動画を見ながら商品を購入することができる「ライブコマース」が中国で爆発的に売り上げを伸ばしており話題になっています。この記事ではライブコマースの手法やメリットとデメリット、市場の動向や国内サービスの特徴などについて解説します。
ライブコマースとは?
ライブコマースはECサイトに動画のライブ配信を組み合わせて、インフルエンサーや芸能人などがライブ映像で商品を紹介して、それを見た消費者が気に入った商品を購入できるシステムです。従来のテレビショッピングと似た形式ですが、動画を配信するのがテレビではなくインターネットである点と、商品について知りたいことをリアルタイムで質問して双方向でやりとりしながら購入できる点などが異なります。
ライブコマースでは出品者や販売者と直接コミュニケーションを取りながら買えることや、実際に店舗で商品を見るようにリアルタイムならではの臨場感を楽しめるのが大きな魅力です。忙しかったり、小さい子どもがいたりして店舗に直接行きづらい場合にも利用しやすい購入方法であると言えます。
特に中国では新型コロナウイルス流行でライブコマース市場が爆発的に拡大しています。中国のリサーチ会社「iiMedia Research」は2020年の市場規模を前年の2倍以上となる9610億元(約14兆6000億円)になると予測しており、今後もさらに拡大していくとみられています。
※2020年7月現在、1中国人民元=15.22円で換算
中国でのライブコマース事情
ライブコマースは中国でも注目され始めてまだ2~3年の若い市場ですが、商品のコストパフォーマンスが良いとして消費者に支持されており、様々な商品でこの手法が使われるようになっています。ここでは中国のライブコマース事情について解説します。
インフルエンサー中心のライブコマース
中国では、アリババグループ傘下のオンラインモール型大手ECサイト「タオバオ(淘宝、Taobao.com)」が中心となりライブコマースの市場を広げています。
タオバオのライブコマースは大別して2種類に分けることができます。その一つが中国で「網紅(ワンホン)」と呼ばれるインフルエンサーが店舗に誘導するスタイルです。
そもそもライブコマースが盛況となる背景に、中国では商品の信用度や安全性が低いことが関係しています。このような状況においても、人気のあるインフルエンサーが紹介するものなら安心して購入できると考える人が多いため、ライブコマースが大きな盛り上がりを見せているのです。カリスマインフルエンサーとして知られるAustinが5分間で1万5000本の口紅を販売するなど記録は次々と更新されており、インフルエンサーは消費者に非常に大きな影響を与えていると言えます。
店舗主体のライブコマース
もう一つ、タオバオは店舗主体のライブコマースも展開しています。こちらは商品を取り扱う店舗の従業員がライブ配信を行い、消費者をECサイトに誘導している点が特徴で、タオバオのライブコマース流通額の7割、配信回数の9割はこちらが占めています。
店舗自らが商品を販売するこちらの方法では、消費者に商品の魅力が伝わるように効果的なアピールを行うことが大切です。より多くの売り上げを得るために、ライブ配信に出演する人材の育成に力を入れたり、出演するスタッフの人材代行サービスを利用したりする店舗もあります。
1日の売上が3,000億円以上にも
中国では未婚者が集いパーティーを催す「独身の日」が11月11日に制定されており、アリババは独身の日にネット通販セールを行っています。2019年の独身の日セールでは、タオバオで過去最高となる約200億人民元(約3044億円)の売り上げを達成しており、これはアリババグループ全体の売上高2684億人民元(約4兆1000億円)の約7.5%に相当します。ライブコマースを活用して紹介者が商品を試したり、製造工程の映像を流したりするなどリアリティーに富んだ内容が説得力を持ち、消費者の購買意欲を高めることに成功していると考えられます。
※2020年7月現在、1中国人民元=15.22円で換算
ライブコマースのメリット
ここからはライブコマースのメリットについて2点解説します。
商品の魅力をリアルタイムで伝えられる
ライブコマースでは商品に関心を持った視聴者にリアルタイムで商品紹介を行うことが可能です。視聴者と直接コミュニケーションを取りながら会話を進めていくことで、ECサイトに書かれたテキストを読ませるよりも商品の魅力や機能を伝えやすいという点で優れています。洋服ならその場で身につけてもらい、感想を聞くこともできます。また、商品を実際に使用しているライブ映像を見てもらうことで視聴者側の想像が膨らみ購買意欲が高まることも期待できます。
また、質問してみたいことがあればその場ですぐに確認できるため、納得のいく買い物がしやすいことも大きなポイントです。商品について問い合わせる手間も省けるので、いろいろな手順を省いて手軽に買い物をしたい人にも便利です。
コンバージョン率の高さ
また、出演するインフルエンサーのコアなファン層からの購買が期待できるなどライブコマースではコンバージョン率(CVR)の高さも魅力です。
一太郎やATOKで知られるジャストシステムが運営する「マーケティングリサーチキャンプ」が2019年9月に17歳~69歳の日本の男女1100人を対象に行った調査では、ライブコマースの動画を視聴したことがある割合は16.6%ですが、そのうち約半数が実際に商品を購入したと答えています。また10代と20代に限定すれば3割以上がライブコマースの配信動画を視聴した経験があると答えています。日本でも影響力のある動画インフルエンサーが手掛けるライブコマースが増えれば、爆発的に普及する可能性があります。
ライブコマースのデメリット
もちろんライブコマースにはデメリットもあります。ここでは主なデメリットを2点挙げてみましょう。
配信環境の整備が必要
リアルタイムで配信を行うという特性上、Webカメラや回線など配信に必要な設備を整えるためのコストがかかります。また、十分な視聴数を稼ぐためには、より多くの人に興味を持ってもらい配信を視聴してもらうために告知などの工夫が必要です。
起用するインフルエンサーに左右される
注目度や売り上げが配信者として誰を起用するかによって大きく変動するリスクがあります。生配信のライブで必要になるプレゼンテーション力やトークスキルを持っていることが求められますが、日本にはこういったスキルを身につけてライブコマースで商品を売ることができるインフルエンサーが現状ではまだ少ない点が問題と言えます。商品の売れ行きが、影響力のあるインフルエンサーを起用できるかどうかに左右されやすい点がデメリットとなります。
国内のライブコマースサービス
ここからは、国内で提供されているサービスの中から事例を2つ紹介します。
SHOPROOM
「SHOPROOM」は、アイドルの動画ストリーミングサービスなどを配信する「SHOWROOM」から派生したサービスです。ドラマの撮影で使われた衣装の紹介と販売などが行われて、話題となっています。
Yahoo!ショッピングLIVE
「Yahoo!ショッピングLIVE」はヤフー株式会社が運営するYahoo!ショッピングの機能の一つです。各出店ストアはこの機能を使ってライブ配信を行うことができます。Yahoo!ショッピングではアパレルにとどまらず食品や電化製品など幅広い商品が扱われている点が魅力です。
まとめ
日本でライブコマースを普及させるためには、配信環境の整備や適切な配信者を選定するなどクリアすべき課題があります。しかし、コロナ禍により外出を控える傾向が続く現在の状況では、ライブコマースのようなオンラインで行う販売形態には多大なメリットがあります。この機会に導入を検討してみてはいかがでしょうか。