新しい時代の働き方として普及しつつあるリモートワークですが、さまざまな課題を抱えている企業も少なくありません。なかでも重要な経営課題として挙げられるのが、リモートワークの長期化による生産性の低下です。本記事では、リモートワークで生産性が低下する背景や向上させる具体的な施策について解説します。
リモートワークで生産性は下がる?
近年、働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染症などの影響により、リモートワーク制度を導入する企業が増加傾向にあります。とくに新型コロナウイルスの影響は大きく、パーソル総合研究所の調査によると、リモートワークの実態としてはほぼ同じ勤務形態であるテレワーク実施率が、2020年3月時点で13.2%だったものが緊急事態宣言発令後の4月以降になると約2.1倍の27.9%にまで上昇しています。このような背景からも分かるように普及しつつあるリモートワークですが、生産性の低下を指摘する調査結果が少なくありません。
たとえば、米国のコンピュータ・ソフトウェア企業であるAdobeが行った調査では、リモートワークを経験した日本人労働者の43%が「在宅勤務は生産性が低下する」と回答しています。そもそも、日本は生産性が低いことで知られており、公益財団法人 日本生産性本部の調査によると、労働者一人当たりの労働生産性はOECD加盟38カ国中28位と、主要先進7ヶ国のなかで最下位となっているのが実情です。
多くの企業で感染症対策として導入が加速したリモートワーク制度ですが、オフィスコストや通勤手当の削減、ワークライフバランスの向上、育児や介護との両立など、多くのメリットをもたらすことから、新型コロナウイルスの収束後も普及していくと予測されます。したがって、変化が加速する現代市場のなかで企業が中長期的に発展していくためには、いかにしてリモートワーク環境の生産性を向上するかが重要な経営課題となります。
リモートワークで生産性が下がる理由
リモートワーク環境における生産性向上を実現するためには、まず生産性の低下を招いている要因を把握しなくてはなりません。リモートワークで生産性が下がる主な理由として挙げられるのが、「雇用形態や評価制度との不一致」と「長時間労働の増加」、そして「リモートワーク環境の整備が不十分」の3つです。
雇用形態や評価制度との不一致
リモートワーク環境では、基本的にオフィス外で業務に取り組むという性質から、組織内のコミュニケーションが希薄化します。直接的な交流が減少する職場環境では、従業員の労働意欲や業績に対する貢献度、業務の遂行度などが不透明になるため、人材を適切に評価するのは容易ではありません。従業員の貢献度と人事評価の結果に乖離があるとモチベーションの低下につながり、労働生産性の低下を招く要因となります。人材のパフォーマンスを最大化するためには、公正かつ公平な人事評価が求められるため、評価項目や評価基準をリモートワークに適した形式に整備しなくてはなりません。
長時間労働の増加
リモートワーク環境の生産性低下を招く要因のひとつは長時間労働の増加です。日本労働組合総連合会が2020年に発表した調査によると、51.5%が「テレワークの導入によって従来よりも労働時間が増加した」と回答しています。リモート型の労働環境では自宅で業務に取り組むのが一般的です。在宅勤務は仕事とプライベートの境界が曖昧になるため、長時間労働を生みやすい傾向にあります。疲労の蓄積は集中力の低下を招き、労働時間に対する生産性を下げる要因となるため、リモートワーク下で従業員の労働状況を把握する勤怠管理の仕組みが必要です。
リモートワーク環境の整備が不十分
リモートワーク環境の生産性を向上するためには、在宅勤務に適した労働環境を整備しなくてはなりません。株式会社NTTデータ経営研究所の調査によると、リモートワーク環境のボトルネックとして38.7%が「社内の状況がよく分からない」、24.6%が「紙の書類を前提とした押印、決裁、保管等の手続きがあること」と回答しています。また、「通信回線が不安定」や「作業スペースが十分確保できない」といった回答もあり、環境整備が不十分なことによって生産性の低下を招いているケースが少なくありません。リモート型の労働環境で生産性を高めるためには、在宅勤務に最適化されたデジタルワークプレイスの構築が求められます。
リモートワークで生産性を向上させるには
リモートワーク環境で人材のパフォーマンスを最大化するためには、生産性の低下を招く要因を踏まえた上で対策を講じる必要があります。企業の組織体制や事業形態によって具体的な取り組みは異なりますが、主な対策として挙げられるのが以下の四つです。
- リモートワークに関するルールの整備
- 勤務環境の整備
- コミュニケーションの強化
- リモートワークに適したツールの活用
リモートワークに関するルールの整備
勤怠管理が困難なリモートワーク環境では、定量化が容易な業績考課にばかりに着目し、過度な成果主義に陥る企業が少なくありません。しかし、営業部や販売部のような直接部門は成果を数値化しやすいものの、総務部や経理部などの間接部門は貢献度を定量化しにくい傾向にあります。公正な人事評価制度を確立するためには、労働意欲や勤務態度、貢献意識などの情意考課を評価項目に設定するといった対策が必要です。そのためには、勤怠管理システムの導入や就業規則の再定義、教育制度の見直しなど、リモートワークに関するルールの整備が求められます。
勤務環境の整備
リモートワーク環境は在宅勤務が主体となるため、コンピュータの性能やネットワークの通信速度、セキュリティの堅牢性などが従業員の自宅環境に依存します。とくにオフィス外から社内ネットワークにアクセスする場合、機密情報の漏洩や流出といったセキュリティインシデントが懸念されるため、セキュアな通信環境の整備が不可欠です。また、デスクワークはオフィスチェアの性能が従業員の労働生産性に大きな影響を及ぼします。そのため、デバイスの貸与やVPN(Virtual Private Network)の整備、オフィスチェアの配送といった対策が必要です。
コミュニケーションの強化
社内コミュニケーションの希薄化は情報共有の遅滞や業務連携の鈍化、業績貢献度の不透明化など、業務にさまざまな悪影響を及ぼします。また、リモートワークの長期化と従業員同士のコミュニケーションが減少することで、メンタルに不調をきたす事例も少なくありません。したがって、Eメールよりも気軽にやりとりができるチャットツールの活用や、遠隔地から双方向コミュニケーションが図れるWeb会議システムの導入といった対策が必要です。また、従業員同士が気軽に相談できる企業文化や組織風土の醸成も求められます。
リモートワークに適したツールの活用
リモートワークに関するルールと勤務環境の整備、そしてコミュニケーションの強化を実現するためには、グループウェアやコラボレーションツールの戦略的な活用が不可欠です。たとえば、先述したチャットツールやWeb会議システムの導入は社内コミュニケーションの活性化に寄与し、業務連携の強化や情報共有の円滑化につながります。その他にも、勤怠管理システムは従業員の労務状況を可視化し、残業時間の上限管理や長時間労働を是正するために欠かせません。こうしたソリューションの活用によってデジタルワークプレイスを構築できれば、リモートワーク環境のみならず、組織全体における生産性の向上に貢献します。
まとめ
働き方改革や新型コロナウイルスなどの影響から、リモートワークを導入する企業が増加傾向にあるものの、生産性の低下を指摘する声も少なくありません。リモートワーク環境の生産性向上を目指す企業は、チャットツールやWeb会議システムなどを搭載する「Microsoft 365」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。