組織の成長や新たな収益源確保を目的に、イントレプレナーを導入する企業が増えています。ただ、イントレプレナーにはメリットもあればデメリットもあるため、正しく理解したうえで検討しなくてはなりません。本記事では、イントレプレナーの概要やメリット・デメリット、求められるスキルなどについて解説をします。
イントレプレナーとは
イントレプレナー(Intorepreneur)とは、「社内起業家」を指す言葉です。一般的に起業といえば、組織から独立して自らビジネスを興すことを指し、それを成し遂げようとする人を起業家と呼びます。
一方、イントレプレナーはあくまで組織に属する起業家です。組織の一員として社内で起業し、ビジネスの創出や運営を行います。新規ビジネスを創出する際のアイデア出しや運営に携わり、リーダーとして新規事業を成功へ導く人材です。
近年では、組織の成長や人材の育成、新たな収益源の確保などを目的にイントレプレナー制度を導入する企業が増えています。ビジネスのアイデアを発表する機会を創出したり、イントレプレナーを育成できる環境を整えたりと、企業によって取り組み方は異なりますが、注目が集まっているのは事実です。
アントレプレナーとの違い
イントレプレナーと似た言葉に「アントレプレナー」がありますが、双方には明確な違いがあります。前者が社内起業家を指すのに対し、後者は一般的な起業家を指す言葉です。
たとえば、長年勤めていた会社を退職し飲食店を開業した人、大学を卒業後に就職せず自らIT企業を立ち上げた人などがアントレプレナーです。イントレプレナーがあくまで雇用されている組織に属したまま起業するのに対し、アントレプレナーに雇用主はいません。
そのため、アントレプレナーは起業に要する資金もすべて自身でまかなう必要があります。それだけでなく、手掛ける事業に関する情報収集や競合・市場のリサーチ、拠点の用意などすべてを自身で行わなくてはなりません。以下、双方の違いを分かりやすくまとめました。
【イントレプレナー】
・資金や設備
組織が有するさまざまなリソースを利用できる。資金はもちろん人材やノウハウ、ブランドなども活用できる。
・ビジネスの自由度
どこまで自由にできるのかは企業により異なる。利用できる資金に上限が設けられるケースが考えられるほか、組織の事業方針や経営方針、意向を踏まえたビジネスを展開しなければならない可能性もある。
・リスク
組織のリソースを活用できるためリスクは低い。万が一失敗しても収入や仕事がなくなる心配がなく、安心して事業に取り組める。
【アントレプレナー】
・資金や設備
基本的に自身で用意しなければならない。必要に応じて金融機関から資金を調達し、人材も採用する必要がある。ビジネスのノウハウも自身で習得しなくてはならない。
・ビジネスの自由度
個人事業主であれば自由に思い通りのビジネスを展開できる。株式会社であれば株主の意向や意見を聞く必要はあるものの、イントレプレナーに比べるとはるかに自由度は高い。
・リスク
ビジネスの立ち上げに必要なリソースをすべて自身で用意する必要があり、失敗したときのリスクがつきまとう。何かしらトラブルが発生したときも組織の後ろ盾がなく、自分の力で解決しなくてはならない。
イントレプレナーが注目される背景
イントレプレナーが注目される背景としては、ビジネス環境の変化が挙げられます。インターネットの普及やデジタル技術の進化、消費者の価値観変化など、かつてに比べてビジネス環境は大きく変わりました。
このような変化は今後も加速すると考えられています。変化に対応できない企業は淘汰され、消費者から見向きされなくなる可能性があります。このようなリスクを回避し、競争の中で優位性を確立するには、起業家としての視点や考え方を有するイントレプレナーが必要なのです。
いわゆる大企業病の改善に役立つのも、イントレプレナーが注目されている理由です。組織の規模が大きくなると、意思決定までに時間がかかる、守りに入り新しいことにトライしなくなるといった状況に陥るケースが少なくありません。
これでは組織としての機動力が失われるばかりか、さらなる成長も見込めません。発展と成長により組織力を高めるには、イントレプレナーのような存在が必要です。
また、人材育成の一環として役立つのも、注目されている理由のひとつです。イントレプレナーを育成できる環境や体制の構築により、従業員はチャレンジすることの大切さに気づけます。チャレンジ精神旺盛な従業員が育つことで、革新的なビジネスのアイデア創出につながる可能性もあります。
イントレプレナーのメリット・デメリット
イントレプレナーには、メリットもあればデメリットもあるためきちんと把握しておきましょう。両方を理解しておくことで、導入することが自社に合っているか分かります。
イントレプレナーのメリット
企業側のメリットとしては、大企業病の改善に役立つことが挙げられます。また、次々と新たなビジネスを創出できる可能性があり、既存ビジネスの収益が悪化してもリスクを最小限に留められます。
優秀な人材を確保できるのもメリットです。たとえば、新規ビジネスのアイデア発表会やコンテストなどを開催することで、優れたビジネス感覚や経営的視点をもつ人材をピックアップできます。このような人材をサポートできる体制を整えれば、他社に流出するリスクを軽減でき、長く組織に利益をもたらしてくれると考えられます。
イントレプレナー本人のメリットとしては、独立リスクの軽減が挙げられます。通常、起業するとなれば会社を辞めなくてはなりません。収入源が失われるため、ビジネスがうまくいかなければ生活に支障をきたすおそれがあります。イントレプレナーであれば、このようなリスクを伴いません。
ビジネスを立ち上げるコストを抑えられるのもメリットです。組織のリソースを利用できるため、自身で資金調達をする必要がなく、設備も組織のものを使用できるため、コストを大幅に抑えられます。
イントレプレナーのデメリット
組織側のデメリットとしては、社内リソースの分散が挙げられます。既存ビジネスとは異なる新たなビジネスを立ち上げるため、必然的にリソースが分散してしまうのです。その結果、既存ビジネスに影響を及ぼす可能性があります。
また、イントレプレナー制度を導入するための体制を整える必要があるのもデメリットです。そして、保守的な社内風土が形成されている場合、それも壊さなくてはなりません。反対している役員がいるのなら説得する必要性も生じるでしょう。
イントレプレナー本人のデメリットとしては、意思決定スピードの遅さが挙げられます。あくまで組織の一員であるため、ビジネスに関わるすべてを自身で決めることができません。稟議で意思決定が行われるケースも多く、スピード感のあるビジネスを展開するのは難しいと考えられます。
イントレプレナーに必要な要素
イントレプレナーに必要な要素としては、まずリーダーシップが挙げられます。新たなビジネスの創出や運営を担うため、リーダーシップを発揮して関係者をけん引しなくてはなりません。
メンタルの強さも必要です。新たな試みをスタートするときは、周りからの批判に晒されるケースが少なくありません。新規事業のプランが認められず、なかなか先に進めないこともあるでしょう。このようなときに落ち込むのではなく、むしろ前向きになれるメンタルの強さが求められます。
また、新たな市場やビジネスを見出す能力も必要です。すでにあるようなビジネスを創出しても、大した需要は見込めません。世の人々が抱えている課題やニーズなどから、市場やビジネスを見出せる力が求められます。ほかにも、メンバーと協力しつつビジネスを進めるためのコミュニケーション能力、知的好奇心なども必要です。
まとめ
新規事業の創出を検討している、組織のさらなる成長を望んでいるといった企業であれば、イントレプレナーの導入を検討する価値は十分あると考えられます。メリット・デメリットを理解したうえで、イントレプレナーの導入を検討してみてはいかがでしょうか。