本記事では、「スポーツ映像分析」とは何かについて、基本的な事柄から解説します。スポーツ分析の概要や効果、どのような技術によって実現しているのか、実際の導入方法まで含めてご紹介していきます。チーム・個人の競技力強化や、新しい指導方法についてお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
スポーツ映像分析とは何か
従来、日本の武道や芸事、スポーツにおける学習・指導方法には、「見て盗め」という言葉に代表されるように、理論によらない、経験知を重視する伝統が根強くありました。このように、指導者と学習者間のクローズドな関係性や直感性に頼った指導方法は、指導の根拠が分かりづらく、「根性が大事」といった精神論に陥りがちな欠点を持っています。また指導者としても、コツやカンといった曖昧なものをうまく言語化し、選手に伝えるのは難しく、もどかしい思いをすることも少なくないでしょう。
しかし、テクノロジーの発展とともに、スポーツにおけるこのブラックボックス化した部分にも、今や科学的分析の光が入りつつあります。そこにおいて、選手達のパフォーマンスは生理学や運動力学、統計学、あるいは心理学的な根拠とともに分析され、指導者は客観的な指標に基づいた指導が可能になったのです。
今回ご紹介する「スポーツ映像分析」も、このような客観的・科学的な方法論に即した分析手法のひとつです。スポーツ映像分析は別名「スポーツ映像解析」あるいは「動作解析」ともいい、スポーツ競技において、個々の選手達や試合全体の状況を、映像データによって客観的に分析することを意味します。
たとえば学校の部活などでも、練習や試合の様子をスマホやハンディカメラなどで撮影し、あとで反省会をすることがあるでしょう。これもごく初歩的なスポーツ映像分析であるといえます。
現在のスポーツ映像分析によって明らかにされることは実にさまざまで、たとえば選手やチーム全体の運動量や位置情報、あるいはサッカーなどの球技なら、ボールの軌跡なども可視化できます。スポーツ映像分析は、特に技術面の向上や戦術の構築において大きな効果を発揮し、個人やチームの競技力向上に役立ちます。
スポーツ映像分析を実現する技術
上述のとおり、スポーツ映像分析は、科学技術と一体となった分析手法です。以下では、スポーツ映像分析を可能にする主な事項について解説します。
高速度ビデオカメラ
スポーツ映像分析は、一般のビデオカメラを用いても可能です。しかし多くの競技は、一瞬の違いが勝負の分かれ目になるようなハイレベルなスピード感で成り立っています。このような素早い動作を分析するには、「高速度カメラ(ハイスピードカメラ)」を用いるのが効果的です。
高速度カメラとは、競技者のハイスピードな動きも、鮮明な超スロー映像として記録・再生できるビデオカメラです。高速度カメラを使えば、たとえば陸上トラック競技におけるスタートの瞬間や、野球のピッチング・バッティングなど、肉眼では見逃してしまいそうな筋肉や用具の一連の動きを詳細に可視化できます。
映像を基礎データとするスポーツ映像分析において、ビデオカメラのスペックは分析精度を上げるためにとても大切な要素です。
映像分析
いくらハイスペックなビデオカメラで撮影しても、それを効果的に活用できなければ意味がありません。スポーツ映像分析の核心をなすのは、まさにその分析技法です。サッカーや野球をはじめ、多くのプロチームでは映像分析を専門とするアナリストを雇用し、分析に役立てています。
映像分析の方法にはさまざまなものがあり、代表的なところでは大型スクリーンで映像を分割したり、スロー映像を用いて分析したりする方法が挙げられます。また、撮影した映像から選手のプレーや走行速度などをデータ化し、パフォーマンスの精度を数字として表す際にも役立てられます。
試合中もリアルタイムに映像分析を行い、助言するスタッフを置くことで、指導者は客観的なデータに基づいた適切な采配が可能となります。
AI
スポーツ映像分析においては、AI(人工知能)の活用も進んでいます。たとえば、試合映像の中から特定のプレーシーンを自動的にタグ付けしたり、映像から選手の身体骨格を分析したりすることが可能です。AIの活用によって、アナリストは煩雑な手作業から解放されるばかりか、新たな分析データを得ることも可能になるのです。
スポーツ分析にAIを活用する動きは急速に進んでいます。たとえば、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスは2018年、AIを野球の総合的なプレー分析に活用することを発表しました。現在では、AIによるコーチングの可能性を研究する取り組みも進んでおり、今後の発展がますます期待されています。
スポーツ映像分析を取り入れるために必要なもの
最後に、スポーツ映像分析を取り入れるために必要なものをご紹介します。
映像を撮影するカメラ
スポーツ映像分析を行うためには、まず映像を撮影するためのビデオカメラが必要です。一口にビデオカメラといってもさまざまな種類がありますが、簡単な分析をするだけなら、一般的なビデオカメラやスマホでも可能です。とはいえ、先述したようにハイスピードな選手の動きを仔細に捉え、高度な分析を行うためには高速度ビデオカメラがベストでしょう。
ソフトウェア
映像が撮影できたら、これをそのまま分析するのではなく、分析に適した形へと編集する必要があります。この工程で用いられるのが、動画編集・分析用のソフトウェアです。ソフトウェアの中には、PCにインストールするもののほか、スマートフォン用のアプリとして提供されているものもあります。導入に必要な費用は、本格的なものでも十数万円ほどです。中には、お試しの無料プランを用意しているものもあるなど、個人でも導入できるレベルの費用感といえます。
たとえば、多くのスポーツアナリストが使用するソフトとしては、Hudi社の「Sportscode(スポーツコード)」が挙げられます。これは、タグ付けや特定のプレーの検索といった基本機能はもちろん、試合中のリアルタイム入力も可能なのが強みです。分析内容のカスタマイズ性も高く、幅広いスポーツで使える高い汎用性も持ち合わせています。
スマホ用のアプリとしては、iPhone/iPad用のスポーツ映像分析アプリ「MY TAGTIC(マイタグティック)」が挙げられます。こちらもプレーのタグ付けなどの機能が付いているほか、チームの皆でデータを共有できるのが特徴です。機能制限があるとはいえ、フリープランも用意されているので、映像分析に興味がある方には入門用としてもおすすめです。
まとめ
今回は、スポーツ映像分析の基本的な概要について解説しました。映像分析を効果的に使うことは、個人やチームの競技力の強化につながります。また、対戦相手を映像分析すれば、攻略方法も見えてくるかもしれません。今回ご紹介したように、簡単な映像分析ならお手軽に試せますので、関心のある方はぜひ試してみてはいかがでしょうか。