。
クラウド移行で企業の生産性が上がる理由と5つのメリット
クラウドコンピューティングのメリットは、導入費用や設計・開発コストの削減だけではありません。オンプレミス環境から脱却し、システムの運用基盤をクラウド環境へ移行することで、以下のようなメリットを組織にもたらします。
アクセス認証や権限付与が簡略化
利用するクラウドサービスによっては、これまで社内のセキュリティ担当者が管理していたアクセス認証や権限付与の簡略化が可能です。たとえば、Microsoft社が提供するクラウドベースの認証システムAzure ADを活用することで、2段階認証や多要素認証を用いたシングルサインオンを容易に実装できます。
セキュリティ水準が保てる
クラウドサービスはオンプレミス型のシステムのようにアドオン開発が行えないため、独自のセキュリティポリシーを定義できません。しかし、AzureやAWSのように高度なセキュリティを誇るクラウドサービスを利用することで、世界トップレベルのセキュリティポリシーに基づくシステムの運用が可能です。
テレワークに移行できる
外部ネットワークからオンプレミス環境の社内ネットワークへアクセスする場合、仮想専用線を構築するVPNのようなソリューションを用いてセキュリティを担保する必要があり、相応のコストが求められます。クラウド環境においては、コラボレーションツールやグループウェアなどを活用することでスピーディな情報共有と業務連携が可能になるため、社内ネットワークの負荷やコストを抑えつつ、セキュアなテレワーク環境を整備できます。
自社におけるオンプレミス運用のようなサーバー設置が不要
先述したように、クラウドコンピューティングはサーバーやネットワーク機器など、物理的はハードウェアを導入する必要がありません。ITインフラの保守・運用管理が不要になり、システム管理部門の業務負担が大幅に軽減されるため、空いた人的資源を業績向上に直結するコア業務に集中的に投入可能です。
ランニングコスト削減につながる
クラウドコンピューティングは、ハードウェアの導入費用やシステムの設計・開発コストを抑えられるだけでなく、システムの保守・運用・管理におけるランニングコストの大幅な削減にも貢献します。それに伴い、専門的な知見を備えるエンジニアやプログラマを雇用する必要がなくなるため、採用コストの削減にもつながるでしょう。
クラウド移行がテレワークと相性がいい理由
働き方改革の推進や新型コロナウイルスの影響から、テレワーク制度を導入する企業が増加傾向にあります。しかし、テレワーク制度はニューノーマル時代に即した働き方として注目を集める一方、さまざまな課題が顕在化しているワークスタイルでもあります。たとえば、リモート型のワークスタイルにおいて大きな課題となるのが「セキュリティ」と「情報共有」です。
オフィス外から社内ネットワークへアクセスする場合、強固なセキュリティ認証を実施する必要があります。先述したように、VPNを使用して社内ネットワークに入る企業も多いでしょう。しかし、社内ネットワークへのアクセスが集中するほどVPN機器やゲートウェイに多大な負荷がかかるため、システムの処理性能が落ち、情報共有の遅滞や業務効率の低下を招くケースが少なくありません。
それに対して、クラウドストレージやチャットツール、Web会議システム、ワークフローシステムなど、パブリッククラウドをベースとしたデジタルワークプレイスを構築できれば、リモート環境でもスピーディな情報共有が可能になります。さらに、多要素認証やWAF、エンドポイントセキュリティなど、高度なセキュリティソリューションを搭載しているクラウドサービスを選定することで、セキュアなテレワーク環境を構築できます。
クラウド型とオンプレミスを比較した際のそれぞれの特徴
クラウド型とオンプレミス型のシステムは相反する特性をもっており、それぞれにメリットとデメリットがあります。冒頭で述べたように、クラウドコンピューティングの最大のメリットは、システムの導入費用と開発期間を大幅に削減できる点です。その点においてオンプレミス型は、サーバーやネットワーク機器といったハードウェアの導入が必須であり、システムの設計・開発に多大なコストと工数を要します。
しかし、アドオン開発が可能なオンプレミス型はカスタマイズ性に優れるため、自社独自の機能要件やセキュリティ要件を満たすシステムを構築可能です。一方でクラウド型は、機能やセキュリティポリシーがサービス事業者に依存するため、自社の要件を満たせるとは限りません。ただし、自社の要件を100%満たすシステムを設計・開発し、安定的な稼働を担保するためには高度な知見を備えたエンジニアの確保が必須です。
また、オンプレミス型はネットワーク障害やサーバーダウンに備え、システムの可用性を確保する必要があります。可用性レベルを高く保つほどに管理コストの増大を招き、IT予算の圧迫につながるでしょう。クラウド型のITインフラであれば、サービス事業者のデータセンターにファイルが管理されているため、可用性の確保にコストを投じる必要がなく、さらにBCP対策としても機能します。
■クラウド
導入費用:安価
運用コスト:利用するリソースに応じてコストが発生するが柔軟に変更可能
カスタマイズ性:低
ハードウェアの導入:不要
障害時の対応:サービス事業者が対応
セキュリティ:クラウドサービスに依存する
■オンプレミス
導入費用:高額
運用コスト:高額、かつ利用リソースの規模変更時に多大なコストが発生するケースがある
カスタマイズ性:高
ハードウェアの導入:必要
障害時の対応:自社で対応
セキュリティ:独自のセキュリティ要件を定義できる
クラウド移行で生産性向上ができた成功事例
2020年3月、三菱UFJ信託銀行株式会社はHRガバナンスに関するコンサルティング会社「HRガバナンス・リーダーズ株式会社」を新たに設立すると発表。そして、新会社の設立を同年4月1日、業務開始予定日を10月1日と定めました。課題となったのは、半年足らずで新会社の業務システムを構築すること、そして三菱UFJファイナンシャル・グループが求める厳格なセキュリティポリシーを満たすシステム環境を整備することです。
そこで同社が選択したのが、Microsoft 365を中心としたクラウドネイティブなデジタルワークプレイスの構築です。具体的な手順としては、コラボレーションプラットフォームのTeamsやオンラインストレージのOneDriveを主軸として労働環境を整備し、認証システムにAzure ADを採用する方法を用いて堅牢性を担保するシステム環境を構築しました。
社内外を問わずリソースを共有できるパブリッククラウドの特性を活かした環境を整備することで、テレワークへのスムーズな対応にもつながり、結果として組織全体における生産性向上を実現しています。また、クラウドコンピューティングをベースとすることで、従来のオンプレミス型と比較してリリース期間の短縮とコストの削減にも成功しています。
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まとめ
コラボレーションツールやグループウェアなど、クラウドコンピューティングをベースとしたシステム環境を整備できれば、生産性の高いセキュアなテレワーク環境を構築できます。新しい時代に即したデジタルワークプレイスを構築するためにも、クラウド環境への移行を検討してみてはいかがでしょうか。