サプライチェーンマネジメント(SCM)は、企業が競争力を維持し、効率的かつ収益性の高い運営を実現するために必要な手法です。本記事では、サプライチェーンマネジメントの基本定義やその役割、企業にとっての導入メリットとデメリットについて詳しく解説します。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)やMicrosoft Dynamics 365のような最新のITソリューションがどのようにサプライチェーンマネジメントを最適化し、企業の運営効率を向上させるかについても触れます。さらに、サプライチェーンマネジメントの効果を実感できる具体的な企業事例を紹介します。
サプライチェーンマネジメント(SCM)を分かりやすく解説
サプライチェーンマネジメントは、製品が消費者に届くまでの一連のプロセスを管理し、最適化する手法です。ここでは、その定義と業務内容について解説します。
サプライチェーンマネジメントとは
サプライチェーンマネジメントとは、原材料の調達から製品の製造、流通、消費者への販売まで、全ての工程を一元的に管理し、全体の最適化を図る経営手法です。
サプライチェーンマネジメントの目的は、コスト削減や生産効率の向上、リードタイム(生産から納品までの時間)の短縮などにより、企業の競争力を高めることにあります。
サプライチェーンは、「供給連鎖」とも呼ばれ、メーカーや卸売業者、物流、小売業者など多くの企業が関わる複雑なプロセスです。サプライチェーンマネジメントでは、これらの関係者間で情報をリアルタイムに共有し、在庫の過不足を防ぎ、迅速な対応を可能にします。
全体の連携と調整を通じて、企業は市場の変化に柔軟に対応し、収益性を向上させられます。
サプライチェーンマネジメントの業務例
サプライチェーンマネジメントの業務は、主に以下の4つのプロセスに分類されます。
まず「計画・予測」では、市場の需要を予測し、それにもとづいた生産計画や供給計画を立てます。過去の販売実績や市場データを活用し、将来の需要を見越して在庫や生産のバランスを調整することが重要です。
次に「実行」では、計画を基に原材料の調達、製造、在庫管理、出荷、配送などを実施します。計画からのズレが生じた場合は、迅速な調整が必要です。
「評価・モニタリング」では、主要な指標(KPI)を用いて全体のパフォーマンスを評価し、効率性や効果性を分析します。
最後に「ネットワークデザイン」では、工場や倉庫の配置、輸送ルートの選定など、供給チェーン全体の構造を最適化し、柔軟な対応を可能とします。
これらのプロセスを通じて、サプライチェーンマネジメントは全体の効率化を実現し、企業の収益性を向上させます。
サプライチェーンマネジメントはなぜ必要?
サプライチェーンの全体像について先述したものの、それら全体を一企業が全て管理できるものではありません。大企業であっても、孫請け企業のサプライチェーンまで管理するのは非常に困難です。従って、サプライチェーン管理では主に「仕入れ」「在庫」「販売」「出荷」「配送」という5つのフェーズに分けて管理するのが一般的です。
また、サプライチェーンマネジメントが重要な理由の1つに、物流2024年問題があります。物流2024年問題とは、働き方改革関連法にもとづいた問題です。具体的には、自動車運転業務における年間時間外労働時間が、960時間に制限されることによって生じる問題を指します。
この制限により、ドライバーの労働時間が大幅に減少し、収入減少によるドライバー不足が深刻化する見込みです。その結果、物流コストが増加し、人件費の上昇や配送の遅延が発生しやすくなるでしょう。
このような背景から、企業は効率的なサプライチェーンマネジメントを導入し、物流プロセスの最適化と人員の有効活用を図る必要があります。効率的な管理が、コスト削減や物流の安定化に直結するため、サプライチェーンマネジメントの重要性はますます高まっています。
サプライチェーンマネジメント導入のメリットとは
サプライチェーンマネジメントの導入は、企業が市場の変化に素早く対応し、競争力を高めるための重要な施策です。以下では、その具体的なメリットを詳しく解説します。
スピーディーな市場投入が可能
リードタイムの削減により市場への投入がスピーディーになります。サプライチェーンにおいては仕入れから商品供給までの時間をリードタイムといいます。
もしもサプライチェーンにおけるリードタイム削減に成功すると、その企業は市場へいち早く商品を投入できるため、競合よりも有利な条件で事業を展開できます。サプライチェーン管理の目的の1つは、このリードタイムを削減することです。
仕入れ、在庫、販売、出荷、配送のリードタイムをそれぞれ削減することで、市場への供給が非常にスピーディになります。
商品在庫の最適化
商品在庫とは企業の資産です。厳密にいうと「現金化を待っている資産」であり、企業は在庫である商品を販売することでキャッシュという資産を獲得しています。従って、多すぎる在庫を抱えることや、少なすぎる在庫で需要に間に合わないことは企業にとって大きな不利益を生んでしまう原因です。
過剰在庫はキャッシュフローの悪化を生み出し、反対に在庫不足は機会損失を生んでしまいます。そのため、商品在庫は常に適正を保つことが重要で、多過ぎても少な過ぎてもいけないのです。
ただし、商品在庫の最適化は決して簡単ではなく、多くの企業がその取り組みに挫折しています。一方サプライチェーン管理を実施している企業では、商品の流れを常に把握しているため、市場が何を求めているのか、どの商品をどれほど供給すればいいのかをいち早く知り、常に適正在庫を保つことができます。
人材情報を適切に管理した適材適所
サプライチェーンの管理対象はモノだけでなくヒトも含みます。各フェーズにおいてどれくらいの人材が投入されているのか、全体管理にてどこにどれほどの人材を投入すればいいのかが視覚化されるため、人材活用にも寄与します。
こうしたいくつかの効果によって、サプライチェーン管理は最終的に収益拡大へと連鎖していくのです。
企業のグローバル化の推進
サプライチェーンマネジメントは、企業のグローバル化を大きく後押しします。
サプライチェーンマネジメントを導入することで、企業は世界全体にわたるサプライチェーンの効率化を実現し、各国の需要に応じたスムーズな供給調整が可能です。
例えば、ある地域で不足している在庫や材料を別の地域から迅速に供給することで、世界規模で在庫の過不足を最小限に抑えることができます。これにより、無駄な在庫やコストの削減が可能です。
さらに、デジタル技術(DX)を活用したサプライチェーンマネジメントでは、リアルタイムでの情報共有や迅速な意思決定が可能となり、需要の変動に柔軟に対応できます。
こうしたグローバルな供給ネットワークの確立は、国際的なビジネスの成長を支援し、新たな市場への迅速な進出と適応を可能にします。結果として、企業は効率的なサプライチェーンを武器に、持続的なグローバル成長を実現できるのです。
企業競争力の向上
サプライチェーンマネジメントの導入により、企業は市場の変動や需要の変化に対して迅速かつ柔軟に対応可能です。これにより、供給不足や過剰在庫といった問題を未然に防ぎ、顧客のニーズに適切に応えることで競争力が向上します。
また、サプライチェーンマネジメントのデータ分析機能を活用することで、市場の動向を予測し、予防的な対策の構築が可能です。さらに、他社との差別化を図り、より高い精度でビジネス戦略を立てられるため、競争優位性が確保されます。
このような効率的なサプライチェーン運営が企業の成長を支える重要な要素となります。
働き方改革の推進
サプライチェーンマネジメントは、企業の働き方改革を推進する上で重要な役割を果たします。サプライチェーンマネジメントは、原料や製品、人材リソースを適切に管理し、業務の効率化を図る仕組みです。
具体的には、各工程に必要な人材を適切なタイミングで配置し、作業の無駄や重複を排除します。その結果、業務効率が大幅に向上し、残業時間を削減可能です。残業が減少することで、従業員はより健全なワークライフバランスを保てるようになり、労働環境の改善につながります。
これらにより、企業は従業員の満足度と生産性の向上を両立し、持続的な労働力の確保が可能です。サプライチェーンマネジメントの導入は、効率化を通じて働き方改革の実現に大きく貢献します。
コスト削減
サプライチェーンマネジメントの導入により、物流コストの削減が可能です。特に、3PL(サードパーティ・ロジスティクス)企業の活用は効果的な手段です。3PLとは、企業の物流機能を外部委託することを指します。
通常、外部委託はコスト増加要因と見なされがちですが、3PL企業は物流の専門知識を持っているため、適切な価格設定や効率的な輸送ルートの選定が可能です。
また、在庫管理の最適化や車両・倉庫の維持費削減も実現します。これにより、企業は費用を大幅に削減し、全体のコストパフォーマンスを向上させることができます。
透明性の向上
サプライチェーンマネジメントによって、全工程を詳細に可視化することで、企業に透明性をもたらします。
設計や製造の段階から始まり、物流や配送、さらには返品対応に至るまでの全てのプロセスを一元管理することで、サプライチェーン全体の状況がリアルタイムで把握できるようになります。この透明性により、どこに無駄があるのか、どの工程が非効率なのかをすぐに特定でき、改善に向けた具体策を迅速に実施可能です。
例えば、在庫の過不足、配送ルートの非効率といった問題を早期に発見し、調整することで、全体の効率を高められます。
また、プロセスの可視化により、消費者や取引先への情報共有がしやすくなり、企業の信頼性が向上します。これにより、企業は持続的な成長と競争力の強化を実現可能です。
サプライチェーンマネジメントにはデメリットもある
サプライチェーンマネジメントは多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。
まず、適切なサプライチェーンを構築・管理するためには、専門的な知識を持つ人材が必要です。これらの人材を確保し、効果的に活用するためには、企業内部での育成や研修が欠かせません。
また、サプライチェーン全体を詳細に分析し、プロセスを最適化する過程で、システムが複雑化しすぎると、逆に非効率となるリスクがあります。
そのため、企業は適切なスキルを持つ人材を集め、細かくプロセスを見直しながら、必要以上に複雑化しないようバランスを保つことが重要です。サプライチェーンマネジメント導入の際は、効果とリスクを慎重に検討しながら進める必要があります。
サプライチェーンマネジメントのトレンド
最新のサプライチェーンマネジメントのトレンドには、クラウド技術やブロックチェーン、AI・DXの活用が含まれ、効率化が進んでいます。
クラウド技術の活用
クラウド技術をサプライチェーンマネジメントに導入することには、多くのメリットがあります。
クラウドを活用する最大のメリットは、どこからでもシステムにアクセスでき、リアルタイムに情報共有ができる点です。サプライチェーンマネジメントでは、拠点間や世界規模の情報共有を行うためのクラウドの技術が欠かせません。そして、需要や市況の変化に迅速に対応できるため、企業は市場の変動に柔軟に適応し、競争力の維持も可能です。
クラウドを利用することで、自社で大規模なサーバやインフラを構築する必要がなくなり、初期費用や運用コストを大幅に削減可能です。
さらに、クラウドは高い拡張性を持っており、企業の成長やニーズの変化に合わせて段階的に機能を追加できます。クラウドを通じてサードパーティのサービスも柔軟に活用することが可能になり、専門的な物流管理や在庫最適化のツールを組み込むことで、より効率的なサプライチェーンマネジメントSCM運営が実現します。
こうした特性により、クラウド技術はサプライチェーンマネジメントSCMの強力なサポートとなります。
ブロックチェーンの活用
サプライチェーンマネジメントにブロックチェーン技術を導入することで、いくつかの重要なメリットが得られます。
まず、ブロックチェーンはその耐改ざん性と透明性によって、サプライチェーン全体のデータを安全かつ正確に管理できます。例えば、サプライヤーや取引先とリアルタイムで情報を共有し、発注書や請求書をブロックチェーン上で管理することで、文書の信頼性と処理の効率性が向上します。
また、ブロックチェーンを利用することで、サプライヤーは他社に公開したくない情報(生産能力やリードタイムなど)を秘匿化したまま安全に情報共有でき、サプライチェーン全体での最適な発注量を算出することが可能です。
さらに、製品の加工履歴や移動履歴を記録し、不正防止やトレーサビリティの確保が実現します。この仕組みにより、問題が発生した際にその影響範囲を迅速に特定でき、リスク管理が強化されます。
ブロックチェーンは、サプライチェーンマネジメントの精度と信頼性を高め、グローバルビジネスの最適化に寄与します。
サプライチェーンとDX・AIの関係
サプライチェーンにおいて、DX(デジタルトランスフォーメーション)とAIは、効率化と精度向上を大きく支援しています。
まず、AIは過去のデータとリアルタイムの情報を組み合わせて分析し、需要予測や在庫管理、物流計画の最適化を実現します。これにより、在庫過不足のリスクを減らし、コスト削減が可能です。
また、AIの予測分析によって市場のトレンドや需要の変動を早期に察知し、迅速に対応できる体制が整います。
さらに、DXによって注文処理や輸送経路の決定が自動化され、プロセスの自動化が進むことで、人件費の削減と業務の効率化が実現可能です。
DXの進展により、IoTデバイスから収集されたデータがリアルタイムでAIにより分析され、サプライチェーン全体の可視性が向上し、問題が発生する前に対策が打てるようになります。結果として、サプライチェーン全体の柔軟性と顧客満足度が向上し、企業の競争力が高まります。
サプライチェーンマネジメントの企業事例
サプライチェーンマネジメントの概要やメリット、デメリットを解説してきましたが、ここからは企業によるサプライチェーンマネジメントの具体例を紹介します。
JA全農×日清食品の事例
JA全農と日清食品は、2024年問題を背景に、日本の「食」と「農」を支援するため、革新的なサプライチェーンマネジメントを実施しました。これは製品物流において荷主が主導する形で協業し、物流効率を大幅に向上させる新たな取り組みです。
この協業では「ラウンド輸送」という手法を採用し、JA全農の米を輸送する際、その荷下ろし先で日清食品の即席麺を積み込むことで、同じトラックを復路でも活用しました。また、製品と物流資材を混載し、空車での回送を極力避ける工夫を施しています。
この取り組みにより、ドライバーの拘束時間を7%削減し、トラックの積載率を9%向上させました。さらに、CO2排出量は17%削減され、環境負荷の低減にも貢献しています。これにより、持続可能な物流システムの構築と、日本の農業・食品業界への支援が実現されました。
PALTAC×薬王堂の事例
PALTACと薬王堂は、サプライチェーンの効率化と無駄削減を目指し、在庫管理の改善に取り組みました。
一般的に、在庫過多の商品は店舗からメーカーに返品され、最悪の場合、廃棄されることも多く、小売業においては店舗ごとの在庫偏重が課題となっています。
この課題を解決するための取り組みとして「店舗間の商品移動システム」を導入しました。これは、各店舗ごとに在庫過多の商品を自動で抽出し、在庫が不足している他店舗に自動で振り分ける仕組みです。返品を極力避け、在庫過多の商品を効率的に移動することで、商品ロスを削減しました。また、需要予測アルゴリズムを活用し、商品移動が迅速かつスムーズに行われる体制も構築しています。
この連携により、製造業、販売業、配送業がwin-winの関係を築き、5年間でトラック台数11台分の削減を達成。返品率も、小売業から卸売業で0.78%、卸からメーカーで0.87%削減されました。この取り組みは、効率的な物流と環境負荷の低減に大きく貢献しています。
サプライチェーンマネジメントには「Dynamics 365」の導入がおすすめ
サプライチェーン管理と物流システムは切っても切り離せない関係であり、システムなしでサプライチェーン管理を実現することはほぼ不可能でしょう。また、DXを進めることで、データを活用した効率的なプロセス運営が可能です。
どのような物流システムが必要かは、サプライチェーン管理の目的によっても異なります。一般的に、サプライチェーン全体を管理し最適化を図るのであれば、ERP(エンタープライズリソースプランニング)システムのような、複数の業務アプリケーションが連携したシステムの導入が推奨されます。
例えばDynamics 365は、以下の9つの業務アプリケーション領域から形成されるクラウドERPサービスです。
- 「セールス」
- 「カスタマーサービス」
- 「フィールドサービス」
- 「タレント」
- 「ファイナンス&オペレーション」
- 「リテール」
- 「プロジェクトサービスオートメーション」
- 「マーケティング」
- 「カスタマーインサイト」
ユーザーはこれらの業務アプリケーションをインターネットから利用でき、好きなときに好きな場所やデバイスから同じアカウントにアクセスして業務を遂行できます。
Dynamics 365 for Finance and Operations は、販売、購買 、会計、サプライチェーン管理、生産管理、プロジェクト会計、流通・小売業向け機能などの企業の基幹業務を中心に豊 富な業種業態に対応できるソリューションをご提供します。また、「PowerApps」を活用することでより柔軟に各社が求める仕様にも対応が可能です。
このようにシステムを活用し、仕入れ、在庫、販売、出荷、配送を連携することでサプライチェーンを管理できます。また、DXの推進により、より迅速で柔軟な対応が可能となり、サプライチェーン全体の効率化がさらに進むでしょう。
情報はサプライチェーンとは逆に流れる
最後にサプライチェーン管理を理解する上で重要なことは「情報は逆に流れる」ということです。サプライチェーンにおいて商品は供給者から消費者へ流れていきます。しかし、その商品に対する情報は消費者から生まれ、供給者へと逆に流れていきます。
実は、この情報の流れをコントロールするのもサプライチェーン管理のうちの1つです。消費者から流れる情報を管理すれば、商品に対するフィードバックなどの情報が大量に流入します。それらの情報はすべて、今後の商品開発やサービス改善に向けたきっかけです。
こうした情報を管理してこそサプライチェーン管理であり、一歩先を行く企業には欠かせないマネジメントです。
まとめ
サプライチェーンマネジメントの重要性について解説してきました。企業の競争力向上やグローバル化の促進には欠かせない施策です。まだ取り組んでいないようであれば、この機会にぜひ取り組んでみてください。
その際には、Microsoftが提供するクラウドERPサービスのDynamics 365とあわせて、DXの導入も検討しましょう。DXを進めることで、サプライチェーン全体のデータを一元管理し、より迅速かつ柔軟な対応が可能になります。
Dynamics 365は、ビジネスに不可欠な業務アプリケーションを提供すると同時に、PowerAppsによる迅速なアプリケーション作成が企業特有の業務にフィットし、効率的なサプライチェーン管理を支えます。DXと組み合わせることで、より高度なデータ活用が可能になり、企業の競争力向上にもつながるでしょう。