実店舗を持つ小売事業者は、最先端の技術を武器に事業を展開するデジタルネイティブ企業に対して、どのように立ち向かえばよいのでしょうか?その答えとして「オムニチャネル(Omni-channel)戦略」を推進するケースが増えています。
オムニチャネル戦略とは、企業がもつあらゆる販売チャネル・流通チャネルを1つに統合し、会員情報や在庫情報を一元的に管理することで、消費者に新しい購買体験を提供するための戦略です。日本では大手小売事業者を中心に取り組まれており、最近では中小の小売事業者の中でもその存在感が高まっています。
本記事では、オムニチャネル戦略における小売店舗とECの関係について考察していきます。
デジタル時代の消費者購買行動とは?
1990年代後半から2000年代初頭にかけて一般家庭にパソコンが普及し、2000年代後半には「1人に1台」の時代が到来します。さらに、iPhoneの販売開始(2007年1月)を皮切りにスマートフォンに対する需要が爆発的に増加し、今では国民の75.1%がスマートフォンを所持するまでに至りました。
今日のデジタル時代において、消費者の購買行動というのは大きな変化を遂げています。たとえば、タブレット端末を欲しがっている消費者がiPadを買うまでの行動を追ってみましょう。
消費者はまず、アップルストアや家電量販店にて実機に触れてみて、iPadに対する購買意欲を高めます。その場ですぐ購入するケースは稀でしょう。次の取る行動はインターネットを使った情報収集です。iPad Pro、iPad Air、iPad Miniの違いは何か?それぞれのスペックや、他のユーザーが実際に使った際の口コミやレビュー記事を閲覧して、自分に合った機種をじっくりと検討します。普段から動画コンテンツを視聴する消費者なら、YouTubeでレビュー動画を視聴するでしょう。そうして検討が完了すると、次に最安値で販売している商品を「ネット上で」探します。この時点で実店舗へ足を運ばないという消費者が多く、多くはアップルストアオンラインや家電量販店が運営するECサイト、あるいは楽天などのECモール経由でiPadを購入します。その際の判断基準となるのが第一に価格、次にサポートやポイントアップキャンペーンなどが続きます。あるいは、アップルストア独自のサービスを求める消費者は実店舗まで足を運ぶでしょう。
いかがでしょうか?スマートフォンやインターネットが普及する前の時代と比べれば、消費者の購買行動は大きく変化しました。テレビCMや新聞広告、チラシなどが情報源だった時代とは違い、誰もが自分の求めている情報を自主的に収集し、整理し、活用できるようになっています。
消費者の新しい購買行動を取らえた戦略が欠かせない
上記に説明したような消費者の購買行動に対して、その行動に沿った小売りの仕組みを構築することが重要です。しかし、残念なことに消費者がそれを意識して評価することはないでしょう。なぜなら、消費者にとってはその購買行動が当たり前だからです。これは言い換えれば、消費者の当たり前に対応できない小売事業者は自然と受け入れられない存在になることを意味しています。
たとえば次のような小売事業者は、今後何らかのデジタル改革が必要となります。
- ECサイトと実店舗の商品在庫が違い過ぎて現物チェックができない
- 店舗スタッフから商品に関する説明を十分に受けられない
- 店舗スタッフからその場での決断を迫るような接客をされる
- 商品の受け取り方法を選べない
これらの要因は消費者にとってマイナスに働き、自然とその小売事業者を選ばない傾向があります。原因として考えられるのが「実店舗とECサイトの競合」です。
実店舗とECサイトという少なくとも2つ以上の販売チャネルを持つ小売事業者において、実店舗とECサイトで消費者を奪い合っているようなケースが少なくありません。ECサイトばかり売り上げが立ってしまうと実店舗が潰れる、本社がECサイトに力を入れているから実店舗経営は適当でよいなど、間違って認識を持ってしまっています。
実店舗経営にあたっているスタッフから考えれば、店舗における売上が欲しいと考えることは至極当然です。しかしその事情は消費者には無関係ですし、会社という1つの括りで考えれば、実店舗での売上もECサイトでの売上も大差ありません。また、消費者は自分に合った販売チャネルを選択しているだけなので、実店舗での購入を無理強いするような接客とか、実店舗とECサイトが競合して連携が取れないような戦略などは考え直すべきでしょう。
実店舗とECサイトをシームレスに繋げるためには?
オムニチャネル戦略に取り組む意義は、今日の消費者購買行動に対して商品の認知から購買に至るまでのプロセスの中で複数の接点を持ち、一貫したマーケティング施策を展開することでより多くの消費者が自社を選択してもらいやすい、ということです。従って実店舗とECサイトの競合はもちろん御法度。双方がシームレスに連携してこそオムニチャネル戦略のスタートラインに立ったと言えます。
そこで小売事業者がまず取り組むべきは「評価制度と意識の改革」です。
オムニチャネル戦略における実店舗は単なるショールームではなく、消費者に良質な体験をしてもらい、ブランド価値を高めながら消費者ひとりひとりに最適な購買方法を提案して、UX(顧客体験)を最高にすることです。しかし、ECサイトでの売上が立ちやすいという現実を前に、実店舗を正確に評価する仕組みが出来上がっていない小売事業者が大半です。
消費者が選択した最終的な販売チャネルがECサイトだった場合も、購入の決め手となったのは実店舗スタッフの接客だったかもしれません。正しい評価制度を作るために、実店舗にタブレット端末を設置してECサイト在庫を確認し、商品を購入できるようにする小売事業者が増えています。店頭のタブレットから購入に至った売上は実店舗の功績とする仕組みです。
そしてもう1つ重要なのが店舗スタッフの意識改革です。自店舗で売上が立ってほしいと考えることは自然ですが、無理な接客は全社的にマイナス要因になります。そのため、ECサイトへの誘導などを踏まえて上で接客に対する意識改革を行い、自分の力を発揮できる場を提供します。
オムニチャネル戦略へ取り組もう!
オムニチャネル戦略ではサプライチェーンを整備して実店舗とECサイトの在庫情報を一体化するなど、システム面での改革ももちろん必要です。しかし一番大切なことはやはり会社としての「意識改革」であったり「組織づくり」でしょう。その上で最適なシステムの構築も必要不可欠と言えます。まずは他の小売事業者が実施している先行事例を参考にしながら、自社にとってオムニチャネル戦略とは何か?を定義した上で取り組むことが重要です。