手作業で行っていた事務業務を自動化する手段として、RPAに注目が集まっています。効率化できる業務は幅広く、業種・企業規模を問わず利用が広がっています。しかし、導入前に自社で運用すべきかどうか悩まれる方は少なくないでしょう。そこで本記事では、導入の検討に役立つ情報として、RPAの導入メリットや活用事例をご紹介します。
RPAとは
RPA(Robotic Process Automation)とは、それまで手作業で行っていたコンピューター操作を伴う作業を、人間の代わりに実行するプログラムを指します。「ノーコード」や「ローコード」と呼ばれる、専門のコーディングスキルを持たなくても設定できるツールを使用するのが特徴です。
近年、ビジネスでの活用が飛躍的に増えたAI(Artificial Intelligence)は、人間のような知能を人工的に作り出す技術です。どちらも人間の代替をするという点では共通点がありますが、RPAとAIは大きく異なります。
RPAは、人間が設定した手順に沿って処理を行う技術であり、作業の代替を主な目的とします。一方、AIは事前学習により人間のように認識・分類・予測を行う技術で、主な判断の代替が目的です。近年ではRPAにAI機能を組み込むことで、より高度な自動化を実現できるようになっています。
RPAを導入して業務効率化するメリット
業務にRPAを導入して自動化することで、さまざまなメリットが期待できます。ここでは、RPAを導入する主なメリットを4つご紹介します。
単純作業を減らせる
RPAは、「エクセルファイルの2行目から最終行までを順番にコピーして、販売管理システムに項目ごとに転記する」といった定型的な作業を自動化できます。誰が行っても同じ結果になるような単純作業をRPAに任せることで、人間が単純作業を行う量を減らせます。
東京都が庁内5局の29業務を対象に実施した実証実験によると、うち25業務にて年間合計で約438時間の縮減効果が見込まれると報告されました。RPAが生み出した時間を、より付加価値の高い業務に割り当てることで、業務効率化と生産性向上が期待できます。
ミスを防止できる
人間の代わりにRPAが作業することで、ヒューマンエラーの防止効果も期待できます。人間が単調で定型的な作業を長時間続けると、疲労や集中力の低下などにより、どうしても作業ミスが発生しやすくなります。RPAはルールどおりに処理を行うため、転記ミスや入力忘れを防げます。
ただ、RPAは決められた処理しか実行しないため、処理条件が変わるとエラーで停止したり、誤作動を起こしたりする可能性があります。ミスを起こさないためには、ロボットが正しく動作しているか定期的に確認することが重要です。
人件費の削減につながる
RPAは24時間365日作業を行えるため、休むことなく働く労働力として期待できます。また、残業代や休日出勤手当も不要なうえ、人手が必要な時期だけ作業量を増やすといった、繁閑への対応も容易です。そのため、手作業と比べて投入する人的リソースを大きく抑えられ、結果的に人件費の削減につながります。
サービスの向上につながる
RPAの導入は、顧客に対するサービスの品質向上にも貢献します。たとえば、ある大手航空会社ではRPAとチャットボットの連携により、複数の旅行商品の価格をカレンダー上で表示し、最安値を比較できるサービスを提供しています。手作業では時間がかかる処理をRPAが担うことで、顧客の利便性を向上できます。
また窓口業務などでも、RPAを活用することでバックエンド業務の効率化を図り、担当者が接客対応に注力できるようにした例もあります。自動化できる部分はRPAで効率化し、人間はより付加価値が高い業務を行うことで、顧客の満足度向上が期待できます。
RPA導入の際に懸念すべきリスク
このように、RPAには多くのメリットがありますが、導入する際は以下のようなリスクにも留意する必要があります。
システム障害のリスク
ほかのシステムと同様、RPAにもシステム障害リスクがあります。さらに、RPAは想定外の事態に弱く、設定外のことが起きると動作が停止してしまう点にも要注意です。たとえば、データ取得先のWebサイトのレイアウトが変更されてしまうと、RPA側が対応できずに停止することがあります。それ以外にも、ブラウザのバージョンアップなどによっても停止の可能性があります。
このような突然の動作停止は、事前に防ぐことが難しいため、停止した際の対応を事前に決めておく、メンテナンスをきちんと行うなどの運用ルールを決めておくことが望まれます。
導入コストの問題
RPAツールのコストは、選ぶツールによって大きく変わります。なかには無料で利用できるツールもありますが、一般的には初期費用や保守・運用費用、サポート費用などが必要で、社内に浸透させるための教育費用もかかります。オンプレミスの場合は、さらにサーバー構築・運用費用も発生します。
自社でRPAの導入を検討する際には、ツールの費用対効果が見込めるかどうかを見極めることが重要です。
業務のブラックボックス化への懸念
社内でRPAの運用体制を整えておかないと、ロボットを作成した当人以外、動作内容がわからなくなってしまうリスクがあります。
ロボットの管理・運用が属人化してしまうと、組織で把握できていない野良ロボットの発生リスクが高まります。また、担当者の引継ぎの際にうまくいかないと、業務がブラックボックス化してしまう事態にもなりかねません。ブラックボックス化してしまうと、平時は問題ありませんが、トラブルが発生した際にエラーの原因がわからなかったり、適切な対応が取れなくなったりする可能性があります。
このような事態を防ぐためには、RPAの運用マニュアルを用意するほか、組織でロボットを一元管理する、保守体制を整えるなどの対策が有効です。
RPA導入による業務効率化の例
最後に、RPA導入による業務効率化の例を3つご紹介します。ぜひ、自社に導入する際の参考にしてください。
経理における定型業務を簡素化
会計システムへのデータ入力や仕分け作業、各種帳票の発行など、経理部門は定型的な業務が数多くあります。これらは毎月毎年と繰り返し発生するのも特徴で、RPAによる効率化が行いやすい業務です。
各部門から提出された交通費申請のエクセルファイルから経路の金額をチェックし、問題なければ会計システムへ転記するといった作業も、RPAで自動化すれば大幅な時間削減が期待できます。月末の繁忙時期に残業が不可欠だった企業が、RPA導入によって残業がなくなったという例もあります。
営業におけるシステムへの入力を簡素化
営業部門は、顧客訪問後の見積もり作成や日報、営業資料の準備など多くの事務作業があります。RPAを使い、営業情報をシステムに入力するなどの作業を自動化することで、担当者は本来的な業務である営業活動に注力できるようになります。
さらに、販売管理システムからダウンロードした金額をエクセルに転記して見積書を作成する、一定期間内に購入金額が多い優良顧客をリストアップして営業資料としてまとめるなどの作業も自動化可能です。
販売におけるデータ不備の確認を簡素化
販売管理業務でもRPAによる業務効率化が期待できます。店舗では毎日、閉店後作業として1日の売上と、レジ内の現金+伝票上の売上合計が一致しているかチェックする、レジ締めという業務があります。
ある小売チェーンでは、店舗担当者と本部担当者がそれぞれ手作業で行っていた売上額のチェックをRPAに任せることで、作業時間の大幅な削減とスタッフの負担軽減を実現しました。店舗担当者は確認が不要になり、レジ締め業務が簡素化しただけでなく、本部担当者もRPAから通知が届いた不備データのみをチェックすればよくなるなど、効率化が実現しました。
まとめ
人手不足が社会的な課題となる昨今、安定的な業務の遂行を維持するためには、業務の省人化・自動化が不可欠です。特に導入ハードルが比較的低いRPAは、DX実現の手段としても期待されています。自社でRPAを導入する際は、費用対効果や導入すべき業務など、時間をかけてしっかり検討することがポイントです。