高齢化や後継者不足を背景に国内農業の衰退が懸念されており、これを解決するための手段として、農業と技術を組み合わせたアグリテックが注目されています。
世界中でもアグリテックを活用して、農業の効率化、生産量の増加を成功させる取り組みが実施されています。本記事では、アグリテックについてと、各社の取り組みについて紹介しますので時代に乗り遅れないためにも理解を深めましょう。
農業と技術を組み合わせた「アグリテック」とは
ここでは、注目を集める農業と技術を組み合わせたアグリテックとは何かについて紹介します。
スマート農業との違い
「アグリテック」とは、AI、ビッグデータ、IoTをはじめとしたICT技術を用いて農業のIT化を促進するための技術を指し、農業(アグリカルチャー)と技術(テクノロジー)を組み合わせた造語です。アグリテックは主に海外で使用される言葉で、日本では同義語として、ハイテク農業やスマート農業と呼ばれます。
国内での市場規模
アグリテックの国内での市場規模は年々拡大しており、富士経済グループによると、2018年の市場規模は698億円で、2030年には1,000億円を超えると予想されています。
比較的新しい市場であるため参入障壁は小さく、大企業だけでなく、スタートアップ企業やベンチャー企業も参画しており、今後の成長が期待できる将来性の明るい業界だいえるでしょう。
日本でアグリテックが注目されている理由と社会的課題
日本でアグリテックが注目されている理由に、日本の食料自給率が低いことが挙げられます。日本の 2020年度の食料自給率は37% と低く、海外からの輸入に頼っていることが明らかです。そのため、輸入先国の状況や貿易関係に大きく影響され、これからも安定して食料を確保できる保証はどこにもない状態です。
また、国内の農業を取り巻く環境にも課題があります。農業者の高齢化と後継者不足も問題ですが、技術伝承が行われない場合、日本の農業技術は衰退の一途をたどる可能性もあるのです。これにより国内でのアグリテックの導入も、少しずつですが開始されてきたのです。
アグリテックの主な取り組み
日本だけでなく、世界でも注目を集めているアグリテックについての主な取り組み内容について紹介します。
ドローンによる農薬の散布
小型の農業用ドローンを使って上空から農薬を散布することで、農作業の効率化を図ることができます。これまでは、機械を使って人手で農薬を散布していましたが、ドローンを操縦して自動的に農薬を散布することにより、短時間で広範囲への散布が可能です。スタートアップ企業のBioCarbon Engineeringでは、1人で同時に6機のドローンを操作しミャンマーのマングローブの植林に成功しました。
IoTデバイスによる監視・管理
IoTデバイスを用いることで、家畜や農作物の監視・管理が可能になります。
例えば、AIカメラで家畜の日々の様子を監視しておくことで、細かな体調変化に気が付くことができ、必要なケアをタイムリーに施すことが可能です。また農作物についても同様に、生育状態から収穫時期を自動でお知らせしてくれる機能や、気温・湿度・日照時間などの環境情報と収穫成果を紐づけて、状況に応じた最適な育て方を提案してくれる機能などに応用することも可能です。
ブロックチェーンによるサプライチェーン管理の一元化
ブロックチェーン技術を用いた品質管理として、サプライチェーン管理を一元化し、安全安心な農作物の提供も可能になります。昨今のサプライチェーンは多様化・複雑化しており、農作物の安全性を証明するためのトレーサビリティの確保が課題です。
そこで、ビットコインなどの暗号資産に使用されるブロックチェーン技術が注目されています。ブロックチェーン技術では各ブロック同士がチェーンによって紐づけられており、データ改ざんが困難であることを利用し、農作物の透明性を証明することが可能です。
ビッグデータによる分析
AIを利用したビッグデータ分析を行うことで、目には見えない熟練者のノウハウを数値化することができます。これにより、作物の成長状況に対する収穫時期の把握や、害虫対策を的確に行えるようになり、後継者への技術伝承に利用することが可能です。
アグリテック導入のメリット
アグリテック導入により、これまでのアナログなイメージが強かった農業がハイテク化され、働き方も大きく改善される可能性を秘めています。ここでは、アグリテック導入によるメリットについて紹介します。
農作業の効率化と生産量の増加
アグリテック導入のメリットの一つに、農作業の効率化と生産量の増加があります。理由はアグリテック導入により、これまで種蒔きや農薬散布、収穫など、人手で行なっていた農作業をドローンやロボットに代行させることで、短時間で広範囲の作業が可能になるためです。
さらに、ここで得た空き時間を品種改良などに充てることで、新しい品種を産み出すことに繋げられる可能性も秘めています。
データ化による新規参入の易化
アグリテック導入で熟練者のノウハウなどをAIでデータ化し可視化することで、新しく農業を始めたいと考える若者などの新規参入者が入りやすい環境を作ることができます。
熟練者のノウハウは口頭や実体験から伝わるものも多く、ノウハウが正確に伝わる保証もありません。さらに、高齢化が進んでいる背景から、全ての技術を継承し終えるまで現役を続けられる可能性も低いため、AIによるノウハウのデータ化で新規参入の障壁を小さくしておくことは重要なのです。
労働時間と負担の軽減
農業者人口が減っている理由の一つに、体力や天候など様々な要因で敷居が高いイメージが定着していることが挙げられます。そこで、アグリテックを利用してドローンやロボットに農作業を代行させることで、労働時間の削減と負担の軽減が可能です。ここで得た空き時間を副業に充てることも、休日に充てることもでき、働き方が自由になる点も魅力の一つです。
新しい働き方の実現
重労働、長時間労働、休みがない、農作業がきついというイメージが定着している農業ですが、アグリテック導入で、これまでにはない新しい働き方を実現できる可能性があります。
IoTを使えば農作物の遠隔監視も実現することができ、遠出先でも農作物の発育状況や収穫時期のタイミングを知ることも可能です。こうなれば毎日現場に足を運ばなくても良くなるでしょう。
アグリテックの導入のデメリット
ここまでアグリテック導入のメリットについて紹介してきましたが、アグリテックを導入する場合にはデメリットも理解した上で導入を検討しましょう。
初期費用が高 い
デメリットの一つに、ドローンやロボット、監視システムの導入などの初期費用が高いことがあります。
しかし、長い目で見て考えた場合には作業の大幅な効率化、生産量の増加などが期待できるため、そのための初期投資だと考えるとデメリットとは言い切れないのも事実です。こうした恩恵を受けるためにも中長期的な計画を立てて導入を検討してみてください。
スキルを持つ人材の確保と育成の難しさ
アグリテックではAIやIoTを利用して農業の改善を図りますが、必然的に利用する側にも、これらAIやIoTに対する知識と理解が要求されます。
そして、これらICT技術に関するスキルを持つ人材の確保と育成の難しさが課題としてあり、農機メーカやICTベンダーでは、特別なスキルを持っていなくても利用が簡単な製品の開発を進めています。
ソフトウェアなどの互換性の乏しさ
アグリテックは比較的新しい技術を用いているため、機器間のソフトウェアなどの互換性が乏しいことが課題です。
異なるメーカ機器を連携しようとしても、データを受け渡しするためのインターフェイス仕様が違うことが原因で、連携できない場合があります。将来的には、規格整備が進むことでこの問題は解決する可能性がありますが、一朝一夕で解決する話ではないため、もうしばらく時間を要すると考えます。
国内のアグリテックを活用する企業や組織
ここでは国内でアグリテックを活用する企業や組織について紹介します。
農業データシェアリング実証プロジェクトを実施「新潟県新潟市」
新潟市はアグリテックを利用することで、農作業の効率化と農業のイメージ転換を図る取り組みを行なっています。
アグリテック導入には高い初期費用が必要であったり、特別なスキルが必要であったりと、これらが導入の課題でした。そのため、新潟市は農業データシェアリング実証プロジェクトを実施。農業に関するデータを複数の農業者で共有することで、データに基づいた経営判断から生産性や生産量の向上を図ることに成功しました。
自社開発の農業機械を活用「ヤンマー」
ヤンマーホールディングス株式会社ではアグロボットと呼ばれる農業用ロボットの自社開発を進めています。2022年11月現在、まだ実現化には至っていませんが、土地の環境に合わせた作業を自動的に行なってくれるロボットの開発を目標にしています。
ただし既に実用化されているロボットもあります。ロボットトラクターは遠隔からタブレット操作をすることで、自動旋回・自動作業が可能な農業用ロボットです。完全自動化を目指すアグロボットも近い将来実現するかもしれません。
圃場(ほじょう)モニタリングシステムを提供「みどりクラウド」
みどりクラウドでは、ITを活用して圃場環境や作業を計測・記録してデータ化することで、農作業の可視化による経験の蓄積・ノウハウを共有することができます。
不確実な環境を相手にする必要がある農業では、農業者の感覚と経験が重要です。みどりクラウドでは、これをITで見える化することで、農作業の効率化と生産量の増加を実現しました。
農業の次世代継承が事業目標「AGRI SMILE」
AGRI SMILEのサービスでは、栽培データを一元管理・評価することで、そこでのフィードバックを次回の栽培に活かすことができます。また、栽培技術をVR動画として共有することのできるサービスも展開しており、次世代への技術継承を可能にします。
海外のアグリテックを活用する企業や組織
国内だけでなく、海外でもアグリテックは注目されています。ここでは海外でアグリテックを活用する企業や組織について紹介します。
海水でトマトを育てる 「Sundrop Farm(オーストラリア)」
南オーストラリアは厳しい日差しのもと乾いた大地が沿岸そばまで広がっています。そこで農業には不向きな海水を大量に確保できる環境に着目したのが、Sundrop Farmです。
鏡面反射を利用して集めた太陽光エネルギーで海水を蒸留することで、真水を大量に確保することに成功しました。その真水を使ってトマトを栽培しています。
収穫ロボットを開発「Agrobot(スペイン)」
Agrobotはスペインを拠点とする企業で「いちご収穫ロボット」を開発しています。ロボットの先端にあるセンサを用いて、熟度からいちごの収穫時期を判断するだけでなく、いちごの収穫までを自動で行なってくれるのです。
自社で作物を管理・水耕栽培「Plenty(アメリカ )」
Plentyは水耕栽培を得意とする企業で、ケールやレタスを自社栽培しています。農作物をデータ管理し、水量やミネラル量を制御することで、風味を調整することが可能です。また、栽培に必要な水量も通常の露地栽培と比べて1/20ほどで、節水に貢献している点も特徴の一つと言えます。
アグリテックの将来性
高齢化や後継者不足などを背景に農業衰退の加速が懸念されている国内農業の救世主として、市場規模を拡大しているアグリテックの将来性は明るいです。
アグリテック活用の取り組みは、国内だけでなく海外でも盛んになっており、全自動ロボットが農業者の代わりに農業を行う光景が普通となる日が来る日も、そう遠くないでしょう。成長期を迎えている業界なので、今後の動向にも注目していきましょう。
まとめ
ここまで、アグリテックについて紹介しました。日本ではスマート農業と呼ばれることも多く、世界でも注目度が高い技術ですが、正確に理解している人は少なかったのではないでしょうか。
本記事を通して、アグリテックに対する理解を深め、今後ますます注目されるであろうアグリテックの動向についても注意していきましょう。