医療・製薬

薬価制度の基本と抜本改革の概要を解説

日本では医療用医薬品の価格について国が定める「薬価制度」を採用していますが、高額な新薬の登場などをきっかけに、2018年の薬価制度抜本改革で薬価の決め方が大きく変わりました。この記事では薬価制度の概要と2018年の抜本改革の内容と、改革が行われた背景について紹介します。

薬価制度の基本と抜本改革の概要を解説

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薬価制度とは

日本の保険医療で治療や診察を受ける場合、医師や薬剤師は原則として「厚生労働大臣が定める医薬品」以外の医薬品を使うことができません。これら規定の医薬品はすべて「薬価基準」に収載されています。医療保険が適用される医薬品の場合、薬の価格である「薬価」は製薬会社が自由に決めるのではなく、すべて国が決めています。この制度が「薬価制度」です。

この「薬価基準」には保健医療で使える医薬品の品目と国が定めた価格がすべて記載されており、医療機関や薬局が公的な医療保険で薬を使用した場合は、この価格に基づいて費用を算定します。ただ、製薬会社から卸売業者や薬局などに販売される価格には定めがなく、売り手と買い手の間で自由に決めることができます。薬局にとっては仕入価格と薬価の差額が利益になるというわけです。

国は、薬価基準に載せている約1万6000品目すべてについて、医療機関や薬局が実際に支払っている価格を調査する「薬価調査」を定期的に行い、実勢価格を把握した上で薬価の引き下げなどの改定を行います。

なお、ドラッグストアなどで購入できる「OTC医薬品」は薬価制度の対象外です。

薬価制度の抜本改革とは

2018年に薬価制度の抜本改革が行われ、薬価の決め方が大きく変わりました。この改革について詳しく見ていきましょう。

改革の背景

この抜本改革が行われた背景には、がん治療の新薬「オプジーボ(一般名・ニボルマブ)」をめぐる高額な薬価の問題がありました。

オプジーボは日本の製薬会社が開発した新薬で、2014年に皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)の画期的な治療薬として発売されました。この時、年間推定患者数470人で採算がとれるように高めの薬価が決められました。

ところが、2015年12月に「非小細胞肺がん」もオプジーボの適応となったため、新規投与患者数の見込みが30倍以上の約1万5000人に拡大し、売上予測は41倍に膨らむ結果となったのです。このため、特例として次回の薬価改定を待たずにオプジーボの薬価を50%引き下げるという異例の事態に発展してしまいました。

この問題をきっかけとして急速に制度改革の機運が高まり「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」が2016年12月に発表されたのです。

改革の目的

この改革で行われる最大の見直しは、全品を対象にした薬価改定の時期をそれまでの2年に1度から毎年に変更したことです。

薬価は医療機関が購入するときの市場実勢価格をもとにして決められていますが、市場実勢価格は時間が経つほど下がっていく傾向にあります。そこで、毎年の改定で市場価格の変化に細かく合わせて薬価を下げることができれば、薬剤費の総額を抑えられる可能性があります。新薬については、対象患者の急増で混乱を招いたオプジーボの前例を踏まえ、年に4回は薬価を見直せる体制に変更するとしています。

また、革新的な新薬の開発を促進するねらいで、新薬創出加算の適用に関して大幅な見直しを行いました。また、発売から長期間経過している「長期収載品」の薬価を後発品の薬価を基準にして段階的に引き下げるなどの施策も盛り込まれています。

改革の内容

改革の主な内容には次のようなものがあります。

  • 薬価調査と薬価改定の頻度変更
    改革の最大の柱は薬価調査と薬価改定の頻度がそれまでの2年に1回から毎年に変更されたことにあります。これにより市場価格の変化に細かく合わせて薬価を下げることが可能になります。次回2021年の薬価改定の対象となる品目の範囲は2020年中に設定される見込みです。
  • 市場拡大に対応
    オプジーボのように、適応となる疾患が増えるなど効能が追加された医薬品で、市場の規模が350億円超になった場合は、年4回の見直し機会を設けて薬価の改定ができることになりました。
  • 新薬創出等加算の見直し
    今までの制度では新薬がこの加算の対象となるためには薬価と市場価格の乖離率がすべての医薬品の平均より小さいことが要件として挙げられていました。しかし、抜本改革でこの要件が撤廃され、薬価差ではなく医薬品の有効性そのものを評価し対象が決められることになりました。新制度ではその薬が画期的であるか、有用性があるかなど基準に照らし合わせて評価された薬だけが加算の対象になります。
  • 長期収載品と後発医薬品の薬価見直し
    後発品が市場に出てから10年が経過した場合、後発医薬品の薬価を基準にして段階的に引き下げを行うこととしました。また、後発医薬品で市場に出てから12年が経過した銘柄については、原則として薬価が一本化されます。

改革の問題点・議論点

抜本改革に含まれる新薬創出加算の見直しで、加算の適応となる条件が大幅に厳しく見直されました。その結果、2018年度には対象品目が2016年の823品目から大幅に減った560品目となり、加算額も1060億円から810億円に減少しています。改革後に加えられた加算の条件の一つに、新薬開発の取り組みを製薬会社ごとに点数化した「企業指標」がありますが、臨床試験の実施数や新薬の数によって評価されるものであるため、大企業に有利な指標であるとして反発の声も上がっています。

薬価の毎年改定では、特に大きな影響を受けるのは後発医薬品のメーカーであることが指摘されています。後発医薬品は特に価格競争が激しいため、毎年改定となると各社とも厳しい体力勝負になることが予想されます。抜本改革が業界再編の引き金になる可能性も示唆されています。

また、薬価の毎年改定により、レセプトコンピュータなど薬に関するシステムもアップデートなどの対応が必要になり、医療機関や薬局が負担するコストの軽減策などが実施されるかなど国の今後の動向にも注目が集まっています。

まとめ

日本の「薬価制度」では医療用医薬品の価格を国が定めていますが、高額な新薬の登場をきっかけに、医療費の抑制を目的として薬価制度の抜本改革が行われました。今後も医療費の削減と新薬開発推進の両立を目指して、さまざまな施策がとられていくことが予想されます。

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