教育DXとは、デジタル技術を活用して時代に対応した教育を確立することです。これは、単に学校現場で行われていることの全てをデジタルに置き換えるという意味ではありません。しかし、正確に教育DXの意味を正しく把握している人は少ないかもしれません。
本記事では教育DXの内容や指導者・児童生徒・保護者にとってのメリット・課題、導入されている3つの事例について徹底的に解説します。
文部科学省も推進している「教育DX」とは?
2020年9月に発足した菅内閣は「政府一体でデジタル化を強力に推進する」という方針を表明したのはご存知でしょうか。
これを受け、文部科学省はデジタル化推進本部を設置し「教育DX」の推進をはじめます。DXの概要や教育DXの内容についてまとめます。
DX=デジタル・トランスフォーメーションとは?
DXとは、スウェーデンのウメオ大学のストルターマン教授が2004年に提唱した概念です。ひとことでいえばITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるということ。
DXは単にアナログデータをPCで扱えるデータにしたり(デジタイゼーション)、デジタル化したデータを活用したりする(デジタライゼーション)だけにとどまらず、国民生活そのものを根底から覆すようなイノベーションも含む概念です。
つまり、ITの力で社会全体を変革するのがDXだといえるでしょう。
教育DXとはデジタルを活用した教育現場の変革
教育DXとはデジタル技術を活用した教育改革であり、情報化時代に対応した教育を確立することです。タブレットなどの情報端末を1人1台所有することにより、端末を活用したデジタルならではの学びを実現することも教育DXの一つと言えるでしょう。
文部科学省は2020年からMEXCBT(メクビット) というオンライン学習システムの試作版を公開し、希望する全国の小中学校で試験運用を開始しました。試作版には国が作成した約2000問の問題が搭載されていて 、生徒の端末からアクセス可能です。
教育DXが進むと、生徒側から積極的にアクセスできる仕組みが運用されると期待されています。
文部科学省による教育DXプランの内容を解説
文部科学省は具体的な教育DXプランを作成し実行に移そうと考えています。ここからは初等中等教育と高等教育でそれぞれ進められている教育DX推進プランについて紹介します。
初等中等教育における教育DX推進プラン
小学校・中学校では、1人1台端末と学校における高速通信ネットワークの整備を目指す「GIGAスクール構想」の実現やデジタル教科書の実現を目指しています。
GIGAスクール構想については、文部科学省に「GIGA StuDX推進チーム」を設置することで実現を図っているところです。また、デジタル教科書を導入することで、児童生徒の学びの充実や障害を持った子どもたちの学習支援を目指します。
高等教育における教育DX推進プラン
高等教育における教育DX推進のポイントは以下の4点です。
- デジタル技術を活用した高等教育の高度化・成果の普及で授業価値の最大化
- ハードウェアの整備で施設内の回線や電源を強化し対面とオンラインの両方の良さを発揮できる環境を整える
- 数理・データサイエンス・AIを扱う能力の育成
- 大学入試におけるデジタルの活用
このうち、デジタル技術を活用した高等教育について文部科学省が実施案を募集したところ、252件の申請があり、そのうち54の事業が選定されました。他の点についても試行錯誤しつつ、高等教育のDX化が模索されます。
教育DX導入による効果・メリットは?
教育DXを導入することで具体的にどのような効果やメリットが得られるのでしょうか。ここからは、教育者のメリット・生徒のメリット・保護者のメリットについてそれぞれ解説します。
教育者にとっての教育DX導入のメリット
教育DXの導入は教員をはじめとする教育者にとって大きなメリットをもたらします。生徒一人ひとりに焦点を合わせた指導を実施でき、事務作業の効率化が期待できるからです。それぞれの内容についてまとめます。
生徒個人個人に合わせた教育を行える
1つ目のメリットは生徒個々人の特徴に合わせた教育ができることです。教育DXの導入により児童・生徒の学習データの蓄積が容易になるでしょう。
定期テストのデータだけではなく、日々実施する小テストの達成状況や出席記録、生徒の様子などを入力することで個々の生徒の情報が蓄積されます。
こうして蓄積されたデータを分析することで、いままで教師が感覚的に把握していた生徒の個性がデータ化され客観的に把握することが容易になり、個々人の特性に合わせた指導の充実を図ることが可能です。
採点や集計などの事務作業を効率化できる
2つ目のメリットは採点や集計などの事務作業を効率化できることです。日々実施される小テストのデータ入力や定期テストの採点・集計、学期末・学年末ごとの成績評価などの事務作業は教員の大きな負担となっていました。
これらの作業を自動化し、教員が単純作業に従事する時間を大幅に削減することで、教師が授業研究などに集中するための時間的余裕を確保できます。
また、コンピュータ上で行うテストが普及すれば印刷・回収・採点の業務も不要となり、より業務効率化に繋がるでしょう。
生徒にとっての教育DX導入のメリット
教育DX導入は教育者だけではなく生徒にとっても大きなメリットをもたらします。授業の受け方の多様化や知識を得る方法の多様化につながり、いつでもどこでも自分が望む教育を受けられるようになるからです。
生徒目線のメリットを詳しく見ていきましょう。
いつでもどこでも好きな授業を受けられる
1つ目のメリットはいつでもどこでも好きな授業を受けられることです。
パンデミックの発生がきっかけとなり、リモートで遠隔地とコミュニケーションをとる技術が急速な進歩を遂げた結果、リモート授業の整備が進みました。これにより、長距離通学が必要な場所に住む生徒や体が不自由な生徒でも質の高い教育を受ける機会が増えたのです。
また、移動時間が不要となり、その時間を自宅学習に充てることができるのもメリットといえるでしょう。
紙の教科書よりも多くの情報に触れられる
2つ目のメリットは紙の教科書よりも多くの情報に触れられるということです。文部科学省はGIGAスクール構想の中でデジタル教科書の普及を目指していますが、デジタル教科書は従来型の紙の教科書と比べると多くの情報を生徒に伝えられます。
具体的には、音声・画像・アニメーション・動画といった紙の媒体では伝えにくいものでもデジタル教科書なら閲覧可能です。視覚的な理解を取り入れることで、いままでの教室の授業では伝えにくかった内容も扱えるようになるため、生徒の理解が進むと期待されます。
保護者にとっての教育DX導入のメリット
教育DXが進むことは保護者にとってもメリットをもたらします。これまでは通知表など限られた方法でしか知りえなかった子どもの学習状況や学校の様子の把握ができ、欠席・遅刻の連絡をスムーズにできるようになるからです。
保護者目線のメリットも詳しく見ていきましょう。
学習状況を把握することによる安心感を得られる
1つ目のメリットは子どもの学習状況を把握できることです。保護者にとって、子どもが学校でどのように過ごしているかを知るすべは限られています。
通常は保護者と子どものコミュニケーションにより学校での様子を把握しますが、保護者が仕事などで忙しかったり、子どもとの意思疎通がうまく取れていなかったりすると、学校での様子がわかりにくくなってしまうこともあるでしょう。
教育DXを導入し、成績状況や学校での様子を学校と保護者が共有することで、保護者は安心して子どもを教育現場に預けやすくなります。
欠席や遅刻などの連絡を効率的に行える
2つ目のメリットは欠席や遅刻などの連絡を効率よく行えることです。
たとえば、インフルエンザなどの流行で学級閉鎖になるときの連絡や、家庭の都合・生徒の体調により学校に欠席・遅刻の連絡をしなければならないとき、いままでのようにその都度、電話連絡する手間を省くことができます。
また、災害発生時などに学校からの情報提供を受けやすくなるため、自宅待機などの判断も簡単になるでしょう。
教育DXの導入には課題もある
教育DXは教育者・生徒・保護者の3者に数々のメリットをもたらしますが、解決するべき課題も残されています。主な課題はインフラ整備やセキュリティ対策、指導者の教育DXに関する知識・経験の不足です。
ここからは課題点について詳しく解説します。
インフラの整備や維持に時間とコストがかかる
1つ目の課題はインフラ整備や維持にコストがかかることです。インフラ整備面についてはGIGAスクール構想の進展により全国の98.5%の小中学校で1人1台端末が実現するという成果を出しました。
その一方、今後は整備した端末の維持にコストがかかります。毎年の機器更新やソフトウェアの更新、破損したときの保証などのコストを見積もらなければなりません。
万全なセキュリティ対策が必要になる
2つ目の課題はセキュリティ対策です。学校には教職員の人事情報や児童生徒の学習記録、評定一覧やテストの記録といった成績関係資料、健康診断の結果、事故報告書、緊急連絡先、など守るべき情報が多数あります。今後、学校の持つ重要な情報を狙う犯罪も想定しなければならず、情報を守るための高い水準のセキュリティ対策が必要となるでしょう。
指導者のリテラシー問題や知識・経験不足も課題に
3つ目の課題は指導者のリテラシーや知識・経験の不足です。端末導入や通信環境が整備されても、指導者である教員にICT(情報通信技術)に関する知識や経験がない場合、十分活用できないという課題があります。
文部科学省は「ICT活⽤指導⼒向上研修実施モデル」などを提示して教員のリテラシー向上を図っていますが道半ばといった状態です。
【事例】教育DXは具体的にどのように実現する?
現在行われている教育DXとして3つの事例をとりあげます。
- 1つ目の事例は「Classi」です。Classiでできるのは生徒の目標設定や指導者による活動記録の把握などです。生徒が自分で活用できる単元テスト、指導者による生徒への対応を記録する生徒カルテといった情報を蓄積し、学校の活動全般をサポートします。
- 2つ目の事例は「atama+」で、全国3200以上の学習塾の教室で採用されています。AIが生徒の得意不得意を把握し、専用カリキュラムを作成して弱点克服をサポートしてくれるというものです。
- 3つ目の事例はCBTです。CBTとはコンピュータを使った試験方式のことです。採点処理の労力を大幅に削減できる他、動画や音声を使った試験の実施も可能となります。
このように教育DXは、着実に教育現場をより良い環境へと変化させているのです。
教育DXでよく聞く「GIGAスクール構想」とは?
GIGAスクール構想とは文部科学省が推進する政策のことです。おさえておきたいポイントは2点あります。
1点目は1人1台の端末を用意し、高速大容量ネットワークを一体的に整備することです。これについては、先ほど述べた通り着実に進んでいます。
2点目はICTの活用により教師・児童生徒の力を最大限引き出すことです。整備したツールを使いこなし、教育の場で活用する試みについては試行錯誤が続いており、今後の活用が期待されています。
まとめ
今回は教育DXの内容やメリット・課題についてまとめました。
教育DXの導入により指導者・児童生徒・保護者の3者に大きなメリットをもたらすと期待される一方、それを使いこなす人材の育成やセキュリティの問題などについて解決すべき課題も残されています。
文部科学省が推進するGIGAスクール構想により、今以上に教育DXが推し進められ、教師や児童生徒が持つ力を引き出すことが期待されています。
今回見てきたような教育のDX化は国の政策として急ピッチで進められています。改革のスピードは予想以上に速いため、何らかの手を打たなければ大きな流れに乗り遅れる可能性があります。準備が整っていなければ、教育ITの分野に強いビジネスパートナーと協力し、少しでも早く教育DXの波に乗り、改革を推し進める必要があるのではないでしょうか。