社会的な混乱により環境が大きく変化した中で、いかに事業を存続していくかは企業にとって重要な課題です。起こり得るリスクに備えた対策が不可欠となった現代では、事業の収益性を上げる事業多角化に取り組む企業が増えています。本記事では、事業多角化の基礎知識、メリットとデメリットについて解説します。
事業多角化とは
事業多角化とは、既存の事業と異なる市場へ進出してシェアの拡大を狙い、収益性を高めていく経営戦略です。近年では、テクノロジーの急速な発展により、ビジネスを取り巻く環境が急速に変化するようになりました。
新しい事業分野が生まれ、従来とは違う分野へ進出する機会も創出されやすくなっています。多角化に踏み出す理由は、ポジティブなものばかりではありません。既存事業の停滞に伴い、事業多角化を検討する企業も少なくないでしょう。
また、新たな事業分野に魅力を感じたり、有効活用できていない保有資源を活かしたりする目的で、新規事業に取り組むケースもあります。このように事業多角化に取り組む意図は、企業によって多種多様です。
事業多角化の分類
企業の成長戦略となる多角化は、4つに細分化されます。自社の保有しているノウハウや経営資源を活かし、新たな製品を開発して提供するのは「水平型多角化」です。既存顧客に似たタイプの顧客を対象に、新たな知見を取り入れてつくった製品を提案・提供する戦略は「垂直型多角化」と呼ばれます。
また、既存のノウハウと経営資源を活かして新製品をつくった場合であっても、これまで接点のなかった新規顧客を対象に販売活動を行うのは「集中型多角化」です。さらに、既存の顧客もノウハウも全くない分野へと進出し、新規事業を展開する戦略は「コングロマリット型多角化(集成型多角化)」と呼ばれ、それぞれメリットに違いがあります。
事業多角化によるメリット
事業多角化を目指す企業経営者にとって、どのようなメリットがもたらされるかは気になるところです。各事業のバランス管理が常に求められるなど、どの類型であってもリスクがないとは言い切れません。メリットを最大限に得るためには、新規事業を対象としたプロジェクトチームの編成や社内ベンチャーの設置、事業部門に権限を委譲するなど、組織の体制を見直す必要もありそうです。
収益が拡大する
事業の成長率は、ある程度までいくと鈍化するといわれています。このリスクを解消しようと成熟期に経営資源を再投入しても、なかなか思うように伸びないケースも少なくありません。このようなリスクに対しては、事業の成熟期に新規事業へと経営資源を投じるほうが有効です。
新規事業は成長の余地があるため、新たな主力収益源となる可能性が大いにあります。また商品には、時間の経過に伴い衰退していくプロダクトライフサイクル(PLC)というものが存在します。事業を多角化しておけば、プロダクトライフサイクルにバラつきを持たせられるため、経営が安定しやすいことも利点といえるでしょう。
リスクを分散できる
予測不可能な環境の変化に対して、リスク分散ができる点も多角化の大きなメリットです。主力事業がひとつしかない場合には、その事業が頓挫したときに収益源を失ってしまい、会社そのものが倒れてしまうリスクがあります。
一方、ビジネスを複数展開していれば、縮小や撤退を余儀なくされた事業の経営資源を、別の事業へと振り替えることも可能です。企業の経営を揺るがす要因は、法改正や技術革新、顧客ニーズなどさまざまです。事業を多角化しておけば、企業環境の変化により受けるダメージを最小限に抑えられます。
シナジー効果が期待できる
多角化戦略により、リソースを最大限に活用できれば、企業全体の活性化につながるシナジー効果が期待できます。複数の事業における取り組みが互いによい方向へと作用し、より大きな収益につながる可能性が高まるのです。
流通経路や商標を共有する「販売シナジー」、経営リソースの効率化につながる「操業シナジー」、資源を共通化することにより得られる「投資シナジー」、スキルやノウハウを共有する「マネジメントシナジー」などの効果で利益の向上が期待できます。
事業多角化におけるデメリット・注意点
事業多角化には企業にとって魅力的なメリットがいくつもありますが、デメリットの存在も忘れてはなりません。デメリットに対する理解をしっかりと深めておけば、有用性の高いリスク対策を講じたうえで多角化戦略に注力できるでしょう。
コストがかかる
新規事業の立ち上げには、新商品の開発や市場の調査に要する費用の投資が必要です。特に、既存ビジネスと関連性のないジャンルで事業を展開するとなれば、これまで培ってきたノウハウが活かせません。また、新たな事業を軌道に乗せるまでには、多額なコストがかかるものです。テストマーケティングを取り入れるなど、余分な費用をかけないための工夫が求められます。
ブランディングの不明瞭化
さまざまな事業を手掛けることにより、これまで築き上げてきたブランドイメージが棄損するリスクもあります。ブランドイメージが崩れてしまえば、顧客ロイヤルティの低下を引き起こしかねません。自社に根強いファンを多く持つブランドがあるのなら、既存のブランドとは切り離して新たなブランドを立ち上げるなど、既存顧客に対する配慮も有効な施策です。
事業の多角化を成功させるための条件
事業の多角化を成功させるには、あらゆるリスクに対する備えが必要です。多角化の戦略が成功したかどうかは、すぐに判断できません。新しい事業に乗り出す前に、あらかじめ何が不足しているのかをしっかりと分析しておけば、成功の可能性が高まります。
スモールスタートを意識する
スモールスタートを採用すれば、失敗したときの影響を最小限に抑えられます。事業多角化が失敗すると、投入したリソースや時間が無駄になるだけでなく、場合によっては負債を抱えるおそれもあるため注意が必要です。ビジネスにリスクはついて回るものですが、ダメージを軽減するための備えが次の機会へとつながります。少額から資金の投入を始め、軌道に乗ってきたタイミングでリソースを追加投入するほうが現実的です。
M&Aを利用する
競争が激化する市場において、事業の成長に要する期間を短縮できるM&Aの利用は有効です。多額の資金がかかるものの、進出したい分野のビジネスに関して豊富なノウハウと実績を持つ企業を手に入れれば、新規参入であっても成功できる確率は高まります。
スムーズに吸収合併を進めていくには、M&Aに関するノウハウも必要です。不安があれば、仲介会社を利用するのもひとつの方法です。無理なく安全に新たな分野へ参入するという点では、提携やアウトソーシングも選択肢に入れてみるとよいでしょう。
事業多角化で利用したい補助金
中小企業庁では、高齢化社会や新型コロナウイルス感染症の影響に対応するため「中小M&A推進計画」を2021年に取りまとめました。この中では、高齢化対策に加え、新型コロナウイルス感染症により中小企業が打撃を受けた影響への対策も講じられています。M&Aに補助金が活用できるケースもあるようです。また、事業多角化の支援として、補助金を用意している自治体もあるので、対象に含まれるかチェックしてみてはいかがでしょうか。
県内企業多角化・新展開応援補助金|鳥取県
鳥取県では、多角化戦略を打ち出して新たな分野に進出する企業に向けた補助金が用意されています。対象事業者は、新型コロナウイルスにより経済的な影響を受けた企業で、補助金の交付にふさわしいと認められた事業が対象です。
認められている用途は、新たな商品やサービスの開発費や新規事業の立ち上げに要する経費、人材の育成費用などです。なお、交付決定前に発生した費用は対象外となります。申請するにあたっての詳細な条件は、鳥取県の公式サイトで確認できます。公式サイトからは電子申請も可能です。
新型コロナウイルス対策 事業多角化・業態転換資金|東京都文京区
東京都文京区でも、新型コロナウイルスの影響を受けた企業を対象に支援を行っています。新型コロナウイルスの感染拡大で事業に支障をきたし、業態の転換を検討している、または事業の多角化に取り組みたいといった企業が対象です。
交付された補助金は、事業の運転資金や設備資金に利用できます。細かく条件が定められているため、申請できるかどうか事前に確認しておきましょう。なお、補助金の申請は原則郵送であり、オンライン申請には対応していません。
まとめ
事業多角化の取り組みにより、企業は収益の拡大やリスク分散、シナジー効果などさまざまなメリットを得られます。一方で、コストの発生やブランド力の低下といったデメリットに対する理解も必要です。スモールスタートを意識した取り組みやM&Aを利用して、リスクを最小限に抑えながら多角的経営を実現させましょう。