コロナ禍によって急速に普及したリモートワーク。十分な体制が整わないまま実施した企業の中には不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、日本企業の多くはこれをきっかけとしてビジネスそのものや業務プロセスを見直す必要があるかもしれません。
日本の労働生産性が世界的に見て低迷していることは有名です。そこには日本独自にビジネス習慣が関係していることも多く、この状態を継続してしまうと、世界のビジネスシーンに遅れを取ってしまうことは明白です。また、日本は少子高齢化によって労働人口が今後減少していくと予測されていることから、旧来のような人海戦術的なビジネスはだんだんと難しくなります。つまり、組織や個人の労働生産性を向上しない限り、生き残る道が閉ざされていくことになるのです。
リモートワークをきっかけとしてビジネスや業務プロセスを見直し、古い風習などに囚われず無駄を排除することができれば、労働生産性は飛躍することでしょう。では、リモートワーク導入において意識すべきことは何か?本記事では管理者の視点から、リモートワーク導入前に押さえておくべきポイントをご紹介します。
リモートワーク導入の第一歩
現状リモートワークを導入している企業の多くは体制が不十分です。つまり、本格的なリモートワーク導入には至っていないことになり、今後の体制確保が労働生産性を左右することになります。
では、リモートワーク導入の第一歩とは何か?それは「目的」と「成功の定義」を持つことです。「リモートワークとは遠隔での仕事環境を整えることで多様な働き方を提案し、仕事のパフォーマンスを向上するための施策」と当たり前のように考えている方も多いでしょう。しかしながら、これはあくまで一般論的に語られているものであり、本来は企業ごとに別々の目的があるはずです。
実は、明瞭な目的を持っていないがためにリモートワーク導入で思うような成果が得られない(=失敗)ケースが非常に多いのです。明瞭な目的を持つにはまず経営上・業務上の課題を整理する必要があります。その上で、「リモートワークでどう課題をクリアするか?」を議論し、導入の目的をハッキリとさせていきます。
それと同時に持たなければならないのが「成功の定義」です。つまり、「リモートワーク導入は何をもって成功とするのか?」を検討します。成功の定義がなければリモートワーク導入後に、それが正解なのか失敗なのかが判断できなくなり、ズルズルと惰性的にリモートワークを実施する危険性すらあります。
また、リモートワークに投じる予算を検討する際にも重要です。リモートワークを成功させるために何が必要なのかを明瞭にすることで、具体的な予算が検討できます。成功の定義を持たないとコスト面ばかり気にしてしまい、結果的に実態に則さないリモートワークになってしまうケースが多々あるのです。
リモートワーク導入最初のポイントに関しては、経営者や経営層等がリーダーシップを発揮し、かつ関係者を巻き込みながら目的と成功の定義を決定していきましょう。
人事評価・労務管理はどう変化させていくのか?
リモートワーク導入時に管理者の頭を悩ませるのが「人事評価・労務管理の体制」についてです。オフィス内で仕事をする環境では上司が部下の勤務態度や業績等を直接確認しながら人事評価を下すことができたので、そう難しい話ではありません。しかし、リモートワークでは従業員の仕事ぶりを直接的に確認できないことから、人事評価が難しいと感じる管理者が多いようです。
ただし、リモートワーク実践時に人事評価においても難しく考える必要はありません。問題は「成果主義へ切り替える勇気があるか?」です。日本企業の多くのプロセス主義によって人事評価が下されます。というよりも、プロセス主義に依存し過ぎています。「残業するほど評価される」という風習はプロセス主義よるものと言っても良いでしょう。
労働生産性の高い国々に目を向けると、成果主義を採用している企業が多いのが特徴です。例えば米国企業の営業担当者は専門職という位置づけにあり、給与の大半をインセンティブが占めています。つまり、個々人が労働生産性を意識しなければ十分な給与が得られないため、組織的に生産性向上に努める仕組みが出来上がっています。
日本企業でも労働生産性を高めるためには、単に新しいツールを導入するのではなくプロセス主義から成果主義へ、人事評価を切り替える必要があるでしょう。「リモートワークはそのきっかけ」と考えれば既存の人事評価を引き継ぐことはないので、人事評価がずっと楽になるはずです。
労務管理に関しても、実は様々な対策が立てられます。まず「労働時間の管理」については上司の現認が行えないことから難しいと考えられがちですが、勤怠管理ツールによる打刻やチャットツール・ウェブ会議による就労時間申告を徹底すればそう難しい話ではありません。始業時刻と終業時刻を組織全体で合わせることで労働時間も管理しやすくなります。
多くの企業によって問題視されている「中抜け時間」については、所定の休憩時間以外で仕事を抜けた分を繰り下げして就業時刻を遅らせる方法や、休憩時間ではなく「時間単位の年次有給休暇」として扱うことも可能になります。また、労務管理が徹底できないことでサボる従業員が出てくるのではないか?という心配もあるでしょう。しかし、極論すれば「リモートワークでサボる従業員はオフィス内でもサボっている」です。オフィス内だからこそこそとサボっているか、リモートワークだから堂々とサボっているかの違いしかありません。
もちろん、企業としてはすべての従業員が等しく仕事に対するモチベーションを維持し、精力的に仕事に取り組んでくれるのが理想です。残念ながらあくまで理想論であり、一定数はサボったりする従業員が存在します。それを認識し、労務管理のあり方について考えれば難しいことは無い、ということに気付きます。
運用しながらPDCAを回して改善を繰り返す
日本企業と海外企業の特徴は、構想から実現にかかるまでの時間です。日本企業ではリモートワークを構想した段階から人事評価や労務管理などの外堀を埋めていき、計画を完璧にしてから実行に移ります。一方、海外企業の多くは計画が60~70%ほど固まった段階で実行にうつします。これは「最初から完璧な計画は存在しない」という考えが根底にあり、実に合理的です。
日本企業が海外企業と比較してリモートワーク実施率が低いのは、こうした特有の考え方も関係していることでしょう。リモートワーク導入において決定すべき事項はたくさんあります。しかし、その全てを決定しなければリモートワークが導入できないわけではありません。まずは優先事項を決めて、優先度の高いものから計画していきます。
そうして60~70%ほど固まった段階で実行に移し、あとは運用しながらPDCAを回して改善を繰り返していくことが、最終的にはよし素早く完璧に近いリモートワークを導入できます。ですので、管理者として「運用しながら改善する」という勇気を持つことも大切です。
いかがでしょうか?本記事でご紹介したポイントをぜひ意識してみてください。