後期高齢者の増大が引き起こすとされる「2025年問題」は、企業にどのような影響を与えるのでしょうか。また、企業はどのような対策をとるべきなのでしょうか。本記事では、2025年問題の概要を解説するとともに、企業がとるべき行動や政府によるサポートについてご紹介します。
2025年問題とは
2025年問題とは、2025年以降に後期高齢者(75歳以上の老人)の数が膨れ上がることで、雇用・医療・福祉などの分野で起こるとされる社会的問題の相称です。特に医療費や介護費の増大と、それを支える若い世代の負担が懸念されています。
厚生労働省によれば、2025年に団塊の世代が75歳に達すると、後期高齢者は約2,180万人に増大し、全人口の約18%を占めるようになるとのことです。前期高齢者(65歳~74歳までの老人)も含めると高齢者数は3,600万人以上になり、全人口の約30%にのぼるという、かつてないほどの「超高齢化社会」に突入するのです。
なお、国連およびWHO(世界保健機構)では、65歳以上の人口の割合(高齢化率)が7%を超えると「高齢化社会」、14パーセントを超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」と定義しています。
2025年問題の次は2035年問題、2040年問題も
日本の人口は減少傾向にあるため、高齢化は2025年以降も加速する見込みであり、それによる社会問題が次々に発生すると予想されています。まず、2035年には「高齢者人口(65歳以上の老人)が全人口の1/3」を占める「2035年問題」に直面するとされています。2025年より高齢者の数は増加しているので、それを支える世代にはさらに多くの医療費負担がのしかかります。
加えて、介護職員の人材難も深刻です。本来なら295万人の介護職員が必要とされるのに対し、供給は227万人にとどまると予想されています。
また2040年には、65歳人口が全人口の約35%に及ぶ「2040年問題」が懸念されます。2025年より人口減少が進んでいるので、医療の受給バランスはさらに崩れるでしょう。
人口減少と高齢化に端を発する諸問題は、まずは2025年問題、次に2035年問題と段階を追って解決していかなければなりません。
2025年問題が企業に与える影響
2025年問題が影響を及ぼすのは、医療や福祉の分野だけではありません。一般企業にも大きなダメージを与えます。その問題は深刻で、現時点から課題を把握し、解決策を練っていく必要があります。
事業承継問題
中小企業庁によると、2025年までに中小企業・小規模事業者の経営者約245万人が70歳を迎えるとのことです。しかし、そのうち約127万人の後継者が決まっていません。
中小企業・小規模事業者の特徴として、経営者の資質や意欲が業績を大きく左右する傾向にあるため、後継者が決まっていない企業の約半分が、黒字廃業に追い込まれるおそれがあります。この問題を放置しておくと、2025年までに約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われることになりかねません。そのため、後継者の育成や第三者承継の可能性を模索する必要があります。
人材不足
労働人口の低下による人材不足も深刻な問題です。パーソル総合研究所・中央大学による「労働市場の未来推計2030」では、人材の不足は2025年に約505万人、2030年には約644万人にのぼると見られています。業種別に見ると、「サービス」「医療・福祉」の分野で顕著に不足する見込みです。
労働人口減少に加え、介護や看護の必要に迫られた離職者も増えると考えられています。介護離職者は2017年の時点で約9.9万人おり、経済産業省は介護離職に伴う経済全体の付加価値損失について、年間で約6,500億円にのぼると見込んでいます。
また、東京商工リサーチの調査によれば、2020年に人材不足関連で倒産した企業は388件にのぼります。そのうちの約78%が後継者難を原因としているため、事業継承の問題と人材不足は密接につながっていることがわかります。
採用困難
少子高齢化に伴う生産年齢人口(15歳以上65歳未満の生産活動の中心にいる人口)の減少により、人材の確保が非常に難しくなります。
従来、企業選びの重要ポイントは会社の規模や将来性でした。しかし昨今は、介護・育児との両立や副業・時短勤務が可能かどうかなどを重視されるようになっています。つまり、企業として従業員やその家族の健康を大事にしているかが、大きな選択基準となりつつあるのです。この基準を満たさない企業には人材が集まらないおそれがあるため、働き方に柔軟性をもたせた制度や、介護をサポートするような職場の雰囲気づくりを進めることが求められます。
2025年問題に向けて企業が取るべき対策
2025年問題は多くの企業に影響を与えます。何の準備もしなければ、企業の存続が危うくなるおそれもあります。自社が早急に取り組むべき課題として認識し、新しい体制づくりや労働環境の整備などの対策をとりましょう。
事業継承のサポートを受ける
公的支援を受けながら、速やかに事業継承の手続きを進めましょう。「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」の施行により、税制支援および金融支援の前提となる認定を受ける、遺留分に関する民法の特例を適用するなどで、事業継承の負担を減らせるようになりました。
後継者の育成も含めると、事業承継には5~10年の準備期間が必要とされています。経営者の平均引退年齢は70歳前後なので、経営者が60歳を迎えるころから準備を始めましょう。
なお、事業承継には法律や税務に関する専門知識が不可欠です。税理士などの専門家やコンサルタント、金融機関、商工会・商工会議所などから積極的にサポートを受けましょう。
人材雇用を進める
人材不足を解消するために、女性、シニア層、外国人の雇用を促進しましょう。そのためには、保育支援の充実や男性育休といった制度の導入など、労働環境の整備が必要です。多様な就労形態や労働条件を認めるだけでなく、従業員の意識改革も求めるダイバーシティマネジメントも求められます。
高齢化が原因の人材不足は、日本に限ったことではありません。他国との労働力確保を巡る競争は今後さらに激しくなるでしょう。
働きやすい環境を作る
介護や病気などによる離職を防ぐため、従業員に長く働いてもらえるよう労働環境を整える必要があります。たとえば、残業の削減や有給休暇の取得率アップ、ハラスメント防止などの環境づくりを行いましょう。また、仕事と家庭が両立できるようにフレックスタイム制やテレワーク制度を推進するなどして、多様な働き方ができる社内制度を整備することも大切です。
システムを導入して生産性を向上する
人材不足を補うためにICTやAI、RPAなどのシステムを導入し、少ない人数での業務遂行を可能にしましょう。RPA(Robotic process Automation)とはロボットによる業務自動化のことで、パソコン上で行われる業務の自動化が可能です。また、テレワークのようなICTを活用した働き方は、子育て中の女性や高齢者などが就業することへのハードルを下げるため、労働参加率アップも期待できます。
2025年問題への政府の対応は?
2025年問題に対処するために政府も動き出しています。たとえば、低所得者の国民健康保険料を軽減し、高所得者の保険料は引き上げることで、公費負担の公平化を図ります。また、介護人材を確保するために若年層や障害者、他業種からの参入を推進するほか、労働環境や処遇の改善、人材の資質の向上をバックアップします。
より地域に根ざした対応としては、地域包括ケアシステムの構築が挙げられます。医療や介護は、病院などの施設よりも在宅で行うことを前提とし、地域の医療や介護、日常生活支援などをトータルケアできる仕組みをつくります。
このように政府も2025年問題へ対処を行いますが、各企業がビジョンをもって主体的に問題の解決に向けて動くことが大事です。
まとめ
後期高齢者の人口増大により引き起こされる2025年問題は、医療や福祉だけに関わることではありません。社会の高齢化に伴う労働人口の減少は人材難につながり、企業経営を脅かします。自社における2025年問題を整理し、人材の確保や業務を効率化するシステムの導入といったアクションを起こしましょう。