医療・製薬

医療安全とは?その目的や取り組み事例に関して

医療安全とは、医療事故や医療過誤のような医療トラブルを未然に防止し、安全な医療サービスを提供できる状態を作る取り組みを指します。病院経営を志す医師や医療法人の経営者は、自医院の医療安全の取り組みを見直し、必要な対策を講じることが大切です。本記事では医療安全の意義や必要な対策、取り組み事例についてくわしく解説します。

医療安全とは?その目的や取り組み事例に関して

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医療安全とは?

平成13年度より厚生労働省が提唱した「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動(PSA)」の施策として、毎年11月に医療機関や医療機関関係団体などで「医療安全推進週間」の取り組みが実施されています。「医療安全」とは、医療事故や医療過誤を防ぎ、訴訟などの人的トラブルを起こさないための対策と、トラブルが起きた場合の対応策に取り組み、安全な医療サービスの提供ができる状態のことです。医療事故は、医師や看護師などの医療従事者が患者への医療業務によって、またはそれが原因で起きる事故全般の総称です。医療過誤は医療事故のうち、医療従事者の過失が原因となっているものを指します。

このような事故を未然に防ぐため、国が定める医療法の法的根拠を基に、医療機関は健全な運営に努め、医療機器や医薬品に至るまで、全体管理を行うようになりました。医療安全管理のための指針の整備や職員研修の実施なども義務付けられています。医療事故や医療過誤を未然に防ぐ対策としては、インフォームドコンセントの徹底や、誤った医療行為で事故に至らなかった事例などを検証するヒヤリ・ハット報告などが挙げられます。医療トラブルへの対応策としては発生時の報告体制、警察への対応、マスコミなど外部への対策と公表などです。

医療安全が注目された背景・経緯

医療の安全に関心が高まったのは、平成11年に医療事故が立て続けに起きたことがきっかけです。その年の1月に横浜市立大学で患者を取り違えて手術した事件が発生し、2月には都立広尾病院で看護師が薬剤を誤り、消毒液を患者の静脈に注射し、死亡事故が起きています。この事件をきっかけに医療事故の警察への届け出が増加し、医療の安全への信頼が揺らぎ、社会の不安が高まりました。

そこで平成12年に厚生労働省から特定機能病院や医療関係団体へ大臣メッセージが届けられ、平成13年に医療安全推進室の設置や、医療安全対策検討会議の発足など、国を挙げた対策が講じられるようになりました。24時間365日患者を看護し、提供される医療サービスのほぼ全てに関わる看護職の役割は大きいため、看護職の職能団体である日本看護協会でも、患者の安全な医療環境をつくる取り組みを行っています。

医療安全のための対策

安心・安全な質の高い医療サービスを提供する医療安全のための対策について解説します。平成13年に厚生労働省が医療従事者向けに策定した「安全な医療を提供するための10の要点」を参考に、特に重要な患者や職員の安全、医療事故への対応、医療の質の担保を取り上げます。

患者の安全

患者の安全とは医療サービスの提供を受ける患者の安全を指し、医療安全のための対策ではもっとも基本的な最優先事項です。具体的には患者を主役とした医療サービスを実現するために、医療内容を十分に伝え、理解してもらうインフォームドコンセントを実践。診療時に治療方法や投薬、今後の予定について一方的ではなく、患者と対話をしながら説明し、最適な治療を進めていきます。

全ての医療従事者の経験を共有し、報告された事例からミスが起こる原因を分析。そこから改善策につなげて職員全体で共有する取り組みが患者の安全に有効です。個人のミスと捉えるのではなく、職場環境やシステムの問題と捉え、職員の意見や考えを積極的に共有する問題解決型のアプローチを取ります。得られた改善策は職員全員で学び、実践することが求められます。

職員の安全

職員の安全とは医療機関に勤める全職員が感染などの心理的不安を抱えず、自身の持つ医療知識とスキル・ノウハウを発揮できる環境構築を指します。医療サービスを提供する職員の安全を守るため、医療機関内に医療安全係や医療安全管理者を設置。治療中のアクシデントやインシデントを積極的に報告する体制を整えます。主治医や看護師、薬剤師、理学療法士、医療ソーシャルワーカーなどがチームカンファレンスに参加し問題を共有したり、全職員を対象にした医療安全の研修会に参加したりする取り組みも重要です。

医療事故への対応

医療事故への対応としては、医療事故が起きないような体制づくりと、万一起きた場合に組織として対応する体制の構築があります。具体的には医療機関の管理者が組織の運営者として指導力を発揮し、医療安全管理の理念や指針を定め、職員に医療事故防止マニュアルを配布するなど、周知徹底を図ります。指針に基づいた安全管理が円滑かつ効果的に行われるように、活動方針や予算を定め、職員の能力や適正に応じた人員配置を行い、組織の体制を構築。

さらに医療事故の発生に対応する安全管理体制を医療機関内に整備します。各診療科の意見をまとめ、組織の安全管理の方針を定める医療安全管理委員会や、委員会の方針に基づいて組織横断的に安全管理を行う医療安全管理部門などを設置します。体制整備は各医療機関の規模や機能に応じて構築することがポイントです。

医療の質の担保

医療の質の担保とは医療サービスの知識や技能の向上、同時に患者の医療サービスへの満足度を指します。医療の質を担保するには患者とその家族、医療従事者の両方の満足度を高める取り組みが有効です。具体的な対策としては業務体制の改善ができるPDCAサイクルの構築があります。人は誰でも間違える可能性があることを前提にすると、日々の診療業務での気づきや問題をそのままにせず、計画→実行→評価→改善のサイクルで継続的に改善することが重要です。

患者のための医療チームは職種や上下関係の隔たりを排除し、相互に確認・監視を行い、医療従事者間のコミュニケーションを大切にします。また、地域に開かれた医療機関であるために、組織を超えたコミュニケーションの促進も必要です。医療の質を客観的に評価する手法として、第三者の日本医療機能評価機構が行う病院機能評価を導入する方法もあります。

医療安全の取り組み事例

医療安全の取り組みは全国の各医療機関で実施されています。多くの事例の中から、医療用データウェアハウスシステム「CLISTA!」の導入で医療安全の取り組みに成功した事例を紹介しましょう。

事例1: 通知機能開発でレポート未読期間を改善(旭川医科大学病院様)

北海道旭川市の旭川医科大学病院では、病理診断報告書の見落とし事例が発覚したことから、ワーキンググループを設置し、対策を検討していました。他の医療機関でも画像診断報告書の確認不足や、病理診断報告書の見落としが目立つようになり、人手に頼る管理体制では効率が悪く、限界があると考え、システム開発を構想。CLISTA!を導入し、現在のシステムとは独立した通知機能を共同開発し、病理診断報告書の見落としや画像診断報告書の確認不足の課題を解決しました。

具体的には医師が医療システムのポータル画面にログインしたときと、患者カルテを表示させたときの2種類のアラート通知を使い分けます。医師は通知の既読・説明済みの管理を行い、説明済みの内容は管理者がレポートで確認・承認するというダブルチェックが可能です。CLISTA!の導入後、レポート未読期間は大幅に改善し、導入前は紙リストで管理していた手間がなくなり、データ管理が可能になりました。

事例2: 院内データ活用促進に成功(京都医療センター様)

京都府京都市の国立病院機構、京都医療センターでは1990年代からデータベースシステムの開発に取り組んでいましたが、エンジニア・プロ向けのツールで、医療機関用ではありませんでした。院内システムのデータがIT専門人材でないと取り扱えない状態となり、データを活用して医療サービスの向上につなげにくい課題がありました。また、当時テスト採用していたBIツールは汎用品であり、医療用には使いづらかったため、CLISTA!を導入し、医療用に特化したツールを使い始めます。

導入後は定期診療を受けていない患者をデータ抽出し、受診を促したり、医師や薬剤師などさまざまな職種の業務日報と連動したレポートを自動抽出したり、指導管理料の取り漏れを防止したりと院内データの活用促進に成功しています。さらに職種別に検索条件のテンプレート化を図り、職種別の利用を広げたり、スペシャル医療クラークにCLISTA!研修を案内したりと院内システムとして定着化を図っています。

まとめ

医療安全とは、医療事故や医療過誤のような医療トラブルを未然に防止し、安全な医療サービスを提供できる状態を作る取り組みを指します。病院経営を志す医師や医療法人の経営者は、自医院の医療安全の取り組みを見直し、必要な対策を講じることが大切です。

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