製造業

攻めのDXとは? 守りのDXとの違いや取り組み方を解説

近年、さまざまな分野で「デジタル技術の活用による変革」を意味する「DX」の推進が喫緊の経営課題となっています。DXを実現するためには、「攻めのDX」と「守りのDX」という2つの方向性を理解することが大切です。本記事では「攻めのDX」と「守りのDX」の基礎知識や、それぞれの相違点などについて詳しく解説します。

攻めのDXとは? 守りのDXとの違いや取り組み方を解説

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DXには「攻めのDX」と「守りのDX」がある

NTTデータ経営研究所は2019年8月、国内企業のデジタル化への取り組みに関する独自調査を行い、DXの方向性を「攻めのDX」と「守りのDX」に分類しています。DXの本質的な目的は、デジタル技術の活用によって組織構造そのものに変革をもたらし、市場における競争優位性を確立することにあります。そして、この本質的な目的を実現するためには、「攻めのDX」と「守りのDX」について正しく理解しなくてはなりません。

攻めのDXとは

NTTデータ経営研究所が提唱する攻めのDXは、「既存の商品・サービスの高度化や提供価値向上」と「顧客接点の抜本的改革」、そして「ビジネスモデルの抜本的改革」という3つの領域で成り立っており、「顧客を中心としたステークホルダーや自社だけでなくエコシステムをも巻き込むテーマ」と定義されています。つまり、デジタル技術の戦略的な活用によってイノベーティブなプロダクトを創出し、自社のみならず社会構造そのものに変革をもたらす経営体制やビジネスモデルを構築することが、攻めのDXです。

守りのDXとは

守りのDXは、「業務処理の効率化・省力化」「業務プロセスの抜本的改革・再設計」「経営データ可視化によるスピード経営・的確な意思決定」という3つの要素によって構成されており、NTTデータ経営研究所では「自社でコントロールできる改革的なテーマ」と定義しています。守りのDXは、デジタル技術の導入によって既存の生産体制に変革をもたらし、旧態依然とした企業文化や組織風土の改革を目指す取り組みと定義できます。

攻めのDXと守りのDXの違い

攻めのDXは、組織構造やビジネスモデルそのものの変革を推進する「全体最適」であり、その対象は顧客や消費者、株主、取引先、さらには地域社会なども含むステークホルダーです。一方、守りのDXは、業務プロセスの改善や生産性の向上といった「部分最適」を目指す施策であり、自社の各部門や生産体制などを対象とします。Microsoftが1995年に「Windows 95」をリリースし、コンピュータの歴史を塗り替えたように、攻めのDXは社会構造にまで影響を及ぼすのに対し、守りのDXはあくまでも自社内部の変革にとどまる点が大きな違いです。

攻めと守りどちらのDXを進めるべきか?

攻めのDXと守りのDXは、どちらが優れていると比較するものではありません。守りのDXを実現した先に攻めのDXがあり、まずは組織内部から段階的に変革を推進していく必要があります。しかし現状では、攻めのDXを推進する段階に到達している企業は多くないのが実情です。

攻めのDXを進められている企業は少ない

NTTデータ経営研究所のアンケート調査によると、対象となった企業の半数以上が「業務処理の効率化・省力化」や「業務プロセスの抜本的改革・再設計」に取り組んでいるのに対し、「ビジネスモデルの抜本的改革」を推進している企業は24.7%にとどまっています。攻めのDXは、定義が定性的で数値化しにくく、実現に至る難易度も高いため、成果を定量化しやすい守りのDXへの取り組みが先行していると推察されます。

攻めのDXを進めるべき理由

先述したように、守りのDXの先に攻めのDXがあり、組織の変革を推進していくためには、どちらの取り組みも不可欠です。しかし守りのDXは、いわゆるIT化やデジタル活用の領域にとどまる施策と言わざるを得ません。変化が加速する現代市場のなかで競合他社との差別化を図り、市場の競争優位性を確立するためには、守りのDXを進めると同時に攻めのDXを推進していく必要があります。

攻めのDXを進めることによるメリット

攻めのDXを推進することで得られる具体的なメリットは、以下の3つです。

  • データの可視化
  • 顧客コミュニケーションの改善
  • 新しい商品・サービスの開発

データの可視化

情報通信技術の進歩に伴い、企業が取り扱うデータの総量は指数関数的に増大しており、いかにして蓄積された情報をマネジメント領域に活用するかが重要な課題となっています。そこで求められているのが、データレイクやETLツール、BIツールなどの導入によるデータ分析基盤の構築です。こうしたソリューションを導入することで、経営状況を俯瞰的な視点から分析できるため、勘や経験などの曖昧な要素に依存することなく、データを起点とした意思決定が可能となります。

顧客コミュニケーションの改善

現代は顧客や消費者の購買行動に「インターネットを活用した情報検索」というプロセスが加わり、競合他社との差別化が困難な時代となりつつあります。このような背景のなか、市場の競争優位性を確立するためには、顧客接点を強化するとともに、購買意欲を醸成する仕組みを構築しなくてはなりません。DXの推進によってデータ分析基盤を構築できれば、潜在ニーズや消費者インサイトの発掘に寄与し、見込み客一人ひとりに最適化されたアプローチを仕掛ける一助となります。

新しい商品・サービスの開発

DXの推進によって経営体制に変革をもたらすことで、これまでの常識や固定概念を覆すようなプロダクトの創出につながります。たとえばフォード・モーター・カンパニーは、荷馬車による移動が常識だった20世紀初頭にT型フォードの大量生産体制を築き、世の中に自動車という新市場を開拓しました。これと同様に、旧態依然とした組織構造やビジネスモデルの変革を推進することで、顧客や消費者が認識さえしていないニーズを発掘し、新たな市場のリーディングカンパニーとなり得る可能性を秘めています。

攻めのDXの進め方

ここからは、攻めのDXを推進していく具体的な方法について解説します。攻めのDXは「目的と戦略の設定」に始まり、「プロジェクトチームの編成」と「システムの選定・導入・運用」というプロセスに則って進んでいきます。

目的と戦略の設定

DXの推進において最も重要な課題のひとつは、目的と戦略の立案・策定です。デジタルソリューションの導入やデータ活用などは、あくまでも組織改革を実現する手段でしかなく、DXの本質的な目的ではありません。自社の経営ビジョンや企業理念に基づく経営目標を立案し、思い描く理想を実現するための戦略を策定することが、DXの実現に至る第一歩です。中長期的な戦略方針を策定する際は客観的な視点が重要となるため、外部のコンサルティングサービスを利用するのも有効です。

プロジェクトチームの編成

DXを推進していくためには、デジタルソリューションを導入するだけではなく、それらの技術を活用して経営体制を変革していく高度な人材が不可欠です。変革へのビジョンを打ち出すプロデューサーや、マネジメントやマーケティングに精通するビジネスデザイナー、デジタル技術に関して深い知見を備えるエンジニアなど、さまざまな領域に特化した人材を収集し、DXの推進を目的とするプロジェクトチームを結成する必要があります。

システムの選定・導入・運用

攻めのDXと守りのDXの両軸において、デジタル技術の導入は必須となりますが、大切なのは自社の事業形態や組織体制に適したソリューションを選定することです。自社の事業目標や経営課題を明確化し、既存システムとの連携性やコストパフォーマンスなどを考慮しながら、最適なソリューションを選定しなくてはなりません。また、ITシステムの運用成果を最大化するためには、「計画(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check)」→「改善(Action)」のPDCAサイクルを回し続ける継続的な改善が求められます。

まとめ

DXには「攻め」と「守り」という2つの方向性が存在します。変化が加速する現代市場において、競合他社との差別化を図るには、守りのDXと同時に攻めのDXを推進しなくてはなりません。イノベーティブなビジネスモデルを創出するためにも、攻めのDXを推し進める組織体制の構築に取り組んでみてください。

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