2020年以降は、産業界でもさまざまな変化が期待されています。その中心となるのが5G通信サービスの開始です。この記事では、5Gの概要やメリットについて解説しつつ、製造業においてもたらされる影響や、5G導入に向けた課題についてもご紹介します。
5Gと4Gの違いとは
現在、世間で使用されているLTEを含む4G(4th Generation)と比較して、5G(5th Generation)は通信速度・同時接続数・遅延速度が大幅に改善されています。
5Gが製造業にもたらすメリットに入る前に、5Gと4Gの違いについて解説します。
5Gの特徴
5Gは正式名称を第5世代移動通信システムといい、現在主流となっている4Gに置き換わる次世代のシステムです。
1980年代に発売されたショルダーフォンの通信規格である第1世代移動通信システムから時間の経過とともに進化し、ついに5Gまで発展しました。この5Gの特徴は大きく3つあります。
- 超高速化:通信速度が速くなり、4Kや8Kのような解像度の高い動画配信をはじめ、容量の大きなデータをストレスなく送受信できるようになります。
- 超多数同時接続:一定の面積内において、より多くのデバイスの同時接続が可能になります。この特徴によって個人の利用だけでなく、製造工場におけるIoTやスマートファクトリーの推進の加速も期待されています。
- 超低遅延:文字通り通信の遅延が非常に短縮されます。スマートフォンを含む通信機器の通信速度が速くなるのももちろんのこと、産業方面では遠隔地のロボットをほぼリアルタイムで操作することが可能になると考えられています。
4Gとの違い
5Gの3つの特徴の観点で、4Gとの違いを整理してみると、まず通信速度の面では 4Gが最大1Gbpsであるのに対して、5Gは最大20Gbpsの通信速度を誇ります。
つまり、5Gでは4Gの20倍程度の通信速度が期待できます。同時接続数は4Gの10万台/1㎢に対して、5Gは100万台/1㎢に拡大される予定です。
同じ面積で比較すると5Gでは4Gの10倍にあたるデバイスでの同時接続が可能になります。遅延速度の観点では、4Gでは10msだったのに対して、5Gでは1msと、遅延速度が4Gの1/10程度に短縮されます。
製造業への5Gの影響
5Gにはさまざまなメリットがあり、その恩恵は製造業にも大きな影響をもたらすと予想されています。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに楽天を加えた大手通信キャリア4社によると、2019年から徐々に5Gのサービス化を進めていき、2020年に開催予定の東京五輪に向けて3〜6月にサービスを開始する予定とされています。
そして、5Gが実装されると製造業にビジネスチャンスが訪れます。まず、半導体などの電子部品の需要拡大が考えられます。
これは4GやLTEとは周波数や規格が変更されることから、5G通信に必要な部品が新たに求められる見通しです。
そのほか、これらの電子部品が組み込まれる遠隔操作可能なロボットやIoTデバイスなどの需要も伸びる公算です。
Industry 4.0への取り組み
5G普及により、電子部品など直接的に関連する製品の需要増大に加えて、製造業の現場における影響もあり、特に「Industry4.0」に向けた取り組みが加速度的に進むといわれています。
Industry4.0とは、ドイツから始まったとされる第四次産業革命を指すもので、製造業における開発から生産までの活動を、インターネットを介して最適化や自動化を行う取り組みです。
具体的にはスマートファクトリーを中心としたエコシステムの構築を目指すもので、5Gの3つの特徴「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」を製造業の現場に組み込むことができれば、Industry4.0の取り組みは加速・拡大していくでしょう。
また、人口減少が進んでいく日本においては、産業ロボットとの協働などによる工場の省力化、生産効率の向上が急務となっています。
5Gでは、機器や目的ごとに異なっていた通信規格を一本化できるともいわれており、デジタル変革を中心とした「スマートファクトリー」へのハードルも低くなります。
こうした背景から、新時代の5G通信を活用した、スマートファクトリーによる高い生産性の実現や高付加価値製品の開発が、今後の日本の製造業を支えていくと予想されます。
製造業と5Gの未来
5Gによる製造業へのインパクトは大きいものになると期待されている一方、導入に向けて解消すべき課題もあります。続いては、今後の製造業と5Gの課題についてご紹介します。
5Gにより成長が期待される製造業
製造業はただでさえ市場規模の大きい業界ですが、非常にアナログな産業でもあります。
これは、さまざまな設備や機器が稼働する大きな工場を必要としてきた経緯や、リアルなモノを扱う産業である実態が関係しています。
実際に、従来の生産ラインにおいても通信自体は必要でしたが、必要なデータ容量や速度を踏まえると有線の通信を使用せざるを得ませんでした。
しかし、5Gの実装により無線でも安定した通信量や通信速度を確保できるようになれば、通信規格による制限を受けていた生産ラインのレイアウトも状況に応じて最適化・組み換えがしやすくなります。その結果、機械で置き換えられる領域や不要な業務を効率化し、人間にしかできない業務に集中できるようになると期待されています。
このように巨大な市場規模を誇る製造業全体に5Gが普及すれば、工場全体の生産性向上による経済的メリットが見込めるのです。
5G導入における課題とローカル5G
製造業においても5G導入や検討が進みつつありますが、そのなかで浮き彫りになっていきている課題もあります。
まず、5Gの特性からやはり人口の多い都市部から優先的に整備されます。確かに同時接続台数の拡大を効果的に機能させるためには、人口密集地から5Gを導入してくのが合理的です。
しかし、製造業の工場は逆に人口の少ない地方に存在するケースが多く、5Gの実装エリアと製造業の工場所在地の条件がミスマッチの状態となっています。5Gが製造業の工場に本格導入されるまで時間がかかるでしょう。
そこで、この課題を解決するために総務省主導のもと推進されているのが「ローカル5G」です。
世間一般でいわれる5Gは、携帯電話事業者が全国において提供する通信サービスを指しますが、ローカル5Gは企業や自治体を想定しています。
自己の建物や土地の敷地内に限定して利用を許可される5Gの周波数が割り当てられる仕組みで、ローカル5Gの利用には免許が必要です。
ローカル5Gの導入については、令和元年 12 月に総務省が「ローカル5G導入に関するガイドライン」を発表しています。
また、同年3月27日に国内初となる商用ローカル5Gを富士通が運用を開始しました。今後もローカル5Gを導入する製造業者は増加していくでしょう。
ローカル5Gには、早期の5Gの導入とそれに伴うさまざまなデジタル改革の実行スピードの向上以外にもメリットがあります。全国向けの通信と異なり、自社エリアのみで利用できる帯域のため、安定した通信と運用が可能です。
また、セキュリティを重要視する製造業において、クローズドなネットワークであることで工場内の情報が外部に漏れるリスクが低減されます。
まとめ
2020年から5Gの通信サービスが徐々に導入される予定ですが、製造業における本格導入にはまだまだ時間がかかるでしょう。
しかし、5Gを向上などで活用することによるメリットを理解しておくことは重要です。
早期に5Gを起点にデジタルを駆使した工場を目指すのであれば、ローカル5Gの活用も有効な選択肢になるでしょう。