新薬開発の最終段階において薬の安全性や適正な投与量などを確認する目的で臨床試験を実施し、その結果をもって厚生労働省に承認の申請を行います。この臨床試験が「治験」で、治験を実施するときのルールが「GCP」です。この記事ではGCPについて詳しく解説します。
GCPの意味
新薬開発の最終段階においては、人に対する効果と安全性を調べる「臨床試験」が行われます。試験管の中での実験や動物実験などを経て選ばれた新薬候補を使って効果や安全性を確認するための臨床試験を「治験」と呼ぶことが薬事法で定められています。治験の結果をもって国に審査され承認されたものだけが「新薬」として市場に出回ることになります。
被験者の人権を最優先にして科学的な方法で客観的な治験を行うために、国際的なルールと薬事法に基づいて国が定めた規則があります。これが厚生労働省による省令の「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP、Good Clinical Practice)」です。
GCPは治験に参加する被験者の人権を確保し安全性に最大限の配慮を行うとともに、臨床データの信頼性の確保を目的として定められています。
GCPの歴史
GCPの歴史は日本、EU、米国の間で規制当局と製薬業界の専門家を集めて1990年に創設された「医薬品規制調和国際会議(ICH、International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)」に遡ります。ICPは治験データの相互に利用して、不必要な試験の繰り返しを防いで優れた新薬をより早く治療の場に届けることを目的に創設されました。このICHによる治験の国際的な基準である「ICH-GCP」が最終合意に至ったのが1996年です。
日本では1990年に「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」が厚生省薬務局長から都道府県知事に通知されていますが、この時点では法的拘束力がありませんでした。
しかし、ICH-GCPの合意内容を受け、日本でも1996年に薬事法が改正されたのちに1997年3月、厚生省(当時)から「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP)」が発表されました。その後、数回の改正を経て現在に至っています。
ICH-GCPを反映させて省令となった1997年以降のGCPを「新GCP」「省令GCP」、それ以前の基準を「旧GCP」として区別する場合もあります。
GCPの内容
GCPでは治験の実施を事前に届け出て治験審査委員会による審査を受けること、治験実施に関する取り決めや、治験によって得られた結果の報告義務、審査委員会や治験施設支援機関の役割などについて記載されています。
治験内容の届け出
治験を行おうとする製薬会社は「治験実施計画書」を作成し、治験を実施する医師との合意の合意を得た上で厚生労働省へ提出します。この計画書には新薬候補の服薬回数や1回に服薬する量、効果について検査する時期や検査内容などを記載します。
厚生労働省は、計画書の内容について不備がないか調査し、問題がある場合は変更や修正の指示を出します。
治験審査委員会(IRB)の開催
次に、治験審査委員会(IRB、Institutional Review Board)の審査を受けます。IRBは科学的な視点や倫理的な視点から、治験が正しく実施できるかを審査する委員会で、製薬会社や開発に関わる研究者や医師などから独立した第三者機関として設けられます。
IRBは被験者の人権を保護し安全性に配慮するために、医学の専門知識を有する専門委員、医療の専門知識がない非専門委員、医療機関と利害関係がない外部委員の3種類の委員すべてを含む5人以上のメンバーで構成されることになっています。
IRBでは治験の計画が科学的であるかどうか、医療機関が計画通りに実施できる内容であるか、被験者の人権が守られているか、被験者の治療に不利益になる内容ではないかなどの点が審議されます。IRBの承認を得たのちに、関係部門への説明と調整や被験者の募集と選定を行います。
治験実施施設の体制整備
IRBの審査が通ると治験実施医療機関の関係部門への説明と調整を行います。GCP第35条では治験を実施する医療機関が満たさなければならない要件について定められています。十分な検査と臨床観察を行える設備とスタッフがいること、緊急時に必要な措置を取れること、治験を行う医療スタッフを支えるだけの職員が十分に配置されていることなどが必要になります。
参加者の同意
被験者を選定したら、治験を実施する前に被験者に対し、「インフォームド・コンセント」として、治験の目的や治験方法、予想される効果や起こる可能性がある副作用など新薬候補の特徴、治験に参加しない場合の治療法などを詳しく説明し、説明内容が記載された文書を渡す必要があります。その上で、文書によって被験者からの同意を得ることが義務づけられています。
重大な副作用の報告
治験の過程でこれまでに知られていなかった重大な副作用が発現した場合は製薬会社から厚生労働省に報告する義務があります。その場合、必要な治療と適切な補償が行われ、必要に応じて治験計画の見直しや治験の中止などが行われます。
製薬会社による確認
新薬候補の治験を依頼した製薬会社の担当者は、治験を実施する医療機関に出向いて進行状況を調査し、GCPのルールや承認された治験実施計画書に沿って適正に進められているかどうかを確認します。この確認は治験中に何度か行います。また、この治験を承認したIRBも治験が適切に行われているかどうかを1年に1回以上審査します。
まとめ
新薬開発の最終段階となる治験においては、国が定めた「GCP」を守らなければなりません。GCPでは治験計画書を提出し、実施医療機関などについてあらかじめ審査を受けるなどの実施要項が細かく定められています。また、被験者に文書で同意を得ることや、重大な副作用は国に報告するなど、人権が最優先となるよう配慮されています。