少子高齢化や人口減少が進む現在、小売業界でも国内市場だけではなく、海外に目を向ける企業が増えています。そこで、この記事では小売業の海外展開について、需要を取り込むメリットとデメリット、実際に進出している小売業の事例や、成功のためのヒントをご紹介します。
日本企業が海外需要を取り込むメリットとデメリット
需要が減少していく国内に比べ、経済や人口が伸びている国や地域には、大きな可能性が潜んでいます。特にラグビーのワールドカップや、東京五輪、万博の開催など、世界から注目される国際イベントが目白押しのここしばらくは、海外需要を取り込むチャンスの時期。中には今すぐ海外に進出したいと思う企業もあるのではないでしょうか。まずはあらためて、海外に進出して現地の需要を取り込むメリットとデメリットについて整理してみましょう。
海外に進出するメリット
進出先の国や地域の状況にもよりますが、多くの場合、下記のようなメリットを得ることができます。
人件費や原材料費などが安い
日本に比べて国民の平均所得が低ければ、それがそのままコストの安さにつながります。開業資金も日本ほどかからないので、リスクを抑えられます。
市場が拡大している
アジアなどでは経済成長に伴い、現地の国内市場も成長しています。日本の高度成長期と一緒で、消費意欲が旺盛です。
税制や融資の優遇措置
国や地域によっては、進出してきた企業に対して何らかの優遇措置を設けていることがあります。
低税率で節税できる
日本は世界でも法人税率が高く、従業員の社会保険も半額を支払う義務を負っています。そうした負担が少ない所であれば、稼いだ利益がよりたくさん残るでしょう。
海外に進出するデメリット
日本を離れて異国の市場に参入するわけですから、当然リスクもあります。デメリット面についても知っておきましょう。
進出のためのコスト
当然ですが、店舗を出店するにはさまざまなコストがかかります。金銭面だけでなく、日本との往復に使う時間や、慣れない現地での契約や店舗作りなど、1号店を出すまでには苦労も多いでしょう。
税務が煩雑
税務に関しては、国によってやり方が違い、しかも決められたルールに従わないと当局から処罰されるリスクがあります。
カントリーリスク
政治が不安定であったり治安が悪かったり、あるいは経済が不安定で為替レートが変動するなど、その国や地域特有のリスクをカントリーリスクと言います。リスクの度合いは外務省のサイトなどで確認できます。
商習慣や文化、宗教の違い
同じ日本でも地域によっては商習慣が違い、戸惑うことがあります。まして海外の場合はなおさらです。文化や宗教の違いも無視できません。そうした違いに対応するためのマネジメントが必要になります。
越境ECというアプローチも
海外需要を取り込む方法は、実店舗を構えることだけではありません。越境ECとは、インターネットを通じて海外に進出し、電子的な商取引をすることです。日本に「楽天市場」などのECモールがあるように、各国にも現地企業が運営するサイトがあります。あるいは「Amazon」であれば、各国で同じブランド名で展開しているでしょう。
注意すべきは、越境ECでも現地の規制には従う必要があることです。例えば中国の場合、ECサイトを立てるためにはライセンスを取得する必要があり、違反すると罰金や運営停止の処分がくだります。
財務局調査による海外需要の取り込みの動向
平成30年から31年にかけて全国の財務局が国内企業988社に対し、「海外需要の取り込みの動向」に関する調査を実施しました。ここではその結果の一部をご紹介します。海外需要の取り込み状況と背景
2008年9月のリーマンショック以降、新しく海外需要の取り込みを図ったのは全体の約55%。うち約83%が新規市場の開拓を目指して行動を起こしています。その理由としては、「海外市場が成長しているから」「国内市場が縮小しているから」と答えた企業が多くなっています。実際に「どの地域の取り込みを行ったか」についての回答は、中国以外のアジアが約79%、中国が約58%と、距離が近くて成長率の高いアジア圏が多数を占めます。それと同時にアメリカやヨーロッパも1/4程度おり、根強い人気がうかがえます。
取り込みを行っていない小売・販売系の企業の理由としては、「地域のニーズに応えるのが先」「輸送コストを考えると進出は困難」などとなっています。
海外需要により生じたメリット
海外需要に応えたことで良かった点を見てみましょう。何かしらメリットがあったと答えた企業のうち、最も多かった回答は「売上が増加した」で、約81%が良かったことにあげています。他には「材料費などコストが削減できた」「人手が確保できるようになった」などがあり、「海外に派遣した社員が成長した」という回答もありました。
そうして得られた利益は、約71%の企業が国内に還元し、設備投資や従業員の賃金引き上げなどに使われています。
今後の見通し
今後の取り込みについては約69%の企業が「今よりも強化する」と回答しており、海外需要にチャンスを求める強い意欲が感じられます。その理由としては、「長期的に市場の拡大が予想されるから」「インバウンド需要が増えているから」などとなっています。反面、約90%もの企業が「海外の動向」など、今後に対して何らかの懸念事項を持っており、進出を続ける意欲を持ちながらも慎重さは忘れていない様子が見て取れます。
海外展開を成功させるには
最後に、これから海外展開を考えている方に向けて、成功につながる要因は何かをご案内します。そのために、実際に海外で成功している小売業の事例を見ていきましょう。アパレル業界
「earth music&ecology」をはじめ、アパレルや飲食など、全15ブランドを運営する「ストライプインターナショナル」では、人件費が高くITが浸透しているアメリカや中国ではなく、ベトナムに着目しました。ベトナムはITインフラが遅れているためネット通販が浸透しておらず、実店舗へのニーズが高いと読んだからです。しかもちょうどファッションに関心のある世代の人口が増えていました。そこで20年前に日本で成功した自分たちの販売モデルをそのまま持ち込み、大成功を収めました。
また、出店当初は日本好きのコアなファンのために敢えてローカライズせずに日本と同じ品揃えをし、2年目以降は、ブランドを知らない一般向けにローカライズを進めるなど、ユーザーの属性変化に対応しました。
コンビニ業界
大手4社の国内店舗数の合計が約3万5,000店と言われるコンビニ業界ですが、実はこの4社の海外での店舗数は、合計で4万3,000店以上。国内よりも海外の方が店舗数が多いのです。つまりコンビニ業界では、既に海外進出が成長の要となっています。それらの多くが中国やアジアの新興国。1人当たりのGDPが3,000ドルを超えるとコンビニのニーズが急上昇すると言われており、そのタイミングを見計らって果敢に進出しています。
コンビニでは数多くの商品を欠品なく配送する必要があり、それを支えるシステムが不可欠です。それを各国に導入するのは負担が大きいことから、可能な限り安価なクラウドサービスやSNSなどを活用し、費用はもちろん、開発にかかる時間も節約しています。
これらの成功事例から分かる秘訣は、チャンスのある市場(国)を絞り込み、的確なタイミングを見極めた上で参入し、日本の成功モデルを持ち込みつつ、クラウドなどのITを活用して費用や時間は大胆に効率化。参入後は現地のニーズに合わせて柔軟にやり方を変えていく、ということになります。
まとめ
多くの国で経済成長や人口増加が見られる今、小売業の海外進出は拡大のチャンスです。むしろインターネットやクラウドサービスの浸透は、小売業にとって追い風です。パイの決まった国内とは違い、海外にはそれを超えるスケールの市場があります。ぜひ成功の秘訣を念頭に、海外への展開を検討してみてください。