少子高齢化が進む日本社会において、健康の維持・増進を促進し、国民の健康寿命を延ばすヘルスケアは非常に重要です。しかし、現在のヘルスケアには多くの課題が存在します。この記事では、ヘルスケアの課題と未来像、健康・医療情報を一元管理するヘルスケアプラットフォームの概要と期待されることについて解説します。
ヘルスケアにおける課題
ヘルスケアとは、人々の健康を維持・増進させるための行為や健康管理のことです。日本ヘルスケア学会による定義では、これに加えて、人々の健康を実現するために各産業が横断的に連携・サポートし、新しい価値を作り出すこととしています。ヘルスケアは、医療分野や健康分野はもちろんのこと、生活分野などにも関連しています。具体例には以下のようなものが挙げられます。
- 医療分野…治療、医薬品、漢方など
- 健康分野…運動、介護、美容、理容、健康管理など
- 生活分野…食事、小売、趣味、ペット、旅行、住宅、自動車、宅配、金融、保険、教育など
意外なことに小売や趣味、ペット、さらには自動車や宅配といったものにまで、現在ではヘルスケアとの関連を持つ製品やサービスが出てきています。
社会全般に関わりを持っているといっても過言ではないヘルスケアですが、課題もあります。まず、一番の課題が医療費の高騰です。厚生労働省が毎年、発表している「医療費の動向~概算医療費の年度集計結果~」によれば、平成25年(2013年)度には39.3兆円だった国内全体の医療費は、令和3年(2021年)度には44.2兆円まで増加しています。単純計算で過去8年の間に毎年6,000億円強ずつ増えていることになります。また、ニッセイ基礎研究所が2018年11月に公開した「最近の医療費の動向を教えて」という記事には「近年、医療費は、毎年平均1兆円(2~4%)程度のペースで増加しています」との指摘があります。年度によって多少の上下はあるものの、医療費は今後も増加トレンドを継続していくことが考えられます。この問題の大きな要因のひとつに少子高齢化があることは間違いありませんが、理由はそれだけではありません。医療の高度化などにより、国民の医療費負担が増えていることも大きな要因です。医療費の高騰という課題を解決するには、まず日本国民の健康寿命を延ばす必要があります。
現在の日本では、そのために必要な環境づくりとして、健康・医療情報の整備が進められています。例えば、母子手帳の情報や学校検診の結果、病院が持つカルテや検査の内容、お薬手帳の情報は、各々の機関により管理されています。診察する医療機関が変更になってもカルテは連携されないため、手間と費用をかけて自分のデータを取り寄せなければならないこともあります。また、民間のサービスでも医療機器に相当する信頼性の情報が使われるようになっています。管理場所や管理形式が異なるこれらの情報を、医療や健康増進に活かせる価値の高いデータとして活していくために、患者単位で情報を集約するための仕組みづくりが進めらているのです。
(引用元:https://onl.bz/szB6wmd)
ヘルスケアの未来像とは? 自身の健康・医療データを活用できる仕組みを整備
現代は人生100年時代と呼ばれます。この時代を健康に生きていける理想的な社会を実現するために、健康・医療情報を一元管理する体制が求められています。検診結果や日々の健康データ(体重、血圧、歩行数など)、カルテ内容、調剤レセプト、ケアプランを管理する医療機関と民間企業が協力し、患者単位でデータを統合して管理することにより、健康増進や病気予防、医療の最適化、老後の充実などを実現できます。つまり、人間が歩む「健康(啓発)→未病(予防)→病気(治療)→共生(介護)」というライフステージの情報が管理されているヘルスケアプラットフォームを実現することで、人々が様々なプロバイダーのケアを利用しながら健やかに暮らしている未来像が期待されています。ヘルスケアプラットフォームの具体的な内容は次項でくわしく解説します。
ヘルスケアプラットフォームで期待されること
人々の健康・医療情報をひとつのプラットフォームに一元化することで、ヘルスケアの未来像が見えてきます。次に、ヘルスケアプラットフォームの構築によって実現が期待されることを具体的に見ていきます。
患者とつながる医療
まず、患者とドクターとがつながりを感じられる医療の実現です。患者は自分自身の診療状況を確認できるだけでなく、診察の予約や医療費の会計、薬の処方などのサービスを円滑に利用できるようになります。アプリの活用によって、薬の飲み忘れや服薬状況の報告忘れを防ぐことも可能です。ドクターも患者のバイタルデータ(脈拍や体温など)を事前に把握できるため、診察がスムーズに進みます。ドクターと患者がともに手を取り合う、理想的な医療を実現できます。
地域医療の連携
次に期待されるのが地域医療の連携です。通院するすべての医療機関が各患者の情報を共有することで、一人ひとりに最適な医療を提供できます。ドクターと相談しながら、病気の進行にあわせた適切な医療機関を選択することも可能です。いわば、地域の診療所や薬局などが「ひとつの大病院」になるイメージです。無駄のない情報共有によってシームレスな医療を提供し、病気が悪化することを防ぎます。医療機関側では、さまざまな観点から症状を判断し、より患者に適した治療を選んで提供することが可能です。
遠隔地への医療(遠隔診療/処方)
三つ目が遠隔地への医療です。医療機関から距離がある場所に在住する患者や、自分の力で移動することが困難な患者が対象となります。自動的に患者の健康データを蓄積したり、AIによるオンライン診療や移動薬局を利用したりすることで、一般の人と変わらない医療サービスを受けられるようになります。薬も自動的に自宅まで配送されるので、もらい忘れることがありません。病気が悪化した場合は、ドクターの往診で対応します。患者の家族が遠方に住む場合は、アプリで健康状態を伝えます。
市町村や企業による健康増進支援
四つ目は、市町村や企業が患者の健康維持・増進を支援する取り組みです。AIなどが過去の健康診断やカルテから病気の発生を予測し、患者に健康な生活を送るためのライフスタイルを提案します。日常的な運動や健康的な食事、一定の睡眠などを促してくれる健康促進サービスを利用することで、患者はポイントやプレゼントといったインセンティブを受け取ります。インセンティブがあることによって健やかなライフスタイルが習慣化し、患者の長期的なヘルスケアにつながります。
救急・災害時における適切な対応
五つ目が、緊急・災害時に患者に対して適切な対応が取れるようになることです。アレルギーや服薬状況などのデータを共有しておけば、患者と意思疎通ができなくなった緊急時でも、AIによって適切な治療を行えます。医療機関が閉鎖してしまった災害時や深夜でも、円滑に対応することが可能です。救急医療機関を紹介できるだけでなく、治療に必要な意思表示も前もって行っておくことができます。非日常の状況下でスムーズに医療サービスを受けられることは、患者に精神的な安心を与えます。
医療と介護の連携
六つ目が、医療と介護との情報の連携により、適切な診療方法を提案できることです。ドクター、看護師、ケアマネジャー、ヘルパーといった医療・介護関係者や家族、近所に住む地域住民などが情報を共有・把握すれば、最適な介護を実施できます。介護にもアプリやAIを活用することによって、より患者に適した介護業者やケアプランを選択できるようになります。患者は住み慣れた土地を離れることなく、自分に適した治療を安心して受けられます。
手続きの負担を軽減
最後が、医療に関する手続きが容易になり、医療関係者の負担が軽減されることです。出生から死亡までに経験する多種多様な手続き(出生証明書の提出、予防接種や健康診断の予約、保険の加入・請求、高額医療費控除、死亡診断書の提出など)の負担が大きく減ります。医療機関と行政・保険会社間でさまざまなデータを連携することで、役所への提出までの作業をより円滑にできます。データによって、各患者に適した健康促進サービス(健康食品や健康器具の利用など)を提供することも可能です。
TISのヘルスケアプラットフォーム
TIS株式会社は、ヘルスケアサービスやヘルスケアデータを連携させる仕組みを検討、運営する企業向けに、ヘルスケアプラットフォームを提供しています。
TISのヘルスケアプラットフォームでは、医療やヘルスケアに関するサービスごとに管理されている生活者の健康・医療データを統合し、一元管理することができます。また、本人やその家族など利用者自身の同意をもとに、健康アプリやAI医療などさまざまなサービスにデータを連携することが可能です。
まとめ
健康寿命を延ばして医療費高騰の問題を解決するためには、健康・医療情報を一元管理するヘルスケアプラットフォームの構築が重要です。医療機関内外で患者の健康・医療情報を共有することで、診療のスムーズ化や遠隔地治療、医療と介護の連携、手続きの簡易化といったさまざまな効果が期待できます。