新たな価値を生み出す手法として「サービスデザイン」が注目を浴びています。これは、優れた顧客体験を継続的に提供できる体制や仕組みをデザインすることを指した言葉です。今回はサービスデザインの定義と基本的な手法、サービスデザインに求められる視点などを紹介します。
サービスデザインの定義
サービスデザインとは、良い商品と、商品に伴う快適な顧客体験の両方を継続して提供できるような組織と仕組みをデザインすることです。顧客体験とは、「その商品で楽しい時間が過ごせた」など、顧客が商品を認知、購入し利用した後までに経験したすべての体験を指しています。
サービスデザインでは、顧客体験の創出を重視しているため、商品自体にとどまらず、その商品を提供している組織自体や現場スタッフなど、バックステージのあらゆる事象も“デザインすべきサービス”ととらえ、デザインの対象に含めるのが大きな特徴です。
なぜサービスデザインが重要視されるのか
サービスデザインの考え方が重視されるようになった背景には、現代社会では経済や社会、技術などが大きく変化していることが挙げられます。
まず、経済面の要因です。各種産業の成熟で、世の中には便利なモノがあふれるようになりました。欲しいモノが一通り手に入ってしまうと、今度はモノではなくサービスに付加価値を求める動きが生まれました。
社会情勢の変化もあります。いろいろなモノや情報があふれている現代では、顧客の期待水準がかつてないほどに高まっています。モノの性能をアピールするいままでの方法では顧客に印象づけることが難しくなっているのです。
また、デジタル技術の発展で、いろいろな分野が想像もつかなかったような形で連携して新しい価値を生み出したり、効率化したりする事例が次々と生まれ、分野の垣根を越えた“連携”に期待感が高まっています。
現代では商品という「モノ」だけではなく、その商品にまつわるあらゆる顧客体験、つまり「コト」を、「モノ」と同じかそれ以上に求めるようになっています。ですから、顧客にアピールするためには「モノ=商品」と「コト=体験」を統合した“サービス”全体に目を向ける必要があります。こうした流れの中で、モノとコトを満たせるサービスをよりよい姿にデザインしていこう考え方が生まれました。このサービスデザインの考え方は、新規事業の創出にも既存事業の改善にも大きな効果が期待できる手法として注目されています。
UXデザインやCXデザインとの関係
顧客体験に関連するデザインには「UXデザイン」や「CXデザイン」があります。
UXデザインはユーザーエクスペリエンス(User Experience)デザインの略で、商品やサービスを利用して得られる体験をデザインすることです。例えば、動画配信サービスを利用して快適に動画が視聴できた、コンテンツが豊富で満足した、楽しい時間を過ごせたなどの体験や感想が得られるように通信環境やアプリの使い勝手を改善する行為などもUXデザインに該当します。
CXデザインはカスタマーエクスペリエンス(Customer Experience)デザインの略で、こちらは商品やサービスを購入して使い終えるまでのあらゆる体験を設計することです。商品やサービスを利用したときの体験に焦点を当てているUXデザインに対し、CXデザインでは利用前から利用後までトータルの体験を対象にしています。
そして、UXデザイン、CSデザインとサービスデザインの大きな違いはデザインする対象にあります。顧客の体験部分に焦点を当てているUXデザインとCXデザインに対し、サービスデザインでは商品やサービスを提供する側の要素も含めて全体を考慮して、全てをデザインの対象にしています。もちろん、サービスデザインはUXデザインやCXデザインと密接に関連しており、それぞれを最適化して組み合わせることが必要です。
サービスデザインの基本的な手法
サービスデザインの中心的な活動として挙げられるのは「リサーチ」「アイディエーション」「プロトタイピング」「実装」の4つです。それぞれの活動について解説していきます。
1. リサーチ
まず、行動の基礎になる仮説を立てたり、既存の仮説が妥当かどうか検証したりするために、顧客の行動や行動を起こすきっかけなどを調査して情報を集めます。集めたデータは様々な観点から分析して、顧客の価値観や潜在的なニーズなどに対する理解を深めていきます。
2. アイディエーション
問題解決や新たな価値を生み出すためのアイデアを出し合います。出したアイデアは分類や整理、統合を行い、ブラッシュアップを重ねます。新しいアイデアはあらゆるタイミングで生まれる可能性があります。一度アイデアを出して終わりではなく、より優れたアイデアを目指して常に進化させようとする姿勢が大切です。
3. プロトタイピング
アイデアの成果物や「こうしよう」というコンセプトを試作して検証します。これはできるだけ早い段階に低コストの小規模で試すことで、リスクと不確実性を減らして、よりサービスの質を高めていくために行う活動です。この段階では、サービスの想定利用モデルや、Webサイトのビジュアルの試作など、必要に応じて必要なものを制作します。
この段階で検証したアイデアが顧客のニーズを満たすには不十分であると判断した場合は、リサーチ、アイディエーション、プロトタイピングのプロセスを繰り返します。
4. 実装
プロトタイピングを経た試作内容を実際に使う環境に適用して、そのための生産体制・運用体制等を整備し、製造や商品PRなどの通常業務に進みます。実際の現場に投入され始めるこの段階では、経営陣やエンジニアリング、開発グループなどさまざまな部署がサービスデザインに関与することになります。
サービスデザインに必要な2つの視点
大きな観点でサービスをとらえるサービスデザインでは、複数の視点から検証していくことが求められます。サービスデザインを実践するうえで必要な2つの視点について見てみましょう。
サービス全体を見渡す視点
サービスデザインを考えるにはユーザー側の顧客体験だけに注目するのではなく、商品やサービスを提供する環境そのものや、組織全体のありかたにも目を向けて全体を俯瞰する視点が求められます。普段から幅広い分野に興味を持ち、多様な知識やスキルを身につけることも視野を広げる助けになるでしょう。サービス全体を見渡せるような広い視点を持って、商品の改善だけではなく、サービス全体を取り巻く仕組みを改善していくことが大切です。
反復的・継続的なブラッシュアップの視点
もちろん、一度デザインすれば終わりというわけではありません。
サービスデザインを考える際に有効なフレームワークの一つに「ダブル・ダイヤモンド」があります。これは、課題を解決するプロセスにおいて「拡散」と「収束」を繰り返し行う様子を並べたダイヤモンドで表したものです。このダブル・ダイヤモンドが示すように、アイデアを出したり、試作品を作ったりするときの「拡散」と、そこからアイデアを現実とすり合わせながら絞り込んだり、テスト結果をフィードバックしたりして不要なものをそぎ落としていく「収束」を繰り返し行うことが良いデザインを生み出すためには重要であることを示唆しています。
顧客のニーズや社会状況の変化に応じて改善していけるような、反復的・継続的にブラッシュアップの視点を持つことも非常に大切です。必要に応じて「リサーチ」「アイディエーション」「プロトタイピング」を繰り返し、改良を加え続けることが大切です。
まとめ
商品やサービスに新たな価値を生み出す方法として「サービスデザイン」が注目されています。これは質の高い商品と顧客体験を継続的に提供できるような体制や仕組みをデザインするという取り組みです。新規事業の創出や既存事業の改善に向けて、サービスデザインを検討してはいかがでしょうか。