CTやMRIを活用した画像診断は疾患を発見する手段として非常に有用です。しかし機器の数と比べて画像診断の専門医が少なく、また1人が何百枚もの画像を確認する必要があるなど負担も大きいといった問題があります。そこで、これらの問題を解決する手段として期待されている、AIによる画像診断の動向について解説します。
医療業界におけるAI(人工知能)とは
一般的に「人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術」を指すと理解されてはいるものの、AI(人工知能)の定義は研究者によって異なります。
初期のAIは1950年代から開発が始められていましたが、当時の技術では研究段階からは脱せず実用化にまでは至りませんでした。急激に進化が進んだのは2010年代以降の第三次AIブームです。入力されたデータを元に特徴量を自動で獲得するディープラーニングが注目され始めたことで、画像認識をはじめAIの研究開発が一層進みました。
さらにインターネットの発展によって大量の学習データを確保できるようになったことや強力な計算処理能力を持つGPUの登場、TensorFlowやChainerといったフレームワークの普及なども影響し、AIの精度が飛躍的に向上しました。各種サービスの実用化も進み、現在では自動運転、マーケティング、保険医療などさまざまな分野で活用されています。
現在実用化されているAIでは機械学習が主流となっています。これは入力されたデータからプログラムが自分で学習する仕組みです。この機械学習は、正解データの有無で「教師あり学習」と「教師なし学習」、それに正解データはないが評価を与えられる「強化学習」に分類されます。
具体的には画像認識、音声認識、自然言語処理といった分野で活用が進んでおり、音声認識は音声の自動文字起こしや自然言語処理と組み合わせたスマートスピーカーやスマホのAIアシスタントなど、画像認識は工場の検査装置や車の自動運転、監視カメラでの異常検知などに利用されています。
医療業界におけるAI活用の期待
医学分野での活用例としては、画像認識技術を活用した放射線画像診断支援があります。日本ではCT(コンピュータ断層撮影法)機器の台数及び人口100人当たりの台数は世界一を誇っていますが、診断を行う専門スキルを持った画像診断医は世界と比較して不足している状況です。そのため1人の画像診断医が担当する診断数が増えるうえ、肺がんCT検診では受診者1人に対して100枚以上の写真を確認するなど身体的、精神的にも負担が大きいことが問題視されています。また過疎地など医師が少ない地域では診断ができないといった問題も指摘されており、AIによって画像診断を行うことで医師の作業負担を軽減しようという取り組みが進んでいます。
特にCAD(コンピュータ支援検出・診断)と呼ばれる診断分野はAIによる恩恵を受けている分野です。これはコンピュータが病気を検出して人間の見落としを防ぐCADeと、診断をサポートする情報を提示して担当医師ごとに診断結果で差がでないようにするCADxがあります。最終的には人の判断が必要になりますが、AIを導入することで従来のCADよりも大幅な診断精度向上が認められています。
画像認識で用いられるのはCNN(Convolution Neural Network)と呼ばれる画像認識の学習モデルです。「教師あり学習」の精度を上げるために、画像データが大量に必要になります。近年CTやMRIの技術革新が進み、高解像度の画像データを大量に蓄積できるようになり、機械学習への利用が可能になったことで分析精度が向上し、現在では実用化直前にまで達しています。画像分析医の判断をサポートする用途が主ですが、将来的には病気の早期発見などにも役立てることが期待されています。
医用画像診断におけるAI活用の動向
AIによる画像診断の精度向上は著しく、数年内に画像診断医よりもAIのほうが高精度で診断可能になるとも言われています。既に脳血管の疾患である脳動脈瘤に関しては人間を超える精度に達しており、東京大学発のスタートアップ エルピクセルが開発したアルゴリズムでは、MRA画像データから90%以上の確率で脳動脈瘤を自動検出可能です。
今後は医師の負担を軽減する目的でAI画像診断装置の導入が進み、将来的には人間では発見が難しい疾患や、初期段階で見落としがちな癌なども自動検出できるようになっていくと予測されています。全てをAIに任せるのではなく、総合的に判断する人間と見落としが少ないAIが協力して診断していくことで、両者の強みを生かした、より質が高い医療を提供できるようになると考えられています。
日本の保険医療分野におけるAI活用推進
2017年には日本の保険医療分野におけるAI活用推進について議論した結果を厚生労働省が報告書として公開しています。これは医療分野にAIを活用することで新たな診断・治療方法を創出したり医師の負担を軽減することを目指したもので、画像診断分野は実用化が早いとされる領域に含まれています。
保険医療分野におけるAIの開発に向けた施策
報告書では、日本は高い画像診断機器開発能力を保有している一方で、正確な病名がついた教師データの効率的な収集体制確立が課題となっており、今後は関連学会が連携して、画像データベースの構築や、評価体制を整備するなど、AIを開発しやすくする取り組みが必要だと述べています。
具体的には2020年中に学会を中心として画像データベースを確立し、2021年以降はそれを医療機器メーカーへ提供して開発を促進することを目指しています。一方、AIはアルゴリズムがブラックボックスになることをデメリットとして挙げる声もあります。それを解決するために従来の知識や技術とAIを融合した「ハイブリッドラーニング」による開発を進める動きもあります。
医療分野におけるAI導入について否定的な意見もありますが、医師が不足している地域でAIが画像診断を行ったり、人間が見落としがちな部分をAIが支援するなどにより保健医療の水準向上が期待されています。
まとめ
AIによる画像認識精度の向上は著しく、一部の疾患に対しては既に実用段階にまで達しています。疾患の早期発見・早期治療及び医師の負担軽減を実現するためには、学習用データの効率的な提供や評価体制の整備、さらには画像に含まれる可能性がある個人情報の取り扱いなどの課題解決が求められています。