近年、テクノロジーの発展とともに市場の変化が加速しており、より高度な経営管理が求められています。不確実性が増す現代市場において、大きな注目を集めているのが「GRC」です。本記事では、GRCの概要や注目を集める背景について解説するとともに、その実現を支援するツールやサービスをご紹介します。
GRCおよびGRCツールとは?
GRCとは、「Governance(ガバナンス)」と「Risk(リスク)」、および「Compliance(コンプライアンス)」の頭文字をとった略称で、これら3つの要素を統合的に管理することで経営基盤の最適化を目指す経営管理手法です。グローバリゼーションの進展や経営統合の積極化、デジタル化の加速といった社会的背景と相まって、企業を取り巻くリスクは複雑化の一途を辿っています。こうした不確実性が増す現代市場のなかで企業が目指すべき指針となるのがGRCです。
「Governance(ガバナンス)」は「支配」や「統治」といった意味合いをもつ概念であり、経営管理の領域では企業自身によるルールの遵守や内部統制の仕組みを指します。組織内部による不正や不祥事、あるいは経営陣による企業の私物化といった経営リスクを最小化するためには、健全な組織体制を構築するルールの策定と、それを遵守するガバナンスの強化が不可欠といえるでしょう。
「Risk(リスク)」は、事業活動において起こり得るリスクを多角的に分析・評価し、危機発生と損失の最小化を目指す経営管理手法を意味します。企業経営や事業投資には製品のリコールや生産施設の損壊、セキュリティインシデント、売掛債権の回収不能、為替変動リスクなど、さまざまな危険要因が内在しています。このような不確実性の最小化を目指す仕組みや施策が、GRCにおける「Risk(リスク)」です。
「Compliance(コンプライアンス)」は、ガバナンスの基本的な原理のひとつであり、一般的には「法令遵守」と訳されます。経営管理の領域では法令や社会倫理、社会規範、社内規定、就業規則といったルールを遵守し、公正かつ公平に業務に従事することを意味する概念です。近年は企業の不祥事やハラスメントが話題になる機会が多く、さまざまな分野でコンプライアンスの重要性が高まっています。
このガバナンスとリスク、そしてコンプライアンスという3つの要素を統合的に管理し、組織の全体最適を目指すことがGRCの本質的な目的です。そして、このGRCの実現を総合的に支援するソリューションを「GRCツール」と呼びます。近年、GRCの注目度が高まっていることもあり、MicrosoftやSAP、IBMなどの世界的な大企業がGRCツールの設計・開発に取り組んでいます。
GRCが注目を集める背景
現在、日本の総人口は2008年の1億2,808万人(※)を頂点として下降し続けており、このままでは国際競争力の低下、経済規模の縮小化、医療や介護費の増大など、さまざまな社会問題が深刻化すると予測されます。このような社会的背景も相まって、世界経済における日本市場の相対的な位置付けは縮小傾向にあり、新たなマーケットを開拓すべく海外市場に販路を拡大する企業も少なくありません。
海外に現地法人を設立する場合、言語や通貨、法律が異なるのはもちろん、宗教観や倫理観などの文化も大きく異なるため、さまざまなリスクが顕在化する可能性を秘めています。また、健全的かつ生産的な経営基盤を構築するという課題は、日本というひとつの国でさえ決して容易ではありません。国際市場へ進出する企業は、こうした課題をグローバルレベルで解決する必要があるため、GRCに基づくリスク管理が不可欠となるのです。
また、激化する市場競争を生き抜く戦略のひとつとして、国内ではM&Aを選択する企業が増加する傾向にあります。M&Aによる統合と再編を成功させるためには、経営指針や社内ルール、データ管理の規定、セキュリティポリシーの策定といった仕組みの再整備と、それを遵守する内部統制が欠かせません。こうしたルールや仕組みを欠いては、組織の統合や再編を推進するのは困難であり、セキュリティリスクの増大や業務効率の大幅な低下を招く要因となるでしょう。
その他に、年々厳しさを増す法規制もGRCが注目を集める大きな理由のひとつです。近年、粉飾決算や不適切会計、過重労働や情報漏洩インシデントといった企業の不祥事が相次いでおり、さまざまな分野で法規制が強化されています。J-SOX法や働き方改革関連法などの施行に伴い、企業では労働体制の抜本的な見直しが求められており、ガバナンスの強化やコンプライアンスの浸透が欠かせない施策となりつつあるのです。
GRCツールの基本機能
GRCは透明性の高い健全な経営基盤を構築する経営管理手法のフレームワークであり、その実現にはGRCツールの戦略的活用が望まれます。一般的に表計算ソフトを用いて統制自己評価を実施する企業が多い傾向にありますが、連結評価の際には手作業で集計する必要があるため、非常に多くの工数を要します。GRCツールは「内部統制」を管理する機能が搭載されているため、こうした作業工数の大幅な削減が可能です。
また、GRCツールは個別監査計画や証跡管理、要因管理や品質管理などの「内部監査」を支援する機能や、遵守すべきルールやポリシーを一元管理する「コンプライアンス管理」などの機能も有しています。こうしたガバナンスやコンプライアンスに関する情報を統合的に管理することで、ビジネスリスクをダッシュボードで可視化できるため、リスクやその兆候に対して的確に対処できます。
GRCツールを導入するメリット
GRCツールの導入によって得られる大きなメリットのひとつが「情報の一元管理」です。ガバナンスとコンプライアンスに関する情報を一元管理することで、社内に内在しているビジネスリスクを俯瞰的な視点から正しく評価できます。内在するリスクを的確にアセスメントできれば、不確実性に備えた経営戦略の立案や意思決定が可能となり、市場や環境の変化に対して柔軟に対応できるという利点があります。
また、社内規定や就業規則の監視・評価といった業務プロセスの省人化に寄与するため、組織全体における業務効率化と労働生産性の向上につながる点も、GRCツールを導入する大きなメリットです。さらに、アクセス権限や職務分掌規定などを最適化する機能も備えており、セキュリティ体制の強化に貢献するとともに情報資産の安全性を確保できます。
GRC対応に役立つツールやサービス
Microsoft 365 Defender
Microsoft 365 Defenderは、Microsoft 365のすべてのサービスにわたって、さまざまな脅威や攻撃から保護するセキュリティソリューションです。IDやエンドポイント、アプリケーション、メール、ドキュメントなどをネイティブに調整し、高度な攻撃に対する保護を提供します。
Microsoft 365 コンプライアンスセンター
Microsoft 365には、監査ログ機能やコンプライアンス管理機能が標準搭載されており、Microsoft 365 コンプライアンスセンターという管理画面で確認できます。コンプライアンスに関する設定項目が集約されているため、GRCの領域を全社横断的に支援します。
Azure Policy
Azure Policyは、Microsoft Azure上のリソースを特定のルールに準拠するよう一元管理するサービスです。ポリシーの作成や割り当て、ルールの適用といった機能を備えており、設定されたポリシーに準拠しないアクションを制御します。
まとめ
GRCはガバナンス・リスク・コンプライアンスの3要素を統合的に管理し、経営基盤の最適化を目指す経営管理手法です。事業の透明性を確保するために欠かせない概念であり、その実現にはGRCツールの活用が求められます。GRCの最適化を目指す企業は、Microsoftのソリューションを導入してみてはいかがでしょうか。