医療情報の電子的な交換と連携に欠かせない、共通言語の役割を担う標準規格が「HL7(Health Level 7)」です。厚生労働省標準規格でもあるHL7とはどのようなものでしょうか。発行の背景やバージョンの違いも含めてご紹介します。
HL7(Health Level 7)とは?
電子カルテ・オーダリングシステムなどの医療情報システムの導入や地域での医療連携が拡大しつつあります。
これらを実現しているのは、病院内部のシステム間や病院間など、医療情報の電子的な交換・連携です。
人と人との間での情報交換は、お互いが理解できる共通の言語でコミュニケーションする必要があります。
医療情報の交換においても共通の言語が必要ですが、実際には病院や部門ごとに名称やコードが異なっています。たとえばひとつの薬品について、同じ病院内であっても部門ごとにコードや名称をつけると、このようにバラバラになってしまいます。
- A病院 物品管理 名称 アーテン錠 物品コード 406785
- A病院 オーダリング 名称 塩酸トリヘキシフェニジル 薬品コード 255456
- B病院 医事会計 名称 塩酸トリヘキシフェニジル錠 薬品コード 40669608
医療情報システムが多機能化するにつれ、システム間の接続が求められるようになりましたが、共通言語がないと情報を連携できません。また、システムが大規模化しているため、すべてのシステムを1社で開発することが難しくなりました。そのため複数のベンダーでシステム構築を行う必要も生じています。地域での医療連携を拡大するためにも、病院間での情報の受け渡しが必要です。
このような背景から、患者管理・会計・検査報告・患者紹介・人事管理など様々な医療情報を交換するときの共通言語として使用できる標準規格「HL7(Health Level 7)」が発行されたのです。
HL7は医療情報のうち文字情報に関する規格です。また、医療用画像データの規格はDICOM規格となっています。いずれも国際規格として制定されており、国内においても保健医療分野における厚生労働省標準規格として認められています。
また、イギリス・カナダ・デンマーク・ドイツ・韓国など各国も、HL7を標準規格として採用しています。
医療情報交換の標準規格の促進を目指す「HL7協会」とは
HL7を作成・発行したのが「HL7協会(Health Level Seven International)」です。1987年に米国で設立された「HL7協会」は、医療情報システム間での情報交換に用いる標準規約の作成や普及を目的とする非営利のボランティア団体です。HL7は、扱う種類によってそれぞれの委員会に分かれ、医療情報の標準を検討、開発しています。たとえば解剖病理委員会では解剖病理のためにHL7の適用ガイドの作成、Vocabulary委員会では用語コードを規定、といった活動内容です。
HL7協会はアルゼンチン・インド・オーストラリア・オランダなど、世界各国に30以上の国際支部があります。メンバーは医療従事者だけではなく、政府関係者・製薬会社・コンサルティング会社などの企業も多く参加しています。日本においても、1998年7月に7番目の国際支部として日本HL7協会が設立されました。
「HL7 V2.x」と「HL7 V3」の規格内容について
HL7 Version 1.0が発行されたのが1987年のことです。翌年1988年にはVersion 2.0が、1990年にはVersion 2.1が発行されています。2005年にはVersion 3 Normative Edition 2005が発行されました。
HL7には、さまざまなバージョンがありますが、現在主流となっているのが「HL7 Version 2.x」と「HL7 Version 3」です。
次項で説明するとおり、Version 2メッセージは"|(縦線)"と"^(キャロット)"で区切られたシンプルな構造であるため、メッセージのグルーピングができないなど、汎用性に乏しい規格でした。
HL7 Version 3は、このような前バージョンの課題を解決し、より汎用性の高い情報を扱えるように、HL7 Version 2.xをベースに言語としてXMLを採用して体系化したものです。
「HL7 Version 2.x」について
「HL7 Version 2.x」は、保健医療環境における電子データの情報交換標準として、現在、最も普及しています。
「HL7 Version 2.x」にはVersion 2.4、Version 2.5、Version 2.7など複数のバージョンがありますが、例えば、HL7 Version 2.5では、"|(縦線)"と"^(キャロット)"でデータ属性を区切る記述方法で情報交換の単位となるメッセージを作成し、システム間の情報交換を実現しています。
リソースに乏しい医療機器でも扱えるように、シンプルな構造を保っているのが「HL7 Version 2.x」の大きな特徴です。
「HL7 Version 3」について
「HL7 Version 2.x」は広く普及しましたが、構造がシンプルであるために、次のような問題がありました。
- 情報モデルを持たないため、あいまいな参照を含んでいる
- 通信の必要がない1つの医療機関のみでの使用を前提として設計されている
- 複雑な情報のまとまりを生成するためのグルーピングができない
- 専門用語集がない
このような「HL7 Version 2.x」の問題点を解消するため検討が進められたのが、「HL7 Version 3」です。
「HL7 Version 3」で大きなポイントとなるのが、医療分野の情報モデル「RIM(Reference Information Model)」です。「HL7 Version 3」のメッセージは、共通に使用する参照情報モデルであるRIMをベースとし、XML形式で記述されます。医療情報システム開発においては、RIMを共通に使用することで互換運用性を確保しています。
また、「HL7 Version 2.x」では専門用語集がないという問題に対処し、HL7協会内のVocabulary委員会がメッセージの語彙を整理したコードリポジトリ「Vocabulary」を提供しています.
まとめ
医療情報システムが大規模化し、地域でも医療連携が進む中、医療情報の連携に関する標準化が求められるようになりました。そのような中で発行された「HL7(Health Level 7)」は、日本だけでなく各国でも標準規格として採用が進んでいます。