DXを目指す過程では、アプリケーションを内製化することも視野に入れる必要があります。その際に強力な味方になるのが、コードの知識がなくてもビジネスアプリケーションを開発できるPower Appsです。本記事では、Power Appsがさまざまな業界・企業でどのように活用されているのかを4つの事例とともに紹介します。
Power Appsができることとは?
Microsoft Power Appsとは、多様なビジネスアプリケーションを簡単に作成できるMicrosoft社のサービスです。Power Appsの大きな特長は、ユーザーがノーコード/ローコードでアプリケーションを設計できる点にあります。これによって、ITの専門家でなくてもモバイル端末やWebブラウザ上で動作するビジネスアプリケーションを作成可能です。開発はWebブラウザ上で完結するので、特別な開発環境を整える必要もありません。
さらに、Power Appsは既存のデータソースや多様なクラウドサービスと連携できるので、Office 365、Dynamics 365、Microsoft AzureのようなMicrosoft社製品はもちろん、SalesforceやOracleなど、他社のサービスとも容易に連携可能です。この柔軟性は、さまざまな業界やビジネスのニーズにあわせてアプリケーションをカスタマイズすることを可能にします。
Power Appsを活用した4つの事例集
Power Appsは、その柔軟性からさまざまな業界で活用されています。ここでは、異なるビジネスニーズに応えるためにPower Appsがどのように活用されているのか、4つの事例を紹介します。
事例1:ポータルサイトの構築
ある総合保険代理店は、Power Appsを活用して数多くのタスクを自動化することに成功しています。Power Appsの導入前、その代理店は住宅保険や自動車保険を複数社で比較して見積もりを顧客へ提示する際、自社独自のCRMシステムと比較サイトのデータを手作業で処理し、その結果を直接連絡していました。このプロセスは言うまでもなく、非常に労力と時間を要します。
そこで同社はPower Appsで複数の保険を容易に比較できるプラットフォームを開発するとともに、見積もり連絡をメールで顧客へ自動送信する仕組みをつくりました。具体的には、アプリケーションを介してデータ処理を自動化することで、顧客情報を基にした保険料の計算や、保険契約更新の2カ月前に提案メールを送付するシステムの構築です。
このシステムによって、保険契約者の50%以上が保険会社と直接やりとりする手間なしに、契約までのプロセスを完了できるようになりました。これにより、同社は業務効率化と顧客の利便性向上の両立を実現しています。
事例2:従業員の位置情報・スケジュール管理アプリの作成
フレックスタイム制やリモートワーク、あるいはフリーアドレスの導入に伴い、現代の企業は、従来と比べて従業員の活動を把握しにくくなっています。このような状況の中、ある大手小売企業は、Power Appsを利用して従業員の位置情報を共有できるアプリを開発しました。
このアプリケーションは、従業員が自らの位置情報を更新することで、リアルタイムでそのデータをシステムに反映します。この位置情報は上司や同僚と互いに共有できるのはもちろん、カレンダーなどにも自動で追加されます。
このように従業員の位置情報を可視化することは、コミュニケーションの改善や業務の透明性向上などに効果的です。コロナ禍においてはオフィスのキャパシティ管理にも活用され、安全なオフィス環境の維持に寄与しました。
事例3:業務効率化・DX推進アプリの作成
ヨーロッパのある国際空港では、スタッフがPower Appsで20近くにも及ぶアプリケーションを開発し、空港運営の業務効率化を実現しています。
たとえば、その空港はさまざまな国の旅行者が利用する都合上、スタッフはそれまで多言語に対応した分厚いカタログを持ち歩いて案内する必要がありました。そこでPower Appsを活用してカタログを電子化し、紙媒体を持ち歩く手間を省くことに成功しました。しかも特筆すべきことに、この電子化作業に要した期間はたった一週間です。
その他にも同空港は申請書を電子化することで、1万枚もの紙消費を削減し、データの手入力に要していた時間を288時間も短縮するなどの大幅な業務効率化も成功させています。このようにPower Appsは、内製化によって低コストかつ迅速に、多様なアプリケーションの開発を可能にします。
事例4:案件・顧客管理システムの構築
ある地方工務店はIT企業の支援を受け、DXに取り組んでいます。従来、その工務店は顧客や案件に関する情報管理に課題を抱えていましたが、Power Appsを利用してその課題を解決しました。
その工務店では、顧客からの問い合わせ情報を紙やExcelを使って管理し、見積もりなどは別システムで作成していました。この方法はデータ入力や書類作成の手間が非常にかかるだけでなく、情報共有にも問題を生じがちです。情報共有がうまく機能していないと、顧客から何か質問されたとしてもすぐに答えられないなど、顧客対応の品質にも悪影響が出ます。
そこで、Power Appsを用いてクラウドベースでデータを一元管理できる案件・顧客管理システムを構築しました。これによって、従業員は現場にいてもスマートフォンで必要な情報にアクセスできるようになり、情報共有の速度と正確性が飛躍的に向上しました。また、このシステムには見積登録や帳票作成などの機能も搭載したため、データ入力や書類作成の作業工数削減などにも寄与しています。
スノーピークビジネスソリューションズ社ではMicrosoft 365の導入・運用支援も
スノーピークビジネスソリューションズ社は、Microsoftの認定パートナーとして多くのサービス導入実績を持っており、Microsoft 365の導入・運用支援も行っています。また、他社と同様に自社でもPower Appsによる業務効率化を進めています。
スノーピークビジネスソリューションズ社の事例:サポート進捗管理アプリの作成
同社は社外からのサポート問い合わせ対応を適正に管理するために、Power Appsを用いて進捗管理アプリを作成しました。
このアプリに問い合わせ内容やその対応作業の進捗状況を入力することで、タスクの抜け漏れを防ぎ、チーム全体の進捗状況をリアルタイムで把握できます。また、このアプリはMicrosoft Teamsと連携しており、詳細なサポート進捗はTeams上でリアルタイムに管理することが可能です。
さらに、Power BIとの連携により、サポート件数・担当者・サポート進捗などの可視化・分析を実現します。
スノーピークビジネスソリューションズ社では、これらのデータを週一回の対応進捗ミーティングで活用し、単に情報管理や進捗管理を厳にするだけでなく、組織内のノウハウやスキルの共有も促進しています。
Power Appsの注意点
上記のようにPower Appsは手軽にさまざまなアプリケーションを開発できる便利なツールですが、その運用に当たってはいくつかの点に注意が必要です。
第一に重要なのは、Power Appsは主に組織内で使うビジネスアプリケーションの開発を想定していることです。Power Appsのアプリケーションは一般公開できないので、社外の顧客や一般ユーザーなどに広く使われることを想定したアプリケーション開発には適していません。
また、Power Appsはノーコード/ローコードでのアプリケーション開発が可能ですが、その反面、開発の自由度はそれほど高くないことにも注意が必要です。アプリケーションで複雑な動作などを実現したい場合には、やはり一定のプログラミングスキルが求められます。
まとめ
Power Appsは、ノーコード/ローコードでビジネスアプリケーションを作成できるサービスです。Power Appsを活用することで、企業はアプリケーション開発の内製化や、現場主導型のDXを促進できます。本記事で紹介した事例を参考に、Power Appsの導入を検討してみてはいかがでしょうか。