企業が市場における競争優位性を確立するためには、人材戦略の最適化が不可欠です。本記事では、人材戦略の概要を解説するとともに、具体的な構成要素や推進する上で押さえておきたいポイントをご紹介します。人的資源管理の最適化を目指す企業は、ぜひ参考にしてください。
人材戦略とは
人材戦略とは、経営目標の達成を目的とした人事領域における戦略を指します。企業とは、事業活動を通して市場や顧客に付加価値を提供し、その対価として利益を得ることで発展していく組織です。そして、組織の発展と経営ビジョンの実現を通して社会に貢献することが経営の本質的な目的であり、企業そのものの存在意義です。
企業が永続的に発展していくためには、中長期的な視点に基づく経営目標の立案と、そのビジョンを実現するための具体的な経営戦略を策定しなくてはなりません。経営戦略は企業全体に関わる「全社戦略」と事業部ごとに展開される「事業戦略」、そして事業戦略を各部署に落とし込んだ「機能別戦略」によって構成されています。さらに機能別戦略にはマーケティング戦略や営業戦略、販売戦略といった複数の要素によって構成されており、そのひとつが人材戦略です。
人材戦略を一言で定義するなら、組織全体における人的資源管理の最適化です。具体的には高度な技術や深い知識を有する人材の採用と育成、従業員一人ひとりの適性に応じた人員配置、あるいは公正かつ公平な人事評価制度の確立など、人事面における総合的なマネジメントを指します。重要な経営資源である人的資源を最大限に活用する仕組みを構築し、経営目標の達成を推進することが人材戦略の目的です。
人材戦略の構成要素
ここからは、人材戦略を構成する要素について解説します。人材戦略は基本的に「採用」「育成」「配置」「定着」という4つの要素によって構成されており、各要素を統合的にマネジメントする組織体制が必要です。
採用
人材戦略における最も重要な課題といえるのが、高度な知見を備える優れた人材の採用です。現代はデジタル技術が加速度的に進歩しており、さまざまな業務プロセスの省人化が進展しています。しかし、ビジネスの土台にあるのは人間関係であり、企業の発展を支える基盤は組織に属する人材です。自社の掲げる経営目標を実現するために、どのような人材が必要なのかを明確化し、求める人物像への採用アプローチを具体的な戦略へと落とし込みます。
育成
優秀な人材を採用するだけでなく、既存の従業員を育成するための仕組みづくりも重要な経営課題です。現代は少子高齢化の影響から生産年齢人口が減少し続けており、人材の採用コストが年々増加していく傾向にあります。このため、経営目標の実現に貢献する人材を育成する組織体制が求められます。人材の育成計画や研修制度などを整備し、経営基盤の総合的な強化を図ることも人材戦略の役割です。
配置
人材のパフォーマンスを最大化するためには、従業員一人ひとりの適性や能力を見極めて適材適所に配置しなくてはなりません。人間には一人ひとりに異なる特性が備わっており、従業員によってそれぞれ得手不得手が異なります。人材のもつポテンシャルを最大限に発揮するためには、それぞれの能力や性格、得意分野などを総合的かつ客観的に分析し、長期的な視点に基づく戦略的な人員配置が求められます。
定着
企業が継続的に発展していくためには、離職率の改善と定着率を高める仕組みを整備する必要があります。そこで重要な課題となるのが、従業員が企業に対して抱く愛着心や貢献意識などを表す「従業員エンゲージメント」です。福利厚生の充実や多様かつ柔軟な働き方への対応、ワークライフバランスの推進、公正な人事評価制度の整備などに取り組むことで、従業員のエンゲージメントが高まり、離職率と定着率の改善につながります。
人材戦略を進める上のポイント
人材戦略を推進するためには、押さえておくべきポイントがいくつか存在します。なかでも重要となるポイントは以下の6つです。ここからは、それぞれの項目について具体的に解説します。
- 経営戦略の確認
- 目標の設定
- 人物像の明確化
- プロセスの設計
- 多様性の受容
- タレントマネジメントの実施
経営戦略の確認
冒頭で述べたように、人材戦略は経営戦略を構成する要素のひとつです。採用・育成する人物像や人員配置のフレームワーク、人事評価制度の具体的な評価項目などは、自社がどのような経営戦略を展開するのかによって最適解が異なります。したがって、人材戦略を推進する際は経営状況を俯瞰的な視点から分析するとともに、企業理念や経営ビジョンに基づく経営目標を立案・策定し、それを実現するためにどのような人材が必要なのかを理解することが大切です。
目標の設定
企業理念や経営ビジョンを実現するためには、経営目標を立案し、そのゴールへと至る道筋を具体的な経営戦略へ落とし込まなくてはなりません。その際に自社の現状を客観的に評価し、理想とのギャップを定量的に分析することで、自社が抱えている問題や課題が明確化されます。このプロセスを踏破することで、経営目標の実現を阻む障壁を把握できるため、問題や課題の解決に必要な人材のスキルや人数の過不足などを確認できます。
人物像の明確化
策定した人材戦略を実務レベルに落とし込むためには、求める人物像を具体的かつ明確に言語化・数値化する必要があります。しかし、自社の組織体制や事業形態によって必要な人材が異なるため、人物像の設定に絶対的な正解は存在しません。重要なポイントは自社が求める人材の能力や適性を的確に把握し、それぞれのパフォーマンスを最大化できる環境を整備することです。そのためには、自社の現状を客観的かつ俯瞰的に把握する必要があるため、先述した経営戦略の確認と目標の設定が重要となります。
プロセスの設計
求める人物像を明確化できたなら、中長期的な経営目標と経営戦略に基づいて人材戦略の具体的なプロセスを設計します。ここで重要となるのが、先述した「採用」「育成」「配置」「定着」の総合的なマネジメントです。どのようにして優れた人材を発掘するのかという採用戦略や、人材育成のプランや社内研修制度の見直し、人事評価制度の改善や従業員エンゲージメントの向上など、具体的な取り組みを含めた人材戦略のプロセスを設計します。
多様性の受容
人材戦略では、自社が求める人物像を具体化するプロセスが非常に重要ですが、限定的な枠組みにとらわれていては人的資源管理における柔軟性が失われます。人間には一人ひとりに異なる特性が備わっており、従業員のパフォーマンスを最大化するためには、さまざまな人材の個性や違いを受け入れる組織体制が必要です。また、人材がもつ能力的な多様性だけでなく、育児や介護などの事情を抱える従業員に対し、多様かつ柔軟な働き方を容認することでエンゲージメントやロイヤルティの向上につながります。
タレントマネジメントの実施
タレントマネジメントとは、人材が備える固有の能力や特定のスキルなどを統合的に管理することで、それぞれのパフォーマンスを最大化するマネジメント手法です。従業員一人ひとりがもつ知識や技術などの暗黙知をデータベース化し、人材の長所を最大限に活かせる人員配置や目標設定などを実施します。人材の得意分野や強みにフォーカスするため、従業員の労働意欲や貢献意識の向上に寄与し、組織全体における業務効率化と生産性向上が期待できます。
まとめ
人材戦略とは、経営目標を達成するために実施する人事領域の総合的なマネジメントを指します。企業理念や経営ビジョンを実現し、社会に貢献し続ける企業であるためには、優れた人材の活用が不可欠です。変化の加速する現代市場のなかで、競合他社にはない独自の付加価値を創出するためにも、人材戦略の最適化に取り組んでみてください。