今、小売業界の未来を変えるべく、いたる所で多種多様な取り組みがされています。経済産業省ではスマートストア実現に向けて「ダイナックプライシング」や「電子レシート」などの実証実験を重ねていますし、民間企業においてもIoTやAIを駆使したスマートストアに関する実証実験が行われています。
スマートストアの将来像にはIoTやAI、あるいはComputer Vision(カメラ)で完全制御された無人型店舗があります。それらの技術のうち既に実用段階に入ったものも多く、本記事ではその中から「ウォークスルー決済」について解説します。
「ウォークスルー決済」とは?
小売店舗では本来、レジに駐在しているスタッフが商品のバーコードを1つ1つ読み取り、合計価格を提示した現金ないしクレジットカードなどのキャッシュレスで決済を行います。最近ではセルフ型レジもよく見かけるようになり、決済の半自動化が進みました。一方、「ウォークスルー決済」とはそれ以上の自動化を可能にするものです。要するに「レジを通り過ぎる(ウォークスルー)だけ」で決済が完了するシステムを指します。
「ウォークスルー決済」が話題になった理由は、2018年10月に幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2018」です。同イベントはIoT・CPS(Cyber Physical System)を活用し、あらゆる産業・業種による共創をもとにしたビジネス創出と、技術および情報が一堂に会し、経済発展と社会的課題の解決を両立する超スマート社会(Sosiety5.0)の実現を目指しています。
この時注目されたのが、ローソンが出展した「ウォークスルー決済」対応のコンビニ店舗です。商品にはRFID(電子タグ)が付与してあり、商品についているRFIDを読み取ることでレジ打ちや金銭授受をせずとも会計が完了します。決済はスマートフォンに表示したQRコードを使用します。
仕組みは案外シンプルなもので、消費者は買いたいものをピックアップしてバーコードを読み取り、最後にゲート前に設置されているリーダーにQRコードをかざすだけです。あとは商品を入れた袋をゲートに通過させると、決済が完了してアプリに電子レシートが送られます。
ローソンによると「ウォークスルー決済」対応コンビニは無人化を目指しているのではなく、レジ待ち時間を限りなく少なくして、スタッフを接客など他の業務に専念させることを重視しているとのことです。
また、2020年2月18日には同社はさらに一歩進んだ取り組み「レジなし実験店「ローソン富士通新川崎TSレジレス店」実験開始」のアナウンスを行なっています。この“レジなし店”の実証実験は、2月26日から5月25日まで「富士通新川崎TS レジレス店」をオープンして実施されます。店から商品を持ち出すだけで自動決済できる実験店舗ということで注目の高い取り組みになっています。ただし、この実験期間中は、レジを通らずに買い物ができる対象は富士通 新川崎テクノロジースクエアに勤務する従業員に限定されており、一般客が利用できる新たな店舗に関しては2020年夏のオープンを目指しているそうです。
実用化が始まった「ウォークスルー決済」
「CEATEC JAPAN 2018」で出展された「ウォークスルー決済」対応コンビニはまだ実用段階ではあります。しかし現在になり、「ウォークスルー決済」はあらゆる店舗において実用可能な技術になっています。それを実現したのが、伊藤忠テクノソリューションズの「CTC DX Solution for Retail」です。
「CTC DX Solution for Retail」はデジタルトランスフォーメーション時代における、小売業特有の問題・課題を解決するためにスマートストア実現に向けて機能を多数提供しています。そのうちの1つが「ウォークスルー決済」というわけです。
「CTC DX Solution for Retail」の「ウォークスルー決済」ではまず、消費者が入店時に個人情報等が管理されているQRコードをリーダーにかざし、店舗にチェックインします。商品棚にAIカメラと重量センサーが取り付けられ、消費者がどの商品を手に取ったかが判別できるようになります。さらに、店舗出口に設置されたTOF(Time of Flight)センサーが消費者を識別して、手に取った商品を自動的に決済します。
「CEATEC JAPAN 2018」にてローソンが出展した「ウォークスルー決済」対応コンビニでは、消費者が商品のバーコードを読み取る必要がありましたが、「CTC DX Solution for Retail」ではそれも不要です。このため、消費者の利便性を劇的に向上し、店舗が抱えているさまざまな課題を解決できます。
「ウォークスルー決済」のメリット
消費者における「ウォークスルー決済」の利便性は、考えるまでもなく高いことが分かります。では、そうした新しい決済手段を提供することは、小売店舗にとってどのようなメリットが生じるのでしょうか?
1. 人材不足問題の解消
「ウォークスルー決済」の導入により、人材不足問題をダイレクトに解消する効果が期待されます。ただし、それだけではありません。本来は自動化が不可能だった決済という定型作業を自動化することで、店舗スタッフは接客など独創性の高い仕事に集中できることから、小売店舗における「仕事のやりがいや価値」を向上することにも繋がるかもしれません。そうすれば、人気が低い小売店舗における求職者も増え、業界全体の人材不足問題解消に繋がる可能性もあります。
2. 競合優位性の獲得
店舗スタッフとのコミュニケーションを必要としない消費者や、常に時間に追われているビジネスパーソンにとって「ウォークスルー決済」は効率的に買い物ができる手段として定着していくことが考えられます。また、最近ではキャッシュレス決済の人気も高まり、「ウォークスルー決済」に対する抵抗感も少ないのではないでしょうか、「ウォークスルー決済」によって利便性を向上することで、競合優位性を獲得するきっかけになるでしょう。
3. 高度な顧客分析の実現
「ウォークスルー決済」では消費者情報が登録されたQRコードを識別するため、消費者ごとの購買履歴情報などを収集できます。さらに、「ウォークスルー決済」の導入が拡大されれば幅広い店舗での購買履歴情報を収集できるようになり、消費者の購買行動全体を俯瞰した高度な顧客分析が実施できます。
4. 万引きなど不正防止
AIカメラ、重量センサー、TFOセンサーを駆使した「ウォークスルー決済」では万引きなどの不正防止にも効果的です。
EC業界の発展が著しい現代ビジネスにおいて、実店舗の魅力は以前よりも薄れていると考えられていました。しかし、「ウォークスルー決済」など新しい技術を取り入れれば、ECに負けないほどの魅力的な店舗作りを行えます。皆さんもこの機会に、スマートストアや「ウォークスルー決済」を検討してみてはいかがでしょうか?