開発時間の短縮やコスト削減に有用な手法が「リバースエンジニアリング」です。本記事では、リバースエンジニアリングの概要や手法、メリット、違法となるケースなどを紹介します。
技術流出を阻止する対策を講じた上で、適切にリバースエンジニアリングを活用すれば、競争力の維持・向上に結びつくはずです。
リバースエンジニアリングの意味とは
リバースエンジニアリング(reverse engineering)とは、他社が開発した既存の製品を入手して分解したり、動作を確認して製品の構造を分析したりすることにより、自社に有用な技術情報を取得する開発手法です。ハードウェア製品だけでなく、ソフトウェア製品に対してもリバースエンジニアリングは用いられており、活用シーンによってその目的や意味が異なります。
リバースエンジニアリングによる開発のメリット
リバースエンジニアリングは、単なるコピーを目的に行うものではありません。リバースエンジニアリングにより得た情報を自社製品の開発に取り込めば、開発期間の短縮や、品質の向上に期待できるでしょう。またセキュリティ性強化のための分析としても非常に有効な手法です。
開発期間を短縮できる
近年では、デジタルの進歩に伴って製品のライフサイクルは短縮化する傾向にあります。そのため、開発段階で時間がかかってしまうと市場のニーズを逃し、不利な立場となる可能性があります。このようなリスクを回避するために、企業は品質の高い製品をスピーディーに開発して市場に投入しなければなりません。既存製品から獲得した情報を入手して新たなアイデアを得たり、複数の技術を組み合わせたりして開発に取り組めば、短期間での開発が実現しやすくなります。
開発コストを削減できる
新製品の開発には、多くの人手やコストを要します。しかし、リバースエンジニアリングを用いた開発であれば、従来のように試作品を作成して実験・考察・検討を何度も重ねるといったプロセスを簡素化することも可能です。プロセスの見直しや最適化によって、開発コストの大幅な削減につながるのもリバースエンジニアリングの大きなメリットです。
よりよい製品づくりが可能になる
他社が開発した既存製品を解析すれば、市場や消費者の受け止め方や販売状況、どのような課題があるのかも容易に把握できます。分析により得られた情報を自社製品の改善につなげれば、クオリティの高い製品を世に送り出せるようになります。リバースエンジニアリングを活用して他社と差別化した製品の開発に成功すれば、より市場評価の高い製品づくりが実現するでしょう。
埋もれたノウハウを掘り起こし活用できる
市場には、仕様書がつくられていない古い製品や、何らかの事情で図面や設計データが残されていない製品も存在します。リバースエンジニアリングを用いて、それらの製品がどのようなノウハウにもとづいて開発されたのかを知り、新製品を開発する際のアイデア創出につなげる活用方法もあります。また、このように取得したデータをデジタル化して保存しておけるのもリバースエンジニアリングのメリットです。
リバースエンジニアリングの手法
リバースエンジニアリングは、ハードウェアとソフトウェアの双方で活用される技術です。ハードウェア製品の構造分析からソフトウェアの動作解析まで、多様な手法が存在します。ここでは、具体的な手法を詳しく見ていきます。
ハードウェアにおけるリバースエンジニアリング
ハードウェア製品のリバースエンジニアリングは、製品内部の構造や寸法、設計データを取得するための手法です。CTスキャンや3Dスキャナーなど、最新技術を活用して詳細なデータを収集できます。
CTスキャン:内部把握
CTスキャンは、製品内部の構造を非破壊で解析するための手法です。
X線を使用して製品の内部を撮影し、断層画像を取得します。これにより、複雑な内部構造を分解せずに3Dデータとして可視化でき、製品の詳細な内部構造を把握できます。
特に、精密機器や医療機器など、内部に繊細な部品が多い製品の解析に適しており、開発や検査の場面で多く活用されています。取得したデータは、設計データの再構築や新製品開発の参考資料としても有用です。
さらに、製品内部の不具合箇所を迅速に特定できるため、問題解決にかかる時間を短縮し、結果として開発全体の効率化や製品の品質向上にもつながります。
CMMマシン:寸法測定
CMM(Coordinate Measuring Machine)マシンは、製品の寸法を高精度に測定するための機器です。製品の表面をプローブでスキャンし、3次元座標を取得することで、形状や寸法を正確に解析できます。
この手法は、金型や精密機械部品など、高い寸法精度が求められる製品の製造現場で広く使用されています。従来の手動測定と異なり、人為的な誤差を最小限に抑えられる点が大きな利点です。
取得したデータは、設計と製造の整合性確認や、製品の品質管理に活用されます。また、製品の改良や新規開発の際のベースデータとしても重要な役割を果たします。
3Dスキャナー:立体形状把握
3Dスキャナーは、製品の立体的な形状を高精度に取得するための装置です。
レーザーや光学技術を用いて製品表面をスキャンし、3Dモデルを生成します。この手法は、複雑な形状や曲面を持つ製品のデータ化に非常に適しています。
自動車部品や工業製品だけでなく、文化財のデジタル保存にも広く利用されているのが特徴です。取得したデータは、設計改良や製品の互換性検証、新製品の試作など多方面で活用されています。
手作業では困難な精密測定が容易になり、結果として開発スピードや品質管理の向上につながるでしょう。
CAD化用リバースソフト:CADデータ変換
CAD化用リバースソフトは、ハードウェア製品のスキャンデータをもとにCAD(Computer-Aided Design)形式に変換するためのツールです。CTスキャンや3Dスキャナーで取得したデータを活用し、設計図や3Dモデルを再構築します。
この手法により、古い製品や図面がない部品でも、正確な設計データを作成することが可能です。特に、製品の再設計や改良、新製品の開発において重要な役割を果たします。また、データをデジタル化することで、保存や共有が容易になり、開発効率の向上にも寄与します。
これにより、製品設計の精度が向上し、コスト削減や市場投入までの期間短縮が期待できるでしょう。
ソフトウェアにおけるリバースエンジニアリング
ソフトウェア製品を対象に行うバースエンジニアリングでは、設計書で把握できない詳細な技術情報の取得も可能です。CPUが理解するための機械語を人が理解できるソースコードへと復元する「逆アセンブル」「逆コンパイル」といった2つの手法が存在します。
逆アセンブル:ソースコード分析
逆アセンブルは、コンピュータが理解する機械語をアセンブリ言語に変換する手法です。
アセンブリ言語は、低レベル言語の中でも人間が比較的読みやすい形式で表現されるため、プログラムの基本的な動作を解析するのに適しています。
この方法を活用することで、オリジナルのソースコードがなくても、プログラムの動作ロジックやアルゴリズムを把握することが可能になります。特に、ソフトウェアの脆弱性を特定したり、既存プログラムの改良を行う際に有効な手法といえるでしょう。
また、逆アセンブルを行うことで、ソフトウェアの内部構造を深く理解し、効率的なバグ修正や機能追加が可能となります。
CMMマシン:オブジェクトコード解析
逆コンパイルは、バイナリコードを元に、より高レベルなプログラミング言語(C言語やJavaなど)に変換する手法です。これにより、元のソースコードに近い形式でプログラムの構造を再現できます。
逆アセンブルと比較して、より高い抽象度でコードを理解できるため、複雑なソフトウェアの解析や改良に向いています。この手法は、設計書がないソフトウェアの機能を理解する際や、他社製品の競合調査に活用されることもあります。
ただし、完全にオリジナルのソースコードの再現は困難であるため、解析結果を元に改善策を検討することが重要です。
リバースエンジニアリングを活用して企業DXを推進
リバースエンジニアリングは、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する重要な手法です。他社製品を分析することで市場や競合の技術を把握し、新たな製品開発やサービス提供に役立てられます。
さらに、システムや製品の内部構造を明確化することで、無駄なリソースを削減し、コスト
効率の向上が可能です。特に古いシステムの最適化や最新技術への移行において、その効果は顕著です。
また、新技術を活用することでセキュリティとコンプライアンスの強化も図れます。リバースエンジニアリングにより、システムの脆弱性を特定し、情報漏えいや不正アクセスを未然に防ぐことができます。
このように、企業のDXを加速させ、競争力を高めるために、リバースエンジニアリングは欠かせない手法といえるでしょう。
リバースエンジニアリングは違法になる?
メリットの多いリバースエンジニアリングですが、他社の技術情報を入手して自社製品に取り入れることに不安を抱く方も多いでしょう。ハードウェアの内部情報を不正に獲得して悪用したり、ソフトウェアの脆弱性を探してサイバー攻撃を仕掛けたりするのは明らかに違法ですが、リバースエンジニアリングを行うこと自体は合法とされています。
リバースエンジニアリング自体は「違法ではない」
2018年、著作権法の改正に伴い「柔軟な権利制限規定」が整備されました。同年、文化庁が公表した「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」では、調査解析を目的としたプログラムの著作物利用は、プログラムの実行によりその機能を享受することに向けられた利用行為に該当しないと示しています。
このように、リバースエンジニアリングは法律上でも開発手法の一種として認められており、禁止行為ではありません。すでにリリースされている製品を入手し、それらを解析して得た情報の活用は、多くの企業が積極的に取り入れている手法です。ただし、使い方によっては違法となり、ペナルティを負う責任があることも知っておく必要があります。
リバースエンジニアリングが違法となるケース
リバースエンジニアリングの作業が著作権法の侵害に該当する翻案物や複製物に該当してしまうケースや、習得した知識を基に特許製品を製造・販売した場合には特許権侵害が発生する可能性もあります。また、不正競争防止法違反とみなされる営業秘密の不正取得も違法になるおそれがあるため注意が必要です。
ソフトウェア製品において著作権法で保護されているのはソースコードです。そのため、ソースコード自体をそのままコピーして使用してしまえば、著作権侵害となります。研究開発のためにソースコードを確認した上で、他社の「アイデア」を活用することは問題になりません。
また、他者の特許権を流用して自らに直接利益を生じさせる行為は違法となりますが、あくまで研究や試験のために製品を分解・解析するのは合法です。思わぬリスクを避けるためにも、リバースエンジニアリングの正しい知識を身に付け、情報を活用する目的にも十分な注意が求められます。
リバースエンジニアリングによる技術盗用を防ぐポイント
リバースエンジニアリングによって多様なメリットを得られる一方、悪意ある他社が自社製品の技術情報を盗用するリスクにも備えなければなりません。企業の競争力を維持するためには、技術流出を防止して他社の市場参入を阻止する必要があります。価格競争を回避して持続的に競争優位性を獲得するためにも、自社の技術情報をしっかりと守ることが大切です。
ソースコードを難読化する
アプリケーションや自社独自のプログラムの保護対策に有効なのが、ソースの難読化です。前述したように、ソフトウェア製品のリバースエンジニアリングでは、ソースコードが解析されることで機密情報を盗まれるリスクが高くなります。
難読化は、コードを意図的に複雑で読みにくくする手法で、アルゴリズムやロジックを隠ぺいする効果があります。これにより、競合他社や悪意のある第三者による解析を困難にし、企業の知的財産や技術を保護します。
また、難読化は、ソースコードを盗用されるだけでなく、不正アクセスによる情報漏えいやシステム改ざんのリスク軽減も可能です。加えて、外部に公開するプログラムの安全性を高めるための重要な施策として、多くの企業が採用しています。
データ自体を暗号化する
難読化による対策は、いわば解読されるまでの時間稼ぎです。データを暗号化しておけば、第三者の手に情報が渡っても、内容を解読されるリスクは大幅に低減されます。暗号化アルゴリズムに個々で異なる条件を取り入れれば、第三者による解読は極めて困難になります。特定の情報にアクセスできる送信者と受信者のみが鍵を所持して適切に管理すれば、権限を持たないユーザーは情報を閲覧できません。最近では暗号化に有用なツールも登場しており、内部不正の防止にも高い効果を発揮しています。
まとめ
リバースエンジニアリングは、他社製品の分析を通じて自社製品の品質向上や開発効率の改善に大きく貢献する手法です。適切に活用することで、開発期間の短縮やコスト削減、新技術の応用による競争力強化が期待できます。
しかし、その一方で、法的リスクや技術盗用の懸念も伴うため、用途や目的を明確にし、違法性を避けることが不可欠です。また、ソースコードの難読化やデータの暗号化など、情報保護のための対策も重要です。
安全性を確保しながらリバースエンジニアリングを活用することで、企業の成長とDX推進をより効果的に進めることができるでしょう。