現代はAIやIoTなどの先進的なデジタル技術が加速度的に進歩・発展しており、第四次産業革命の実現が現実味を帯びつつあります。この第四次産業革命の実現を支える技術のひとつとして注目を集めているのがロボットです。本記事ではロボット産業の市場規模や、ロボティクスが人々の暮らしに与える影響について解説します。
ロボットの市場規模は?
近年、少子高齢化に伴う労働力不足や就業者の高齢化に加え、ソーシャルディスタンスやリモートワークの需要増大を背景として急拡大しているのがロボット市場です。総務省の「平成27年版情報通信白書」に掲載されているデータによると、ロボット産業の市場規模は2025年に5.3兆円に成長し、2035年には9.7兆円にまで拡大すると予測されています。
ロボット産業は大きく分けると、「産業用ロボット」と「サービスロボット」という2つの市場に分類されます。産業用ロボットはスマートファクトリーの構築に欠かせないソリューションであり、第四次産業革命の実現に向けて世界中の製造分野で利用されている技術です。サービスロボットは商業施設やサービス業などの労働力不足を解消しつつ、顧客の利便性を高めるソリューションとして導入が加速しています。Fortune Business Insightsによる世界のロボット産業市場に関するレポートでは、2029年までに産業用ロボットの市場規模が356億8,000万米ドル、サービスロボットの市場規模は573億5,000万ドルに成長すると予測されています。
ロボットが未来の生活に与える影響5選
産業用ロボットは第四次産業革命の実現を支える技術として、製造分野で広く普及しています。他方、サービスロボットは百貨店や飲食店、医療現場、オフィスビル、エンターテインメント施設、さらには一般家庭でも利用されつつある技術です。こうしたロボットの普及は、人々の未来の生活において以下のような変革をもたらすと期待されています。
ロボットが人間の代わりとして働くように
厚生労働省の「平成27年版厚生労働白書」によると、日本の総人口は2008年の1億2,808万人を頂点に下降し続けており、高齢化率の上昇と相まってさまざまな産業で人材不足と労働者の高齢化が深刻化しています。現状のまま生産年齢人口の減少が加速すると、労働環境の悪化や国際競争力の低下が懸念されます。こうした社会問題を解消する一助となるのがロボットによる労働の代替です。たとえば製造現場では産業用ロボットによる機器のメンテナンスやピッキング作業の自動化が進んでおり、大手外食チェーンでは配膳や下げ膳を自動化するサービスロボットが普及しつつあります。ロボットが人間の代わりに働くようになれば、人手不足や後継者不足といった課題を解消しながら生産性の向上が期待できます。
人間の仕事の効率が上がる
ロボティクスの進歩・発展によって得られるメリットのひとつは、生産工程や業務プロセスの支援による労働生産性の向上です。第四次産業革命が目指すのはAIやIoT、ビッグデータ、ロボティクスなどの活用による労働や知的活動のオートメーション化ですが、現状ではその実現には至っていません。しかし産業用ロボットが人間の目視とは比較にならない精度で設備機器の異常を検知したり、高度な外科手術をロボットがサポートしたりと、ロボティクスはさまざまな業務領域の効率化を支援します。たとえば大手通販サイトでは広大な物流倉庫に自律走行型の産業用ロボットを導入し、ピッキング作業の省人化によって人間の業務負荷を大幅に軽減しつつ、物流業務全体における安全性と生産性の向上を実現しています。
介護の現場にもロボットが入るように
少子高齢化が加速する現代日本で期待されているのが、サービスロボットの活用による介護支援です。総務省が2023年に公表した「統計からみた我が国の高齢者」によると、日本の高齢化率は29.1%と世界で最も高い水準であり、我が国は超高齢化社会へと突入してきています。そして生産年齢人口の減少と相まって介護業界では人手不足が深刻化しており、その課題解消に欠かせない技術として注目されているのが介護ロボットです。代表的な介護ロボットとしては介護者を遠隔で見守る「見守りロボット」、介護作業の負担を軽減する「パワーアシストスーツ」、浴室や浴槽への出入りをサポートする「入浴支援ロボット」などが挙げられます。介護の現場にサービスロボットが導入されれば、慢性的な人材不足を解消しつつ高齢化社会による問題を解決する一助となるでしょう。
ペットやコミュニケーション相手としてのロボットが普及
ロボティクスの進化によって訪れる未来の形として、コミュニケーション相手となるサービスロボットの普及が挙げられます。その代表例といえるのが動物型のペットロボットや、人間型のヒューマノイドロボットなどのエンタテインメントロボットです。エンタテインメントロボットは業務の効率化や生産性の向上といった利便性ではなく、会話や交流などのコミュニケーションを目的とします。日本は生涯未婚率の上昇とともに単身世帯が増加していく傾向にあり、孤独感を癒すソリューションとしてペットロボットやヒューマノイドロボットが今後さらに普及していくと予測されます。またロボットとのこうしたコミュニケーションを通じて生活習慣や認知機能の変化を発見できれば、人々の健康増進につなげることも可能です。エンタテインメントロボットは子どもの遊び相手になったり、お年寄りの話し相手になったりと、育児や介護の分野でも有効活用が期待されています。
災害時の捜索・救助活動もロボットに
近年、災害現場での捜索や救助活動、過酷な環境での調査、高所での危険作業などがロボットに置き換わりつつあります。たとえば建設業や林業ではドローン技術を活用した測量や資材の運搬、樹木の伐採、森林調査などが普及してきており、同様の技術が災害調査や人命救助、支援物資の運搬といった分野でも応用されています。実際に東日本大震災の発生時は福島原発の調査にロボットが送り込まれ、放射線量の正確な測定や燃料プール付近の写真撮影に成功するなどの成果を上げました。人間が立ち入れない危険な場所でも、ロボットであれば遠隔操作での捜索や救助活動、あるいは自動制御による物資の運搬などが可能です。リスクを負うことなく危険度の高い任務を遂行できるため、捜索・救助活動といった領域のロボット化が進んでいくと予測されます。
生活のすべてをロボットがサポートする日も遠くない?
現代のデジタル技術は加速度的に進化しており、製造分野やサービス業などの事業領域だけでなく、一般消費者の暮らしにおいてもロボットが欠かせない存在となりつつあります。とくにサービスロボットは家事の効率化や移動の自動化、健康管理の最適化、高齢者の自立支援、家庭内での教育支援といった領域での変革が期待されている技術です。将来的には自宅内でサービスロボットを介して医療サービスを受ける、あるいは介護施設に入居することなく住み慣れた環境でロボットを活用して生活するといったことが可能になると予測されます。ロボットの活用によって日常的な作業が完全に自動化され、人々はより多くの自由な時間を謳歌できる社会が到来する可能性も十分にあり得るでしょう。
まとめ
ロボット産業は、2035年には約10兆円の市場規模に成長すると予測されています。ロボットは労働や介護、災害救助などを代替するだけでなく、コミュニケーション相手として欠かせない存在になる可能性を秘めています。ロボティクスの進歩・発展により、ロボットが日常作業や暮らしのすべてをサポートする日も遠くないかもしれません。