医療・製薬

電子カルテとは?その機能や電子カルテ3原則について

診療所やクリニックを運営する方の中には、電子カルテの導入を検討している人もいるでしょう。本記事では、電子カルテとは何か、また、導入のメリットやデメリット、さらに、導入時に守らなくてはいけない、重要な三原則についても解説していきます。

電子カルテとは?その機能や電子カルテ3原則について

先端技術とAI倫理がもたらす「より良い医療のかたち」

医療現場に普及する「電子カルテ」とは

そもそも「カルテ」とは、病院における患者の診療記録のことですが、従来は紙の作成が一般的でした。それを電子化したものが「電子カルテ」です。CTやMRI検査などの画像データが増えたことなどが原因で、紙のカルテでは作業効率が難しくなってきました。作業効率や正確性などの品質向上も実現できる電子カルテは、最近多くの病院や診療所などでも取り扱われるようになってきています。

紙では量が多くなるにつれて保管スペースがなくなっていったり、人によっては字が読みにくく、間違った情報がスタッフに伝わってしまったりするなどの懸念がありますが、電子カルテでは、そのような問題を解消できます。

また、紙に記入していた情報をタブレット端末やパソコンなどの電子機器を使って作成、保管できます。さらに医療会計システムや薬剤システムなどとオンラインで連携させることができ、作業効率化にも寄与しているといえるでしょう。

電子カルテは病院向けとクリニック向けのものに分けられ、備わっている機能が異なります。導入する際は必要な機能が含まれているものを取り入れるように注意することが大切です。

新しい診療所では過去の紙の情報が何もないため電子カルテの導入は比較的簡単ですが、古くから紙のカルテのみを利用している診療所では、すでにある大量の「紙の情報」をデータにする作業や、設備投資費用の面も考慮しなくてはいけないでしょう。では電子カルテはどの程度の普及率なのか見てみましょう。

電子カルテの普及率

近年では導入する病院も増加傾向です。厚生労働省が行った調査によると、平成29年の段階で病床規模が400床以上のところでは85.4%の普及率となっています。平成20年には38.8%であったことを考えても、約10年の間に大きく増加していることが分かります。

200床未満の病院においては平成29年で37.0%という結果が出ており、大規模病院と比較するとあまり多くはありませんが、平成20年時点では8.9%と1割にも届いていないことを考慮すると、かなり増加しているといえるでしょう。一般診療所では、平成20年時点で14.7%、平成29年で41.6%と、こちらも約3倍近く拡大しています。新規開業の機関では開業時に導入するケースも増えているため、今後も増加していくと考えられます。

電子カルテを導入するメリット

電子カルテを導入するメリットはさまざまありますが、まっさきに挙げられるのは、診療業務の効率化とヒューマンエラーの削減を目指せることでしょう。

たとえば電子カルテを使うことで、複数人で同じカルテを閲覧することができ、情報共有が簡単にできます。また、ネットワーク環境があれば、外出先であってもパソコンやタブレット端末からアクセスでき、カルテが手元になくても、情報を確認したいときにすぐにチェック可能です。手書きではないため、字が読みにくいという心配もありません。

患者情報はデータベースで管理しているので、一元管理ができ、検索をスムーズに進めることもできます。また、検査結果や検査画像なども一元管理可能です。このような管理体制を進めることで情報の紛失を防げるだけでなく、受付や会計業務をスムーズにする効果も期待できます。紹介状や診断書などの書類のテンプレートもあるため、診察する医師にとっても、作業時間や手間の短縮になります。

スタッフがカルテを見つける時間も、紙の場合と比べて短縮できます。患者を待たせることもなく、空いた時間でほかの業務を行えるでしょう。患者数が多い機関であれば、保管しているカルテも膨大なため、紙では探し出すのにも時間がかかってしまいますが、電子カルテではそのような問題が起こりにくくなります。

医療の安全性を向上させることや医療機関との連携を図れることもメリットといえます。紙カルテでは、書き間違いや読み間違いなどのヒューマンエラーが起こりやすいことが懸念されますが、電子カルテではそのような心配もありません。診療計画や投薬情報などが分かりやすく表示されるため、誰にでも読みやすくなります。特に処方薬については、薬品選択画面から選べたり、投薬も用法や用量の規定値を確認したりできるため、間違いが起きにくいシステムになります。これにより、投薬ミスなどを防げるでしょう。

また、電子カルテであれば、各種医療機関との情報共有が容易になります。地域包括ケアシステムを構築していく上でも、情報共有がスムーズにできることは重要です。国などと連携して医療体制を整える際にも、そのようなシステムがあれば効率よく進められることが期待できます。

電子カルテを導入するデメリット

一方で電子カルテにはデメリットもあります。導入費用がかかってしまうことやシステム操作の学習が必要になること、ほかにも、移行の手間やセキュリティリスク対策に関する懸念などが挙げられます。

まず、費用についてはシステム本体に加えて、パソコンなどの電子機器やネットワークインフラを用意する費用がかかります。初期費用だけでなく、サーバー更新料など、毎月の維持費が必要です。なるべく最小限の予算での導入を考えている場合は、必要な機能だけ入っているものを選ぶか、費用とメリットを考えて、かかる費用よりもメリットが大きい場合に導入することを検討しましょう。

また、これまで紙のカルテに慣れていた人は、電子化に戸惑いを感じるかもしれません。また、パソコン操作に抵抗がある人は、慣れるまでに時間がかかるかもしれません。便利なものでも、実際に使う人が使いやすくなければならないため、現場の様子を見ながら検討することが大切です。導入する場合は、パソコン操作に慣れていない人でもすぐに使いこなせそうか、画面は見やすいかなどもチェックするようにしましょう。

移行の手間がかかる点については、新規開業のところでは問題ありませんが、紙のカルテを使っている病院が電子カルテに移行する場合、すでにある紙のデータをパソコンに入れ直さなくてはいけません。データの量が多い場合は転記するのにも時間と手間がかかってしまうことが懸念事項です。またその際の転記ミスにも注意が必要です。

また、一元管理されていることで、自分の担当ではない部門の患者の情報を知り得ることができる点や、不正アクセスによる情報流出の危険がある点もデメリットになります。簡単にアクセスできるメリットは同時にデメリットになってしまう場合もあります。セキュリティ対策をしっかりと講じて防がなくてはいけません。

電子カルテの使用で守るべき三原則

電子カルテを導入する場合は「電子保存の三原則」を守らなくてはいけない決まりがあります。厚生労働省の医療情報システムに関するガイドライン「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に明記されています。ここからは、その三原則として定められている真正性・見読性・保存性について詳しく解説します。

1.真正性とは

真正性とは、記入した人物が分かるようにし、責任の所在を明らかにしておくことと、虚偽入力を防ぐことです。これは「いつ」「だれが」入力したのか、責任の所在を分かるようにしておくためです。万が一訴訟などになったときでも情報の信頼性を保持できます。

虚偽入力や消去を防ぐためには、電子カルテの扱い方の教育を徹底したり、故意の改ざんを防ぐために入力履歴を残したりするなどの工夫が必要です。システムには第三者からの不正ログインを防止するためのセキュリティシステムが搭載されているものもあります。システムに堅牢なセキュリティ対策が講じられているか確認しましょう。

ほかにも、記録の入力者と確定者それぞれに権限を与え、正しい記録ができているかをお互いチェックし合うことで、より信頼性を高められます。真正性を保持することは、正確な情報が記入され、信頼できるカルテであるためにも重要なポイントです。

2.見読性とは

見読性はデータの内容をすぐに確認でき、必要な場合は印刷できることを指します。患者の診療時や監査で必要になった場合に、見やすい書面として印刷できることが求められます。電子カルテになっても、紙のカルテと同等の質を保たなくてはいけない決まりとされているため、見読性が重視されるのです。

なお、電子カルテではシステムトラブルなど、何らかの不具合が起きてデータが壊れない限りは情報を見られなくなる心配はほとんどありませんが、万が一データが壊れてしまったときのためにも、次に紹介する保存性が重要になります。

3.保存性とは

保存性とは、カルテに入力された情報が真正性を持ち、保存期間中は復元できる状態で保存しておくことです。コンピュータウイルスやソフトウェアの不具合などで、保存性を保てなくなる恐れがあるため、気を付けなくてはいけません。

保存性は真正性と見読性にも深く関わっています。この2つを守るためにも、定期的にデータのバックアップをしたり、クラウド型システムを用いてネットに上のデータセンターに保存したりして、万が一の事態に備えておくことが重要です。

第三者によるアクセスを許してしまうと、データが不用意に書き換えられてしまう恐れもあります。紙のカルテと異なり、改ざんの証拠が残りにくくなっています。知らぬ間に改ざんされ、それに気付かないままデータを活用してしまう危険性もあるので、セキュリティ対策を強固にすることが非常に大切です。

まとめ

医療現場では電子カルテが徐々に普及しています。作業効率化をはじめとする多くのメリットがある一方、デメリットもあるため、両者をよく把握してから導入の検討をするようにしましょう。なお、導入の際は、電子保存の三原則をしっかり守るように気を付けましょう。

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