環境・社会・経済の3つの観点からこの世の中を持続可能にしていくというサステナビリティは認知が広まりつつあります。特に企業が長期的な企業戦略を立てていくコーポレート・サステナビリティは重要視されています。
この記事では、サステナビリティ経営のメリットや事例について、詳しくご紹介します。
サステナビリティとは?3つの要素について
昨今よく耳にする「サステナビリティ(sustainability)」とは「sustain(持続する)」と「-able(〜できる)」という成り立ちで作られた用語で、「持続可能性」と訳されます。
ビジネスシーンにおいては、特に企業が自社の利益のみを追求するのではなく、環境や社会、経済の3つの観点を大切にし、将来にわたって良好な状態を保っていこうとする考え方として、「コーポレート・サステナビリティ(Corporate Sustainability)」と呼ぶこともあります。
もともとサステナビリティの概念は、1987年に環境と開発に関する世界委員会からの報告書の中で中心的な位置を占めていましたが、1992年の地球サミットで世界中に認知されるようになったと言われています。
その後、2005年の世界社会開発サミットの中で、サステナビリティには「環境」「社会」「経済」の3つの分野があるとされました。では、それぞれの具体的な取り組みについてご説明しましょう。
環境保護
まず、サステナビリティの代表的な要素として、自然環境を思い浮かべる人は多いでしょう。刻々と地球温暖化が進んでいる中、多くの国は2050年のカーボンニュートラル(脱炭素社会)実現を目標として、大気へのCO2排出削減のために取り組んでいます。他にもエネルギーや水、森林伐採、海洋汚染などのテーマも、企業が環境面でのサステナビリティを実現するためには、考慮しなければならないでしょう。
社会開発
私たちが生きる人間社会も、サステナビリティにとって重要な要素です。具体的にはプライバシー保護や、教育を受ける機会を持つことは、この社会開発分野に該当します。ダイバーシティなど多様な人々が生き生きと働ける社会にすることも、必要になってくるでしょう。
製作に携わる人の健康や労働条件などにも配慮したファッションは「サステナブルファッション」と呼ばれ、将来にわたって雇用を安定させ、社会をよりよくするための取り組みとされています。
経済発展
経済パフォーマンスに配慮したり、腐敗防止に努めたりするなどのテーマが挙げられています。また、財務情報だけでなく、環境や社会に配慮する取り組みを積極的に行っている業界や企業に投資を行うことを「サステナブル投資」と呼び、投資家からも注目を浴びています。
企業とサステナビリティの関係性
では、企業とサステナビリティとはどのような関係があるのでしょうか。
冒頭でも少し触れましたが、現在の企業は社会の一員として、ただ自社の利益を追求するだけではなく、環境や社会、経済の観点について配慮した事業活動が求められています。
たとえば企業は事業の継続のため、多くのエネルギーを消費しなければならず、温室効果ガスの排出は避けて通れない問題です。では、どうすれば排出を抑制できるか、また他のエネルギーを代替できないか検討し、サステナブルなエネルギーに変え、利用していくといった考え方や行動が求められます。
また企業として、サステナビリティに役立つサービスや製品、技術を生み出すための取り組みも行えるでしょう。サステナビリティを重視する今の社会情勢をビジネスチャンスと捉えるのです。
環境や社会に配慮していけるかよって企業価値は大きく左右されます。今後も企業が存続や成長を続けていけるかを決める点で、サステナビリティは必要不可欠なテーマとなるでしょう。
SDGsとサステナビリティの違い
さて、サステナビリティと同じような意味として登場することの多い言葉としてSDGs(Sustainable Development Goals)がありますが、違いはあるのでしょうか。
これまで解説してきたように、サステナビリティは環境、社会、経済という3つの大きな枠組みで、目先の利益重視ではなく持続可能な形を目指していこうとする「考え方」「概念」です。
一方、「持続可能な開発目標」を意味するSDGsは、2015年9月に国連サミットにて採択された、具体的な目標です。貧困や飢餓、教育、平和、海洋資源など17の具体的な課題について、発展や豊かさを追求しながらも、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会を目標としています。
つまり、サステナビリティとSDGsは相互に補完する役割を持っています。サステナビリティを実現するために、より深く具体的な行動や目標として示したものがSDGsと言えるでしょう。
CSRとサステナビリティの違い
また同様にCSRもサステナビリティと同様の意味で使われることがありますが、違いがあります。
CSR(corporate social responsibility)は「企業の社会的責任」と呼ばれ、被雇用者に対し働きやすく適切な労働環境や労働条件を与えたり、安心で安全な商品を顧客に提供したりするなど、社内外の利害関係者(ステークホルダー)に対して負うべき責任のことを指します。
一方、サステナビリティも長期的な視点で社会的責任を負う概念はCSRと同じですが、対象が企業という枠にとらわれません。サステナビリティは、国や自治体、個人など社会を構成するすべての要素を包含した取り組みです。
サステナビリティ経営を実施するメリットとは
自社のサービスや商品の提供といった企業活動が環境、社会、経済に与える影響に配慮することで、長期的な視点で社会全体をよりよくする企業経営は「サステナビリティ経営」と呼ばれ、昨今その重要性を認識し、取り入れる企業が増えてきています。
では、サステナビリティ経営を行うと企業にとってどのようなメリットがあるのか、代表的なものをご紹介しましょう。
ブランドイメージ向上
今やサステナビリティの概念は社会に広く浸透しつつあり、企業が目先の利益ばかり追求するのではなく、環境問題や社会問題にも配慮した姿勢や取り組みがそのまま、企業のブランドイメージにつながっていくといっても過言ではありません。
サステナビリティは、たとえ短期的には負担がかかったとしても、長期的に見れば世間からの評価が高まり、ブランド力をつけることで企業としての成長が見込めるという大きなメリットがあると言えるでしょう。
ESG投資を受けやすい
これまで投資家が投資先を選ぶ基準としては、収益や営業利益、株価といった財務情報のみが主流であり、非財務情報を元にしてもリターンが少ないと言われてきました。しかし、企業が利益ばかりを追求することによりさまざまな弊害が起きたり、長期的な収益性が得にくかったりしたため、投資の際の新しい基準が作られるようになりました。
それが「ESG投資」と呼ばれる方法で、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)といった非財務的な観点から企業を分析し投資することを指します。ESG投資の投資方法にはタバコやギャンブル、武器製造など特定の業界を投資対象から外す「ネガティブ・スクリーニング」や、環境や社会に対し強い好影響を与える事業などに投資する「インパクト投資」など7つの方法があります。
サステナビリティとESGは、根底にある社会貢献といった概念が似ているため、企業がサステナビリティ経営を行うことでESGを重んじる投資家から注目を浴び、より多くの投資を受けやすくなるというメリットが考えられるでしょう。
認知度・イメージ向上による採用コスト削減が期待できる
どの企業にとっても、優秀な人材の確保は今後の事業発展を果たすためになくてはならない、重要かつ困難な課題です。そのため、各企業は自社の認知度を上げ、さまざまな取り組みを行うことでブランド価値を上げようとしていますが、サステナビリティ経営も、1つの有効な方法と言えます。
高額な費用をかけなくとも、環境や社会などに配慮するサステナビリティ経営を行えば、自然に企業価値は高まり、優秀な人材が集まる可能性が大きくなるからです。
サステナビリティの指標「GRIスタンダード」とは
さて、サステナビリティは環境、社会、経済という3つの柱があるということはご紹介しましたが、それぞれの要素について、どこまで取り組めばいいのかという基準は明確でなく、各企業によって解釈が分かれていました。
そこで、2016年10月に、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)が「GRIスタンダード」という新しい国際基準を定めたのです。このGRIの設立には、UNEP(国連環境計画)も関与しています。
GRIスタンダードは、企業などの組織が環境、経済、社会に与える影響について報告する際に使われます。GRIスタンダードを元に作成されたサステナビリティ報告書では、どのように持続可能な発展に寄与したかの情報がプラス、マイナスで表され、客観的に見ることが可能です。
またGRIスタンダードは大きく「共通スタンダード」と「項目別スタンダード」に分かれており、後者では、経済、社会、経済の3つの観点から全34のテーマが設定されています。
ではそれぞれの分野ごとに、どのようなテーマがあるのか全項目についてご紹介しましょう。
経済分野(200番台〜)
まず、経済に関するテーマが7つ掲げられています。
- 経済パフォーマンス
- 地域経済での存在感
- 間接的な経済的インパクト
- 調達慣行
- 腐敗防止
- 反競争的行為
- 税金
環境分野(300番台〜)
次に、環境に関するテーマが8つ掲げられています。
- 原材料
- エネルギー
- 水
- 生物多様性
- 大気への排出
- 廃棄物(排水および廃棄物)
- 環境コンプライアンス
- サプライヤーの環境面のアセスメント
社会分野(400番台〜)
最後は、社会分野について組織のインパクトに関する開示事項が19つ示されています。
- 雇用
- 労使関係
- 労働安全衛生
- 研修と教育
- ダイバーシティと機会均等
- 非差別
- 結社の自由と団体交渉
- 児童労働
- 強制労働
- 保安慣行
- 先住民族の権利
- 人権アセスメント
- 地域コミュニティ
- サプライヤーの社会面のアセスメント
- 公共政策
- 顧客の安全衛生
- マーケティングとラベリング
- 顧客プライバシー
- 社会経済面のコンプライアンス
サステナビリティ経営の導入事例【Global100ランクイン】
「Global100」とは、2005年から毎年、カナダのCorporate Knights(コーポレートナイツ)社が「世界で最も持続可能な100社」として発表しているものです。利益や株価指標などの財務情報以外にも、環境問題への取り組み状況や、クリーンな投資など24つのKPI(重要業績評価指標)によってランク付けされています。
なお、先述のGRIスタンダードという基準はあるものの、すべてをカバーすることは現実的ではありません。自社にとって特にどのテーマを重視するかを検討し、実践していくことになるでしょう。
では、Global100にランクインしている企業はサステナビリティに対し、どのような取り組みをしているのか、事例をご紹介しましょう。
エーザイ
医薬品大手メーカーのエーザイは、2021年のGlobal100では16位、ランクインした日本企業5社の中では見事トップでランクインしました。単に医薬品の提供にとどまらず、地域医療へのソリューション提供や、医薬品アクセス向上への取り組みなど、さまざまな企業活動を行っています。
中期経営計画「EWAY 2025」では、2025年度に向けて「薬とソリューションで社会を変える企業」と目標を定め、以下のようなSDGsの達成につながる取り組みを積極的に実施しています。
- 貧困の撲滅
開発途上国への医薬品アクセス向上の取り組みを通じて、健康福祉の向上や経済成長を促す - 健康と福祉
革新的な医薬品を創る
開発途上国に多い熱帯病(NTDs)の制圧を目指す
開発途上国や新興国では、エーザイ製品を購入しやすい価格で売る - ジェンダー平等
2020年度までに女性管理職比率10%を目指すなど、ダイバーシティを推進する - 水と衛生
水資源を有効活用する - 持続可能な消費と生産
リサイクル率の向上による廃棄物量の削減など、循環型社会への貢献 - 気候変動
国内のCO2排出量を2020年度までに、2005年度比で23%削減するなど、カーボンニュートラル化を目指す - パートナーシップ
重点領域における企業やアカデミアとの連携強化
医薬品アクセス拡大を目的とした国連機関や研究機関とのパートナーシップを展開
コニカミノルタ
電気機器ブランドのコニカミノルタも、地球環境や人間社会のための新しい価値創造と、事業の成長とを同時に満たすイノベーションに挑み続けている企業で、2021年のGlobal100では48位を取得しています。
SDGsやマクロトレンドから2030年に想定される社会・環境課題を想定し、「解決すべき社会・環境課題」と「コニカミノルタの事業成長」という両方の視点から「今何ができるか」を考え、5つのマテリアリティ(重要課題)を2020年に新たに設定しています。
5つのマテリアリティと概要は以下のとおりで、それぞれにSDGsが3〜8つ関連づけられています。
- 働きがい向上および企業活性化
中小企業のIT格差や、雇用・起業機会の格差を解消
女性のキャリア形成を支援し、女性管理職比率の向上 - 健康で高い生活の質の実現
遺伝子検査などを活用し、病気の早期発見を目指す
新興国に対し、ポータブル医療デバイスを利用して遠隔診療を行う - 社会における安全・安心確保
ガス漏洩検査カメラによる防災診断サービスの開発
画像IoTによるフォークリフト事故を減少させるサービスの提供
生産活動における化学物質リスクを減少させる - 気候変動への対応
DX化により取引先の環境負荷低減を支援し、CO₂削減とコスト削減を達成
省エネルギーで印刷できるUVインクジェットデジタル印刷機など、CO2削減につながる製品を開発 - 有限な資源の有効利用
小ロット・分散印刷を普及させ、印刷分野でのサプライチェーンの革新を進め、資源の抑制や廃棄物削減に寄与
Lush
最後に、Global100へのランクインはしていないものの、サステナビリティ経営での成功事例として「Lush」をご紹介します。
色とりどりで良い香りがする石けんを扱っていることで有名なLushは、もともと1995年にイギリスの小さな港町で生まれた化粧品ブランドです。日本では1999年に第1号店がオープンしました。今では48の国と地域で900以上店舗数を誇るメーカーに成長していますが、その人気を支えているのは、Lushが掲げる8つの信念と言ってもいいでしょう。
たとえば、扱っているすべての商品について、新鮮でオーガニックなフルーツや野菜、高品質なエッセンシャルオイルなどの原材料を用いること、ハンドメイドで製品化することです。また、原材料の調達先などサプライチェーンも含めて、動物実験には一切関わらず、人間の肌で直接確認することを徹底し、安心して使えるようにしています。
パッケージについても環境面への配慮からプラスチック包装をやめたことがコスト抑制につながり、高品質な商品開発ができるようになりました。サステナビリティを重視したことが、消費者の支持につながった好例と言えるでしょう。
まとめ
サステナビリティとは何か、また企業がサステナビリティ経営を行うと、多くのメリットがあることをご紹介しました。たとえば、ブランドイメージが向上することや、ESG投資を受けやすくなることなどです。
企業がサステナビリティを取り入れ実際に成功した事例も参考に、ぜひテーマや取り組む内容の検討をしてみてはいかがでしょうか。