企業が安定して利益を上げ続けるためには、定期的に業務プロセスの改善を行っていく必要があります。しかし中には、それが上手くできずお悩みの方も多いのではないでしょうか。そこで注目されているのが「ビジネスプロセス志向」です。本記事ではビジネスプロセス志向の概要と、それを構築するうえで重要な手法について詳しく解説します。
ビジネスプロセス志向とは?
一般的に「ビジネスプロセス志向」とは、あらゆる業務フローを「ビジネスプロセス」として標準化し、一連の流れを「見える化」することをいいます。ただし、単なる作業手順ではなく、業務フローを実行するための人や組織、リソース、ビジネスルールなども関わってきます。これらのビジネスプロセスをもとに、業務やマネジメントの仕組みを設計し、実行することを目指します。
ビジネスプロセス志向と対極に位置するものが、「作業マニュアルの未整備」「熟練者の経験則に頼った作業」「営業プロセスの非標準化」などです。マニュアル化や標準化による「見える化」をせず、個人の経験則に頼った業務フローは再現性が低く、ビジネスのパフォーマンス低下を招きます。業種によっては事故につながるリスクもあるのです。
ビジネスプロセス志向自体は新しい考え方ではありませんが、業務効率化のためITを導入する企業が増えたことで、改めて自社の業務フローや管理の在り方を検討する機会が増しています。ITソリューションでビジネスの価値を最大限に高めるビジネスアナリシスの提案は、多くが既存の業務フローをビジネスプロセス志向に変えていくものです。
ビジネスプロセス志向の具体的な内容
ビジネスプロセス志向の考え方をわかりやすく解説するために、日常的な業務フローを例に挙げてみましょう。通販会社が商品を発送する場合、「発送伝票に宛名を書く」「商品を梱包する」「集荷を依頼する」「発送する」などのプロセスが想定されます。この場合、ビジネスプロセスの目的は「商品の発送」です。また、作業フローに入力(入口)と出力(出口)があるので、ほかのプロセスとつなげられます。
商品の発送プロセスであれば、請求書発行や集金プロセスとつなげて、代金回収という上位のビジネスプロセスにつながります。商品の発送プロセスは、仮に送り先が変わっても、変わらずに何度でも繰り返し同じ成果を得ることが可能です。そして、商品の発送依頼から顧客に届くまでの時間を測定すれば、作業フローの見直しや改善などに役立ちます。
ビジネスプロセスマネジメントでビジネスプロセス志向を構築
ビジネスプロセス志向を具体的に作り上げていくうえで有効なのが、「ビジネスプロセスマネジメント(BPM)」の手法です。ここでは、ビジネスプロセスマネジメントの概要を解説します。
ビジネスプロセスマネジメント(BPM)とは
ビジネスプロセスマネジメントとは、企業の戦略に即して業務プロセスを整合させるために、業務プロセスの分析を行い、最適化を目指して継続的に改善するサイクルを確立し、運営する総合的なマネジメント手法です。業務の実態に合った仕事のやり方を自社で設計・構築して、現場で実践しながら検証して改善を図り、業務の成果を上げていきます。
企業戦略やビジネスモデルを目的と定義し、現場レベルで実践する場合、社員はどのように仕事をすべきか、標準化したプロセスとしてフローを可視化します。そして、これを社内に浸透・定着させ、順守状況の評価を行います。ビジネスプロセスマネジメントで最適化したプロセスが展開されることで、ガバナンス基盤とモニタリング、PDCAの基盤が確立します。その結果、高精度かつ効率的な業務フローが実現され、現場主導で業務改善を迅速に成し遂げる企業体質への転換が可能となるのです。
企業の合併や買収など、激変するビジネスの現場において、企業は絶えずプロセスの標準化の見直しを迫られます。ビジネスプロセスマネジメントで経営戦略や業務プロセス、ITツールの整合性を図り、継続的な改善を進めることが必要です。
ビジネスプロセスマネジメント(BPM)で実現できること
では、ビジネスプロセスマネジメントを取り入れることで、具体的にどのようなことが実現できるのでしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。
リソースの最適化
人や設備、情報、ツールなどの社内リソースの最適化は、企業活動にとって大変重要な課題です。社内リソースが最適化されることで、提供している商品やサービスの品質向上につながり、売り上げや収益のアップを目指せます。
そのためには、「保有する設備やIT、社員のスキルなどを適材適所で活用できているか」「ムダな業務フローやコストが生じていないか」などを常に点検することが重要です。ビジネスプロセスマネジメントを取り入れると、設備やIT、社員のスキルなどを可視化し、これらの社内リソースの配分を最適化できます。
また、社員が自分の担当業務をプロセスおよび機能中心に捉えるようになれば、経験を重ねるごとに、その機能を高めるための工夫をするようになり、仕事を通して成長できます。機能中心志向でないと、取引先や商品などに関心が向かい、業務改善を図るのが難しいでしょう。品質を世界標準化するISOや、経済産業省が唱える業務基盤の最適化もプロセス志向によるものです。
業務間連携の強化
社員は社内のビジネスプロセスを理解することにより、各部門や各部署の連携によって、自社の業務が成り立っていることがわかります。ビジネスプロセスマネジメントでは、プロセスに潜む課題や問題点を把握し、目標に向けた改善活動を担当部門だけでなく関係部門とも共有できます。データ主導ではなく、現場から上がってくる課題を改善するアプローチなので、現場の理解も得やすく、関係部門と相互に理解し改善を進めることが可能です。
さらに、部門や部署ごとに各プロセスの方向性を理解できるので、連携強化にも役立ちます。たとえば、営業部門では「大口の受注を成立させて製造部門に仕事を回したい」、製造部門では「コストを抑えつつ高品質の製品を生産したい」といった具合に、それぞれの方向性を定めています。これでは会社全体として足並みが揃いません。各プロセスの方向性を理解できれば、営業部門は「価格を抑えた商品を大量受注する」、製造部門は「営業部門と連携し、顧客の声を反映した高品質・高単価の商品を開発する」といった方針も立てられます。
変化への俊敏性
経済状況や市場ニーズの大きな変化に遭遇した際、企業は経営方針を大きく変更しなければなりません。近年に見られるデジタル化やリモートワークの普及なども、その一例です。
ビジネスプロセスマネジメントを取り入れていれば、プロセスの組み換えや交換を容易に行えるため、経営方針を急きょ変更しなければならない場合でも、ビジネスプロセスを速やかに変更できます。IT化により、ビジネスのトレンドやモデルは常に移り変わっているため、業務プロセスの見直しを定期的に行わないと変化に対応できなくなるでしょう。
BPMシステムを導入し、業務プロセスをモデル化しておけば、必要に応じてプロセスの変更や追加が容易となります。ほかのシステムとのデータ送受信も容易にできるため、新たなプログラム開発の手間やコストを抑えつつ、新しいビジネスに対応できる業務システムをリリースすることも可能です。ビジネスプロセスを可視化し、評価しておくことで、社内外の環境変化にスムーズに対応できるのです。
コンプライアンス強化
「コンプライアンス」は、企業経営においては「法令遵守」を意味する語として理解されています。しかし最近では、単に既存の法律やルールなど明文化された法令を守るだけでなく、情報漏えいリスクに対処することや、社会規範・倫理観・道徳観に反しない広告活動など、対象がより広範になっています。コンプライアンスと似ているのが「ガバナンス」で、こちらは企業経営の領域において「企業統治」と訳され、コンプライアンスを強化するために行われます。
BPMシステムを導入し、標準プロセスを決める際は、このコンプライアンス要件を満たす必要があります。プロセスを設計・構築する過程でモニタリングも行い、ミスが発生した場合や、コンプライアンス違反が起きた場合の対策も設定することが重要です。たとえば、業務プロセスでデータの取り扱いや適切な管理を行うために、情報漏えいのリスクは排除しなければなりません。業務プロセスを細かく定めることで、コンプライアンス違反のリスクを軽減できます。
属人的ノウハウの伝承
業務が属人化している場合、ノウハウが正しく引き継ぎされず、保守や運用において大きなトラブルにつながります。前任者が異動したり退職したりすると、後任者はスムーズに業務を実施できないリスクがあります。
ビジネスプロセスマネジメントを導入すれば、各業務プロセスの中で属人的な要素を探し出し、そのノウハウをマニュアル化することが可能です。業務プロセスをモデル化できるので、後任者やほかの社員が業務の流れやルールを理解し、共有できます。事業の継続性も確保されるため、人材の流動化にも対応しやすくなります。
全体最適化
ビジネスプロセスマネジメントで自社の業務を可視化すれば、他部門を横断した形で、全社的な業務プロセスを俯瞰できるようになります。縦割りの会社組織が多い日本では、部門をまたいだ業務プロセスの全体像が不明瞭な部分も少なくありません。
ビジネスプロセスマネジメントにより自社全体の業務を俯瞰できれば、各プロセスの課題も発見しやすくなります。管理者だけでなく、社員全員が業務プロセスを理解・共有できるため、全社的に業務効率化や改善のPDCAサイクルにつながり、全体の最適化を目指せるでしょう。
差別化と標準化
ビジネスプロセスマネジメントで業務プロセスが明確になると、標準化に適した部分と差別化できる部分の選別が明確になります。差別化できる部分は、他社にない特徴や持ち味であり、独自性を打ち出すために欠かせません。一方、標準化に適した部分は業務効率化を進め、改善を繰り返し、低コスト化につなげられます。業務プロセスの標準化と差別化を明確に選別することは、事業戦略を打ち立てるうえで有効に働き、企業の競争力向上に寄与します。
まとめ
企業はビジネスプロセスマネジメントを取り入れることで、社内リソースの最適化や業務間の連携強化、経営環境の変化への対応、事業継続性の確保、全社的な業務効率化など、さまざまな課題の解決が可能です。継続的に業務プロセスの改善を図るには、ビジネスプロセス志向を社内で広めていく必要があるため、積極的に取り組んでいきましょう。
また、IFSジャパン株式会社では、ビジネスプロセス志向に基づき、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を図るためのセミナーを開催したり、業務最適化のための様々なソリューションを提供したりしています。ビジネスプロセス志向によって業務フリーの効率化を目指す企業の方はぜひIFSジャパン株式会社の情報をチェックされてみてはいかがでしょうか。