「小売業はモノが売れない時代に突入して厳しい」
そんな悩みを持つ方に、小売業の実態や課題、その解決策を解説します。実態は「モノが売れなくなった」のではなく「モノが売れにくくなった」というのが正しいです。
小売業の課題として「人材不足」「消費者ニーズへの対応」「実店舗の価値低下」などがありますが、対策をしていくことで時代の流れに沿った企業として存在感を放てるようになります。
小売業界「モノが売れない時代」は本当?
現代は「モノが売れない時代」と称されることが少なくありません。しかし、実際にはモノが売れないというよりも、簡単にモノが売れなくなっているというべきでしょう。小売業が苦戦している背景について理解すれば、経営戦略に生かせるはずです。
簡単にモノが売れなくなっている原因は、人口減少やIT技術の発展、消費者ニーズの変化などさまざまです。無関係に見えるものもありますが、これらの変化は小売業界にとって無視できるものではありません。時代の変化に逆らわずに、小売業界側が対応していくことが求められます。
小売業全体に差し迫る現状と課題
小売業界においては、慢性的な人手不足が続いています。現状と課題として以下の3点について説明していきます。
- 慢性的な人手不足とその対策のため生じている瀬戸際の人員配置
- 時代と共に変化する消費者のニーズ
- リアル店舗のショールーム化
慢性的な人手不足とその対策のため生じている瀬戸際の人員配置
小売業においては、少子高齢化による慢性的な人手不足が大きな課題となっています。小売業が人材不足となる大きな要因として、ブラック企業として悪いイメージを持たれている点があります。
総務省統計局が発表している人口推計では、日本の人口は2008年以降少子高齢化の影響で年々減少しています。このため、今後さらに人手不足が加速することが予想され、小売業界においても労働生産性の改善が必要です。
一方で、人手不足対策のために働き方改革に取り組むことにより、さらにぎりぎりの人員配置となる店舗が多く、持ちこたえられないことが要因で廃業となる店舗は少なくありません。
時代と共に変化する消費者のニーズ
小売業にとっては、時代と共に変わっていくニーズに応えられるかどうかも重要な課題となっています。例えば、モノを所有することから「共有」が当たり前になってきているのは、現代社会の大きな特徴でしょう。 デフレ経済や老後不安など、消費者が高い買い物をすることへの不安を抱える要因は数多く存在します。
そこで、インターネット上で優れたサービスを比較的安価に共有する傾向が強まっていったと考えられるのです。 そういった中で、サブスプリクション型のサービスが台頭してきました。定額制によって、与えられるサービスを使い放題にできる仕組みです。これらのサービスが増えたことで、ますます消費者から「モノを買う」という発想が薄まってきました。
ソフトを購入せずに、動画やアプリケーションの配信を利用するなどの消費行動は典型的な例でしょう。必要なときに必要なだけの商品、サービスを利用できるシステムこそが、現代の主流になりつつあります。
リアル店舗のショールーム化
中国などでは、ネットショップやECサイトの成長率が高まってきています。日本の小売業界でもインターネットで顧客を集めようとする動きが起こっています。ただし、消費の中心がインターネットになったことで、リアル店舗のショールーム化にも拍車がかかりました。
これまで、スーパーマーケットなどのリアル店舗では、顧客が来店して商品を購入するのが当然の流れでした。しかし、現代の顧客は店舗で商品仕様を確認した上で、ネットにアクセスし、より安く販売しているサイトを探すようになっているのです。 つまり、店舗まで顧客を誘導することは可能でも、そこから競合他社に奪われてしまう可能性が大きくなっています。
せっかく集客に成功したにもかかわらず、売上に影響がないまま宣伝イベントが終わってしまうことも珍しくありません。小売業が生存するには、オンラインとオフラインのどちらの発想も持ちながら、最終的にはしっかり収益に導くような構造を確立することが必須だといえるでしょう。
業態別 小売業界の現状と課題
経済産業省は例年小売業の動向に関する統計データを発表しています。日本における小売業の課題を業態ごとに探るために、「2023年小売業販売を振り返る」という資料で数字を追っていきましょう。
百貨店
2023年の百貨店全体の販売額は5兆9,557億円(前年比8.1%の増加)でした。そのうち、もっとも売上に貢献していたジャンルは「飲食料品」です。次に、「婦人服・子供服・洋品」が売上の多くを占めており、百貨店における主戦力だったことが分かります。一方で、「紳士服」は「婦人服・子供服・洋品」の3分の1程度の売上にしかなっていません。
百貨店業界の傾向として、ブランドイメージなどに後押しされ、百貨店全体の顧客数が急激に失われることは考えにくいでしょう。ただし、変化がないわけではなく、大手と中小企業の差が明確になっていくことが予想されます。
オンラインショップに対抗できるほどの知名度や宣伝力を持った大手が有利な立場にあるのは変わりません。さらに、外国人の顧客も増えている中、今は日本人にしか通用しないブランドであっても、これから国際的に高めていくことは大きな課題です。
スーパー
2023年、スーパーマーケット業界全体では15兆6,492億円(前年比3.3%の増加)の販売額が記録されました。依然として、日本人の消費生活の中心にはスーパーがあります。中でも、12兆円以上は飲食品の売上でした。
安くて新鮮な食材が簡単に手に入るスーパーは、食生活に欠かせない存在となっています。ただし、衣服や日用品などの売上は飛び抜けたものがありませんでした。 スーパーマーケットの顧客は、調理の手間を惜しまない高齢者が中心になっている可能性があります。「料理は家でするもの」という考えが浸透している高齢者は、肉や魚、野菜を買って持ち帰ることが当たり前になっています。一方、若者世代にはそもそも「自分で料理をしなくてはいけない」という発想が必ずしもありません。
そのため、若者世代を顧客にすることはスーパーにとって今後の課題です。 「ブランド化」の促進もスーパーに求められているテーマでしょう。単純な価格競争になってしまうことが多い業界なので、商品そのもののクオリティが語られる機会がそれほどありませんでした。しかし、顧客の世代交代を進めていくには、安さだけでない魅力をどこまで訴求できるかが鍵でしょう。
コンビニエンスストア
2023年、コンビニエンスストア業界は12兆7,321億円(前年比4.4%の増加)もの販売価格を記録しました。内訳としては、日配食品、加工食品、非食品のバランスがとれているのが特徴です。
幅広い顧客が通いやすい立地にあり、多種多様な需要に応えられるだけの品ぞろえがあるのは、コンビニエンスストアの強みといえるでしょう。各メーカーがオリジナルの商品、サービスを展開して特色を押し出しているのも、業界全体の活性化につながっています。
ただし、あまりにも店舗数が増えすぎて市場が頭打ちになっているのは課題です。新規店を増やして売上を伸ばすのがコンビニエンスストア戦略の基本だったものの、同じメーカーの店舗同士が顧客を奪い合うという事態を招いてしまいました。成長率という点で、コンビニエンスストア業界は停滞しています。
今後は、「気軽さ」を押し出すだけでなく、より深いニーズに応えられる店舗となっていけるかが重要でしょう。
家電大型店
2023年度、家電大型店は4兆6,324億円(前年比1.1%の減少)でした。
特に、生活家電は40%以上の販売額を記録しました。次いで、情報家電が売上の多くの割合を占めています。このデータは、パソコンやスマートフォンが当たり前になった世の中を象徴するものです。それぞれ単価が高い商品であることも、売上の伸びに反映されています。
ただし、家電業界全体としては、市場が縮小傾向にあります。大きな要因として、パソコンやスマートフォン・タブレットなどの浸透によりテレビやラジオといった製品を買う必要がなくなったことが挙げられるでしょう。
パソコンかスマートフォン・タブレットが家庭にあれば多くの家電の機能を代用できてしまうので、他の製品を買う必要性が薄れたのです。例としてスマートフォンがあればニュースやドラマなどテレビ番組の視聴が可能です。アプリのみで配信される番組も続々と登場しており、テレビの需要が減ってきたと考えられます。
そして、大手家電量販店が市場を独占し、中小企業は苦戦を強いられています。規模の小さい店舗ほど、オンラインを意識して宣伝戦略を立てられるかどうかが課題となっていくでしょう。
ドラッグストア
日本ではドラッグストア業界も大きな市場を持っています。外国人観光客の「爆買い」と呼ばれる消費行動では、しばしばドラッグストアの商品が人気を集めてきました。一時期はコロナの影響で外国人観光客は激減しましたが、外国人観光客の客足が戻ったこともあり、2023年度には、前年比8.2%プラスの8兆3,438億円の販売額を記録しています。
そのうち、特に食品や家庭用品、ビューティー用品などは大きな売上となってきました。ドラッグストアで取り扱われている商品が、さまざまなバリエーションを見せるようになったことを象徴しています。
ドラッグストア業界の成長には、インバウンドマーケティングが貢献しています。国内のみならず国外の消費者にも目を向けたことが功を奏して安定した市場を手にすることができました。しかしながら、同業界では低価格競争がし烈を極めてきています。決して利益率は高くないだけに、今後はどのようにして売上と利益を両立させていくかが課題でしょう。
ホームセンター
家庭用品やDIY用品を購入する場所として、ホームセンターは重宝されてきました。そのほか、園芸用品やペット用品なども人気です。2023年のホームセンター市場の販売額は3兆3,411億円であり、前年度からほぼ横ばいでした。
日本におけるホームセンター業界は、郊外を中心として店舗を展開していき、地方の顧客を掴むことで成り立ってきました。しかし、近年では少しずつ市場規模が縮小してきています。ホームセンター業界にとって向かい風となったのは、店舗数が増えすぎたことによる競争の激化でした。また、戸建て住宅の着工件数が徐々に減少してきたこともあり、家庭用品の需要そのものが少なくなっています。しかし、2023年度は店舗数が若干増加傾向にあり、ホームセンター業界の巻き返しが期待されている状況です。
どの企業も飲食品を増やすなどの工夫をして対応しているものの、決定的な効果には結びついていません。一方で、他社を吸収合併しながらさまざまな事業展開を図る企業も出てきました。郊外以外のエリアで、どれだけ顧客を集められるかがホームセンター業界に課されている試練です。
その他(自動車小売店や専門販売店)
衣服など、そのほかの専門販売店は、年々苦境に追い込まれています。全体の売上が急落こそしていないものの、部分的にはゆるやかな下降の傾向が表れているといえるでしょう。消費者のライフスタイルの移り変わりは市場に影響を与えました。かつて、衣服といえば「紳士服」「婦人服」というように、明確なジャンル分けがなされていました。だからこそ、ブランドの商品が愛され、固定ファンを生み出していたのです。
しかし、現代では低価格の「ファミリー服」で満足する消費者も少なくありません。 全体的に価格重視の消費活動が目立つ中、リアル店舗での売上が伸びているといえるのが自動車販売です。自動車は信頼できるディーラーから直接話を聞いて購入したいという層も根強く存在するので、オンラインショップの台頭も店舗を脅かすまでにはなっていません。
そのかわり、車の周辺機器などはネットで購入する顧客が増えています。 ただし、車を買う消費者自体は減っていなくても、日本メーカーも安心は禁物です。海外メーカーの情報を集めやすくなった時代では、「安くて耐久力がある」日本車の魅力が絶対的なアドバンテージにならなくなりました。
そして、デザインやブランド力で車を選ぶ傾向が強くなることも考えられます。アパレルや自動車では純粋なものづくりの視点に立ち返ることが、今後も存続していく条件になりえるでしょう。
小売業は今後なくなるのか?
小売業は今後なくなってしまうのでしょうか。決してそんなことはありません。ネットショップやECサイトでは提供できないような、実店舗ならではの強みがあるのです。
例えば服飾を扱う店舗であれば、実物を見ないとWeb上で見える色や形が違う場合があり試着できないとサイズも分かりづらい場合があります。服飾以外にも直接商品を見てから購入したいと思うことは少なくありません。
このように、消費者のニーズを掴める実店舗はこれからも存続するでしょう。そのためには、適切なマーケティングが求められます。実店舗を存続させるにはこのような課題解決が求められるのです。
課題に対応した課題解決のヒントになるのは以下のポイントです。
- 慢性的な人手不足とその対策のため生じている瀬戸際の人員配置 →DXによる業務効率化
- 時代と共に変化する消費者のニーズ →細やかな顧客ニーズへの対応
- リアル店舗のショールーム化 →オンラインとオフラインの融合
それぞれの課題に対する具体的な解決策を次項で解説しています。
【小売業の課題】解決にみちびく3つの方法
小売業の課題を解決するには以下の3点を取り入れて行く必要があります。
- DXを取り入れて効率化する
- 販売方法の多様化
- 付加価値のある売場にする
DXを取り入れて効率化する
小売業はDXを取り入れて業務効率化を実現していく必要があります。
日本は少子高齢化が進んでおり、労働人口が減少しています。減っていく労働人口の中でも店舗の経営を切り盛りしていくためには、業務効率化が欠かせません。DXによる業務効率化の例として以下があります。
- 在庫管理の自動化
- 品出しやレジの自動化
- モバイルアプリの利用によるデータ化
上記を実現するためにはDXの推進が必要です。IoTやAI、ビッグデータといったIT技術の導入だけでなく、ロボット化やデータの可視化といった取り組みも重要になります。
DXを取り入れることで、ミスが少なく、業務の自動化や短縮が可能です。これらによって業務効率化を実現し、人材不足に対応していく必要があります。
またDXを取り入れることで、データ分析をしやすくなります。売上を増やす、在庫を減らすための洞察や、効率のよい人員配置の提案などが可能です。
DXによって業務効率化や経営状況の改善が期待できます。
販売方法の多様化
販売方法の多様化はさまざまな顧客ニーズに応えることになり、収益の増加を期待できます。
従来の直接店舗販売以外の販売方法の例は以下のとおりです。
- オンライン販売
- サブスクリプション
- 自動販売機
- イベントスペースへの出店
オンライン販売が可能になれば、来店できない場所に住む顧客の注文を受けられます。人件費の削減や、いつでも注文を受けられることなど店舗側のメリットも多いです。
サブスクリプションは定期的に商品やサービスを届ける販売方法です。例として自身で商品を選べない顧客には、定期的におすすめ商品が届くことは魅力的に感じるでしょう。店舗側も安定した収益を確保できるメリットがあります。
自動販売機も24時間稼働のため、顧客はいつでも購入が可能です。店舗の人件費削減にもつながります。
イベントスペースへの出店は新規顧客獲得につながります。一時的な出店であれば固定費も少なく済む点もメリットです。
付加価値のある売場にする
付加価値がある売場にすることも、小売業の課題解決には重要です。
「店舗でモノが売れにくい」主な原因はオンライン販売でしょう。売れることは決して悪いことではありませんが、通販サイトへの手数料や他店との競合を考えると、店舗で売れて欲しいと考えるものです。
店舗でモノが売れやすくなるには、店舗に行きたくなる付加価値を提供しましょう。付加価値の例として以下のとおりです。
- 店舗限定割引、サービスの実施
- 体験を可能にする
- 高品質な接客
- 地域密着型の取り組みを実施する(例として地元の職人やアーティストとのコラボレーション)
付加価値がある売場にするためには、別の販売方法を超えるメリットが必要になります。「あそこの店に直接足を運んで購入したい」と思ってもらえる店舗づくりを目指しましょう。
まとめ
小売業は離職率の高さや応募率の低さ、多くの消費者がECサイトを活用するなど厳しい状況です。
人口の減少や消費者ニーズなど、時代の流れに伴った変化を食い止めることは現実的ではありません。企業として生き残るためには店舗側が時代の流れに沿って、対応していく必要があります。
当記事で解説したDXや販売方法の多様化の方法を取り入れて、時代の流れに対応して行きましょう。
また付加価値のある売場を目指し実店舗の強みを活かしてしっかりとしたマーケティングを行うことで売上を増やしている事例もあります。小売業においてDXを導入しデータを活用することで、効果的なマーケティングにつなげられるのです。