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小売業IT活用事例:スターバックスの強さの秘密とは?

サードプレイスとして日本でも大きな人気を集めるスターバックス。 現在、ブロックチェーンやIoTなど、新しい技術を投入した次世代サービスの開発を進めています。 この記事ではスターバックスがITを活用してどのようなことを目指しているのかを紹介し、企業ブランドの強さの秘密に迫ります。

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スターバックスについて

スターバックスは「人々の心を豊かで活力あるものにするために—ひとりのお客様、1杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」をミッションとし、アメリカのシアトルで創業されました。

日本では1996年に1号店が銀座に上陸。これまでの喫茶店とは一線を画した居心地の良い空間や、高品質なイタリア式のコーヒー、そこにいるだけで潤いある時間を過ごせる体験価値に、多くのファンが生まれました。フレンドリーな接客やドリンクのカスタマイズ性の高さも人気の秘訣です。チェーン店でありながら、高いホスピタリティや個人に最適化されたサービスを実現しています。

今では世界で約30,000店舗ものチェーンに成長し、国内では2015年に鳥取県に出店したことで、47都道府県全てに店舗展開されました。2019年には焙煎所が併設された次世代店舗「スターバックス リザーブ ロースタリー東京 」がオープンし注目を集めています。

店舗のデザインにバリエーションがあるのもスターバックスの特徴です。日本だけでも約30人の店舗デザイナーがおり、地域の文化や周辺の環境に合わせて様々な外装や内装が施されています。

健康や環境への意識が高い企業風土も、ブランドを特徴づけています。早い段階から国内では珍しかった店内完全禁煙を実施し、マイクロプラスティックが問題化している近年では、2020年までにプラスチックのストローを全廃すると発表しています。コーヒー豆など使用している素材についても、契約農家のものを使うなど安全性への配慮がされています。

また、快適なユーザー体験のために新しい技術の導入にも積極的で、キャッシュレス決済が可能なスターバックスカードの導入や、無制限のWi-Fi回線の提供などを、他店に先駆けて実施しています。

スターバックスが抱えていた課題

先述のように、スターバックスは食品を扱う企業として安全性の高い素材にこだわっており、仕入れているコーヒー豆がどこで生産されたのかも全て把握をしています。しかし、従来はそのような製品の細かな生産情報は企業内部に留まっており、一般のユーザーが確認することはできませんでした。

またスターバックスの店舗ではコーヒーを提供するため、コーヒーメーカーやブレンダーなど、多くの器具が使用されています。これらの器具が故障すると、修理のためにメンテナンス要員が必要となり、呼び出すコストや修理費がかかってしまいます。店舗のサービスが止まったり、故障や不具合が発生したりすると、顧客の体験価値は大きく損なわれてしまいます。
そして顧客の体験価値をさらに高めるためには、その人の好みや過去の注文履歴を把握し、個別に最適化されたサービスを提供していかねばなりません。スターバックスはこうした課題を、新しい技術の投入で解決していこうとしています。

デジタル技術を駆使し課題を解決

では実際にどのような施策が実施されているのか、順に見ていきましょう。

コーヒー豆のトレーサビリティ

トレーサビリティとは、その食材が生産地から店舗まで、どのように移動してきたかを明らかにするものです。スターバックスは2019年、誰に対しても店舗で販売しているコーヒーのトレーサビリティを可能にするべく、ブロックチェーンを導入する計画があることを発表しました。

ブロックチェーンとは、ネットワーク上で端末同士を直接接続し、やり取りの記録を暗号化しつつ分散的に処理・記録する情報処理技術です。高度な匿名性とセキュリティの堅牢性を持つ次世代の技術として、各所から注目が集まっています。記録されたデータを暗号化し、後から誰も改ざんすることができないという特性があります。提供しているスターバックスすら改ざんができないため、非常に透明性の高い情報となります。

この技術が実装されると、リアルタイムでいつでもコーヒーの由来が確認でき、顧客に対する説明責任が果たせるようになるのです。具体的にはスマホのアプリを利用して、コーヒー袋に付いているコードを読み込むと、どこの国のどの農場から来たコーヒーなのか、いつどこで焙煎されて袋に入れられたのか、などが分かるようなサービスをリリースすることが予定されているようです。

店舗器具管理のIoT化

店舗で使われている器具の状態を知るには、器具そのものに情報の発信装置を付けることが必要です。従来はそうした環境を構築するのに多額の費用が掛かりましたが、近年、IoTデバイスの登場によって大きくコストが下がりました。

IoTは「Internet of Things」の略で、直訳すると「モノのインターネット」という意味になります。さまざまな機材や道具にまつわる情報を、インターネット通信のもと管理するのがIoTです。インターネットを介した通信やWebコンテンツの利用には、パソコンやスマホなどに代表される通信機能を備えた端末が必要です。最近ではテレビや家電などでも、通信機能を持った商品が増えてきました。

IoTデバイスはそうした流れをさらに進めるもので、電化製品や製造機器などへデバイスを実装することで、IoTデバイス間での直接的な通信やデータの授受を行うことが可能です。また、デバイス実装は専用の通信技術を実装するよりも低コストで行うことができるため、今後あらゆる機器のIoT化が進むと目されています。

スターバックスでも、店舗で使うコーヒーメーカーなどにIoTデバイスを取り付け、器具の状態をネット経由で管理することを計画しています。

顧客に対するレコメンデーション

顧客ごとに最適化されたサービスを提供するためのカギとなるのが、強化学習技術です。強化学習は機械学習の一種で、必ずしも正解があるわけではない環境の中、様々な情報や試行錯誤した経緯をヒントにして、最適な価値は何かを出力するものです。

飲食業に当てはめれば、その顧客の過去の注文履歴がなくても好みそうなメニューを提案できるようになるということです。例えば、顧客の過去の注文記録を参考にしながら、その日の天気や気温、時間帯や最近人気を集めているメニューなどの情報を加味し、おすすめの商品を提案する、といったように利用されます。

常連客に対してバリスタが行うサービスを、AIが代わりに行うようなイメージです。
スターバックスが強化学習を利用したレコメンデーションを実践すれば、顧客が感じる体験価値はチェーン店のレベルを超え、さらに豊かなものになるでしょう。スターバックスではこの仕組みをドライブスルーにも適用するとしています。

IT活用で得たメリット:デジタルトランスフォーメーション

このように新しいIT技術を活用することは、スターバックスに大きなメリットをもたらします。またメリットは顧客にも還元されていきます。

ブロックチェーンによるメリット

コーヒーのトレーサビリティへの導入が予定されているブロックチェーンは、顧客の安心に繋がるだけでなく、生産者にとってもメリットがあります。

スターバックスが取引しているコーヒー豆の農場は38万以上と言われています。それらの生産者は、これまで自分たちが作った豆がどこにいくのか知る術がありませんでした。しかしブロックチェーンにより実在するスターバックスの店舗で提供されていることが分かれば、厳しい基準に合格しているという証拠となり、モチベーションの向上にも繋がります。実際にスターバックスではコロンビアやコスタリカなどの農家に取材を行い、この機能が彼らにとって、どのように役立つものになるのか判断しようとしています。

IoTによるメリット

店内の器具に実装されたIoTデバイスにより、スターバックスでは各店舗の器具がどのような状態にあるのか、情報を吸い上げることが可能になります。使われた豆の種類、水の状態や温度などがリアルタイムで確認でき、マシンに不具合がないかが分かります。それと同時に、通信を活かして情報を送り込めるのも、IoTによるメリットです。

例えば、個々のコーヒーのレシピを各器具に直接送信することで、更新の手間が大きく減ります。これまで新しいレシピは、情報が記録されたメディアを通じ、店舗のスタッフが手作業で登録していました。それがワンクリックで可能になるということです。世界の店舗数が30,000店に近い規模であることを考えると、極めて大きなコスト削減が達成されます。

強化学習によるメリット

一般的な機械学習でも、企業側にとっては個々の顧客の好みや購買傾向が予測できるため、非常に大きなメリットがあります。さらにそれ以外の条件も加味する強化学習は、不確実性の多い飲食業界において、より的確な接客や販売管理の実現に寄与します。

例えばドライブスルーでは一般的な店舗に比べ、やって来た顧客が近隣に住んでいる常連客ではない可能性が高くなります。対面販売ではないため、アプリなどを使って過去の販売記録を参照するのも難しい場合が出てきます。そうした状況でも、顧客にとって関心が高そうなおすすめを提供できるのが強化学習の強みです。

また、顧客の行動データの蓄積により、店舗ごとの消費傾向も明らかになっていきます。もともとスターバックスは周囲の環境に合わせて店舗デザインを設計するなど、地域への関連度を意識する企業文化を持っていますが、より地域に見合った店舗運営が可能となると言えるでしょう。

導入製品とサービス

こうした数々の先進技術の導入においては、「Microsoft Azure」「Azure Sphere」「Azure Blockchain Service」など、Microsoftが提供するサービスが活用されています。

Microsoft Azureは全体のプラットフォームとなって、その上に各種の機能を搭載します。Azure SphereはIoTの分野を担います。各店舗に10台以上が配置されている色々な器具との通信を行い、不具合の発生を事前に特定できる機能を発揮します。多層防御が施されるなどセキュリティへも十分な配慮がされており、悪意のあるユーザーからのハッキングを防ぎます。将来的には食材や備品の在庫も把握し、そこから注文に繋げる仕組みも想定されているようです。

トレーサビリティに導入されるブロックチェーンを担うのは、Azure Blockchain Serviceです。大規模なブロックチェーンネットワークを簡単にセットアップでき、店舗側の業務処理やアプリ開発に集中できます。

実際にスターバックスでは、豆の特徴や試飲メモ、生産者の紹介などを行うモバイルアプリをすでに開発済みです。

まとめ

スターバックスは創業以来、美味しいコーヒーを提供するだけではなく、コーヒーに関連するストーリーや人との繋がり、ホスピタリティや心地よさなどを追求してきました。新しい技術の導入もそうした企業ポリシーに基づくものです。IT活用による様々なメリットも、最終的にはパーソナルなやり取りに繋げるものとして期待されています。

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