昨今、DXなどのIT活用が注目されていますが、そこでよく並べて語られるのが「AI」と「ビッグデータ」の2つです。この2つの技術は、なぜセットにされることが多いのでしょうか。本記事では、AIとビッグデータそれぞれの定義と関係性、そして活用のメリット・デメリットについて解説していきます。
AI(人工知能)の概要
AIとは“Artificial Intelligence”の略称で、日本語では「人工知能」と呼ばれます。AIの厳密な定義は専門家のあいだでも意見が分かれますが、一般には人間の知的能力を機械に代替させる技術ないしシステムであるとされています。人間の知的能力とは、たとえば物を見分ける知覚能力や言語能力、推論・意思決定の能力などです。AIはこれらの能力を、膨大なデータに基づいた機械学習という機能によって向上させます。
昨今では、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる新たな機械学習技術が開発されたことを受け、AIの能力はさらに飛躍的な高まりを見せるようになりました。AIは、すでに私たちの日常生活にとっても身近な存在となっており、たとえばAppleの「Siri」やAmazonの「Alexa」といった音声アシスタントも、AI技術によって実現されているものです。
ビッグデータの概要
ビッグデータとは、リアルタイムに増大し続ける、膨大かつ多様なデータのまとまりのことです。ビッグデータは、スブレッドシートなどで管理された構造化データと、テキストや画像・映像などのより自由な形式で構成された非構造化データの両方を含んでいます。ビッグデータは企業内のシステムのほか、ウェブサイトやSNS、IoT機器などあらゆる情報ソースから生成・取得され、データベースに蓄積されていきます。
こうして取得されたデータの総量は、従来の方法では到底処理できないほど「ビッグ」なものであり、通常は特別に設計されたソフトウェアなどを使用して分析されます。さまざまな情報で構成されたビッグデータには、ビジネスに役立つヒントも数多く眠っており、今日では数多くの先進的企業が、ビッグデータを分析・活用することでビジネス上の優位性を獲得しようと取り組んでいます。
AIとビッグデータの関係
一言でいえば、AIとビッグデータの関係は相補的なものです。
AIは機械学習を通してその能力を向上させたり、分析や意思決定の精度を上げたりするために、膨大なスケールのデータを必要とします。他方、ビッグデータの解析は人間の手作業で可能な範囲をはるかに超えているため、AIによる分析がそこで活用されます。この融合により、拡張分析や予測分析のような高度な分析機能をより簡単に活用し、膨大なデータの中から実用的なインサイト(洞察)をより効率よく抽出することが可能になります。
つまり、AIとビッグデータを組み合わせて活用することで、データから価値の高いインサイトを抽出するための基盤を構築し、データに基づいて組織の意思決定を行う「データドリブン経営」が可能になるのです。AIとビッグデータがDXの基盤としてセットで扱われることが多いのも、まさにこうした理由によります。
AIとビッグデータを活用するメリット
AIとビッグデータを組み合わせて活用することで、ビジネスにどのような恩恵がもたらされるのでしょうか。以下では、AIとビッグデータを活用するメリットを解説します。
データ分析による作業効率化
AIとビッグデータの活用メリットその1は、データ分析による作業効率化が可能になることです。
たとえば、近年の製造業においては、IoT(モノのインターネット)を活用して機械設備の稼働データをリアルタイムに収集・分析し、生産活動を効率化する「スマートファクトリー」が注目を集めています。収集されたIoTデータはAIによって分析され、機械の誤作動や稼働状況の可視化に役立てられます。
それ以外でも、たとえばシステム上で従業員の業務状況を可視化して、業務上のボトルネックの特定などもできます。このようにビッグデータをAIで分析することで、業務効率化や生産性の向上が可能になります。
顧客のニーズ予測
AIとビッグデータの活用メリットその2は、顧客のニーズ予測が可能になることです。
たとえばECサイトには、顧客がサイト上で何を閲覧・購入したのかという、顧客の行動履歴や購入履歴が蓄積されています。こうした顧客データをAIで分析することで、各顧客がどのような商品にニーズを感じているのかを把握できるようになります。
顧客ニーズが明確になれば、購入の見込める商品をタイムリーにレコメンドするなど、販売・マーケティング戦略に反映することも可能です。各顧客にパーソナライズされた施策が可能になれば、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
正確な分析に基づく意思決定
AIとビッグデータの活用メリットその3は、正確な分析に基づく意思決定が可能になることです。
前述の顧客ニーズの把握にも共通することですが、AIとビッグデータを活用することで、人が行うよりも正確かつ効率的な分析が可能になります。今日の企業が保有するデータ量は非常に膨大なものであり、人力ですべて分析することはまず不可能です。かといって、データを用いず経験や勘だけに頼るには、昨今のビジネス状況は非常に複雑で先行き不透明なものとなっています。
この点、コンピューターならではの情報処理能力をもつAIを活用することで、ビッグデータから迅速に有用なデータを取り出すことが可能となり、迅速かつデータドリブンな意思決定を実現できます。
AIとビッグデータを活用するデメリット
AIとビッグデータは企業にさまざまなメリットをもたらす反面、その運用に際してはいくつか注意が必要です。
たとえば、最初に懸念されるのが、情報漏えいなどのセキュリティやコンプライアンスの問題です。ビッグデータで収集する情報は非常に幅広く、そこには個人情報が含まれる場合があります。昨今ではクッキー規制が強化されるなど、個人情報のビジネス利用に関する社会の視線が厳しくなっており、不用意に運用するとプライバシーの侵害につながるケースもあるため注意が必要です。
また、そもそもの問題として、AIとビッグデータを効果的に活用するにはデータを扱える人材が必要であり、この部分でつまずいてしまう企業も少なくありません。データサイエンスなどの知識やスキルをもったIT人材は世界的に不足しているため、社内に人材が見当たらない場合は、外部から連れてくるだけでなく、既存の従業員のスキルやITリテラシーを育てていく意識も重要です。
AIとビッグデータを活用する際のポイント
最後に、AIとビッグデータを活用する際のポイントを解説します。
まず重要なのは、自社が必要なデータを収集・管理できる状態であるかチェックすることです。AIのデータ分析は基本的に、参考となるデータが多ければ多くなるほど精度が高まります。したがって、まずは自社に十分なデータが集まっているか、あるいは集められる状態かを確認することが必要です。
また、大量のデータが集まっても、それが社内の各システムにばらばらに散らばっているようでは、全社的なデータ活用は難しくなります。そのため、システムや部門の壁を越えて統合的にデータを管理できるデータプラットフォームの整備も重要です。ビッグデータはどんどん増えていくので、スケーラビリティの確保を考えれば、クラウドを利用するのがよいでしょう。
さらに、自社にデータを扱える人材がいるか、そもそも自社の仕事がAIと相性がよいかといった視点も大切です。業種によってはAIを導入しても思うような効果が出ないこともあり、その場合は投じた労力や資金が無駄になってしまうことになります。そして人材に関しては、IT人材は社会的に不足しているため、外部から連れてくることばかり考えるのではなく、内製化にも積極的に取り組むべきでしょう。
まとめ
AIとビッグデータは、組み合わせて活用することでお互いの効果を最大化する相互補完関係にあります。AIとビッグデータを活用することで、企業はビジネスに役立つ重要なインサイトを効率的に抽出し、自社の業績を上げられる可能性があります。本記事を参考に、ぜひAIとビッグデータの活用に取り組んでみてください。