今、環境問題に対応する取り組みとして「ゼロエミッション」が注目を浴びています。そもそもゼロエミッションとは何でしょうか。本記事では、概要から取り組みが強化されるようになった背景、ゼロエミッションを実現するために期待される技術、取り組み事例についてくわしくご紹介します。
ゼロエミッションについての概要
昨今、環境問題で耳にする「ゼロエミッション」は「zero」+「emission」からなる言葉で、「何も排出しない」という意味を持ちます。これは1994年、国連大学が初めて提唱した概念です。ある産業において排出された廃棄物を別の産業が再利用することで、最終的に埋め立て処分する廃棄物の量をゼロに近づけることと定義付けられています。
ゼロエミッションが注目される背景
世界でゼロエミッションが注目されるようになったのはどのような背景があったのでしょうか。
1つには、大量に生産し消費する社会になり、廃棄物が増え続けた結果、ゴミ処理問題が顕在化したことが挙げられます。企業の事業活動で排出されるCO2が大気汚染や気候変動を起こす一因となっていることも背景の1つです。
環境省が発表している廃棄物量の推移(2019年度実績)を見ると、一般廃棄物についてはごみ総排出量、1人1日当たりのごみ排出量ともに減少傾向にあります。しかし産業廃棄物については、長い間横ばい状態で、依然、早急な対策を必要とする状態です。
また全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)によると、日本において、地球温暖化の原因とされる温室効果ガス(CO2)の総排出量は年々減少しているものの、2019年度における産業分野での排出量は全体の35%を占めており、いかに減少させるかという課題に直面しています。
ゼロエミッションに向けた取り組み
2021年11月、岸田総理は、火力発電の燃料を石炭ではなく、CO2を排出しない水素やアンモニアに切り替えると宣言したことが話題となりました。ここからは、現在、ゼロエミッションに向けて企業や自治体が行っている取り組みについて具体例をご紹介します。
エコタウン
ゼロエミッション構想から生まれた「エコタウン」と呼ばれる日本発のプロジェクトがあります。経済成長で廃棄物問題が顕在化する中、資源循環を通じて、産業振興や地域活性化を進めようとする動きが高まり、1997年度からさまざまな地域が承認を受けています。
エコタウン構想の源流として、1960年代にデンマークのカルンボーの例が挙げられます。カルンボーでは廃棄物や水、エネルギーを相互に利用する施策が実施されました。その結果、環境負荷や環境対策にかかるコストの軽減が図れ、付加価値の高い商品の開発、販売によって産業振興につながったともいわれています。
承認された地域は日本全国26地域にのぼり、産業構造や廃棄物発生処理の特性やエコタウン事業の立地形態などによって分けられています。エコタウンの中でも、廃棄物の発生量が多い「供給優位」の地域には東京都、大阪府、愛知県などが、廃棄物の処理施設が多い「需要優位」の地域として、秋田県、富山市、大牟田市などがあります。両方とも多い「需給充実」の地域には、北九州市、川崎市、千葉県、兵庫県などが名を連ねます。
ゼロエミ・チャレンジ
「ゼロエミ・チャレンジ」は、経済産業省が旗振り役となり、経団連やNEDOと連携しながら脱炭素社会に向け革新的に取り組む企業を「ゼロエミ・チャレンジ企業」として、2020年からリスト化するようになった取り組みです。リスト化にあたっては技術開発や技術実証、社会実装などの開発フェーズが設定され、優良なプロジェクトを公表し表彰することで、投資家への情報提供にも寄与します。
また翌年には第2弾としてリストを更新し、「TCFDサミット2021」の場で、約600社にもわたるゼロエミ・チャレンジ企業が発表されました。
ゼロエミッション東京戦略
東京都は、平均気温上昇を1.5℃に抑え、2050年までに世界のCO2排出量をゼロにする目標を掲げ「ゼロエミッション東京戦略」を策定、公表しました。ゼロエミッション東京戦略には、都の特性をふまえ、
- エネルギーセクター
- 都市インフラセクター(建築物編)
- 都市インフラセクター(運輸編)
- 資源・産業セクター
- 気候変動適応セクター
- 共感と協働
といった6つの分野において取り組むべき14施策が体系化されました。また、2050年の目標に向け、具体的な取り組み内容がロードマップとして示されています。
さらに、都はマイルストーンとして、2030年を基準に、温室効果ガス排出量を半減する「カーボンハーフ」も表明しています。たとえば都内乗用車新車販売を100%非ガソリン化とすることなど、重点的に実施すべき5つの目標が立てられました。それに伴い、2030年に向けた社会変革のビジョン「カーボンハーフスタイル」を提起しています。
ゼロエミッションのために注目される技術
では、ゼロエミッションを実現するために、どのような技術が注目されているのかについて主な2つを解説します。
CO2削減のためのCCUS
「CCUS」とは、以下の2つを総称した技術です。
- 「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」
排出されたCO2を分解し回収した後、地中深くに圧入し、固定化、貯留する - 「二酸化炭素回収・有効利用(CCU)」
回収したCO2を原料に、化成品や燃料の製造ラインへ再利用する
ただし、CO2を回収してから輸送や再利用、貯留するには多くのエネルギーが必要となる上、設備導入にもコストがかかります。また各プロセスにおいて、CO2が漏えいするリスクへの危惧や、いつまで貯留できるのかといった実現性を疑問視する意見もあります。
バイオマスエネルギーを活用したBECCS
前述したCCSと、バイオマスエネルギー(動植物などから生まれた生物資源)とを結合させた技術が、「BECCS」として開発、注目されています。これはバイオマスエネルギーを燃焼して発電した施設から出るCO2を地中に貯留させる技術です。バイオマスのライフサイクル全体ではCO2の量は変わらないため、CO2排出量としてカウントされません。
今後、BECCSの仕組みが実用化されれば、パリ協定で定められた、21世紀後半にはCO2排出量を実質ゼロにする目標も達成できるようになるでしょう。
日本企業のゼロエミッションに対する取り組み具体例
最後に、日本企業におけるゼロエミッションに対する取り組み事例について、2つご紹介します。
ハウスメーカーの事例
あるハウスメーカーでは、2005年7月に新築施工現場から発生する廃棄物のゼロエミッション化を、当初予定したよりも半年早く実現しました。これには業界初の広域認定制度を活用した自社オリジナルシステムの功績が大きいとされます。中間事業者を介さず、自社が施工現場で徹底的に分別を行いリサイクルルートに乗せることで無駄なコストの発生を抑え、スピーディーなゼロエミッションの実現につながった事例です。
飲料メーカーの事例
ある飲料メーカーでは、廃棄物ガバナンス体制の強化に積極的に取り組んでいます。定期的に委託先の監査を実施し、適切に投棄されているか、また資源循環に向け取り組めているかを厳しくチェックします。その結果、グループ会社全体で2020年の廃棄物発生量に対し、最終埋め立て処分量は目標とする0.1%以下となりました。ゼロエミッションを継続達成できたことが高く評価されています。
まとめ
ゼロエミッションは、廃棄物を再利用化して最終的な埋め立て処分量をゼロに近づける取り組みです。ゼロエミッションの取り組みを通じ、新規事業の創出や既存事業の改善を進めることで、市場での企業価値を高められます。ご紹介した事例も参考に、自社での取り組みについてぜひご検討ください。