「SDGs(Sustainable Development Goals)」とは、17のゴール・169のターゲットから構成される、持続可能な世界を目指した国際目標のことです。企業のブランディングにも通じることから、さまざまな業界で注目されています。本記事では建設業に焦点を当て、取り組みの事例やメリットをご紹介します。
建築業が取り組むSDGsの例
近年、社会的に「SDGs(Sustainable Development Goals)」への関心が高まっています。これは「持続可能な開発目標」を意味し、経済・社会・環境のバランスが保たれたよりよい世界を目指す共通目標として掲げられています。17のゴール(目標)と、その指標として設けられた169のターゲットから構成されており、2030年までにそれらの達成に向けて取り組むことが求められています。国内でも業界・業種を問わず、さまざまな企業がSDGsへの取り組みを進めており、建設業もまた例外ではありません。
建設業は都市開発や住環境の整備、インフラの構築などを担う都合、地域へのインパクトが大きく、案件の規模によっては人・モノ・金も大きく動きます。それゆえ、建設業にしかできないSDGsへの取り組みも少なくありません。さらに、国内だけでなく国外での事例が生まれやすいのも、建設業ならではの特徴です。以下ではSDGsが定めるゴール・ターゲットに沿って、建設業にできる取り組みの例をご紹介します。
安全な水とトイレを世界中に
ゴール6「安全な水とトイレを世界中に」において、建設業が取り組みやすいターゲットとしては、たとえば以下のようなものがあります。
- 汚染を減らす。
- ゴミが捨てられないようにする。
- 有害な化学物質が流れ込むことを最低限に抑える。
- 処理しないまま流す排水を半分に減らす。
- 世界中で水の安全な再利用を大きく増やすなどの取り組みにより、水質を改善する。
建設業の場合、基礎工事が地下水脈まで及ぶ場合もあり、そうした水環境への配慮などを実践していくことで、このゴールへの貢献が可能です。また、開発途上国での給水活動を実践している企業もあります。
エネルギーをみんなに そしてクリーンに
ゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」において、建設業が取り組みやすいターゲットとしては、たとえば以下のようなものがあります。
- 誰もが安価で安定的かつ現代的なエネルギーを使えるようにする。
- エネルギーをつくる方法のうち、再生可能エネルギーを使う方法の割合を大きく増やす。
エネルギー分野においては、太陽光発電といった再生可能エネルギーを積極的に推進していくことなどが、建設業の立場で取り組める一例です。たとえば東京都東村山市では、太陽光発電を軸にした暮らしが営まれる、「ソーラータウン八国山」が開発されました。
働きがいも経済成長も
ゴール8「働きがいも経済成長も」において、建設業が取り組みやすいターゲットとしては、たとえば以下のようなものがあります。
- 商品やサービスの価値をより高める産業や、労働集約型の産業を中心に、多様化、技術の向上、イノベーションを通じて、経済の生産性を上げる
- 若い人たちや障害がある人たちなど、男女を問わず働きがいのある人間らしい仕事ができるようにし、さらに同一労働同一賃金を達成する
この分野は、どの企業でも取り組みやすいように見えます。たとえば、経済の生産性向上に関しては、単なる労働環境の整備にとどまらず、農業など労働集約的な産業に対して自社の技術を応用したり、同じ仕事でもより効率的にこなせる技術を開発・提供したりするなどが考えられます。また雇用創出についても、女性の雇用や障害者雇用の促進などが実践できるでしょう。
産業と技術革新の基盤をつくろう
ゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」において、建設業が取り組みやすいターゲットとしては、たとえば以下のようなものがあります。
- すべての人のために、安くて公平に使えることを重視した経済発展と福祉を進めていけるよう、質が高く、信頼でき、持続可能な、災害などにも強いインフラをつくる。それには地域のインフラや国を越えたインフラも含む。
- 資源をより無駄なく使えるようにし、環境にやさしい技術や生産の方法をより多く取り入れて、インフラや産業を持続可能なものにする。すべての国が、それぞれの能力に応じて、これに取り組む。
このゴールに貢献するためには、建設技術をはじめ各企業が本来バリューとしている強みを、さらに向上させることが方法として考えられます。具体的には、ICT機器の活用により生産性を高めるなどが挙げられます。
住み続けられるまちづくりを
ゴール11「住み続けられるまちづくりを」において、建設業が取り組みやすいターゲットとしては、たとえば以下のようなものがあります。
- 誰も取り残さない持続可能なまちづくりを進める。
- すべての国で、誰もが参加できる形で持続可能なまちづくりを計画し、実行できるような能力を高める。
- とりわけ大気の質やごみ処理に注意を払うなどして、都市に住む人(1人当たり)が環境に与える影響を減らす。
昨今では自然災害などが相次ぎ、安定して住み続けることが困難なエリアが増えてきています。国内では、自然の循環を意識した設計を手がける企業などが、減災のための活動も同時に行っている事例などがあります。
つくる責任 つかう責任
ゴール12「つくる責任 つかう責任」において、建設業が取り組みやすいターゲットとしては、たとえば以下のようなものがあります。
- リユースやリサイクルなどを通じて、廃棄物の発生および量を減らす。
建設業では、さまざまな素材が大量に用いられます。その中で、材料をより効率的に使ったり、リサイクルあるいはアップサイクルされた材料を使ったりすることは、このゴールの達成に大きく貢献するといえるでしょう。国内の事例としては、「長期優良住宅」認定制度に対応した建築を手掛ける企業や、アフターフォローや産業廃棄物の管理の徹底をしている企業などが挙げられます。
建設業がSDGsに取り組むメリット
建設業がSDGsに取り組むメリットはさまざまです。これまで見てきたように、SDGsに取り組むこと自体が、自社のバリューを高めることと一致するうえ、PR面で得られる効果も大きいといえます。以下では、建設業がSGDsに取り組む主なメリットを解説します。
CSRや広報活動につながる
SDGsは国際目標であり、それに取り組むことは、先進国である日本の一企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)といえるでしょう。その責任を果たすことは、会社の認知度や信頼度の向上にもつながるはずです。たとえば、森林保全に貢献するある建設会社は、国産材を活用した家づくりを推進するNPOとともに取り組みを進め、グッドデザイン賞の受賞を遂げています。これにより、一般市民に対する広報活動の一助にもなっています。
ブランドイメージ向上につながる
自社のSDGsへの取り組みを、さまざまなメディアを使って発信することは、ブランドイメージの向上にもつながります。実際、建設業界に限らず多くの企業が、ブランディング戦略の一環として自社ホームページでSDGsの取り組み事例を公開しています。これにより企業のイメージアップに成功すれば、人材採用などの面で大きなメリットとなるでしょう。
融資やESG投資を受けやすくなる
世界的に持続可能な社会の必要性が叫ばれる中、投資家や融資元も当然、各企業の取り組みに注目しています。「ESG投資」とは、財務状況だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)といった要素を考慮した長期的な投資のことで、SDGsとともに注目を集めています。そうした融資や投資を受けやすくなることも、SDGsに取り組むメリットといえるでしょう。
建設業がSDGsに取り組む事例
最後に、建設業界にて実際に行われている取り組みの事例をご紹介します。
ゼネコンの取り組み
竹中工務店は、BIM(Building Information Modeling)による設計に強みを持つ企業です。そのほか、省人化工法やIoTの活用、ロボット技術の展開などにより、抜本的な生産性向上に取り組んでいます。SDGsのゴールでいえば、ゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に当てはまるでしょう。そんな中、同社がシンガポールに建設した高層オフィスビルが2015年、同国のBIMアワードで最優秀賞を受賞しました。国内のみならず、新興国での実績が評価された好事例です。
日本建築学会の「SDGs対応推進特別調査委員会」
日本建築学会が2020年4月に設置した「SDGs対応推進特別調査委員会」では、持続可能な発展に対し、建築がいかにして貢献できるのかを検討しています。既往の研究・作品・実践・活動などの具体的事例と、それらのSDGsへの貢献についてまとめ、会員に対し共有することで、建築業界におけるSDGsへの取り組みを促しています。
まとめ
今回ご紹介した事例からわかるように、建設業界においてもSDGsの取り組みは進められています。SDGsは国際的にも重要な目標であり、PR効果も期待できます。しかし、PRが目的になってしまっては本末転倒です。SDGsに取り組む際は、既存の事業の価値を見つめ、その向上がどうSDGsにつながるのかをよく考えてみてください。